この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

公立中学校は改修か建替えか?

判断基準・費用比較・長寿命化の考え方

公立中学校の校舎は、小学校と同じ時期に建てられ、同じように更新の時期を迎えています。ただし、判断の材料は少し違います。

特別教室の比重が高く、設備の更新費が大きくなります。部活動の施設も抱えています。そして、小中一貫という選択肢が加わります。

この記事では、①施設の現状、②中学校固有の論点、③費用の比べ方、④補助制度、⑤進め方、の5点を整理します。

この記事の要点

  • 公立小中学校施設は、令和6年5月1日現在で約6割が築40年以上
  • そのうち7割以上が改修を要するとされている
  • 文部科学省のコスト試算の枠組みでは、更新周期は改築50年・長寿命80年、長寿命化改修の周期は40年
  • 学校施設環境改善交付金では、改築も長寿命化改良も3分の1、複合化・集約化等の場合は2分の1
  • 中学校では、特別教室の設備更新が費用を左右する

公立中学校の施設は今どうなっているのか?

小学校と同じ世代の建物です。

文部科学省は、公立学校施設の老朽化対策について、令和6年5月1日現在で公立小中学校施設の約6割が築40年以上を経過し、そのうち7割以上が改修を要するとしています。

構造体の耐震化と体育館の吊り天井の対策は、ほぼ完了しています。残る課題は、屋上防水、外壁、給排水、電気設備、そして特別教室の設備です。安全のための工事から、使い続けるための工事へ論点が移っています。

中学校の改修の全体像は中学校の改修・リノベーションガイドにまとめています。

中学校ならではの論点は何か?

4つあります。

特別教室の設備が費用を押し上げる

理科室、技術室、家庭科室、音楽室、美術室。中学校では特別教室の数が多く、それぞれに設備が入っています。

室設備更新の論点
理科室給排水、ガス、実験台、排気ガス設備の老朽化は安全に直結する
技術室動力電源、集塵、工作機械電源容量と機械の更新が別に必要
家庭科室調理設備、給排水、換気衛生と火気の扱い
音楽室遮音、吸音隣接する部屋との関係
美術室給排水、換気、収納用具と作品の保管

普通教室の改修と同じ単価では収まりません。改築か長寿命化改修かを比べるとき、この部分の費用を別に見積もります。設備費が工事費の大きな割合を占める学校もあります。

部活動の施設

グラウンド、体育館、武道場、プール、部室。中学校では部活動の施設が多く、使用頻度も高くなります。

一方、部活動の地域移行が進む地域では、学校の施設をどこまで整備するかの前提が変わります。今後の運営の方針を確認したうえで判断します。地域の団体が使う前提なら、管理区画と出入口の考え方も変わります。

通学の範囲が広い

中学校の学区は小学校より広く、自転車通学の生徒がいます。統合すれば通学距離はさらに伸びますが、体力の面では小学生ほどの制約はありません。

一方、駐輪場の規模、通学路の安全、雨天時の動線は、施設の計画に関わります。統合で自転車通学の生徒が増えるなら、駐輪場の面積を見直します。

小中一貫という選択肢

小学校と中学校の両方が更新の時期を迎えている地域では、両方を建て替えるのではなく、小中一貫校として統合する選択肢があります。

施設一体型にすれば、体育館、給食施設、職員室を共用でき、全体の面積を減らせます。学校統合に伴う既存施設の改修は補助率2分の1の区分があるため、財源の条件も変わります。ただし、9年間の幅を1つの校舎で受け止める設計が必要になります。

費用はどう比べるのか?

