この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

現況調査・建物診断から始める理由|学校改修の判断を支えるデータ

「うちの校舎はもう古いから建て替えかな」——この判断が正しいかどうかは、コンクリートの強度を測れば分かります。

文部科学省が公表している自治体の実例では、築54年の校舎が長寿命化改修で再生され、築42年の校舎も同じ判断になっています。逆に、調査をせずに改築を選べば、6割で済んだ費用を10割払うことになります。

この記事では、何を調べ、どの数値でどう判断するのかを、実例をもとに整理します。

調査は「やったほうがいい」ではなく「採択要件」

まず制度上の位置づけです。国庫補助の長寿命化改良事業には、次の採択要件があります。

長寿命化事業予防改修事業
築年建築後40年以上建築後20年以上40年未満、または長寿命化改良後20年以上
使用予定今後30年以上使用を予定個別施設ごとの長寿命化計画に基づくもの
調査構造体の劣化状況の把握が必須(中性化対策・鉄筋腐食対策・かぶり厚さの確保などの工事を必要とするもの)構造体の劣化状況の把握は不要
※築40年以上の場合は劣化していないことの証明が必要

調査をしていなければ、そもそも申請できません。文科省は、長寿命化事業を「築50〜60年程度で改築することなく、築80〜100年まで長寿命化させるために実施するもの」と位置づけ、だからこそ劣化状況等の調査を採択の要件としている、と説明しています。

補助要件の詳細は長寿命化改良事業(補助)の対象と進め方(K169)をご覧ください。

何を調べるのか──4つの項目と、その意味

RC造の校舎で調べるのは、主に次の4項目です。それぞれ「何が分かるか」が明確に決まっています。

調査項目方法判定すること
コンクリート
中性化深さ
はつり面に指示薬を噴霧し、着色しない部分の深さを測定鉄筋かぶり厚さを超えて中性化しているか
鉄筋
かぶり厚さ
コンクリート躯体表面から配筋までの距離を測定設計寸法未満か
鉄筋
腐食度合い
はつって鉄筋の状態を目視確認錆無し/大部分が錆あり/層状錆(リブが剥離)の別
コンクリート
圧縮強度・不同沈下量
コアを採取して圧縮強度試験/建物の傾きを測定強度が不足していないか、不同沈下していないか

この4項目は連動しています。中性化が鉄筋の位置まで達すると鉄筋が錆び、錆びた鉄筋は膨張してコンクリートを内側から押し割ります。だから「中性化深さ」と「かぶり厚さ」は必ずセットで測ります。

判定の分岐点

そして最も重要な数値がこれです。

圧縮強度不足や不同沈下ありなら、改築も検討——というのが文科省が示す判定の流れです。

実務上の目安として、コンクリート圧縮強度13.5N/mm²が分岐点になります。旧耐震基準のRC造・SRC造で、圧縮強度が13.5N/mm²以下のもの、および強度が不明のものは「要調査」建物とされ、試算上は改築として扱われます。

この1つの数値が、6割で済むか10割かかるかを分けます。

全国の自治体は、いくらで何を調べたか

文部科学省が23の自治体に行ったアンケートの結果です。調査費用は5,000㎡の校舎1棟あたりの金額です。

実施した調査実施割合調査費用メリット
① 耐力度調査のすべて22%(5校)300〜600万円耐力度点数を把握できる
② 耐力度調査の一部(主に健全度)48%(11校)100〜400万円最低限の項目に絞るため費用を抑制できる
③ 自治体の独自調査30%(7校)70〜400万円各自治体の調査ノウハウで費用を抑制できる

最も多いのは「耐力度調査の一部に絞る」方法で、全体の48%。フルセットで600万円かかるところを、健全度の項目に絞れば100〜400万円に収まります。

実際の判断事例

公表されている個別事例から、数値と判断の関係を抜き出します。

学校築年/面積調査費測定結果判断
東京都
板橋区立舟渡小
築51年
6,804㎡
885,600円中性化0.2cm/かぶり厚3.0cm/強度24.0N/mm²著しい劣化なし→長寿命化改修
愛知県
刈谷市立富士松東小
築42年
5,277㎡
2,100,000円中性化2.2cm/かぶり厚8.2cm/強度28.2N/mm²すぐの対応は不要だが、今後40年使用を鑑み長寿命化改修
愛知県
名古屋市立清水小
築54年
5,026㎡
795,000円中性化2.6〜10.0cm/かぶり厚2.4〜3.1cm/強度15.7〜20.2N/mm²4棟中1棟が40年程度以上、3棟が20年程度以上の耐久性→長寿命化事業
大阪府
泉大津市立条南小
築44年
4,969㎡
2,420,000円中性化3.4cm/かぶり厚3.7cm/強度21.8N/mm²かぶり厚が最小しかなく中性化が進行→長寿命化事業が必要

注目すべきは名古屋市の事例です。中性化が最大10.0cmに達し、かぶり厚さは2.4〜3.1cm。中性化がかぶり厚さを大きく超えています。それでも4棟すべてで20年程度以上の耐久性ありと判定され、長寿命化事業が選択されました。

