この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

世田谷区の学校改修

90校を抱える区の計画と「元に戻さない」改修の考え方

世田谷区の学校改修には、他区と明確に違う条件が2つあります。

規模と、改修に求められる中身です。

世田谷区学校施設長寿命化計画(令和3年3月、世田谷区教育委員会)の対象施設は、区立小・中学校の全90校(小学校61校、中学校29校)および幼稚園等。23区の中でも突出した規模です。

そして計画では、改修に当たっての考え方がこう示されています。老朽化した建物や設備を単に建築時の状態に戻すだけでなく、次の要素が求められる、と。

  • 情報通信技術の進展への対応
  • ユニバーサルデザインの考え方などの社会的要請
  • 地域コミュニティの拠点機能
  • 災害時の避難所機能
  • 他の公共施設等との複合化・共用化による高機能化・多機能化

つまり「直す」だけの改修は、区の方針と噛み合いません。

この記事では、世田谷区の学校改修について、区の計画・90校規模がもたらす実務上の論点を整理します。

まず系統別の主体です。

系統施設整備の主体主な財源
区立小・中学校世田谷区(教育委員会)区予算+国庫補助
都立高校・都立特別支援学校東京都(教育庁)都予算
私立学校学校法人自己資金+私学助成・国庫補助

私たち光建舎は、教育施設の改修を専門とする建築会社です。グループ内に一級建築士事務所を擁し、調査・設計・施工まで一貫して対応しています。

計画の位置づけと期間

世田谷区は、国の示す「インフラ長寿命化基本計画」に基づき、平成29年3月に総合管理計画および建物整備・保全計画を策定しました。

学校施設長寿命化計画は、この総合管理計画および建物整備・保全計画に基づいた、学校教育施設に特化した個別計画として位置づけられています。

計画期間は令和3年度(2021年度)から令和12年度(2030年度)の10年間です。

つまり現在は計画期間の中盤にあたります。残り期間でどの学校がどの工事の対象になるかを確認することが、改修検討の出発点になります。

「元の状態に戻す改修」では足りない

区の計画が求める内容を、実務に翻訳すると次のようになります。

求められる要素改修で具体的に何をするか
情報通信技術の進展Wi-Fi環境の整備、電源容量の増強、ICT機器を前提とした配線計画
ユニバーサルデザイン段差解消、多目的トイレ、サイン計画、色彩計画
地域コミュニティの拠点機能地域開放エリアの動線分離、施錠区分、専用出入口
災害時の避難所機能非常用電源、受水槽、マンホールトイレ、備蓄スペース、体育館の空調
複合化・共用化他の公共施設との一体整備、共用部の設計、管理区分の整理

これらは後から足せません。 外壁と屋上防水だけ直して、数年後にWi-Fi配線と電源増強のために天井をまた開ける、という進め方は最も高くつきます。

とくに地域開放と避難所機能は、動線と施錠の設計そのものに関わります。改修時に織り込まなければ、後付けは困難です。

「単独でやるな、束ねろ」

足場・仮設・養生は共通費です。外壁改修で足場を組むなら、同じタイミングで屋上防水とサッシ交換もやる。天井を触る工事(照明のLED化、空調ダクト、Wi-Fi配線、非構造部材の耐震対策)は全部同じ場所を触ります。

世田谷区の場合、区の計画方針そのものが「束ねろ」と言っています。

「建築時の状態に戻すだけでなく」高機能化・多機能化を求めるということは、1回の改修で複数の目的を達成せよという要求です。老朽化対策とICT対応と避難所機能強化を別々の工事でやれば、同じ天井を3回開けることになります。