年あたりに直します。

文部科学省が示すコスト試算の枠組みでは、更新周期として改築50年、長寿命80年が設定されており、長寿命化改修の周期は40年、工事期間は2年とされています。これらは試算ツールの区分ごとの設定で、各自治体が実態に応じて数値を定める仕組みです。

項目改築長寿命化改修
試算上の更新周期50年80年
改修の周期ー40年
仮設校舎必要になることが多い使いながら施工できる場合がある
特別教室の設備新設として計上既存の位置に制約される

設備の位置が制約になる

長寿命化改修では、既存の給排水やガスの配管の位置を前提にします。特別教室を大きく配置換えしようとすると、配管の全面的なやり直しになり、費用が膨らみます。配管が床下や壁内に埋まっている場合は、さらに手間がかかります。

改築であれば、今の教育課程に合った配置で計画できます。特別教室の使い方を見直したい場合、改築の方が目的に合うことがあります。教科センター方式のような運営に変える場合も同様です。

見えない費用

仮設校舎の建設と撤去、備品と実験器具の移転、工事期間中の部活動の場所。これらは工事費とは別に発生します。理科の薬品や技術室の機械は、移設の手間が大きい部分です。

長寿命化改修の内容は学校施設の長寿命化改修とは?を参照してください。判断の枠組みは学校は建替え・長寿命化改修・統合のどれを選ぶ?にまとめています。

補助制度はどう違うのか?

事業の区分で補助率が変わります。

文部科学省の案内によれば、学校施設環境改善交付金では次の補助率が示されています。

事業補助率
改築(危険建物、耐震不足等)3分の1
改築(施設複合化等の場合)2分の1
長寿命化改良3分の1
長寿命化改良(複合化・集約化の場合)2分の1
大規模改造(内装改修、空調、バリアフリー化等)3分の1
学校統合に伴う既存施設の改修2分の1

新築または増築の場合は、公立学校施設整備費負担金の対象となり、負担率は原則2分の1とされています。

制度の全体像は公立学校施設整備費(国庫補助)の基礎知識にまとめています。

どの区分で申請するかを先に決める

同じ工事でも、長寿命化改良として申請するか、統合に伴う改修として申請するかで補助率が変わります。事業の組み立て方が、そのまま自己負担の額を左右します。設計の前に、都道府県の担当課と協議します。

要件を満たすために、工事の範囲や時期を調整する場合もあります。年度の枠と採択の見通しも、あわせて確認しておきます。

判断の順序はどうなるか?

調査から始めます。

段階内容
1. 劣化状況調査躯体、屋上、外壁、設備の状態を調べる
2. 生徒数の推計20年、30年後の学級数を置く
3. 教育課程との照合必要な特別教室の数と種類を確認する
4. 方針の決定改築・長寿命化改修・統合・小中一貫のいずれか
5. 財源の検討補助の区分、地方債、単年度の負担の平準化

躯体が健全でなければ選択肢が消える

長寿命化改修は、躯体が使えることが前提です。コンクリートの中性化が進み、鉄筋が腐食している建物では成り立ちません。

調査の費用は工事費に比べて小さく、判断の精度を上げる効果が大きい部分です。方針を決める前に済ませておきます。

生徒数の推計は小学校から見る

中学校の生徒数は、6年前の小学校の児童数から見通せます。小学校の在籍者数を追えば、中学校の規模は予測しやすくなります。私立への進学が多い地域では、その割合も加味します。

統合の判断も、小中学校をまとめて検討する方が整理できます。片方だけを先に決めると、後戻りが発生します。

工事中の教育活動はどう守るのか?

中学校は授業以外の時間も使われます。

朝の部活動、放課後の部活動、休日の練習と大会、定期テスト、高校入試。工事ができる期間は、小学校より狭くなります。

  • 長期休業中も部活動が行われる
  • 3年生の進路に関わる時期は、静かな環境が必要になる
  • 入学者選抜の会場になる場合、その期間は工事を止める
  • 行事と大会の日程は年度ごとに変わる

年間の予定を先に集める

学校の行事予定、部活動の大会日程、入試の日程。これらを重ねたうえで、工事のできる期間を確定します。工程を先に組んでから調整すると、何度も組み直すことになります。

騒音と振動の時間帯

授業中に大きな音を出す作業はできません。作業の内容ごとに、できる時間帯を工程表に書き込みます。定期テストの期間は、特に配慮が必要になります。

仮設校舎の置き場所

改築では仮設校舎が必要になります。校庭に建てれば、体育の授業と部活動に影響します。近隣に用地を借りられるか、棟ごとに段階的に建てて移るか。敷地の条件が選択肢を決めるため、早い段階で検討します。

避難所としての機能はどうするか?

