猛暑が常態化するなか、学校の空調整備は子どもの健康と学習環境を守る工事です。ただし、普通教室と体育館では状況がまったく違います。
普通教室の設置率は99.1%。ほぼ完了しています。一方、体育館等は22.7%。約8割の体育館にエアコンがありません。
そして体育館の整備が進まない理由は、予算だけではありません。断熱していない体育館に空調を入れると、必要な冷房能力が約2倍になるからです。この記事では、その構造と、いま使える制度を整理します。
目次
設置率で見る現在地
| 対象 | 設置率 | 前回調査比 |
|---|---|---|
| 普通教室 | 99.1% | +3.4pt(令和4年度95.7%) |
| 特別教室 | 68.7% | +5.4pt(同63.3%) |
| 体育館等(小中学校) | 22.7% | +3.8pt(前回18.9%) |
| 特別支援学校の体育館 | 51.0% | +10.2pt |
※体育館等は令和7年5月1日現在(令和7年6月23日公表)/普通教室・特別教室は令和6年9月1日現在
地域差が極端です。体育館等の設置率は東京都が92.5%である一方、1%にも満たない県もあります。財政力の差がそのまま設置率に出ている状況です。
国の目標は2035年度までに公立小中学校の体育館等の空調設置率95%。現在の22.7%から10年で95%に引き上げる計算になります。
【核心】断熱しないと、空調が倍要る
体育館の空調整備で最も重要な論点です。文部科学省が公表している試算を見てください。
試算条件(令和5年9月時点)
東京に立地する延床面積930㎡の体育館を想定。断熱化改修は、屋根=断熱カバー工法(硬質ウレタンフォーム35mm)、内壁=断熱化(押出法ポリスチレンフォーム50mm)の上シナ合板張りを想定。日最高気温28℃以上で冷房、15℃以下で暖房を稼働し、年間で冷房約3か月・暖房約3か月と設定。電気料金は1kWhあたり30円。空調設備の更新期間は15年。
| 断熱性のない体育館 | 断熱性を確保した体育館 | |
|---|---|---|
| 必要な冷房能力 | 128kW(室内機8台・室外機2台) | 70kW(室内機5台・室外機2台) |
| 空調設置工事費 | 3,900万円 | 2,600万円 |
| 断熱化改修工事費 | — | 4,000万円 |
| 初期工事費 合計 | 3,900万円 | 6,600万円 |
| 電気代 | 年間280万円 | 年間140万円 |
初期費用は断熱したほうが2,700万円高い。しかし電気代が半分になります。
文科省の試算では、空調設置時に断熱化改修を実施することで、15年目の空調更新の際に断熱化改修工事費の回収が可能とされています。そして40年で5,500万円の経費を削減。
※一定の条件における試算であり、必ず同様の結果が出ることを保証するものではありません。
この試算から読むべきこと
1. 断熱は「省エネのため」ではなく「空調を小さくするため」の工事です。128kW→70kW。室内機が8台から5台に減ります。機器が減れば、設置工事も、電源も、その後の更新費用も減る。
2. 電気容量への影響が大きい。128kWと70kWでは、受変電設備にかかる負担がまったく違います。断熱せずに空調を入れると、キュービクルの増設が必要になる可能性が高まります。詳しくは学校施設の受変電・電気設備の更新(K010)をご覧ください。
3. 判断のタイミングは「空調を入れるとき」だけ。先に空調だけ設置してしまうと、後から断熱しても、既に選定した機器は128kW仕様のままです。やり直しは効きません。
制度も「断熱とセット」で設計されている
ここが重要です。国の補助制度は、断熱を前提に組まれています。
空調設備整備臨時特例交付金
- 対象:避難所指定校の屋内運動場に行う空調設備の新設および関連工事
- 算定割合1/2
- 対象工事費:下限400万円〜上限7,000万円
- 対象期間:令和6年度から令和15年度(2033年度)まで
- 断熱性のない体育館では、断熱工事費も補助対象に含まれる
学校施設環境改善交付金(大規模改造)
通常の空調設置は算定割合1/3ですが、屋内運動場の空調新設および併せて実施する断熱性確保工事は1/2(令和5〜7年度の特例)とされてきました。期限つきの特例が多いため、申請年度時点の要件確認が必要です。
交付金の算定の仕組みは学校施設環境改善交付金の使い方(K168)、省エネ系の補助金は学校の省エネ・脱炭素改修に使える補助金(K162)で解説しています。
制度が「断熱を含めて補助する」と言っているのは、断熱なしの空調が非効率だと国が認識しているからです。補助金を使うなら、断熱を外す理由はありません。
普通教室・特別教室の論点
体育館とは課題が違います。
特別教室の68.7%をどう埋めるか
文科省は、特別教室の設置が遅れている理由について、多くの学校設置者がまず児童生徒がより長い時間を過ごす普通教室を優先したという状況が考えられると説明しています。
ただし特別教室には、普通教室にない事情があります。
- 理科室・家庭科室:火気を使うため換気との調整が要る。家庭科室は火気使用室として内装制限の対象になる
- 音楽室:遮音のため開口を絞っており、換気計画が難しい
- コンピュータ室:機器の発熱があり、他の教室と負荷が違う
