3つ目の選択を加えてから比べます。
改修と新設の2択で考えると、どちらかを選ぶことになります。しかし学校のプールには「持たない」という選択もあります。近隣の公営プールや民間施設を使い、自校のプールを廃止する形です。
プールは使用期間が夏季に限られる一方、水質管理、設備の運転、点検は毎年必要です。学校環境衛生基準では、使用日の積算が30日以内ごとに1回の定期検査が求められます。
したがって比較は、工事費だけでなく年間の維持費を含めて行う必要があります。
この記事では、①3つの選択、②水質管理の要求、③改修の内容、④新設の判断、⑤比較の方法、の5点を整理します。
目次
この記事の要点
- 選択は改修、新設、廃止(外部施設の利用)の3つ
- 学校環境衛生基準では、遊離残留塩素は0.4mg/L以上であること、1.0mg/L以下であることが望ましいとされている
- 同基準ではpH値5.8以上8.6以下、濁度2度以下、循環ろ過装置の出口における濁度0.5度以下とされている
- 同基準では、大腸菌は検出されないこと、一般細菌は1mL中200コロニー以下であることとされている
- 検査は使用日の積算が30日以内ごとに1回行う
3つの選択とは何か?
改修、新設、廃止です。
| 選択 | 内容 |
|---|---|
| 改修 | 既存のプールを直して使い続ける |
| 新設 | 既存を解体し、新しく建設する |
| 廃止 | 解体し、外部の施設を利用する |
廃止という選択が増えている
プールの維持費と、水泳の授業を外部施設で行う方法を比べて、自校のプールを持たない判断をする自治体があります。
| 廃止の場合に必要なこと | 内容 |
|---|---|
| 外部施設の確保 | 近隣の公営プール、民間施設 |
| 移動の手段 | バスの手配と費用 |
| 移動の時間 | 授業時間への影響 |
| 利用の調整 | 複数校の日程の調整 |
| 跡地の活用 | 解体後の土地の使い方 |
移動の時間と費用が、維持費の削減分を上回ることがあります。地域の条件で結論が変わります。
跡地の活用を含めて考える
プールを解体すれば、その面積が空きます。駐車場、運動場の拡張、校舎の増築用地、防災備蓄の倉庫。
跡地の価値を含めて比較してください。駐車場が不足している学校、運動場が狭い学校では、この価値が大きくなります。
統合の計画と重ねる
今後統合する予定の学校であれば、プールを改修する意味は小さくなります。統合先のプールを使う形になります。
改修と建替えの判断は改修と建替えの判断基準は何か?で扱っています。プールも同じ軸で判断できます。
プールの改修全般
プールの改修の内容は学校のプール改修はどう進めるのか?で扱っています。
水質管理には何が求められるのか?
学校環境衛生基準に数値が定められています。
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| 遊離残留塩素 | 0.4mg/L以上であること。1.0mg/L以下であることが望ましい |
| pH値 | 5.8以上8.6以下であること |
| 濁度 | 2度以下であること |
| 循環ろ過装置の処理水 | 出口における濁度は0.5度以下であること。0.1度以下であることが望ましい |
| 過マンガン酸カリウム消費量 | 12mg/L以下であること |
| 大腸菌 | 検出されないこと |
| 一般細菌 | 1mL中200コロニー以下であること |
| 総トリハロメタン | 0.2mg/L以下であることが望ましい |
これらは使用日の積算が30日以内ごとに1回の定期検査で確認されます。
循環ろ過装置が要になる
濁度と細菌の基準を満たすには、循環ろ過装置が機能している必要があります。出口における濁度は0.5度以下であることとされています。
ろ材の劣化、ポンプの能力低下、配管の詰まり。これらがあると基準を満たせません。改修では、この設備の状態が中心的な確認項目になります。
塩素の注入と管理
遊離残留塩素を0.4mg/L以上に保つには、塩素の注入が必要です。自動注入の装置があるか、手動で行うかで日々の負担が変わります。
装置が故障していると、管理が人手に頼ることになります。
日々の管理の負担
使用期間中は、毎日の水質の測定、塩素の注入、清掃、水位の管理が必要です。これを誰が行うかが運営の課題になります。
教職員が担っている場合、負担が大きくなります。
検査の記録
定期検査の結果を記録し、保管してください。基準を満たしていない場合、使用を止める判断が必要になります。
改修の内容はどうなるのか?
