人工芝は「雨のあとすぐ使える」「土埃が立たない」という点で、学校グラウンドの課題を直接解決します。導入を検討する学校は増えています。
ただし、判断すべきは初期費用ではありません。人工芝にはメーカー推奨の使用期間があり、10年程度で張替えが必要になります。つまり導入とは、10年ごとに数千万円〜億単位の支出を確定させる判断です。
この記事では、実際の自治体の試算をもとに、判断材料を整理します。
目次
ライフサイクルコストは土舗装の約7.6倍
川崎市が市立高校のグラウンド人工芝化を検討した際の試算資料が公表されています。同一条件で舗装仕様を比較した、貴重な実データです。
| 仕様 | イニシャルコスト | ランニング(年間) | LCC(30年) | LCC年平均 |
|---|---|---|---|---|
| 石灰岩ダスト舗装 | 4,400万円 | 21万円 | 5,030万円 | 168万円 |
| 岩瀬砂・荒木田混合舗装 | 5,600万円 | 26万円 | 6,380万円 | 213万円 |
| 緑色スクリーニングス舗装 | 6,000万円 | 26万円 | 6,780万円 | 226万円 |
| ロングパイル人工芝舗装 | 1億3,500万円 | 8万円 (ゴムチップ補充) | 3億8,340万円 | 1,278万円 |
※川崎市立橘高等学校(人工芝は7,200㎡)の概算。イニシャルコストは石灰岩ダストから各仕様に変更した場合の概算額。LCCは30年で設定。
ランニングコストだけを見ると、人工芝は年8万円で最安です。ダスト補充が不要なぶん、日常管理は軽い。
しかし張替えが効きます。人工芝の張替え費用は約1億2,300万円/10年(メーカー推奨の使用期間10年を参考)。30年間で2回発生します。
計算すると、1億3,500万円 + 8万円×30年 + 1億2,300万円×2回 = 3億8,340万円。石灰岩ダスト舗装の5,030万円と比べて約7.6倍です。
ここが人工芝の判断で最も重要な点です。「メンテナンスが楽」は事実ですが、それは日常管理の話であって、ライフサイクル全体では最も高い選択肢になります。
※川崎市の資料では、市立全168校を人工芝化した場合の概算を約193億円(1校あたり約1億1,500万円・面積6,000㎡として積算)としています。
向く競技と、向かない競技
もう一つ、導入前に確認すべき論点です。川崎市の資料は、競技適性を明確に整理しています。
| 競技 | 理由 | |
|---|---|---|
| 適している | サッカー、ラグビー 等 | 適度に滑り、クッション性があり激しい運動に向いている |
| 適していない | 陸上競技全般(投擲競技含む)、バスケットボール 等 | 滑ることや、砲丸や円盤で人工芝を傷めるため陸上競技には向いていない。反発性が乏しいためバスケットボール等にも向かない |
学校のグラウンドは多目的です。サッカー部のために人工芝化すれば、陸上部と、体育の授業の一部が影響を受けます。特定の競技に最適化することが、全校利用の観点でどうかを検討する必要があります。
夏場の表面温度
人工芝の課題として広く指摘されているのが、夏季の表面温度です。
川崎市の資料も「一般的に人工芝は、種類によりクッション性確保のためゴムチップを使用していること、また土に比べ熱の吸収が低いことから、暑くなりやすい」と明記しています。同市では使用前のスプリンクラーによる散水で対応している学校があるとされています。
近年は日射反射機能付きパイルなど温度抑制機能を持つ製品も開発されており、環境省の環境技術実証(ETV)事業の実証対象になった製品もあります。ただし散水設備の要否は、設計段階で判断すべき項目です。
その他、川崎市が挙げる人工芝の短所は次のとおりです。
- 降雨後は滑りやすい
- 夏場はゴムチップの影響で高温になりやすい
- 陸上競技、バスケットボール等には適さない
- 利用頻度の高い場所が傷みやすい
- 雨水の貯留後はゴムチップが偏ることがある
長所としては、排水能力が大きく降雨後の使用開始が早い/弾力性と適度な滑りがあり足への負担が少ない/使用後の整地が不要が挙げられています。
マイクロプラスチック対策という新しい論点
近年、無視できなくなっているのが環境面の課題です。
大阪府は「大阪府内の人工芝施設におけるマイクロプラスチック流出抑制に関するガイドライン」(2023年3月)を公表し、人工芝をこれから導入する、または既に導入している施設の関係者(所有者・管理者・工事発注者等)に流出対策の実施を求めています。
流出するものは2種類あります。
- 人工芝片——人工芝が経年使用により破断・損耗し、微細なプラスチック片となったもの
- 充填材——パイル(人工芝の葉)を安定させ、弾性やすべり抵抗性を高めるためにパイルの間隙に埋められるもの。合成ゴムなどの樹脂製チップ、硅砂、コルクなどが使われる
対策としては、マイクロプラスチック捕捉集水桝の設置、充填材の飛散を抑える形状のパイル採用、施工中の切れ端の飛散防止などがあります。
ガイドラインが「工事発注者」を名指ししている点が重要です。発注する側にも対策を求める枠組みになっており、設計段階で排水系統への対策を織り込む必要があります。自治体によっては、公園・スポーツ施設の設計指針に流出対策を組み込む動きもあります。
耐用年数と会計上の扱い
人工芝は、表層と基礎で耐用年数が分かれます。国税庁の質疑応答事例では、次のように整理されています。
- ターフおよびアンダーパット部分——「構築物」の「合成樹脂造のもの」として耐用年数10年
- 基礎部分(細密アスファルトコンクリートおよび砕石層部分)——「競技場用、運動場用、遊園地用又は学校用のもの」の「その他の土工施設」として耐用年数30年
つまり「10年で全部やり直し」ではありません。基礎は30年もつ前提なので、張替え時は表層のみが対象になります。川崎市の試算でも、初期1億3,500万円に対して張替えは1億2,300万円と、基礎工事分だけ安くなっています。
