目次
交付金1/3と緊防債100%の組み合わせ方
学校施設は、児童生徒の学びの場であると同時に、災害時には地域の避難所になります。ところが避難所としての機能を整えようとすると、財源の担当が文部科学省と総務省に分かれ、どちらの制度で拾うのが有利かの判断が要ります。
この記事では、学校の防災機能強化に使える財源を、①学校施設環境改善交付金の防災機能強化、②非構造部材の耐震対策、③緊急防災・減災事業債、④令和8年度の制度変更、⑤どちらの制度で組むかの判断、の5点で整理します。数値は文部科学省および総務省の公表資料に拠ります。
この記事の要点
- 学校施設環境改善交付金の防災機能強化は算定割合1/3。避難経路・備蓄倉庫・自家発電設備等が対象
- 緊急防災・減災事業債は充当率100%、交付税措置率70%。地方単独事業が対象
- 緊急防災・減災事業債は令和8年度から令和12年度まで5年間延長され、対象事業も拡充された
- 指定避難所の厨房設備・入浴設備・洗濯設備・災害対応車等が新たに対象に加わった
- 空調整備を伴わない断熱性確保工事は、令和7年度事業債から対象になっている
緊急防災・減災事業債とは何か?
緊急防災・減災事業債とは、地方公共団体が単独事業として実施する防災・減災、国土強靱化の取組に充てられる地方債です。充当率100%、交付税措置率70%と、地方債のなかでも条件が手厚い部類に入ります。
令和8年度地方財政対策で対象事業が拡充され、事業期間が令和12年度まで5年間延長されました。学校の避難所機能を整えるうえで、国庫補助と並ぶもう一方の柱になります。
防災機能強化の算定割合はいくつか?
公立学校の防災機能を国庫補助で整えるときの本線が、学校施設環境改善交付金の防災機能強化です。
文部科学省の公表資料によれば、算定割合は1/3。対象は避難所として必要な学校施設の防災機能強化とされ、具体例として非構造部材の耐震対策、避難経路・備蓄倉庫の整備、避難所指定校への自家発電設備の整備等が挙げられています。
算定割合1/3は、交付金のなかでは標準的な水準です。改築や大規模改造と同じ区分にあたります。交付金全体の算定割合の一覧と、配分基礎額という計算の仕組みは公立学校施設整備費(国庫補助)の基礎知識にまとめています。
対象になりやすい工事
実務でこの区分に乗せやすいのは、次のような工事です。
- 体育館の天井材・照明器具・バスケットゴール等の非構造部材の落下防止対策
- 避難経路上のガラスの飛散防止、外壁タイルの剥落対策
- 備蓄倉庫の新設または既存室の転用
- 避難所指定校への自家発電設備の設置
- 受水槽・貯水機能の確保に関わる整備
体育館まわりの改修は、防災機能強化と大規模改造の両方にまたがる工事になりがちです。工事区分の切り分け方は学校体育館の改修で扱っています。
非構造部材の対策はどの区分で申請するか?
避難所としての学校を考えるとき、構造体の耐震化より遅れているのが非構造部材です。天井材、照明器具、窓ガラス、収納家具、設備機器などがこれにあたります。
構造体が無事でも、天井が落ちれば避難所としては使えません。そして構造体の耐震化が一巡した自治体ほど、この部分が積み残しになっています。
構造体側の耐震補強については、交付金の地震補強が別枠であり、Is値0.3未満なら算定割合2/3、0.3以上0.7未満なら1/2と、防災機能強化の1/3より手厚い設定です。したがって、構造体と非構造部材を一体の工事として発注する場合でも、交付申請上は区分を分けて整理したほうが有利になります。
耐震診断の進め方と判定基準は校舎の耐震診断とは、補強工事の実務は学校の耐震補強工事を参照してください。
緊急防災・減災事業債で何ができるか?
