目次
4つのメニューと補助率
私立高校の校舎は、学校法人が自ら建て、自ら維持します。公立のような国庫負担金の仕組みはありませんが、国の私学助成の中に施設・設備の整備を支える補助があります。
ただし、メニューの名称と区分は年度ごとに見直されます。「昨年度あった補助が今年度は違う名前になっている」ということが珍しくありません。何が対象で、補助率がいくらかを、年度ごとに確認する必要があります。
この記事では、①制度の位置づけ、②4つのメニュー、③補助率、④申請の流れ、⑤耐震対策の現状、の5点を整理します。
この記事の要点
- 私立高校等の施設整備は、私立学校施設整備費補助金の枠組みで支援される
- 令和8年度の概算要求では「私立学校施設・設備の整備の推進」が351億円で要求された(前年度予算額91億円)
- メニューは、安全・安心な教育環境の実現、教育研究基盤の向上、高等学校等教育DXの推進、持続可能な教育環境の実現の4区分
- 補助率は高校等で1/3以内が基本。端末整備は2/3以内、校内LANは1/3以内など事業ごとに異なる
- 令和6年4月時点で、私立高校の構造体の耐震化率は94.6%、その他の非構造部材の対策は43.1%
私立高校の施設整備補助はどう位置づけられるか?
国の私学助成には、経常費を支える補助と、施設・設備の整備を支える補助があります。施設整備を支えるのが、私立学校施設整備費補助金です。
公立学校のように、国が整備費の一定割合を負担する仕組みではありません。年度ごとに予算の範囲で募集が行われ、採択された事業に補助が交付されます。要件を満たしていれば必ず受けられるものではない、という点が公立との大きな違いです。
このため、補助を前提に工事の時期を決めるのではなく、補助が採択された場合と採択されなかった場合の両方で計画を用意しておく必要があります。制度の全体像は私立学校施設整備費補助金の全体像にまとめています。
どんなメニューがあるか?
文部科学省の令和8年度概算要求の資料では、「私立学校施設・設備の整備の推進」として351億円が要求され、4つのメニューが示されています。前年度の予算額は91億円です。
| メニュー | 令和8年度要求額 | 前年度予算額 | 主な対象事業 |
|---|---|---|---|
| 安全・安心な教育環境の実現 | 123億円 | 45億円 | 非構造部材や構造体の耐震対策、避難所機能の強化等 |
| 教育研究基盤の向上 | 126億円 | 23億円 | 理工農系人材育成に必要な研究設備への重点支援 |
| 高等学校等教育DXの推進 | 25億円 | 22億円 | 1人1台端末、電子黒板、校内LAN整備 |
| 持続可能な教育環境の実現 | 76億円 | 1億円 | 空調設備整備、照明LED化等の省エネ対策 |
概算要求の額は、予算編成の過程で変わります。実際に使える額と要件は、年度が始まってからの募集要項で確認してください。
補助率はどれくらいか?
学校種と事業によって異なります。
| 事業 | 補助率 |
|---|---|
| 安全・安心な教育環境(高校等) | 1/3以内 |
| 安全・安心な教育環境(大学) | 1/2以内 |
| 教育基盤設備 | 1/2以内 |
| 研究設備 | 2/3以内 |
| 装置・施設 | 1/2以内 |
| 端末整備 | 2/3以内 |
| ICT設備 | 1/2以内 |
| 校内LAN整備 | 1/3以内 |
| 持続可能な教育環境(高校等) | 1/3以内 |
高校以下では1/3以内が基本で、大学より低く設定されています。工事費の3分の1が必ず出るという意味ではなく、補助基準額を基に算定された額の範囲での補助になります。設計の内容が基準を上回るほど、自己負担の割合は上がっていきます。
申請はどう進めるか?
