目次
5つの軸と決め方
5つの軸で判断します。
耐震性能、構造体の劣化、児童生徒数の見通し、必要な工事の総額、年あたりのコスト。この5つを並べて初めて判断ができます。
よくある誤りは、1つの軸だけで決めることです。「築50年だから建て替え」は築年数だけ、「改修のほうが安い」は工事費だけ。どちらも他の軸を見ていません。
そして判断には順序があります。耐震性能が確保されていなければ、他の検討をしても意味がありません。
この記事では、①5つの軸、②判断の順序、③必要な工事を全部書き出す、④年あたりのコスト、⑤計画への位置づけ、の5点を整理します。
この記事の要点
- 判断の軸は、耐震性能、構造体の劣化、児童生徒数の見通し、必要な工事の総額、年あたりのコストの5つ
- 文部科学省の学校施設耐震化推進指針では、Is値0.7以上を構造体の安全性が確保されているとし、Is値0.3未満またはq値0.5未満を緊急度ランク1として改築が望ましいとしている
- 比較では、改修以外に必要な工事を全部足してから総額を出す
- 工事費の総額ではなく、使える年数で割った年あたりのコストで比べる
- 判断は個別施設計画に位置づけ、残す年数を先に決める
5つの軸とは何か?
順序があります。
| 順序 | 軸 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 耐震性能 | Is値と緊急度ランク |
| 2 | 構造体の劣化 | 中性化、鉄筋の腐食、ひび割れ |
| 3 | 児童生徒数の見通し | その建物を何年使うか |
| 4 | 必要な工事の総額 | 改修に必要な工事を全部足す |
| 5 | 年あたりのコスト | 総額を使える年数で割る |
1つの軸だけで決めない
築年数だけ、工事費だけ、見た目だけ。いずれも判断の材料の1つにすぎません。
5つを並べた表を作ってください。この表がないと、議会や地域への説明もできません。
築年数は軸に入らない
築年数は、劣化の目安にはなりますが判断の軸ではありません。同じ築年数でも、立地と維持管理の履歴で状態は大きく違います。
寿命の考え方は老朽化した校舎の寿命は何年なのか?で扱っています。
棟ごとに判断する
校舎は増築を繰り返してきた建物が多くあります。1つの校舎の中に、築年数と構造の異なる部分が混在します。
棟ごと、増築ごとに判断してください。古い部分だけを解体し、新しい部分を残す選択もあります。
改築、改修、統合の3択で考える
改修と建替えの2択ではなく、統合という選択も並べてください。統合すれば、建物の一部が不要になります。
3つの選択の比較は改築か改修か統合か、どう判断するのか?で扱っています。
判断の順序はどうなるのか?
耐震性能が最初です。
文部科学省の学校施設耐震化推進指針では、Is値0.7以上を構造体の安全性が確保されているとしています。一方、Is値0.3未満またはq値0.5未満は緊急度ランク1とされ、改築が望ましいとしています。
| Is値 | 判断 |
|---|---|
| 0.7以上 | 構造体の安全性が確保されている |
| 0.3以上0.7未満 | 補強の検討 |
| 0.3未満またはq値0.5未満 | 緊急度ランク1。改築が望ましい |
緊急度ランク1は改築に寄る
Is値0.3未満の建物では、補強で0.7以上に持ち上げるのに大規模な工事が必要になり、費用が改築に近づきます。
このため指針では改築が望ましいとされています。補強と建替えの比較は耐震補強と建替えはどちらが安いのか?で扱っています。
次に構造体の劣化を見る
耐震性能が確保されていても、構造体の劣化が進んでいれば長く使えません。
| 確認項目 | 方法 |
|---|---|
| 中性化の深さ | 測定 |
| 鉄筋の腐食 | 鉄筋探査、はつりによる確認 |
| ひび割れ | 幅と位置の記録 |
| コンクリートの強度 | コア抜きによる試験 |
中性化が鉄筋の位置まで進み、広範囲で鉄筋が腐食している場合、補修の範囲が大きくなります。
3番目に児童生徒数の見通し
建物として80年使えるとしても、その学校が80年続くとは限りません。児童生徒数が減って統合すれば、建物は残っても学校としては終わります。
人口の推計、宅地開発の見通し、転入の傾向。これらから在籍者数の推移を見込んでください。
診断がない建物は判断できない
耐震診断を行っていない建物は、1番目の軸が埋まりません。結果として判断が先送りになります。
診断の実施自体を、計画に位置づけてください。
必要な工事を全部書き出すとはどういうことか?
