目次
建築士の役割と選び方
改修や増築を進めるとき、最初に決めるのが設計者です。この選択が、その後の費用と工程、そして仕上がりを大きく左右します。
しかし、何を基準に選べばよいのかは分かりにくい部分です。設計事務所と工事会社の違い、一級建築士と二級建築士の違い、設計と工事監理の違い。用語の整理から始める必要があります。
この記事では、①建築士の資格と学校の要件、②設計者の役割、③工事監理とは何か、④契約前の説明、⑤選び方、の5点を整理します。
この記事の要点
- 学校の用途で延べ面積が500平方メートルを超えるものは、一級建築士でなければ設計・工事監理ができない
- 設計と工事監理は別の業務
- 建築士事務所は、契約の前に重要事項を書面で説明する義務がある
- 業務報酬の基準は、令和6年国土交通省告示第8号で示されている
- 既存建物の改修では、現況を読む力が設計の質を決める
建築士にはどんな資格があるのか?
一級、二級、木造の3種類があります。
扱える建築物の範囲が、資格によって異なります。建築士法第3条は、一級建築士でなければ設計または工事監理をしてはならない建築物を定めています。
| 号 | 対象 |
|---|---|
| 第1号 | 学校、病院、劇場、映画館、観覧場、公会堂、集会場、百貨店の用途に供する建築物で、延べ面積が500平方メートルを超えるもの |
| 第2号 | 木造の建築物または建築物の部分で、高さが16メートルを超えるものまたは地階を除く階数が4以上であるもの |
| 第3号 | 鉄筋コンクリート造、鉄骨造などの建築物または建築物の部分で、延べ面積が300平方メートルを超えるもの、高さが16メートルを超えるものまたは地階を除く階数が4以上であるもの |
| 第4号 | 延べ面積が1,000平方メートルを超え、かつ、階数が2以上である建築物 |
学校は500平方メートルで線が引かれる
第1号に、学校が明記されています。延べ面積が500平方メートルを超える学校の建築物は、一級建築士でなければ設計も工事監理もできません。
校舎はもちろん、体育館も、給食施設も、この要件に当たることがほとんどです。学校の工事では、一級建築士が関わることが前提になります。小規模な附属棟だけの工事であれば、他の資格でも扱える場合があります。
設計者は何をするのか?
計画を図面と仕様に落とす仕事です。
業務は、大きく基本設計と実施設計に分かれます。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 調査・企画 | 現況の把握、法規の確認、課題の整理 |
| 基本設計 | 平面と構成の決定、概算の工事費、方針の確認 |
| 実施設計 | 工事に必要な図面と仕様書の作成、確認申請の準備 |
| 工事監理 | 工事が設計図書のとおりに実施されているかの確認 |
学校の改修では、調査の段階の比重が大きくなります。既存の図書の確認、現況の調査、法適合の状況の把握。ここを飛ばすと、工事が始まってから問題が出ます。調査を設計の契約に含めるのか、別に発注するのかも決めておきます。調査の進め方は学校の法適合状況調査にまとめています。
発注者の代わりに確認する立場
設計者は、発注者の側に立って、工事の内容を確認する役割を持ちます。工事会社が提出する施工図や材料を、設計の意図に合っているかどうかで判断します。
設計と施工を同じ会社に任せる方式もあります。工期の短縮や、施工者の技術を設計に反映できる利点があります。一方で、確認する立場をどう確保するかが論点になります。第三者の建築士に工事監理を委託する方法もあります。
工事監理とは何か?
