技術職員がいない前提で、どう発注するか
学校改修がうまくいかないとき、原因を施工会社に求めがちです。しかし実際には、発注する側の体制に無理があるケースが少なくありません。
数字を先に挙げます。
文部科学省の調査研究協力者会議の報告によれば、教育委員会において施設担当技術職員を有していない地方公共団体は約半数にのぼります。さらに、地方公共団体では技術職員が年々減少し、業務負担が非常に増しているという指摘もあります。
学校法人でも同様です。施設部門に建築の専門職を常勤で置いている法人は多くありません。総務課の職員が、他の業務と兼務で施設を担当しているのが実情です。
この記事では、体制が十分でないという前提に立ったうえで、どう発注すべきかを整理します。
目次
発注者が本来担う役割
改修工事において、発注者には次の判断が求められます。
| 場面 | 判断すること |
|---|---|
| 計画段階 | 改修か改築か、工事範囲、優先順位、予算配分 |
| 設計段階 | 設計内容が要求と合っているか、補助要件を満たすか |
| 積算・契約 | 見積の妥当性、仕様の前提が揃っているか |
| 施工段階 | 設計変更の要否、追加費用の妥当性、工程変更の可否 |
| 竣工 | 設計どおりできているか、是正が必要な箇所はどこか |
国土交通省の「公共工事の入札契約方式の適用に関するガイドライン」でも、選択した入札契約方式に応じて、発注者は施工者からの技術提案の妥当性等の審査・評価、受注者が提案した工法に基づく設計成果の確認等を実施する必要があるとされています。
そのうえで、発注者のこれまでの発注経験や発注体制も考慮して入札契約方式を選択することが望ましいとされています。
つまり国のガイドライン自体が、体制に見合った方式を選べと言っています。
体制が足りないまま分離発注すると何が起きるか
設計施工分離では、設計事務所と施工会社という2つの契約相手ができます。両者の間に立って裁くのが発注者の役割です。
技術判断ができる人がいないと、次のような場面で止まります。
想定外が出たとき
解体して初めてアスベストが判明した。既存図面と現況が違った。想定より劣化が進んでいた。
このとき、設計事務所は「現況が図面と違うのだから施工側の対応」と言い、施工会社は「設計時に調査すべきだった」と言う。どちらの言い分にも理があります。発注者が技術的に判断できなければ、話が進みません。
追加費用が出たとき
追加が必要なのは分かる。ただし金額が妥当かどうかが判断できない。
見積書の数量と単価を検証するには、図面を読み、現場を見て、相場を知っている必要があります。この検証ができないまま承認すると、後で会計検査や監査の指摘対象になります。
補助の要件に関わるとき
長寿命化改良は建物一棟全体の全面改修が原則で、ライフラインの更新だけでは国庫補助の対象になりません。大規模改造にも施工割合の要件があります。
設計内容がこれらの要件を満たしているかは、制度と設計図の両方を読める人でないと判断できません。要件を外した設計のまま進めると、申請段階で差し戻されます。
工期を変えるとき
学校は授業があります。工期変更の可否は、教育活動への影響を評価しないと決められません。これは施設の話ではなく学校運営の話であり、施工会社には判断できません。
補い方の選択肢
体制が足りない場合、外部の力を借りることになります。方法は3つです。
| 方法 | 内容 | 向くケース |
|---|---|---|
| CM方式(コンストラクション・マネジメント) | 発注者側に立つ専門家が、計画から竣工まで技術的支援を行う | 事業規模が大きい。複数棟・複数年にわたる |
| 発注者支援業務 | 積算・監督・技術審査など特定業務を委託する | 特定の工程だけ支援が必要 |
| 設計施工一括発注 | 設計と施工の窓口を一社にまとめ、調整そのものを減らす | 単棟の改修。事業規模に対して支援費用が見合わない |
国土交通省のガイドラインでも、発注関係事務を発注者が実施する上で支援が必要な場合は、発注者における体制確保を図る方式(事業促進PPP、CM方式等)の活用も考えることが望ましいとされています。
地方公共団体向けには、2020年9月に「地方公共団体におけるピュア型CM方式ガイドライン」が発行されています。発注者側の専門知識や経験、人的リソースの不足を補う手段として、CM会社の活用が推進されている状況です。
費用と規模のバランスで決まる
CM方式は有効ですが、費用がかかります。事業規模が小さい場合、CM費用が工事費に対して相対的に大きくなり、割に合わないことがあります。
一方、設計施工一括は追加費用なしで調整の手間を減らせます。ただし、発注者が施工会社を評価する目を持たないと、提案の妥当性を検証できません。
どちらにも一長一短があります。判断の目安は次のとおりです。
- 複数棟・複数年・数十億円規模 → CM方式や発注者支援業務を検討する価値がある
- 単棟の改修・単年度 → 窓口を一本化して調整を減らすほうが実質的な負担が小さい
