この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

廃校を美術館やギャラリーにできるのか?

採光・温湿度・展示動線

廃校の美術館転用は、全国に事例があります。

教室の整った連なり、高い天井、廊下という自然な回遊動線。展示空間としての素地があります。校舎そのものの佇まいが作品の背景になる、という評価もあります。

ただし作品を預かる施設になると、要求が変わります。学校の校舎は、採光を最大化し、自然換気で温度を調整する前提で設計されています。美術館はその逆で、光を制御し、温湿度を一定に保つ建物です。

設計の方向が真逆になる部分があり、そこに費用がかかります。

この記事では、①法令上の位置づけ、②用途変更の扱い、③採光の制御、④温湿度と環境、⑤展示動線と運営、の5点を整理します。

この記事の要点

  • 博物館法に基づく博物館は、資料を収集し保管し展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供する機関で、登録を受けたもの
  • 博物館、美術館、図書館は建築基準法施行令第137条の18第6号の同じ区分だが、学校はこの11区分のいずれにも含まれない
  • したがって学校から美術館への用途変更は類似の用途に当たらず、200平方メートルを超えれば確認申請が必要
  • 美術館は消防法施行令別表第一の(8)項で、特定防火対象物には該当しない
  • 教室の大きな開口部は採光に有利だが、作品の保存では遮蔽の対象になる

法令上はどう位置づけるのか?

博物館法上の博物館とするか、それ以外の展示施設とするかで扱いが変わります。

博物館法は、博物館を、歴史、芸術等の資料を収集し保管し展示して教育的配慮の下に一般公衆の利用に供し、教養や調査研究に資する事業を行う機関として、特定の法人が設置し登録を受けたものとしています。

位置づけ 特徴
登録博物館 博物館法に基づく登録。要件がある
博物館相当施設 指定を受けた施設
展示施設・ギャラリー 法律上の位置づけを取らない
アーティスト・イン・レジデンス 制作の場を兼ねる
貸しギャラリー 利用者に貸す

廃校を使う場合、登録博物館とするより、展示施設やギャラリーとして運営する例が多くなります。登録には体制の要件があり、小規模な施設では満たしにくいためです。

何を展示するかで要求が変わる

地域の郷土資料を並べるのか、現代作家の作品を預かるのか、収蔵品を持たない貸しギャラリーにするのか。この違いで、温湿度管理と警備の要求が大きく変わります。

借用した作品を展示する場合、貸主が求める環境の条件を満たさなければ借りられません。これが設備の仕様を決めます。

収蔵するかしないかが分かれ目

収蔵品を持つと、収蔵庫が必要になります。収蔵庫は温湿度の管理、防火、防犯、防虫のすべてが要求される部屋です。

企画展だけを行い、会期中以外は作品を置かない運営にすれば、収蔵庫の整備を省けます。小規模な施設ではこの形が現実的です。

用途変更の扱いはどうなるのか?

学校から美術館への変更は、類似の用途に当たりません。

建築基準法施行令第137条の18は、確認申請を要しない類似の用途の相互間の変更について第1号から第11号までの区分を定めており、第6号が博物館、美術館、図書館です。

学校はこの11区分のいずれにも含まれていません。したがって用途を変更する部分の床面積が200平方メートルを超えれば、建築基準法第87条第1項により確認申請が必要になります。

計画 確認申請
校舎を美術館にする 必要
200平方メートル以下に収める 不要(実体規定は守る)
美術館を図書館に変える(転用後) 第6号の相互間なので不要

転用後に第6号の中で用途を変える場合は扱いが変わります。将来の変更まで見込むなら、第6号の用途として整備しておく意味があります。

将来の運営の幅を考えるなら、最初の整備で第6号の用途として成立させておくことに意味があります。

消防法では非特定のまま

学校は消防法施行令別表第一の(7)項、図書館・博物館・美術館は(8)項です。どちらも特定防火対象物には該当しません。

ただしカフェやショップを併設すると、複合用途防火対象物として(16)項イに該当し、特定防火対象物になる可能性があります。美術館の運営ではショップの収入が重要になるため、ここは費用と収益の両方で判断する項目です。

既存不適格の扱いを確認する

確認申請を出すと、建築基準法第87条第3項により防火、避難、内装制限の規定が準用されます。既存不適格の扱いは廃校の既存不適格はどこまで遡るのか?で扱っています。

採光はどう制御するのか?