年度ごとの募集に応じ、内定を受けてから着手するのが原則です。
- 事業の募集(前年度から年度当初にかけて)
- 事業計画調査書の提出
- 採択・内定の通知
- 交付申請書の提出
- 交付決定
- 着手・工事
- 完了後の実績報告と精算
内定前の契約締結や着手金の支払いはできません。内定前に着手した場合、補助の対象外になります。工事の時期から逆算し、前年度のうちに概算と設計の方針を固めておく必要があります。
交付要綱の読み方は補助金の交付要綱の読み方、対象経費の線引きは補助金の対象経費・対象外経費の線引きを参照してください。
耐震対策はどこまで進んでいるか?
私立学校では、非構造部材の対策が遅れています。
文部科学省の資料によると、令和6年4月時点の耐震対策の実施状況は次のとおりです。
| 区分 | 私立大学 | 私立高校 | 参考 |
|---|---|---|---|
| 構造体の耐震化 | 96.6% | 94.6% | 国立大学99.9%、公立高校99.9% |
| 吊り天井等の対策 | 73.3% | 83.2% | — |
| その他の非構造部材の対策 | 20.8% | 43.1% | 国立大学78.7%、公立高校68.0% |
構造体の耐震化はほぼ終わりつつある一方、その他の非構造部材の対策は私立大学で20.8%、私立高校で43.1%にとどまり、公立高校の68.0%と開きがあります。安全・安心な教育環境のメニューは、この遅れへの対応を含むものです。耐震改修の進め方は私立学校の耐震改修と補助はどう組み合わせるか?で扱っています。
都道府県の補助とどう組み合わせるか?
国の補助とは別に、都道府県が私学向けの施設補助を設けている場合があります。
制度の探し方
都道府県の私学担当課(私学振興課、学事課などの名称)のウェブサイトに、年度ごとの補助制度が掲載されます。耐震対策、防犯対策、教育環境の整備、省エネなど、国の制度を補う形で設けられていることが多く、対象も補助率も都道府県ごとに異なります。
私立学校を所管するのは都道府県なので、年度が変わる前に担当課に相談しておくと、募集の時期や重点的に支援する分野が分かります。
併用の可否を先に確認する
同じ経費に国と自治体の補助を重ねて受けられるかは、それぞれの要綱によります。対象経費を分ければ両方を使える場合もあれば、いずれか一方しか使えない場合もあります。設計の前に、どちらの制度で何を申請するかを決めておくと、後から工事を分け直す手間が省けます。
事業計画調査書には何を書くか?
採択の入口になるのが、事業計画の調査です。
書く内容
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 事業の名称と区分 | どのメニューで申請するか |
| 対象の建物 | 建築年、構造、延床面積、現在の使い方 |
| 事業の内容 | 工事の範囲、仕様、数量 |
| 必要性 | なぜ今その工事が必要か(劣化状況、法令、安全、教育上の理由) |
| 事業費 | 概算工事費、設計費、その他の経費 |
| 資金計画 | 補助金、自己資金、借入金、寄附金の内訳 |
| 工程 | 設計、入札、着工、完成の予定 |
必要性の書き方
「老朽化しているため」だけでは、他校の申請と区別がつきません。劣化状況の調査結果、不具合の発生状況、耐震診断の結果、法令上の要請など、確認できる根拠を示します。写真や図面を添えると、現地を見ていない人にも状況が伝わりやすくなります。
在籍者数や教育課程との関係も書けると、施設を整備する理由がはっきりします。学校の中期的な計画に位置づけられていることも、根拠の一つになります。募集への効果だけを前面に出すより、安全と教育環境の課題を具体的に示す方が、審査の観点に合います。
工事費が上振れしたらどうするか?
資材費と労務費の上昇が続いています。
調査書の段階の概算と、入札の結果が開くことは珍しくありません。補助の額は基準額を基に算定されるため、工事費が増えた分がそのまま補助の増額につながるとは限りません。
対応の方法は3つです。
- 仕様を見直して工事の範囲を絞る
- 自己資金や借入れで増額分を賄う
- 工事を分割し、翌年度以降に残りを回す
いずれの方法でも、内定後の変更については所管課への相談が必要です。計画の内容が大きく変わる場合は、変更の承認や届出の手続きが生じます。着工前の段階で、増額が生じた場合の判断の基準を法人内で決めておくと、対応が早くなります。
どんな点に注意すべきか?