発注方式そのものの違いは設計施工の分離と一括の違い(K298)で整理しています。
体制がなくてもできること
外部の支援を入れない場合でも、発注者側で押さえておくと結果が変わる項目があります。
1. 現況資料を揃えておく
竣工図(意匠・設備)、確認済証・検査済証、過去の修繕履歴、耐震診断の結果。これらが揃っているかどうかで、設計の精度も見積の精度も変わります。
資料がない状態で見積を取ると、各社が異なる前提で積算するため、金額の比較が成立しません。
2. 学校暦を先に確定させる
入試、行事、定期考査、実習。工事ができない期間を先に確定させ、それを条件として提示します。これは学校側にしかできない作業です。
後から「その時期は無理でした」となると、工程全体が崩れます。
3. 要求事項を文書化する
「きれいにしたい」ではなく、何を、どこまで、なぜ。これを文書にしておくと、提案内容を比較する軸ができます。
技術的な仕様は書けなくても、要求の優先順位は発注者にしか決められません。
4. 判断の窓口を一人に決める
複数の担当者がそれぞれ施工会社と話すと、指示が食い違います。技術判断ができなくても、窓口が一本化されているだけで進行は安定します。
5. 調査を先にやる
現況調査の結果が、改修範囲も費用も工期も決めます。調査を省いて見積を取ると、着工後に前提が崩れます。調査の内容と費用は現況調査の費用(K901)で解説しています。
よくある質問
Q. 技術職員がいない自治体は特殊ですか。
A. 特殊ではありません。教育委員会において施設担当技術職員を有していない地方公共団体は約半数とされています。地方公共団体全体でも技術職員は年々減少しています。
Q. CM方式を入れるべきかどうかの目安はありますか。
A. 事業規模とCM費用のバランスです。複数棟・複数年の大規模事業なら効果が出やすく、単棟の改修では費用が見合わないことがあります。
Q. 体制がないなら一括発注にすべきですか。
A. 調整の手間は減りますが、施工会社の提案を評価する目は依然として必要です。工事監理を第三者に委託する、監理報告の内容と頻度を契約で定める、といった担保を組み合わせてください。
Q. 発注者としてまず何をすればいいですか。
A. 現況資料を揃えること、学校暦から工事不可期間を確定させること、要求事項を文書化すること。この3つは技術知識がなくてもできます。
Q. 見積の妥当性はどう確認すればいいですか。
A. 各社の前提が揃っているかを先に確認してください。前提が違えば金額の比較になりません。取り方は学校の相見積もり(K299)をご覧ください。
まとめ
- 教育委員会に施設担当技術職員がいない地方公共団体は約半数。体制不足は例外ではない
- 国土交通省のガイドラインも、発注経験や発注体制を考慮して方式を選ぶことが望ましいとしている
- 体制が足りないまま分離発注すると、想定外・追加費用・補助要件・工期変更の場面で判断が止まる
- 補い方はCM方式、発注者支援業務、設計施工一括の3つ。事業規模で使い分ける
- 技術知識がなくてもできることがある。現況資料の準備、工事不可期間の確定、要求事項の文書化、窓口の一本化、調査の先行
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関連記事
- 設計施工の分離と一括の違い(K298)
- 施工会社の選び方(K297)
- 学校の相見積もり(K299)
- 改修の進め方(K296)
- 現況調査の費用(K901)
参考・出典
- 文部科学省「学校施設の老朽化対策について~学校施設における長寿命化の推進~」平成25年3月 学校施設の在り方に関する調査研究協力者会議(教育委員会において施設担当技術職員を有していない地方公共団体が約半数) https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2013/03/18/1131926_01_1.pdf
- 国土交通省「公共工事の入札契約方式の適用に関するガイドライン【本編】」平成27年5月(令和4年3月改正)(技術提案の審査・評価、設計成果の確認、発注経験・発注体制を考慮した方式選択、事業促進PPP・CM方式等の活用) https://www.mlit.go.jp/tec/content/001475361.pdf
- 国土交通省「地方公共団体におけるピュア型CM方式ガイドライン」2020年9月(地方公共団体の技術職員減少とCM会社活用の推進)
- 文部科学省「長寿命化改良事業Q&A」(建物一棟全体の全面的な改修が原則、ライフラインの更新だけでは補助対象外) https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/06/04/1405373_004.pdf
※記載の制度やガイドラインは公表時点のものです。最新情報は文部科学省・国土交通省および所管部局の公表資料をご確認ください。
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