工事が設計図書のとおりに行われているかを確認する業務です。
現場を管理する「施工管理」とは別のものです。施工管理は工事会社が行う業務、工事監理は建築士が行う業務です。読みが同じであるため、混同されやすい部分で、現場では「さらかんり」と呼び分けることもあります。
| 項目 | 工事監理 | 施工管理 |
|---|---|---|
| 行う者 | 建築士(設計者が兼ねることが多い) | 工事会社 |
| 立場 | 発注者の側 | 施工者の側 |
| 内容 | 設計図書との照合、発注者への報告 | 工程、品質、安全、原価の管理 |
学校のように使いながら工事をする現場では、工事監理の報告が、発注者にとって状況を把握する手段になります。報告の頻度と方法を、契約の段階で決めておきます。月に1回の報告で足りるのか、週単位で必要なのかは、工事の内容によります。
確認申請から完了検査までの流れは建築確認から完了検査まで何をするのか?で扱っています。
契約の前に何が説明されるのか?
重要事項の説明があります。
建築士法第24条の7は、建築士事務所の開設者が、設計受託契約または工事監理受託契約を締結する前に、管理建築士その他の当該建築士事務所に属する建築士をして、建築主に対し重要事項を説明させなければならないと定めています。
説明の対象は、次のような事項です。
- 設計受託契約の場合は、作成する設計図書の種類
- 工事監理の実施の方法と報告の方法
- 業務に従事する建築士の氏名と資格等
- 報酬の額と支払の時期
- 契約の解除に関する事項
これらを記載した書面を交付して説明することとされています。建築主の承諾があれば、電子的な方法による提供も認められています。
発注者としては、この説明の場が、業務の範囲を確認する機会になります。どこまでが契約に含まれ、何が別途になるのか。ここで整理しておかないと、後から追加の費用が発生します。書面は契約の後も保管し、疑義が生じたときの拠りどころにします。
報酬はどう考えるのか?
告示の基準が目安になります。
建築士法第25条に基づき、国土交通省が業務報酬の基準を告示で定めています。現行のものは令和6年国土交通省告示第8号です。
この基準は、業務にかかる時間に人件費の単価を乗じる考え方を基礎としています。金額を拘束するものではありませんが、見積りの妥当性を判断する材料になります。
安い見積りには、理由があります。業務の範囲が狭いのか、担当する人の数が少ないのか。金額だけで比べず、何が含まれているかを見ます。現況の調査が含まれていない見積りは、後から別途になります。費用と期間の全体像は確認申請にはいくら、どれだけかかるのか?にまとめています。
どう選べばよいのか?
5つの観点があります。
学校の実績があるか
学校は、使いながら工事をすることが多い施設です。夏休みの工期、騒音と振動への配慮、児童生徒と工事関係者の動線の分離。経験がないと、計画に組み込めません。学校行事の日程との調整も必要になります。
改修の実績があるか
新築と改修では、必要な力が違います。改修では、既存の建物を読む力が求められます。図面がない建物を調べ、構造と法規の状況を判断できるかどうかが分かれ目になります。新築の実績が多くても、改修が得意とは限りません。
補助制度の経験があるか
国庫補助や交付金を使う場合、制度の要件に沿った設計が必要です。申請の時期に合わせた工程も求められます。経験があれば、手戻りが減ります。補助の対象となる工事と、ならない工事の切り分けも設計の中で行います。
担当者が誰か
事務所の規模や実績ではなく、実際に担当する人の力量が結果を決めます。契約の前に、担当予定者と直接話す機会を持ちます。重要事項の説明では、業務に従事する建築士の氏名と資格等が示されます。
選定の方法
公立学校では、価格による入札のほか、提案を評価するプロポーザル方式が使われます。設計の内容が結果を左右する案件では、提案を比べる方法が向いています。評価の項目をあらかじめ示しておくと、提案の質がそろいます。
建築基準法の全体像は学校の改修で関わる建築基準法の基礎を参照してください。
設計者にどう依頼すればよいのか?