更新の時期が来ている
もう一つの論点が更新です。普通教室の空調は多くが2018〜2019年の緊急整備で一斉に設置されました。空調設備の更新期間を15年とすれば、2033年前後に一斉更新の山が来ます。
同時期に大量導入したものは、同時期に更新時期を迎えます。中長期修繕計画に織り込んでおかないと、単年度で対応できない規模になります。
実務の勘所
| 検討項目 | 課題・発生するリスク | 解決の方向 |
|---|---|---|
| 断熱なしで空調を先行設置 | 冷房能力128kW仕様の機器を選定してしまう。後から断熱しても機器は変えられず、電気代は年280万円のまま。40年で5,500万円の差がつく | 空調設置と断熱改修を同一工事として設計する。交付金も断熱工事費を対象に含んでいる |
| 電気容量の確認漏れ | 体育館空調の負荷が受変電設備の容量を超え、キュービクルの増設が後から判明。予算が数千万円単位で膨らむ | 機器選定の前に現況容量を確認する。断熱の有無で必要能力が約2倍変わることを前提に試算する |
| 室外機の設置場所 | 屋上設置は耐荷重と防水層のリスクがある。地上設置は動線・騒音・いたずらの問題。設計終盤で場所が決まらず工程が遅れる | 構造・防水の条件を早期に確認する。屋上なら防水改修と同時実施を検討する |
| 機器の納期 | 空調機器の納期が長期化しており、発注から搬入まで時間がかかる。夏休み施工に間に合わない | 納期から逆算して発注時期を決める。長期休暇の工程は前年度から確保する |
| 搬入計画 | 体育館の大型室内機や屋上への室外機搬入にレッカーが必要。据付場所と経路が確保できない | レッカー作業は長期休暇に寄せる。敷地内の据付位置と搬入経路を設計段階で確認する |
| 更新時期の集中 | 2018〜2019年に一斉整備した普通教室の空調が、2033年前後に一斉に更新時期を迎える。単年度予算で対応できない | 中長期修繕計画に更新時期を織り込み、平準化する。長寿命化改修の工事範囲に取り込む |
空調工事は、天井の工事である
この工事の本質は、空調機を置くことではなく、天井とダクトと電源を触ることにあります。
室内機は天井に付きます。ダクトは天井裏を通ります。電源は分電盤から引きます。そして体育館の天井は、非構造部材の耐震対策の対象そのものです。屋根に断熱カバー工法を施すなら、屋上防水とも重なります。
つまり空調工事の作業範囲は、断熱改修・非構造部材の耐震対策・屋上防水・LED化・電気設備更新と、物理的に同じ場所です。足場・仮設・養生は共通費であり、何の工事のために架けても金額はほとんど変わりません。
そして制度も同じ方向を向いています。交付金は断熱工事費を補助対象に含み、体育館空調+断熱には算定割合1/2が設定されてきました。非構造部材の耐震対策も、耐震化工事と束ねることで有利になります。
逆に言えば、空調だけを単独で発注すれば、128kWの機器を選び、電気代を年280万円払い続け、数年後に断熱と耐震対策のために同じ体育館の足場をもう一度架けることになります。
体育館の空調整備率22.7%という数字は、まだ8割の学校が「断熱と一緒にやるか、空調だけで済ませるか」を選べる位置にいることを意味します。この判断は、設備業者だけでも、建築業者だけでも下せません。空調負荷計算と、屋根・外壁の断熱設計と、構造の耐荷重と、電気容量を、同じテーブルで検討できるかどうかが分かれ目です。
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参考・出典
- 文部科学省「体育館の断熱性確保による電気代削減効果について(試算)」(令和5年9月時点)
https://www.mext.go.jp/content/20230908-mxt_sisetujo-000010164_01.pdf - 文部科学省「公立学校の体育館等における空調(冷房)設備の設置状況調査を実施」(令和7年5月1日現在/令和7年6月23日公表)
https://www.mext.go.jp/content/20250623-met-sisetujo-000043167_01.pdf - 文部科学省「公立学校施設の空調(冷房)設備設置状況」(令和6年9月1日現在ほか)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/mext_01278.html - 文部科学省「公立学校施設の空調(冷房)設備の今後について」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/mext_00943.html - 文部科学省「学校施設環境改善交付金交付要綱(空調設備整備臨時特例交付金を含む)」(最終改正 令和7年4月1日)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/unyou/20250410-ope_dev02-1.pdf - 国土強靱化のための5か年加速化対策(体育館等の空調設置率に係る中長期目標)
※記載の制度や法令は公表時点のものです。最新情報は各所管の公表資料をご確認ください。
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