国庫補助とは別に、地方単独事業として実施する場合の受け皿が緊急防災・減災事業債です。条件は次のとおりです。
- 地方債充当率:100%
- 交付税措置率:70%
- 事業期間:令和8年度から令和12年度まで(5年間延長)
- 事業費:5,000億円
出典は総務省「令和8年度地方財政対策の概要」です。
充当率100%というのは、地方負担分の全額を起債できるという意味です。そのうえで元利償還の70%が交付税措置されますから、実質的な自治体負担は起債額の30%程度にとどまります。学校教育施設等整備事業債の充当率75%・交付税措置なしの単独事業と比べると、差は明らかです。
充当率と交付税措置率の関係、実質負担の試算手順は補助金と起債(学校債・地方債)の関係で扱っています。
対象事業の拡充
令和8年度地方財政対策では、自然災害の激甚化・頻発化に対応するため、地方団体が単独事業として実施する防災・減災、国土強靱化の取組を一層推進できるよう、対象事業を拡充したうえで事業期間を令和12年度まで5年間延長するとされました。
拡充された内容のうち、学校施設に関係するものは次のとおりです。
- 指定避難所における避難者の生活環境改善(厨房設備、入浴設備、洗濯設備、災害対応車等)
- 指定緊急避難場所における一時的な滞在のための防災東屋等および防災コンテナの整備
さらに、指定避難所の(空調整備を伴わない)断熱性確保のための工事について、令和7年度事業債から対象に追加されており、文部科学省の交付金等を活用して空調整備を行う場合を含むとされています。
この最後の一文は実務上かなり重要です。体育館に空調を入れるとき、空調本体は文部科学省の交付金、断熱性確保工事は緊急防災・減災事業債という組み立てが成立する余地があるということです。
体育館の空調と断熱はどう組み立てるか?
体育館は避難所になる頻度が高く、かつ夏季の熱環境が問題になる施設です。ここに空調を入れる場合、財源の組み方に選択肢があります。
文部科学省側では、大規模改造のうち体育館への空調の新設および併せて実施する断熱性確保工事について、算定割合1/2への嵩上げが設定されています。ただしこの嵩上げには令和7年度までという期限が付されていました。
一方、総務省側では、空調整備を伴わない断熱性確保工事が緊急防災・減災事業債の対象であり、文部科学省の交付金等を活用して空調整備を行う場合も含むとされています。
したがって、令和8年度以降に体育館空調を計画する自治体は、次の2点を確認する必要があります。
- 文部科学省側の嵩上げ措置が延長されているか、終了しているか
- 断熱工事を緊急防災・減災事業債で拾う組み立てが、自団体の計画上位置づけられているか
期限つき措置は延長される場合もあれば、そのまま終了する場合もあります。過去には大規模改造(老朽)のように、国庫補助時限を延長せず廃止された例があります。年度をまたぐ計画では、嵩上げが切れた場合の試算も併せて持っておくのが安全です。
国庫補助と地方単独はどちらを選ぶか?
国庫補助と地方単独、どちらで組むかは次の観点で判断します。
国庫補助(交付金)が向く場合
- 工事規模が大きく、国費を入れないと単年度の起債枠を圧迫する
- 建物本体の改修を伴い、交付金の他の区分(地震補強、大規模改造等)と一体で申請できる
- 施設整備計画に位置づけ済みで、採択の見込みが立っている
緊急防災・減災事業債が向く場合
- 交付金の内示が見込めない、または年度内に着手したい
- 設備・備品に近い性格の整備で、交付金の対象になりにくい
- 避難所としての生活環境改善が主目的である
実際には、建物本体を交付金、避難所機能に関わる部分を緊急防災・減災事業債、というように工事を分けて拾う組み立てが多くなります。ただし同一経費に対する二重の措置はできませんから、経費の切り分けを設計段階で明確にしておく必要があります。
計画への位置づけはなぜ必要か?
どの制度も、計画に位置づけられていることが実質的な前提です。
緊急防災・減災事業債は、地方団体が単独事業として実施する防災・減災、国土強靱化の取組が対象です。交付金は、地方公共団体が作成する施設整備計画に記載された事業が交付対象になります。
さらに近年は、施設整備計画の内容そのものに注文が付くようになっています。財務省の令和8年度予算関連資料では、国庫補助の事業採択等にあたり、個別施設計画について児童生徒数の将来推計を踏まえて策定することや、統廃合の方針の記載を求めていくことが必要である、との整理が示されています。
避難所機能の整備であっても、その学校が10年後に残る前提なのかどうかは問われます。防災機能強化は学校配置の見通しと切り離せません。推計の作り方は学校の児童生徒数推計とはを参照してください。
施設側で先に決めておくことは何か?