改修以外も足します。
比較で最も見落としやすいのが、この作業です。耐震補強だけを比較の対象にすると、改修が有利に見えます。
| 工事 | 必要か |
|---|---|
| 耐震補強 | Is値による |
| 屋上防水 | 劣化の状況による |
| 外壁 | 同じ |
| 建具・サッシ | 同じ |
| 給排水管 | 同じ |
| 電気設備(受電、幹線) | 容量と年式による |
| 空調 | 設置の有無と年式による |
| トイレ | 洋式化と個数 |
| 内装 | 劣化の状況による |
| バリアフリー(エレベーター等) | 必要性による |
| 断熱 | 光熱費と快適性による |
全部必要な場合は改築に近づく
上記のすべてが必要な建物では、工事費の合計が改築に近づきます。この場合、改築のほうが有利になることがあります。
逆に耐震補強と屋上防水だけで足りる建物では、改修が明らかに有利です。
調査で範囲を特定する
必要な工事を書き出すには、調査が必要です。劣化の状況、設備の状態、構造体の劣化。
調査なしに比較すると、工事中に想定外が出て費用が膨らみます。調査は前年度に済ませる段取りが必要です。
性能の差も書き出す
改修では、断熱の性能が上がりません。教室の配置も大きく変えられません。
| 項目 | 改修 | 改築 |
|---|---|---|
| 断熱の性能 | 内窓等で部分的に改善 | 現行基準に適合 |
| 教室の配置 | 大きく変えられない | 自由に計画できる |
| バリアフリー | 制約がある | 計画に組み込める |
| 設備の更新 | 既存の経路に制約される | 新しく計画できる |
| 工期 | 工区を分けて長期化 | 仮設校舎が必要 |
性能の差は金額で表しにくい部分ですが、判断の材料に含めてください。
補助の算定割合の差
地震補強は2分の1から3分の2、改築は3分の1から2分の1です。事業区分によって自治体の負担が変わります。
総事業費から補助見込額を引いた自治体の負担で比べてください。
年あたりのコストはどう出すのか?
総額を使える年数で割ります。
| 比較の項目 | 改修 | 改築 |
|---|---|---|
| 総事業費 | 小さい | 大きい |
| 補助見込額 | 算定割合による | 算定割合による |
| 自治体の負担 | 差し引いた額 | 差し引いた額 |
| 使える年数 | 建物の状態による | 長い |
| 年あたりの負担 | 負担を年数で割る | 同じ |
| その後の維持費 | 既存の設備が残る | 下がる |
| 光熱費 | 断熱の性能による | 下がる |
使える年数の見込み
改修後に何年使えるかは、構造体の状態で決まります。文部科学省の方針を受けた自治体の計画では、目標使用年数80年、築40年で大規模改修という組み立てが示されています。
築40年で改修すれば、その後40年という見込みになります。ただし構造体の劣化が進んでいれば、この年数は短くなります。
長寿命化改修の考え方は学校の長寿命化改修とは何か?で扱っています。
光熱費の差を足す
改築した建物は断熱の性能が高く、設備も新しくなるため光熱費が下がります。この差が40年、80年で積み上がります。
年あたりの光熱費の差を見込み、総額に加えてください。
維持費の差を足す
改修では既存の設備が残るため、更新の時期が早く来ます。改築では設備も新しくなるため、更新が後になります。
この差も年あたりのコストに関わります。
仮設校舎の費用
改築では仮設校舎が必要になることがあります。この費用を改築の事業費に加えてください。
一方、改修では工区を分けて工期が延びます。工期が延びることによる費用も見込んでください。
計画にどう位置づけるのか?
