複数年度にまたがる施設整備の補助金活用【2026年版】

継続費・繰越明許費・債務負担行為の使い分け

学校施設の整備は、単年度で終わらない工事が大半です。基本設計、実施設計、工事、竣工と進むだけで3年から4年。統廃合を伴えばさらに長くなります。ところが自治体の予算は会計年度独立の原則で動いており、補助金も年度ごとに交付されます。この不整合をどう処理するかが、複数年度事業の実務の中心です。

この記事では、①会計年度独立の原則とその例外制度、②交付金が「予算の範囲内」であることの意味、③国の補正予算をどう織り込むか、④期限つき措置と年度の関係、⑤工事を年度分割するときの注意点、の5点で整理します。

この記事の要点

  • 会計年度独立の原則の例外は、継続費・繰越明許費・債務負担行為・事故繰越し・逓次繰越の5つ
  • 学校施設環境改善交付金は予算の範囲内での交付であり、要望額が満額つかない年度がある
  • 交付金の減額分は起債で埋められない構造になっている
  • 期限つきの算定割合の嵩上げは、工程の前倒しか、切れた場合の試算のいずれかが必要
  • 令和8年度は、緊急防災・減災事業債と脱炭素化推進事業債がいずれも令和12年度まで延長された

会計年度独立の原則とは何か?

会計年度独立の原則とは、各会計年度の歳出はその年度の歳入をもって充てるという、地方公共団体の予算運営の原則です。

学校施設の整備は複数年度にまたがるため、この原則の例外制度を使って処理します。例外は継続費・繰越明許費・債務負担行為・事故繰越し・逓次繰越の5つで、それぞれ性格が異なります。

複数年度事業に使える制度は何か?

地方公共団体の予算は、各会計年度の歳出はその年度の歳入をもって充てるという会計年度独立の原則で運営されます。複数年度にまたがる事業は、この原則の例外制度を使って処理します。

制度根拠性格
継続費地方自治法第212条数年度にわたる事業について、総額と年割額を定めて支出する
繰越明許費地方自治法第213条年度内に支出が終わらない見込みのものを、あらかじめ翌年度に繰り越す
債務負担行為地方自治法第214条翌年度以降にわたる債務を負担する行為を予算で定める
事故繰越し地方自治法第220条避けがたい事故により年度内に支出が終わらなかった経費を繰り越す
逓次繰越地方自治法施行令第145条継続費の年割額のうち支出しなかった額を、継続年度の終わりまで逓次繰り越す

継続費と債務負担行為の使い分け

この2つは実務上迷いやすい制度です。どちらも会計年度独立の原則の例外であり、2か年以上の期間が必要な事業で後年度に支出することとなる経費について、契約等の支出負担行為が事前にできる点は共通しています。使い分けが明確でないという指摘も自治体側から出ています。

一般的な整理としては、工事全体を一体の事業として総額と年割額を先に確定させたい場合が継続費、契約は先に結ぶが各年度の支出は毎年度の予算に計上する場合が債務負担行為です。学校の新築・改築のように、途中で止められない一連の工事は継続費で組むことが多くなります。

繰越明許費の設定要件

繰越明許費のうち、その性質上年度内に支出を終わらない見込みのあるものについては、当該年度中の事業完了を予定して所要の財源を措置することを前提に、自然的・社会的諸条件等の外部的要因により執行が翌年度にわたる可能性がある場合に設定可能とされています。

つまり、最初から翌年度にまたがる前提で組むための制度ではありません。年度内完了を予定していたが、資材の入手難や近隣調整の長期化などで工期がずれる可能性がある場合に備える制度です。最初から複数年度で計画するなら、継続費または債務負担行為が筋になります。

交付金が予算の範囲内とはどういう意味か?

