この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

豊島区の学校改修

アスベストが計画全体を止めた実例から学ぶこと

学校改修で「事前調査を丁寧にやってください」と言われても、実感が湧きにくいかもしれません。

豊島区には、その理由がはっきり分かる実例があります。

池袋中学校で、一部の外壁塗装に微量ながら規定値以上のアスベストが含まれていることが判明しました。 その適切な処理を行うため、校舎解体工事及び校庭整備工事の期間を延長する必要が生じました。

問題はここからです。これに伴い、池袋第一小学校の改築工事の開始時期が2年延期され、千川中学校の改築工事の開始時期も3年延期されました。

1校でアスベストが見つかったことが、別の2校の改築スケジュールを最大3年ずらしたわけです。

この記事では、豊島区の学校改修について、区の計画と、この実例が示す実務上の教訓を整理します。

まず系統別の主体です。

系統施設整備の主体主な財源
区立小・中学校豊島区(教育委員会)区予算+国庫補助
都立高校・都立特別支援学校東京都(教育庁)都予算
私立学校学校法人自己資金+私学助成・国庫補助

私たち光建舎は、教育施設の改修を専門とする建築会社です。グループ内に一級建築士事務所を擁し、調査・設計・施工まで一貫して対応しています。

なぜ1校の遅れが他校に波及するのか

学校の改築は、単独で完結しません。改築中の児童生徒をどこに収容するかという問題があるためです。

区立学校の改築では、次のような連鎖が起こります。

  • A校を改築する間、児童は仮校舎または他校を使用する
  • その仮校舎・受け入れ先が空くのは、前のB校の工事が終わってから
  • B校が遅れれば、A校の着工も遅れる

つまり改築計画は数珠つなぎになっています。1校の工期延長が、後続校に順送りで波及する構造です。

豊島区の事例では、池袋中学校の解体・校庭整備が延び、その結果として池袋第一小学校と千川中学校の着工がずれました。

アスベストは「微量でも」計画を止める

注目すべきは、「微量ながら規定値以上」という表現です。

大量に含まれていたわけではありません。しかし規定値を超えていれば、法令に基づく適切な処理が必要になります。処理には工法の選定、届出、養生、作業期間の確保が伴い、工期は確実に延びます。

そして学校は、児童生徒が使う施設です。安全側に倒す判断が当然求められます。

外壁塗装からも検出されるという点も重要です。吹付け材だけを想定していると見落とします。

豊島区の計画

豊島区は、学校改築に加え、長寿命化改修なども加えた学校施設の老朽化対策を推進するため、令和4年2月に「豊島区学校施設等長寿命化計画」を策定しました。

あわせて「豊島区立小・中学校改築計画」が運用されており、改築の年次が示されています。

区の教育ビジョンでは、重点事業として幼児教育の充実と幼・保・小・中一貫教育プログラムが掲げられています。施設整備も、この方針と整合する形で進められます。

改修を検討する際は、改築計画と長寿命化計画の両方で自校の位置づけを確認してください。改築対象なのか、長寿命化改修対象なのかで、検討すべき内容がまったく変わります。

豊島区の学校改修で押さえる論点

検討項目課題・発生するリスク解決の方向
アスベストの事前調査吹付け材だけを想定して調査範囲を絞ると、外壁塗装や成形板から検出され、着工後に工期が延びる調査範囲を建材全般に広げる。特に1980年代以前の建物では塗材・成形板まで含めて分析する
計画全体への波及1校の工期延長が仮校舎の空き待ちを通じて後続校に順送りで影響する事前調査を前倒しし、工期リスクを設計段階で織り込む。予備日を工程に確保する
改築か長寿命化か区は改築計画と長寿命化計画の両方を持つ。自校がどちらの対象か把握せずに検討を始めると前提を誤る両計画で自校の位置づけを確認したうえで検討に入る
都心部の狭小敷地池袋周辺をはじめ敷地に余裕がなく、仮校舎の設置場所が確保しにくい仮校舎の候補地と設置可否を、改築判断の前に確認する
近隣対応商業地・住宅密集地が混在し、騒音・振動の苦情が出やすい事前挨拶、作業時間の限定、防音パネルの採用。近隣調整の体制を契約前に確認する
電力容量空調増設とICT機器の同時導入で受変電設備の容量が不足。キュービクル更新が設計終盤で判明する現況調査で電気容量を確認。増設分を見込んだ計画にする