遮蔽が前提になります。

学校の教室は、南面に腰壁から天井近くまでの窓があります。学習のための採光を確保する設計です。一方、美術館では直射日光と紫外線が作品を傷めます。

対策 内容
開口部の閉塞 内側に壁を立てて展示面にする
遮光のカーテン・ブラインド 可変だが運用に依存する
紫外線カットフィルム 既存ガラスに貼る
高窓だけ残す 上部から間接光を取る
天井面での拡散 光を直接当てない

開口部を内側から塞ぐ方法は、展示壁が増えるという利点があります。教室の壁は窓と黒板で占められており、作品を掛ける面が足りません。窓を塞げば壁が生まれます。

塞ぐと換気と避難の検討が必要になる

窓を塞ぐと自然換気ができなくなり、機械換気が必要になります。また窓が避難上有効な開口部として算定されている場合、避難の検討をやり直すことになります。

どの窓を塞げるかは、避難と換気の計算で決まります。意匠の判断だけで決められません。

照明は展示の中心になる

展示照明は、作品への照度、色温度、紫外線と赤外線の抑制、器具の位置で決まります。教室の均一な天井照明とは別の計画になります。

配線の容量と幹線の確認が先に来ます。展示照明は回路を分けて調光できるようにしておくと、企画ごとの変更に対応できます。

温湿度と環境はどうするのか?

通年の管理が必要です。

項目 内容
温度 作品の種類に応じた範囲で一定に保つ
湿度 急変を避ける。カビと乾燥の両方が問題
空調の稼働 閉館時も止めない運用になる
断熱 外気の影響を抑える
気密 隙間風は温湿度の変動要因
防虫 収蔵品がある場合は対策が必要

学校の校舎は、壁に断熱材がなく、単板ガラスのアルミサッシです。この状態で温湿度を一定に保とうとすると、空調が常時高負荷で動き、光熱費が膨らみます。

断熱改修の考え方は廃校の断熱改修はどこまでやるのか?で扱っています。美術館用途では、断熱と気密が設備の運転費に直結します。

要求水準を用途から決める

地域の写真や民具を並べる展示なら、要求は緩くなります。他館から絵画を借りる企画展を行うなら、貸主の求める条件を満たす必要があります。

この水準を先に決めないと、空調の仕様が決まりません。最初から高い水準で設計すると、工事費と運転費の両方が跳ね上がります。

全館ではなく展示室だけを管理する

校舎全体の温湿度を管理するのは非現実的です。展示室と収蔵室だけを区画し、その内側を管理する形にします。

廊下や階段室は管理の対象から外す。使う範囲を絞る考え方は廃校を部分的に活用できるのか?で扱っています。

展示動線と運営はどう組むのか?

廊下を活かすか、教室をつなげるかで変わります。

方式 内容
廊下回遊型 廊下を動線に、各教室を展示室にする
教室連結型 間仕切りを抜いて大きな展示室をつくる
片廊下の一方通行 入口と出口を分ける
体育館を大空間に 大型作品やインスタレーション向け