90校規模がもたらす論点

検討項目課題・発生するリスク解決の方向
発注の分散90校を個別に発注すると、1件あたりの規模が小さくなり仮設費・現場管理費の比率が上がる同種工事の複数校まとめ発注の可能性を確認する。年度内の工事時期をずらして体制を共有する
計画期間内の順番10年で90校を回すには年9校ペース。自校の順番が後半だと、それまでの維持修繕が必要になる計画での自校の位置づけを確認し、順番が来るまでの予防保全を計画する
複合化の相手先学校単独で計画を立てると、区の複合化方針と噛み合わない区の公共施設全体の再編計画を確認し、複合化の候補があるか把握する
避難所機能の要求水準防災担当部局の要求と、教育委員会の改修計画が別々に動くと後から追加工事になる設計段階で防災担当部局の要求事項を確認する
住宅地の近隣対応世田谷区は住宅地が広く、周辺住民との調整が工程を左右する事前挨拶、作業時間の限定、防音パネルの採用。近隣調整の体制を契約前に確認する
電力容量ICT対応と空調増設で受変電設備の容量が不足。キュービクル更新が設計終盤で判明する現況調査で電気容量を確認。増設分を見込んだ計画にする

予防保全が効く区

90校を10年で回す計画である以上、すべての学校が今すぐ改修されるわけではありません。

順番が後半の学校は、それまでの数年間を既存施設で過ごすことになります。この期間に何もしなければ、雨漏り・設備故障といった不具合が発生し、計画外の緊急修繕が必要になります。

緊急修繕は割高です。しかも計画的な改修の際に、その部分をまた触ることになる。

計画の順番を把握したうえで、それまでの予防保全をどう組むか。 これが世田谷区のような大規模自治体で効く考え方です。

改修の進め方

1. 区の計画で自校の位置づけを確認する 世田谷区学校施設長寿命化計画(令和3〜12年度)が起点です。総合管理計画・建物整備保全計画との関係も確認します。

2. 「戻すだけでない」要素を洗い出す ICT・UD・地域開放・避難所・複合化。どこまで織り込むかを設計前に決めます。

3. 防災担当部局と要求事項をすり合わせる 避難所機能は教育委員会だけでは決まりません。

4. 工事を束ねる 同じ部位を何度も触らない工程にします。

調査の種類と費用は現況調査の費用(K901)で解説しています。全体の流れは改修の進め方(K296)、大規模修繕については学校の大規模修繕(K003)、東京都全体の構造は東京都の学校改修(K388)、改修単価の考え方は目黒区の学校改修(K859)、アスベストの工期リスクは豊島区の学校改修(K862)をご覧ください。

よくある質問

Q. 世田谷区の学校施設長寿命化計画の対象は何校ですか。
A. 区立小・中学校の全90校(小学校61校、中学校29校)および幼稚園等です。計画期間は令和3年度から令和12年度までの10年間です。

Q. 老朽化した部分を直すだけでは足りませんか。
A. 区の計画では、単に建築時の状態に戻すだけでなく、ICTの進展、ユニバーサルデザイン、地域コミュニティの拠点機能、災害時の避難所機能、他の公共施設等との複合化・共用化による高機能化・多機能化が求められるとされています。

Q. 自校の改修時期はどこで確認できますか。
A. 世田谷区教育委員会の学校施設長寿命化計画をご確認ください。区の総合管理計画・建物整備保全計画とあわせて位置づけが示されています。

Q. 順番が来るまでの間、何をすべきですか。
A. 予防保全です。緊急修繕は割高になるうえ、後の計画的改修で同じ部位を触ることになります。

Q. 避難所機能はどこと調整すればいいですか。
A. 教育委員会だけでは決まりません。区の防災担当部局の要求事項を設計段階で確認してください。

まとめ

  • 世田谷区の長寿命化計画は区立小・中学校90校(小61・中29)が対象。計画期間は令和3〜12年度の10年間
  • 区の方針は「建築時の状態に戻すだけでなく」高機能化・多機能化。直すだけの改修では噛み合わない
  • ICT・UD・地域開放・避難所・複合化は後から足せない。改修時に織り込む
  • 10年で90校=年9校ペース。順番が後半なら予防保全の計画が必要
  • 発注が分散すると仮設費・現場管理費の比率が上がる。まとめ発注の可能性を検討する
  • 避難所機能は防災担当部局との調整が前提

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参考・出典

※記載の制度や計画は公表時点のものです。計画は改定されることがあります。最新情報は世田谷区教育委員会の公表資料をご確認ください。

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