「中性化しているから建て替え」ではありません。数値の組み合わせで判断されます。

調査費を抑える3つの方法

事例から読み取れる、実際に自治体が使っている手法です。

1. 耐震診断のデータを使う

板橋区の事例では、調査結果と耐震診断時(平成15年実施)の結果を比較して経年による変動を確認し、耐震診断時の調査結果が使用可能と判断。今後の長寿命化事業実施校の選定は、耐震診断時の調査結果をもって行うこととした——とされています。

岡崎市の事例でも、コンクリート圧縮強度は耐震診断時の試験結果を採用しています。

中性化等の劣化は数年で急速に進行するものではないため、過去の診断データが活きます。まず書庫を探してください。Is値と耐震診断の考え方は耐震診断の流れと判定(Is値)の読み方(K212)をご覧ください。

2. 複数校を一括で発注する

京都市の事例では、各調査について複数校を同一業者にて一括発注することで契約額を抑えるよう努めたとされています。岡崎市も一度に複数の施設を調査委託することで事務負担の軽減を図ったと回答しています。

3. 調査範囲を絞る

刈谷市は渡り廊下など主たる建物に付随する建物の調査を除いた、板橋区は内部の建築技術者と相談し必要最低限な調査内容としたとしています。

ただし絞りすぎると判定に必要なデータが揃わなくなります。「何を判定するために何を測るか」が分かっていないと、絞る判断はできません。

調査で起きる実務上の問題

実例から挙がっている課題です。

泉大津市の課題点(そのまま引用の趣旨):コンクリート強度・かぶり厚さ・中性化深さの測定は、コア抜きおよび斫り作業による破壊検査が一般的で正確な数値が得られる。しかし斫り等の作業音を伴うため、平日は学校運営に支障が生じる恐れがあり、実施日が休日および祝日になる。結果として調査会社および担当者の負担が増える。

調査は「破壊検査」です。音が出ます。だから授業中にはできず、休日か長期休暇に寄せることになります。この段取りだけで、調査開始から報告書までに数か月かかります。

実際、公表事例の調査期間は3か月程度から、長いもので2年以上(設計まで含む)まで幅があります。

実務の勘所

検討項目課題・発生するリスク解決の方向
調査せずに改築を選ぶ「築50年だから建て替え」と判断。実際は強度が十分で長寿命化改修が可能だった。改築の約6割で済んだ費用を10割払うことになる圧縮強度・中性化深さ・かぶり厚さ・鉄筋腐食を測る。調査費は5,000㎡で100〜400万円程度(項目を絞った場合)
調査年度を外す劣化調査を実施設計と同年度に発注し、補助対象の年度要件を活かせない構造体の劣化状況等の調査費は前々年度支出分まで、実施設計費は前年度支出分までが対象。3年計画で逆算する
過去データを探さない耐震診断時の圧縮強度・中性化データが書庫に眠ったまま、ゼロから再調査。費用と時間が余計にかかる耐震診断報告書・耐力度調査報告書を先に探す。板橋区・岡崎市は実際に耐震診断データを活用している
1校ずつ発注する校数分の契約手続きと単価が発生し、費用と事務負担が膨らむ複数校を同一業者に一括発注する(京都市・岡崎市の事例)
授業への影響を織り込まないコア抜き・斫りの作業音で授業に支障。実施日が休日・祝日に限られ、工程が延びる休日・長期休暇に調査日を確保する。学校側と早期に日程を調整する
構造体だけ見る躯体は健全でも、配管・電気設備・検査済証の有無で計画が止まる。設計段階で判明して手戻りになる構造体・劣化状況・設備・法規(検査済証、既存不適格)を同時に調べる

調査は費用ではなく、判断の材料

調査費100〜400万円は、単体で見れば小さくない金額です。しかしこの調査が決めるのは、数億円規模の判断です。

改築か長寿命化改修か。長寿命化改修は改築の約6割で実施できます。5,000㎡の校舎なら、その差は億単位になります。その分岐を決めるのが、コンクリート強度13.5N/mm²という1つの数値です。

そして調査は、補助金の入口でもあります。長寿命化事業では構造体の劣化状況の把握が必須要件であり、調査をしていなければ申請できません。調査費自体も前々年度支出分まで補助対象です。

さらに、調査で分かるのは構造体だけではありません。検査済証があるか。既存不適格はどこか。配管はいつ更新したか。耐震診断のIs値はいくつか。これらが揃って初めて、工事範囲を設計できます。逆に言えば、調査が不十分なまま設計に入ると、着工後に想定外が出て設計変更になります。

調査の設計——何を判定するために、どの項目を、どこまで測るか——は、それ自体が専門的な判断です。項目を絞りすぎれば判定できず、フルセットで発注すれば費用が倍以上になります。この見極めができるかどうかで、調査費も、その後の工事費も変わります。

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光建舎は教育施設の設計・改修を専門とし、現況調査から設計・施工管理までを一貫して対応します。過去の耐震診断データの活用、調査項目の絞り込み、複数校の一括調査、調査結果を踏まえた改修範囲の設計までご提案します。全国対応・現地調査とオンライン協議の併用で、「建て替えか改修か」を決める段階からご相談いただけます。

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参考・出典

※記載の制度や法令は公表時点のものです。最新情報は各所管の公表資料をご確認ください。

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