条件を言葉にして渡します。
設計者は、発注者の意図を形にする立場です。意図が曖昧なままだと、提案も曖昧になります。次の点を整理して渡すと、精度が上がります。
- 何が困っているのか(雨漏り、暑さ、手狭、老朽化など)
- 予算の上限と、財源の見込み
- いつまでに使い始めたいのか
- 工事のできる期間(長期休業中に限るのかどうか)
- 将来の児童生徒数の見通し
- 統合や再編の予定があるかどうか
金額と時期は、早い段階で伝えます。後から伝えると、設計のやり直しになります。上限を伝えると手を抜かれると考える向きもありますが、実際には逆に働きます。
決めていないことも伝える
まだ決まっていない事項があれば、そのまま伝えます。決まっていないことを隠すと、前提が崩れたときに影響が大きくなります。
打合せの記録を残す
誰が何を決めたかを記録に残します。学校側の担当者が替わっても、経緯をたどれる形にしておきます。工事の途中で「そんな話は聞いていない」という食い違いが起きるのは、記録がない場合です。
公立と私立で違いはあるか?
選び方の手続きが違います。
公立学校
指名競争入札、公募型プロポーザル、随意契約など、自治体の規定に従います。透明性が求められる一方、価格だけで決まる方式では、必要な業務量が確保されないことがあります。
業務の範囲を仕様書で明確にし、調査や法適合の確認を含めておくことが、結果の質につながります。含めていない業務は、後から別の契約が必要になります。
私立学校
選定の自由度は高くなります。過去に関わった設計者に継続して依頼する例も多くあります。
一方、比較の機会が少ないと、費用の妥当性を判断しにくくなります。大きな工事では、複数の事務所から提案を受ける方法も検討します。理事会への説明でも、比較した経緯があると通りやすくなります。
よくある質問
Q. 学校の設計は必ず一級建築士が必要ですか。
A. 学校の用途で延べ面積が500平方メートルを超えるものは、一級建築士でなければ設計・工事監理ができません。
Q. 設計と施工を同じ会社に頼んでもよいですか。
A. 可能です。ただし、工事の内容を発注者の側で確認する仕組みをどう確保するかを考えておきます。
Q. 工事監理は省略できますか。
A. 建築基準法では、工事監理者を定めることが求められる場面があります。設計者と確認してください。
Q. 設計料はいつ支払いますか。
A. 契約によります。重要事項の説明で、報酬の額と支払の時期が示されます。
Q. 改修だけなら小さな事務所でも大丈夫ですか。
A. 規模ではなく、改修と学校の経験で判断します。担当者と直接話して確かめます。
Q. 設計者を途中で変えられますか。
A. 契約の解除に関する事項は、重要事項の説明の対象です。契約書の内容を確認してください。
Q. 重要事項の説明は誰が行いますか。
A. 管理建築士その他その建築士事務所に属する建築士が行います。書面の交付を伴います。
Q. 設計事務所と工事会社のどちらに先に相談しますか。
A. 工事の内容が固まっていない段階では、設計者に相談します。工事の範囲が決まってから、施工者を選ぶ順になります。
Q. 概算の工事費はいつ分かりますか。
A. 基本設計の段階で概算が示されます。実施設計が終わると精度が上がります。
まとめ
学校の用途で延べ面積が500平方メートルを超える建築物は、建築士法第3条第1号により、一級建築士でなければ設計または工事監理ができません。学校の工事では、一級建築士が関わることが前提になります。
設計と工事監理は別の業務です。工事監理は、工事が設計図書のとおりに行われているかを建築士が確認する業務で、工事会社が行う施工管理とは立場が異なります。
契約の前には、建築士法第24条の7に基づく重要事項の説明があります。業務の範囲を確認する機会として使います。報酬については、令和6年国土交通省告示第8号が基準を示しています。
選ぶときに見るのは、学校の実績、改修の実績、補助制度の経験、そして実際に担当する人です。金額だけで比べると、必要な調査が抜けたまま設計が進み、工事の段階で費用が膨らみます。
参考・出典
- e-Gov法令検索「建築士法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000202
- 国土交通省「設計、工事監理等に係る業務報酬基準について」 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_tk_000082.html
- 建築士法第3条、第24条の7、第25条
記載の制度は公表時点のものです。個別の適用は所管の行政庁にご確認ください。
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