水を止めることと設備です。
| 項目 | 確認すること |
|---|---|
| 漏水 | プール槽からの水の漏れ |
| 防水層 | 塗膜の劣化、ひび割れ |
| 槽の構造 | コンクリートのひび割れ、鉄筋の腐食 |
| 循環ろ過装置 | ろ材、ポンプ、配管 |
| 給排水 | 給水の容量、排水の経路 |
| 配管 | 埋設部分の漏水 |
| 更衣室・シャワー | 給湯、排水、床 |
| 排水の処理 | 排水の水質と放流先 |
漏水が最大の問題
プールの漏水は、水道料金として毎年の負担になります。また槽の下の地盤を洗い、沈下の原因にもなります。
漏水の有無は、水位の変化を測ることで分かります。使用期間の前に確認してください。
埋設配管の漏水は特定が難しい
プールの配管は地中に埋設されていることが多く、漏水の位置の特定が難しくなります。掘削して確認する調査が必要になることがあります。
この調査と補修の費用が、改修の中で読みにくい項目です。
槽の防水
プール槽の内側の防水層は、塩素と紫外線で劣化します。塗り替えの周期があり、劣化すれば水が漏れます。
既存の防水層の仕様と施工の年を確認してください。
更衣室とシャワー
更衣室の床、シャワーの給湯、排水。これらも改修の対象になります。プール槽だけを直しても、更衣室が使えなければ運用できません。
排水の処理
プールの水を排水する際、水質が放流先の基準に関わることがあります。塩素を含む水をそのまま放流できない場合、中和の処理が必要になります。
放流先の条件を確認してください。
新設の判断はどうするのか?
改修の費用が新設に近づくかで決まります。
| 状況 | 判断 |
|---|---|
| 漏水の位置が特定でき、部分補修で足りる | 改修 |
| 槽の構造体に広範囲のひび割れがある | 新設を検討 |
| 埋設配管の全面やり直しが必要 | 新設を検討 |
| 循環ろ過装置の全面更新が必要 | 費用を比較 |
| 更衣室も含めて全面やり直しが必要 | 新設を検討 |
| 今後20年以上使う予定 | 新設も選択肢 |
| 今後10年以内に統合 | 改修も新設も見送り |
必要な工事を全部足す
プール槽の防水、構造体の補修、埋設配管、循環ろ過装置、更衣室、シャワー。これらを全部足してから新設と比べてください。
槽の防水だけを比較の対象にすると、改修が有利に見えます。
屋内プールという選択
屋内のプールにすれば、使用期間が延び、天候の影響を受けなくなります。一方、建物の建設費と年間の光熱費が加わります。
使用期間が延びることによる効果と、費用の増加を比べてください。
規模を見直す
児童生徒数が減っている場合、既存と同じ規模が必要とは限りません。小さくすれば建設費と維持費が下がります。
必要な規模を在籍者数から算出してください。
近隣校との共用
複数の学校で1つのプールを共用する形があります。1校に集約して整備し、他校から通う構成です。
移動の手段と時間、日程の調整が課題になります。
比較はどう行うのか?