廊下回遊型は工事が少なく済みます。既存の構成をそのまま使うため、間仕切りの撤去に伴う構造の検討も要りません。

教室連結型は展示の自由度が上がりますが、間仕切り壁が構造上の要素である場合は撤去できません。まず図面と現地で確認が必要です。

入口と受付の位置

学校の昇降口は、履物を履き替える前提の構成です。受付を置く場所、チケットの販売、荷物の預かりをどこに収めるかは、計画の初期に決めてください。

監視の人数が運営費を決める

展示室が分散すると、監視の人員が増えます。教室が廊下沿いに並ぶ校舎では、各室に人を置く前提になると人件費が合いません。

カメラによる監視と巡回の組み合わせ、または展示室を集約する計画で、必要な人数を抑えます。収支の立て方は廃校活用の収支計画はどう立てるのか?で扱っています。

搬入経路を確認する

大型の作品は、昇降口の幅、階段の寸法、エレベーターの有無で入らないことがあります。2階以上に大型作品を上げる計画は、搬入の検討から始めてください。

体育館は床が1階レベルで、大きな出入口があることが多く、大型作品に向きます。

作品の保険と警備

借用した作品には保険がかかります。保険の条件として、警備の体制や設備が求められることがあります。

項目 内容
機械警備 開館時間外の侵入検知
監視カメラ 展示室と出入口
入退館の管理 鍵の管理と記録
消火の方式 水損のリスクを考える
保険の加入者 貸主か借主か

消火設備については、水による消火が作品を傷めるという問題があります。学校の既存設備をそのまま使う場合でも、展示室での作動時の影響を確認してください。

よくある質問

Q. 作品を借りる場合、何が求められますか。

A. 貸主が求める温湿度の条件と、保険の条件としての警備の体制です。これを満たせないと借用そのものができません。

Q. 用途変更の確認申請は必要ですか。

A. 学校は建築基準法施行令第137条の18の11区分に含まれません。美術館への変更は類似の用途に当たらず、200平方メートルを超えれば必要です。

Q. 消防設備の負担は大きくなりますか。

A. 美術館は消防法施行令別表第一の(8)項で特定防火対象物には該当しません。ただしカフェやショップを併設すると(16)項イの複合用途となる可能性があります。

Q. 教室の窓は塞ぐべきですか。

A. 遮光と展示壁の確保の両面で有利です。ただし自然換気ができなくなり、避難上有効な開口部として算定されている場合は避難の検討をやり直す必要があります。

Q. 空調はどの範囲に入れますか。

A. 展示室と収蔵室を区画し、その内側を管理する形が現実的です。校舎全体の温湿度を管理するのは費用が合いません。

Q. 収蔵庫は必ず必要ですか。

A. 企画展だけを行い会期外は作品を置かない運営にすれば、収蔵庫の整備を省けます。小規模な施設ではこの形が現実的です。

Q. 大型作品は2階に上げられますか。

A. 昇降口の幅、階段の寸法、エレベーターの有無で決まります。体育館は床が1階レベルで大きな出入口があることが多く、大型作品に向きます。

まとめ

廃校の美術館転用は事例が多く、教室の連なりと廊下の回遊動線は展示空間としての素地があります。ただし学校は採光を最大化し自然換気で調整する建物で、美術館は光を制御し温湿度を一定に保つ建物です。設計の方向が逆になる部分に費用がかかります。

法令上は、学校が建築基準法施行令第137条の18の11区分に含まれないことが出発点です。第6号に博物館、美術館、図書館がありますが学校は入らないため、200平方メートルを超えれば確認申請が必要になります。消防法では(7)項から(8)項への変更で、どちらも特定防火対象物には該当しません。

採光は遮蔽が前提です。開口部を内側から塞げば、足りなかった展示壁が生まれます。ただし自然換気ができなくなり、避難上有効な開口部の算定にも関わるため、意匠の判断だけでは決められません。

温湿度は、要求水準を展示の内容から決めてください。地域の民具を並べるのか、他館から絵画を借りるのか。最初から高い水準で設計すると、工事費と運転費の両方が跳ね上がります。管理の対象は展示室と収蔵室に絞り、廊下や階段室は外します。

運営では監視の人数と搬入経路が効きます。教室が廊下沿いに分散すると監視の人員が増え、人件費が合いません。大型作品は昇降口と階段の寸法で入らないことがあり、体育館のほうが向きます。

参考・出典

記載の法令および制度は公表時点のものです。用途変更の判定、避難上有効な開口部の算定および消防用設備等の要件は所管行政庁および消防本部の運用により異なります。個別の適用は所管行政庁、消防本部および設計者にご確認ください。

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