体育館の環境が問われます。

中学校も地域の避難所に指定されていることが多くあります。体育館の空調、トイレ、マンホールトイレ、備蓄倉庫、非常用電源。いずれも改修の機会にまとめて整備する方が効率的です。

避難所の運営では、中学生が支援の担い手になる場面もあります。地域と連携した訓練を想定するなら、必要な設備も変わります。受付や物資の置き場として使う部屋も決めておきます。

防災の部局が所管する予算を使える場合があります。学校施設の整備と防災機能の強化を、別々の事業にせず一体で計画する方が効率的です。

よくある質問

Q. 公立小中学校の校舎はどれくらい古いですか。

A. 文部科学省によれば、令和6年5月1日現在で約6割が築40年以上を経過し、そのうち7割以上が改修を要するとされています。

Q. 長寿命化改修は何年使う前提ですか。

A. 文部科学省のコスト試算の枠組みでは、長寿命の区分で更新周期80年が設定されています。数値は各自治体が実態に応じて定めます。

Q. 特別教室の設備更新は別に見積もりますか。

A. 普通教室と単価が違うため、別に積み上げます。給排水、ガス、動力電源、排気の更新が中心です。

Q. 部活動の施設はどう扱いますか。

A. 地域移行の方針によって、整備の前提が変わります。今後の運営の方針を確認したうえで判断します。

Q. 小中一貫にすると補助は変わりますか。

A. 学校統合に伴う既存施設の改修は補助率2分の1の区分があります。どの区分で申請できるかを都道府県に確認します。

Q. 建物の状態はどう調べますか。

A. 劣化状況調査を行います。躯体、屋上、外壁、設備の状態を確認し、長寿命化改修が可能かを判断します。

Q. 工事のできる期間はいつですか。

A. 長期休業中も部活動があるため、小学校より狭くなります。行事と大会の日程を先に集めて確定します。

Q. 仮設校舎はどこに建てますか。

A. 校庭に建てる例が多く、その場合は体育の授業と部活動に影響します。近隣の用地を借りる方法もあります。

Q. 生徒数の見通しはどう立てますか。

A. 6年前の小学校の児童数から予測できます。小中学校をまとめて推計する方が整理できます。

まとめ

公立小中学校施設は、令和6年5月1日現在で約6割が築40年以上を経過し、そのうち7割以上が改修を要するとされています。中学校も小学校と同じ世代の建物で、同じ時期に更新の判断を迫られます。

中学校固有の論点は、特別教室の設備、部活動の施設、通学の範囲、そして小中一貫という選択肢です。特に特別教室は、給排水、ガス、動力電源、排気の更新が必要で、普通教室と同じ単価では収まりません。

費用は、総額ではなく年あたりに直して比べます。文部科学省の試算の枠組みでは、更新周期は改築50年・長寿命80年、長寿命化改修の周期は40年とされています。

補助率は、改築も長寿命化改良も3分の1、複合化・集約化等の場合は2分の1です。小中一貫や統合を伴う計画であれば、財源の条件が変わります。劣化状況調査、生徒数の推計、教育課程との照合。この3つを済ませてから方針を決めることが、後から覆らない判断につながります。

参考・出典

記載の制度・数値は公表時点のものです。補助の対象と補助率は年度により変わるため、最新の内容は所管省庁および都道府県の公表資料でご確認ください。

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