実務の勘所
| 検討項目 | 課題・発生するリスク | 解決の方向 |
|---|---|---|
| 初期費用で判断 | 10年ごとの張替えが必要。30年のLCCでは土舗装の約7.6倍になる。導入時に将来の張替え予算が確保されていないと、更新できず劣化したまま使うことになる | 30年のライフサイクルコストで比較する。張替え時期を中長期修繕計画に明記する |
| 競技適性の確認漏れ | 陸上競技(投擲含む)やバスケットボールには適さない。特定部活のために全校の利用が制約される | 全校の利用実態を確認する。部分導入や、用途別のゾーニングを検討する |
| 夏季の温度対策 | 土に比べ熱の吸収が低く暑くなりやすい。散水設備がないと夏季の利用が制限される | 温度抑制機能付きパイルの採用や、散水設備の設置を設計段階で検討する |
| マイクロプラスチック対策 | 人工芝片・充填材が排水を通じて流出する。自治体のガイドラインは工事発注者にも対策を求めている | 捕捉集水桝等の対策を排水計画に織り込む。所在自治体のガイドラインを確認する |
| 排水・路盤の未整備 | 下地の排水が不十分なまま人工芝を敷くと、雨水の貯留で充填材が偏り、部分的に沈下する | 路盤と暗渠排水の状態を先に調査する。下地舗装から設計する |
| 撤去・処分の想定不足 | 張替え時には既存の人工芝の撤去と処分が発生する。産業廃棄物としての処理費用が見積りに入っていない | 張替え時の撤去・処分費を含めた見積りを取る(K300参照) |
人工芝の判断は「30年の予算」の判断である
人工芝の導入検討で起きやすいのは、効果と費用の時間軸がずれることです。
効果——雨のあとすぐ使える、土埃が立たない、整地が不要——は導入直後から実感できます。一方、費用の大部分は10年後と20年後の張替えで発生します。導入を決める人と、張替え費用を確保する人が同じとは限りません。
だから、導入判断とセットで決めるべきは張替えの財源です。10年後に1億円規模の予算が確保できなければ、劣化した人工芝を使い続けることになります。そしてその状態は、土のグラウンドより危険です。
この判断は、中長期修繕計画の中でしかできません。校舎の長寿命化改修、屋上防水、空調更新——これらと同じ表の上に、人工芝の張替えを載せる。そこで初めて、30年間の総額として比較できます。(施設整備の中長期修繕計画の作り方/K242)
そして工事としては、人工芝は路盤と排水の上に成立します。下地が悪ければ、どんな製品を敷いても数年で偏りと沈下が出ます。表層の選定より前に、排水系統の調査が必要です。(学校施設のグラウンド整備/K020)
人工芝が適切な選択になるのは、利用頻度が高く、競技が限定され、30年分の更新財源が計画に入っている場合です。この3つが揃わないなら、土舗装の改良や部分導入を含めて比較する価値があります。
株式会社光建舎にご相談ください
光建舎は教育施設の設計・改修を専門とし、現況調査から設計・施工管理までを一貫して対応します。舗装仕様のライフサイクルコスト比較、路盤・排水の調査、利用実態を踏まえたゾーニング、張替えを見据えた中長期計画への位置づけまでご提案します。全国対応・現地調査とオンライン協議の併用で、構想段階からのご相談を承ります。
関連記事
- 学校施設のグラウンド整備(K020)
- 施設整備の中長期修繕計画の作り方(K242)
- 学校の長寿命化計画(個別施設計画)の立て方(K239)
- 学校施設環境改善交付金の使い方(K168)
- 見積書の見方(内訳・諸経費)(K300)
- 学校改修の進め方ガイド(K296)
参考・出典
- 川崎市教育委員会事務局教育環境整備推進室「川崎市立橘高等学校屋外グラウンドの人工芝化に関する陳情資料(グラウンド仕様別の特徴及び費用等について)」
https://www.city.kawasaki.jp/980/cmsfiles/contents/0000107/107110/02.01.30-1-2-2.pdf - 大阪府「大阪府内の人工芝施設におけるマイクロプラスチック流出抑制に関するガイドライン Ver.1.0」(2023年3月)
https://www.pref.osaka.lg.jp/documents/806/jinkoshiba_gl_10_1.pdf - 国税庁「人工芝の耐用年数」(質疑応答事例)
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/05/06.htm - 減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第1/耐用年数の適用等に関する取扱通達2-3-6
- 文部科学省「学校施設環境改善交付金交付要綱」(屋外教育環境施設の整備/最終改正 令和7年4月1日)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/unyou/20250410-ope_dev02-1.pdf
※記載の制度や法令は公表時点のものです。最新情報は各所管の公表資料をご確認ください。
学校施設のご相談
その工事、補助金が使えるか無料でチェックします
トイレ・空調・体育館・玄関・耐震など、検討中の工事に使える国や都道府県の補助制度を、公表資料をもとに確認して3営業日以内にご回答します。「補助金が使えないか調べるよう言われた」という段階のご相談で構いません。
補助金の無料チェックを依頼する株式会社光建舎は、設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応しています。図面や仕様が固まっていない計画段階からのご相談も承っています。概算だけ先に欲しい、という段階でも構いません。
受付時間 平日 9:00〜18:00