年間の維持費を含めます。
| 比較の項目 | 改修 | 新設 | 廃止 |
|---|---|---|---|
| 初期の費用 | 工事費 | 建設費+解体費 | 解体費 |
| 使える年数 | 改修後の年数 | 長い | ー |
| 水道料金 | 漏水の有無による | 下がる | かからない |
| 電気料金 | 設備の効率による | 下がる | かからない |
| 薬剤費 | かかる | かかる | かからない |
| 点検・検査 | かかる | かかる | かからない |
| 管理の人手 | かかる | かかる | かからない |
| 外部施設の利用料 | ー | ー | かかる |
| バスの費用 | ー | ー | かかる |
| 跡地の価値 | ー | ー | 得られる |
年間の維持費を把握する
水道料金、電気料金、薬剤費、点検と検査の費用、修繕費。これらの実績を集めてください。
庁内に過去の支出の記録があります。これがないと比較ができません。
使用日数で割る
プールは年間で使用する日数が限られます。維持費を使用日数で割ると、1日あたりの費用が出ます。
この数字が、外部施設の利用料と比較する材料になります。
跡地の価値を含める
廃止する場合、跡地が使えるようになります。この価値を比較に含めてください。
駐車場が不足している学校、運動場が狭い学校では、跡地の価値が大きくなります。
長期修繕計画に組み込む
プールも建物の一部として、長期修繕計画に位置づけてください。考え方は長期修繕計画はどう作るのか?で扱っています。
修繕の周期の考え方は学校の大規模修繕の周期は何年なのか?で扱っています。
説明が必要になる
プールの廃止は、保護者と地域から反対の声が出ることがあります。水泳の授業がなくなるわけではないことを、具体的に示してください。
| 示すこと | 内容 |
|---|---|
| 授業の実施方法 | どこで、何回行うか |
| 移動の方法 | バスか、徒歩か |
| 安全の確保 | 移動中と施設での体制 |
| 維持費の実績 | 年間いくらかかっていたか |
| 改修した場合の費用 | 見積りの額 |
| 跡地の使い方 | 何に使うか |
維持費の実績と改修した場合の費用を数字で示せば、議論の前提が揃います。数字のない説明では進みません。
よくある質問
Q. 廃止には説明が必要ですか。
A. 必要です。授業の実施方法、移動の方法、安全の確保、維持費の実績、改修した場合の費用、跡地の使い方。これらを数字で示してください。
Q. プールの改修と新設はどちらが得ですか。
A. 改修に必要な工事を全部足してから新設と比べてください。槽の防水、構造体の補修、埋設配管、循環ろ過装置、更衣室。これらを足すと新設に近づくことがあります。
Q. プールを持たない選択はありますか。
A. あります。近隣の公営プールや民間施設を使い、自校のプールを廃止する形です。ただし移動の時間と費用が、維持費の削減分を上回ることがあります。
Q. 水質の基準はありますか。
A. 学校環境衛生基準で定められています。遊離残留塩素0.4mg/L以上、pH値5.8以上8.6以下、濁度2度以下、大腸菌は検出されないこと、一般細菌は1mL中200コロニー以下などです。
Q. 検査はどのくらいの頻度ですか。
A. 使用日の積算が30日以内ごとに1回の定期検査が求められます。
Q. 改修で読みにくい費用は何ですか。
A. 埋設配管の漏水です。配管が地中にあるため漏水の位置の特定が難しく、掘削して確認する調査が必要になることがあります。
Q. 比較で見落としやすい点は何ですか。
A. 年間の維持費と跡地の価値です。水道料金、電気料金、薬剤費、点検と検査の費用、管理の人手。そして廃止すれば跡地が使えるようになります。
まとめ
プールの改修と新設を比べる前に、「持たない」という3つ目の選択を加えてください。近隣の公営プールや民間施設を使い、自校のプールを廃止する形です。ただし移動の時間と費用が、維持費の削減分を上回ることがあります。
水質管理の要求は、学校環境衛生基準に数値で定められています。遊離残留塩素は0.4mg/L以上であること、1.0mg/L以下であることが望ましい。pH値5.8以上8.6以下、濁度2度以下、循環ろ過装置の出口における濁度0.5度以下。大腸菌は検出されないこと、一般細菌は1mL中200コロニー以下。これらを使用日の積算30日以内ごとに1回の定期検査で確認します。
改修では、漏水を止めることと循環ろ過装置が中心になります。漏水は水道料金として毎年の負担になり、槽の下の地盤を洗って沈下の原因にもなります。埋設配管の漏水は位置の特定が難しく、改修の費用の中で最も読みにくい項目です。
新設の判断は、改修に必要な工事を全部足してから行ってください。槽の防水、構造体の補修、埋設配管、循環ろ過装置、更衣室、シャワー。槽の防水だけを比較の対象にすると改修が有利に見えます。
比較には年間の維持費を含めてください。水道料金、電気料金、薬剤費、点検と検査の費用、管理の人手。そして維持費を使用日数で割れば、外部施設の利用料と比較できます。あわせて廃止した場合の跡地の価値も含めてください。
参考・出典
- 文部科学省「学校環境衛生管理マニュアル」 https://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/hoken/1292482.htm
- 茨城県教育委員会「学校環境衛生基準」 https://kyoiku.pref.ibaraki.jp/wp-content/uploads/2026/04/kijun-list.pdf
- e-Gov法令検索「学校保健安全法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/333AC0000000056
- 文部科学省「学校施設整備指針」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/shuppan/index.htm
- 文部科学省「学校における水泳事故防止」 https://www.mext.go.jp/a_menu/sports/jyujitsu/index.htm
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