財源の話に入る前に、施設側で整理しておくと交渉が早くなる項目があります。
どの部分を避難所として使うのか
学校全体を避難所にするわけではありません。体育館、特別教室、給食室、トイレ、駐車場など、使う範囲を決めないと必要な整備が確定しません。範囲が決まれば、動線上のどのガラスに飛散防止が要るか、どこに備蓄倉庫を置くか、電源をどこまで引くかが決まります。
想定する滞在期間
一晩の緊急避難と、数週間の生活では必要な機能が違います。令和8年度に緊急防災・減災事業債の対象へ加わった厨房設備・入浴設備・洗濯設備は、後者を想定した整備です。自団体の地域防災計画がどちらを想定しているかを確認してから、整備メニューを組み立てます。
既存設備の劣化状況
避難所機能を追加する前に、既存設備が使える状態かどうかを確認します。受水槽や給水管が更新時期を過ぎていれば、災害時に断水すれば復旧しても水が出ない事態になります。設備の劣化診断の進め方は学校の設備調査とはにまとめています。
工事の実施時期
避難所機能の整備は、在校中施工になることが多い工事です。夏休みに集中させると工程が窮屈になり、複数年度に分けると財源側の期限に引っかかります。工程と財源の期限は同時に検討する必要があります。
よくある質問
Q. 備蓄倉庫の整備は交付金と緊急防災・減災事業債のどちらですか。
A. 学校施設環境改善交付金の防災機能強化に、避難経路・備蓄倉庫の整備が例示されています。国庫補助で拾うのが基本線です。ただし建物を伴わない備蓄資機材そのものは扱いが異なるため、個別に確認してください。
Q. 自家発電設備は必ず交付金の対象になりますか。
A. 避難所指定校への自家発電設備の整備が例示されています。避難所として指定されていることが前提になります。
Q. 緊急防災・減災事業債は国庫補助事業にも使えますか。
A. 地方団体が単独事業として実施する取組が対象とされています。国庫補助事業の補助裏に充てる債とは性格が異なります。
Q. 交付税措置率70%なら、実質負担は3割ですか。
A. おおむねそうなりますが、交付税措置は基準財政需要額への算入であるため、不交付団体では実質的な効果が生じません。自団体の交付・不交付の状況を前提に試算してください。
Q. 事業期間が令和12年度までなら、それまでに完了すればよいですか。
A. 起債の年度で判断されます。工事完了時期ではなく、どの年度の事業債として起こすかが基準になるため、工程は前倒しで組むのが安全です。
まとめ
学校の防災機能強化は、文部科学省の交付金(算定割合1/3)と総務省の緊急防災・減災事業債(充当率100%・交付税措置率70%)の二本立てで考えます。
令和8年度は、緊急防災・減災事業債が令和12年度まで5年間延長され、指定避難所の生活環境改善が対象に加わった年です。避難所としての学校をどこまで整えるかという議論に、財源側の裏付けが5年分ついたことになります。
一方で、体育館空調に関する交付金の嵩上げのように、期限が設定された措置もあります。使える制度を並べたうえで、どの年度にどの枠で起こすかを工程に落とし込む作業が要ります。
参考・出典
- 文部科学省「国庫補助事業について」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/zitumu.htm
- 総務省「令和8年度地方財政対策の概要」(令和7年12月26日) https://www.soumu.go.jp/main_content/001048685.pdf
- 総務省「令和8年度地方債充当率」(令和8年総務省告示第161号) https://www.soumu.go.jp/main_content/001002597.pdf
- 財務省「令和8年度 文教・科学技術予算について」 https://www.mof.go.jp/policy/budget/budger_workflow/budget/fy2026/seifuan2026/12.pdf
記載の制度は公表時点のものです。最新の要件・割合・期限は所管省庁の公表資料でご確認ください。
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