残す年数を先に決めます。
| 手順 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 全校・全棟の状態を一覧にする |
| 2 | 耐震診断の結果で緊急度を分ける |
| 3 | 児童生徒数の推計を重ねる |
| 4 | 残す建物と残さない建物を分ける |
| 5 | 残す建物の残す年数を決める |
| 6 | 必要な工事を書き出し、費用を出す |
| 7 | 年度ごとの事業を割り振る |
残す年数を決めると判断の基準ができる
その建物を何年使うかが決まれば、必要な手入れの水準が決まります。40年使うなら構造体を守る工事が必要で、10年なら安全の確保と雨漏りの対策に絞る判断になります。
この順序が逆だと、判断の基準がなくなります。
個別施設計画への位置づけ
長寿命化改良などの事業には、個別施設計画への位置づけが前提になるものがあります。計画がなければ申請できません。
判断の結果を計画に書き込み、年度ごとの事業を割り振ってください。
複数案を同じ条件で比較する
改修案、改築案、統合案。複数の案を同じ条件で比較してください。
1案だけを示すと、他の選択肢を検討していないという指摘を受けます。
説明できる形に整理する
5つの軸の値、工事費、補助見込額、自治体の負担、使える年数、年あたりのコスト。これらを並べた表があれば、議会と地域に説明できます。
数字のない説明では、議論が進みません。
計画は見直す
児童生徒数の推計は変わります。計画を一度作って終わりにせず、数年ごとに見直してください。
よくある質問
Q. 改修と建替えはどう判断しますか。
A. 耐震性能、構造体の劣化、児童生徒数の見通し、必要な工事の総額、年あたりのコストの5つを並べて判断します。1つの軸だけでは決まりません。
Q. 判断に順序はありますか。
A. あります。耐震性能が最初です。文部科学省の学校施設耐震化推進指針では、Is値0.3未満またはq値0.5未満を緊急度ランク1として改築が望ましいとしています。
Q. 築年数は判断の基準になりますか。
A. 劣化の目安にはなりますが、判断の軸ではありません。同じ築年数でも立地と維持管理の履歴で状態が大きく違います。
Q. 比較で見落としやすい点は何ですか。
A. 改修以外に必要な工事です。屋上防水、外壁、建具、給排水管、電気設備、空調、トイレ、内装。これらを足してから比較してください。
Q. 工事費の総額で比べればよいですか。
A. 不十分です。使える年数で割った年あたりのコストで比べてください。あわせて光熱費と維持費の差も加えてください。
Q. 何から始めますか。
A. 全校・全棟の状態を一覧にすることです。耐震診断の結果、改修の履歴、劣化の状況、児童生徒数の推計。この一覧がないと判断できません。
まとめ
改修と建替えの判断は、耐震性能、構造体の劣化、児童生徒数の見通し、必要な工事の総額、年あたりのコストの5つの軸で行います。1つの軸だけで決めると誤ります。
順序があります。耐震性能が最初です。文部科学省の学校施設耐震化推進指針では、Is値0.7以上を構造体の安全性が確保されているとし、Is値0.3未満またはq値0.5未満を緊急度ランク1として改築が望ましいとしています。耐震性能が確保されていなければ、他の検討をしても意味がありません。
次に構造体の劣化です。中性化、鉄筋の腐食、ひび割れ。構造体は交換できないため、ここが使える年数を決めます。そして児童生徒数の見通しです。建物として80年使えても、その学校が80年続くとは限りません。
比較で最も見落としやすいのが、改修以外に必要な工事です。屋上防水、外壁、建具、給排水管、電気設備、空調、トイレ、内装、バリアフリー。これらを全部足してから比較してください。すべて必要な建物では、合計が改築に近づきます。
比較は工事費の総額ではなく、使える年数で割った年あたりのコストで行います。あわせて改築した建物の断熱の性能による光熱費の差、設備が新しくなることによる維持費の差も加えてください。
そして残す年数を先に決めてください。40年使うのか、10年で用途を終えるのか。これが決まれば必要な手入れの水準が決まります。判断の結果を個別施設計画に位置づけ、年度ごとの事業を割り振ることです。
参考・出典
- 文部科学省「学校施設耐震化推進指針」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/shuppan/04121502.htm
- 文部科学省「学校施設の長寿命化計画(個別施設計画)」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/1334433.htm
- 文部科学省「学校施設の長寿命化計画策定に係る手引」 https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/14460507/www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shisetu/036/toushin/1356229.htm
- 文部科学省「公立学校施設整備に関する実務」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/zitumu.htm
- 総務省「公共施設等総合管理計画の策定にあたっての指針」 https://www.soumu.go.jp/iken/koukyoushisetsu_kanri.html
記載の指針および制度は公表時点のものです。耐震性能の判断、算定割合および事業の区分は所管部署の運用により異なり、費用の比較は建物の状況によって変わります。個別の判断は所管部署および設計者にご確認ください。
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