学校施設環境改善交付金は、施設整備計画に記載された事業について算定した額を、予算の範囲内で交付する制度です。

この「予算の範囲内」が、複数年度計画にとって最大の変数になります。国の予算総額に上限があるため、要望額に対する内示率が下がる年度があります。

内示率が下がると何が起きるか

単に国費が減るだけではありません。起債の側にも影響が出ます。

学校施設環境改善交付金を受けて実施する事業の起債対象事業費は、当該交付金の対象事業費から、当該事業費に交付金要綱に定める交付率を乗じて得た額、または当該事業に充当した交付金の額のいずれか多い額を控除した額とされています。

「いずれか多い額」が控除されるということは、実際の交付額が理論値を下回っても、控除されるのは理論値のほうだという意味です。つまり交付金の不足分を起債で埋めることはできず、一般財源で吸収せざるを得ません。

充当率と交付税措置の詳しい仕組みは補助金と起債(学校債・地方債)の関係にまとめています。

対応の組み立て方

複数年度計画では、次の2本立てで持っておくのが実務的です。

  • 交付金が満額つく前提の財政計画
  • 内示率を割り引いた場合の財政計画と、その差額をどの年度の一般財源で吸収するか

さらに、年度をまたぐ工事では「どの年度に交付申請を集中させるか」も設計の対象です。工事を3年に分けるとして、3年とも同じ額を要望するのか、初年度に厚く積むのかで、内示率変動のリスクの受け方が変わります。

国の補正予算はどう織り込むか?

国の当初予算だけでなく、補正予算が施設整備の重要な財源になる年があります。

たとえば公立高校支援については、令和7年度補正予算で高校教育改革促進基金2,950億円が措置され、高校教育改革を先導するパイロットケースの創出に取り組む都道府県を支援する枠組みが設けられています。

補正予算は年度後半に成立することが多く、そこから設計を始めていては年度内執行が間に合いません。実務上は、次の構えが必要になります。

  • 設計まで済ませて工事だけを待っている案件を、あらかじめ庁内で用意しておく
  • 補正で採択された場合を想定した繰越明許費の設定を、議会日程に織り込んでおく

「補正が来てから考える」では間に合わないのが、この分野の特徴です。

期限つき措置は年度をまたげるか?

複数年度計画でもっとも神経を使うのが、期限つきの措置です。文部科学省の交付金では、算定割合の嵩上げに期限が付されているものがあります。

  • 体育館への空調新設と併せて実施する断熱性確保工事、不審者侵入防止対策の1/2:令和7年度まで
  • 特別支援学校の教室不足解消に向けた事業の1/2:令和9年度まで
  • 学びの多様化学校・夜間中学の用に供する既存施設の改修の1/2:令和9年度まで
  • 屋外教育環境(グラウンド等)の1/3:令和11年度まで

一方、地方債側では令和8年度地方財政対策で期間の延長がありました。

  • 緊急防災・減災事業債:令和8年度から令和12年度まで(5年間延長)
  • 脱炭素化推進事業債:令和8年度から令和12年度まで(5年間)
  • 高等学校教育改革等推進事業債:令和8年度から令和13年度まで

期限つき措置は延長される場合もあれば、そのまま終了する場合もあります。過去には、大規模改造(老朽)や木の教育環境整備事業のように、国庫補助時限を延長せず廃止された例があります。

年度をまたぐときの判断基準

期限の直前に工事がまたがる場合、次の点を確認します。

起債は工事完了時期ではなく、どの年度の事業債として起こすかで判断されます。したがって工期が期限年度をまたいでも、期限内の年度で起債できる部分は確保できる可能性があります。ただし繰越の扱いは制度ごとに異なるため、個別の確認が必要です。

合併特例債の例では、法律上の発行可能期間内であれば、繰越明許費の設定にあたって当該債を繰越財源とすることが可能である旨が示されています。同様の考え方が他の債にも当てはまるかは、所管に確認してください。

工事を年度分割すると何が起きるか?