事前調査は「安く済ませる場所」ではない

豊島区の事例が示すのは、調査費用をケチると工事費と工期で跳ね返るということです。

アスベストの分析費用は、工事全体から見れば小さな金額です。しかし見落とせば、工期延長・処理費用の追加・後続校への波及という形で、桁違いのコストになります。

特に注意すべきは、調査範囲の設定です。「吹付け材だけ」「解体部分だけ」と範囲を絞れば調査費は下がりますが、範囲外から検出されれば同じことが起こります。

1980年代以前の建物では、塗材・成形板・保温材まで含めた調査を前提にしてください。

「単独でやるな、束ねろ」

足場・仮設・養生は共通費です。外壁改修で足場を組むなら、同じタイミングで屋上防水とサッシ交換もやる。天井を触る工事(照明のLED化、空調ダクト、Wi-Fi配線、非構造部材の耐震対策)は全部同じ場所を触ります。

豊島区のような都心部では、これに加えてアスベスト対策の養生も共通費になります。

同じ部位を何度も触れば、そのたびに調査・養生・届出が必要です。アスベストが想定される建物ほど、工事を束ねる価値が大きいと考えてください。

改修の進め方

1. 区の計画で自校の位置づけを確認する 豊島区学校施設等長寿命化計画(令和4年2月)と豊島区立小・中学校改築計画の両方を確認します。

2. アスベスト事前調査を早期に、広く実施する 設計に入る前です。範囲は建材全般。1980年代以前の建物では特に。

3. 工期リスクを工程に織り込む 調査結果が出る前に着工日を確定させないこと。

4. 工事を束ねる 養生・調査・届出の重複を避けます。

調査の種類と費用は現況調査の費用(K901)で解説しています。全体の流れは改修の進め方(K296)、大規模修繕については学校の大規模修繕(K003)、東京都全体の構造は東京都の学校改修(K388)、改修単価の考え方は目黒区の学校改修(K859)をご覧ください。

よくある質問

Q. アスベストは古い建物にしかありませんか。
A. 一般に1980年代以前の建物でリスクが高いとされますが、建材の種類によって使用時期が異なります。豊島区の事例では外壁塗装から検出されています。吹付け材だけを想定するのは危険です。

Q. 微量でも処理が必要ですか。
A. 規定値を超えていれば、法令に基づく適切な処理が必要です。豊島区の事例も「微量ながら規定値以上」という判定でした。

Q. 調査はいつ実施すべきですか。
A. 設計に入る前です。結果によって工法・工期・費用が変わるため、着工日を確定させる前に済ませてください。

Q. 自校は改築と長寿命化改修のどちらですか。
A. 豊島区学校施設等長寿命化計画と豊島区立小・中学校改築計画の両方をご確認ください。区の教育委員会が窓口です。

Q. 工期が延びた場合、他校に影響しますか。
A. 仮校舎や受け入れ先の空きを共有している場合、後続校の着工がずれることがあります。豊島区では実際に、1校の延長により他の2校の改築開始が2〜3年延期されました。

まとめ

  • 豊島区では、池袋中学校の外壁塗装から規定値以上のアスベストが判明し、工期が延長
  • その結果、池袋第一小学校の改築が2年、千川中学校の改築が3年延期された
  • 改築計画は数珠つなぎ。1校の遅れが仮校舎の空き待ちを通じて後続校に波及する
  • アスベストは微量でも規定値を超えれば処理が必要。外壁塗装からも検出される
  • 事前調査は安く済ませる場所ではない。範囲を絞ると、範囲外から出て同じことが起こる
  • 区は令和4年2月に学校施設等長寿命化計画を策定。改築計画とあわせて自校の位置づけを確認する

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参考・出典

※記載の制度や計画は公表時点のものです。アスベストに関する法令上の取扱いは改正されることがあります。最新情報は豊島区および所管官庁の公表資料をご確認ください。

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