4つあります。
メニューの区分に合わせて設計を整理する
同じ改修でも、耐震対策として申請するのか、省エネ対策として申請するのかで、対象になる工事の範囲が変わります。設計の初期段階で区分を決め、対象と対象外の工事を内訳書で分けておくと、実績報告の作業が軽くなります。
年度ごとに名称と要件が変わる
メニューの名称や区分は見直されます。前年度の資料で計画を立てず、最新の募集要項で確認します。特に、新しく設けられたメニューは要件が細かく定められていることがあります。過去に採択された実績があっても、同じ内容で通るとは限りません。
複数年度にわたる工事
大規模な工事は年度をまたぐことがあります。年度をまたぐ場合の扱いは制度によって異なるため、事前に確認します。考え方は複数年度にまたがる施設整備の補助金活用にまとめています。
自治体の補助との関係
都道府県にも私学向けの施設補助があります。国と自治体の制度を組み合わせられるかは、それぞれの要綱で確認が必要です。併用の考え方は補助金の併用可否の考え方で扱っています。
よくある質問
Q. 概算要求の額はそのまま使えると考えてよいですか。
A. 使えません。概算要求は各省庁が財務省に要求する段階の額で、予算編成の過程で変わります。年度の予算が成立してから公表される募集要項の額と要件を基に判断してください。
Q. 中学校や小学校を設置する学校法人も使えますか。
A. 私立学校施設整備費補助金には高等学校等を対象とするメニューがあり、対象となる学校種は年度の要綱で定められます。募集要項で自校が対象か確認してください。
Q. 補助はいつ入金されますか。
A. 原則として完了後の精算払いです。工事中の支払いは自己資金や借入れで立て替えることになります。日本私立学校振興・共済事業団の貸付を使う方法もあります。
Q. 設備だけの整備でも申請できますか。
A. 端末や電子黒板などの設備を対象とするメニューがあります。ただし金額の下限などの要件が定められている場合があるため、要綱で確認します。校内LANのように、工事を伴う整備は別の区分になることがあります。
Q. 採択されなかった場合はどうすればよいですか。
A. 翌年度に再申請するか、規模を縮小して自己資金で実施するかを判断します。不採択の理由が分かる場合は、次の申請に反映させます。安全に関わる工事は、補助の有無にかかわらず実施する前提で優先順位を分けておきます。
Q. 補助を受けた施設を後から用途変更できますか。
A. 財産処分の制限がかかります。用途の変更や貸付、売却をする場合は、承認の手続きと補助金の返還の要否を確認してください。処分制限期間は、建物の構造や補助の種類によって異なります。
まとめ
私立高校等の施設整備は、私立学校施設整備費補助金の枠組みで支援されます。令和8年度の概算要求では「私立学校施設・設備の整備の推進」として351億円が要求され、安全・安心な教育環境、教育研究基盤の向上、高等学校等教育DXの推進、持続可能な教育環境の4つのメニューで構成されています。
補助率は高校等で1/3以内が基本で、端末整備は2/3以内、校内LANは1/3以内など事業によって異なります。補助基準額を基に算定されるため、工事費に対する実際の割合は制度上の補助率より低くなることがあります。
令和6年4月時点で、私立高校の構造体の耐震化率は94.6%、その他の非構造部材の対策は43.1%です。メニューの名称と要件は年度ごとに変わるため、最新の募集要項で確認し、内定前の着手を避けて準備を進めることが要点になります。
参考・出典
- 文部科学省「令和8年度概算要求 私学助成関係の説明」 https://www.mext.go.jp/content/20250826-ope_dev02-000044427_6.pdf
- 文部科学省「私学助成の充実」 https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shinkou/07021403/002.htm
- 文部科学省「私立学校施設整備費補助金(私立学校教育研究装置等施設整備費(私立高等学校等施設高機能化整備費))交付要綱」 https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shinkou/07021403/002/003/001.htm
記載の制度・金額は公表時点のものです。概算要求の額は予算編成で変わります。最新の要件は文部科学省の募集要項でご確認ください。
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