複数年度に工事を分けると、技術面と契約面でいくつか問題が出ます。

工区分割の合理性

年度で工事を切ると、工区の境目に無理が生じることがあります。防水層や外壁の仕上げは連続していますから、途中で止めれば取り合い部の処理が必要になり、その分の費用が発生します。

年度分割は財政の都合で決まりがちですが、施工上の切りどころと一致しないと、総額はかえって高くなります。基本設計の段階で、施工上どこで切れるかを設計者と詰めておく必要があります。

在校中施工との兼ね合い

学校の改修は在校中施工が基本です。夏休みなど長期休業に工事を集中させると、年度分割の切りどころは休業期間の単位に縛られます。工期を3年に分けるということは、実質的に3回の夏休みを使うということです。

工程と期間の考え方は学校統廃合のスケジュールは何年かかる?、改修全体の進め方は学校改修の進め方ガイドで扱っています。

単価の変動

複数年度に分けると、後年度の工事は当初の積算単価では収まりません。資材価格・労務費が上がっている環境では、3年目の工事費が初年度の想定を大きく超えることがあります。

国庫補助の側は配分単価で計算されますから、実勢単価との乖離は自治体負担になります。年度ごとに単価を見直した試算を持っておくことが、財政部局との合意形成には欠かせません。

よくある質問

Q. 継続費と債務負担行為はどちらを使うべきですか。

A. 一律の正解はありません。工事全体の総額と年割額を先に確定させたい場合は継続費、契約は先行させつつ各年度の予算計上で対応する場合は債務負担行為が一般的です。自団体の財政部局の運用に合わせてください。

Q. 繰越明許費を最初から設定して複数年度計画を組めますか。

A. 繰越明許費は、当該年度中の事業完了を予定して財源を措置することを前提とした制度です。最初から翌年度にまたがる前提の計画には、継続費または債務負担行為が適します。

Q. 交付金が減額されたら、翌年度に上乗せして要望できますか。

A. 翌年度の要望は可能ですが、翌年度も予算の範囲内での交付であることに変わりはありません。減額が続く前提の財政計画も持っておく必要があります。

Q. 期限つき措置が延長されるかどうかは、いつ分かりますか。

A. 国の予算編成過程で明らかになるため、年末から年明けにかけての情報になります。それまでは、延長される前提と終了する前提の両方で試算しておくのが安全です。

Q. 年度分割すると総額は安くなりますか。

A. 安くなるとは限りません。工区の取り合い処理、仮設の重複、単価上昇分が加わるため、総額はむしろ増えることが多くなります。単年度の負担を平準化する効果と、総額増のトレードオフです。

まとめ

複数年度の施設整備で押さえるべきは、制度の使い分けと、交付金が予算の範囲内であるという前提の2点です。

継続費・繰越明許費・債務負担行為はそれぞれ性格が違い、最初から複数年度で組むのか、年度内完了を予定しつつ備えるのかで選ぶものが変わります。そして交付金は満額つかない年度があり、その不足分は起債で埋められない構造になっています。

さらに、算定割合の嵩上げには期限が設定されているものがあり、令和8年度は逆に地方債側で令和12年度までの延長が行われた年です。工程を組むときは、施工上の切りどころと、制度側の期限の両方を並べて検討する必要があります。

参考・出典

  • 地方自治法(第212条、第213条、第214条、第220条)、地方自治法施行令第145条
  • 文部科学省「国庫補助事業について」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/zitumu.htm
  • 総務省「令和8年度地方財政対策の概要」(令和7年12月26日) https://www.soumu.go.jp/main_content/001048685.pdf
  • 総務省「合併特例債を財源とした事業に関する繰越明許費の設定について」(令和5年6月8日 事務連絡) https://www.soumu.go.jp/main_content/000986539.pdf
  • 財務省「令和8年度 文教・科学技術予算について」 https://www.mof.go.jp/policy/budget/budger_workflow/budget/fy2026/seifuan2026/12.pdf
  • 足立泰美「学校教育施設整備の維持・更新と財政健全化」(統計研究彙報) https://www.stat.go.jp/training/2kenkyu/ihou/80/pdf/2-2-804.pdf

記載の制度は公表時点のものです。最新の要件・割合・期限は所管省庁の公表資料でご確認ください。