この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

学習塾・予備校の内装工事で何を確認すべきか?

法規・用途変更・自習室の要点

学習塾や予備校は、駅前のテナントビルに入ることがほとんどです。自社で建物を持つより、既存の建物を借りて内装を整える形になります。

このとき見落とされやすいのが、法規の扱いです。学校ではないから関係ない、と考えると、消防の指導や確認申請の段階で止まります。

この記事では、①法令上の位置づけ、②用途変更の要否、③消防法の扱い、④教室と自習室の設計、⑤改修の進め方、の5点を整理します。

この記事の要点

  • 川崎市の取扱いでは、予備校・学習塾は消防法施行令別表第一の(7)項に例示されている
  • 同市の取扱いでは、児童数等が20人以下の小規模学習塾は(15)項として扱う
  • 取扱いは消防本部によって異なるため、所管に確認が必要
  • 建築基準法上は、用途変更の確認申請が必要になる場合がある
  • 自習室は、遮音・空調・電源の3点で使い勝手が決まる

法令上はどう扱われるのか?

学校教育法上の学校ではありません。

学習塾や予備校の多くは、学校教育法第1条の学校(一条校)ではなく、同法第134条の各種学校の認可も受けていません。民間の事業者として運営されています。

ただし、法令上まったく学校と別扱いになるわけではありません。消防法では、用途の判定で学校に近い扱いを受ける場合があります。

消防法施行令別表第一の扱い

川崎市が公表する「消防法施行令別表第1の取扱い」では、(7)項の各種学校の例示として、看護学校、予備校等、外国語学校、理容学校、洋裁学校、料理学校、コンピューター学校、経理学校、職業訓練所、自動車教習所、学習塾などが挙げられています。

そのうえで、学習塾のうち児童数等が20人以下の小規模学習塾については、(15)項として取り扱うとしています。

区分該当する用途
(7)項予備校、学習塾(小規模を除く)、外国語学校、職業訓練所など
(15)項児童数等が20人以下の小規模学習塾

この区分によって、必要な消防用設備等や防火管理の義務が変わります。取扱いは消防本部ごとに定められているため、所管の消防署に確認してください。同じ規模でも、判定が変われば設置すべき設備が変わります。

消防法と避難の考え方は学校に関わる消防法と防火・避難の基礎にまとめています。

用途変更は必要になるのか?

建物の用途と面積によります。

建築基準法第87条第1項は、用途を変更して同法第6条第1項第1号の特殊建築物とする場合に、確認申請を求めています。対象は、別表第一(い)欄の用途で、その用途に供する部分の床面積の合計が200平方メートルを超えるものです。

事務所ビルの一部を借りて塾にする場合、その部分がどの用途に当たるかの判断が必要です。面積と用途の判断は、所管行政庁によって扱いが分かれることがあります。設計者を通じて確認します。同じビル内で複数の階を借りる場合、面積の合算の考え方も論点になります。

用途変更の制度は学校施設の用途変更とは何か?にまとめています。建築基準法の全体像は学校の改修で関わる建築基準法の基礎を参照してください。

遡及して適用される規定

用途変更に当たる場合、防火と避難に関する規定が遡及して適用されます。避難階段、排煙設備、非常用の照明装置、内装制限。

古いビルでは、この部分の工事が費用の中心になります。物件を契約する前に確認しておかないと、想定した予算では開校できません。内装の見栄えより先に、この部分の見積りを取ります。

階数の制限

3階以上の階に教室を設ける場合、避難に関する要件が厳しくなります。階段の数、区画、避難の経路。物件を選ぶ段階で、どの階を使うかは重要な条件になります。賃料が安いという理由だけで上階を選ぶと、工事費で逆転することがあります。

教室はどう設計するのか?

授業の形態で必要なものが変わります。

形態必要な条件
集団授業板書が見える視線、後方までの声の届き方、均一な照度
少人数教室の数。分割するほど空調と照明の系統が必要
個別指導ブースの区切り、隣の声が気にならない仕切り
映像授業個別のブース、電源、画面への映り込みの防止

分割すると設備が足りなくなる

大きな部屋を小さく区切ると、空調の吹き出し口がない部屋、照明の数が足りない部屋が出ます。間仕切りを入れる工事は、設備の工事とセットになります。見積りで内装だけを比べると、後から設備の分が加算されます。

また、区画を分けると換気の経路も変わります。窓のない部屋を作る場合、機械換気の計画が必要です。

音の問題

個別指導のブースでは、隣の会話が聞こえることが課題になります。天井まで届かない間仕切りでは、上部から音が回り込みます。

吸音と遮音は別のものです。響きを抑えるのが吸音、音を伝えないのが遮音。必要なのがどちらかを見極めてから工法を選びます。詳しくは学校の音環境はどう設計する?にまとめています。

自習室で何が問われるのか?

3点で使い勝手が決まります。

遮音

自習室は静かであることが前提です。隣の教室の授業の声、廊下の足音、扉の開閉音。この3つが主な原因になります。空調の運転音が気になる場合もあります。

扉に戸当たりを付ける、床に緩衝材を入れる、廊下側の壁の性能を上げる。工事の範囲は限られても、効果は出ます。まず何の音が気になっているのかを、利用者に聞いて絞り込みます。

空調

人数が多く、滞在時間が長い部屋です。夏は熱がこもり、冬は乾燥します。空調の能力と吹き出しの位置を、席の配置と合わせて決めます。

直接風が当たる席は使われなくなります。吹き出し口の真下に席を置かない配置にします。窓際の席は、日射と放射で温熱環境が変わる点も確認します。

電源

端末を使う前提であれば、席ごとに電源が要ります。後から延長コードで対応すると、床を這う配線が通行の妨げになり、安全上の問題にもなります。

改修の段階で、床下や壁からの配線を計画します。席の配置を変える可能性があるなら、複数の位置に出しておきます。分電盤の容量も、同時に使う台数から確認します。

改修はどう進めるのか?

物件の確認が最初です。

段階内容
1. 物件の確認用途地域、階数、既存の図書、避難の経路
2. 法規の検討用途変更の要否、消防法上の区分、遡及する規定
3. 契約の条件躯体に手を入れられるか、原状回復の範囲、期間
4. 設計・工事教室の構成、設備、遮音、サイン
5. 届出・開校消防の手続き、検査、開校の準備

契約前に法規を確認する

物件を契約してから用途変更ができないと分かると、損失が大きくなります。候補の段階で、資料を設計者に渡して見てもらう方が安全です。

確認すべきは、検査済証の有無、階数、避難階段の数と位置、既存の消防用設備等です。

原状回復の範囲

賃貸では、退去時に元に戻す条件が付きます。内装に投資するほど、その費用も大きくなります。契約の期間と投資額の関係を、開校の前に整理しておきます。

他のテナントとの関係

学習塾は、夕方から夜にかけて人が集中します。エレベーターの混雑、階段の使用、送迎の車。ビル内の他のテナントや近隣との調整が、開校後の運営に影響します。

内装の改修全般は学校施設の内装リフォームとは?も参考になります。

受付と待合はどう整えるのか?

人の出入りが集中する場所です。

学習塾では、授業の前後に人が一度に動きます。入室と退室、保護者の送迎、講師の交代。この時間帯に、受付の前が混雑します。

場所確認する点
入口扉の開き方向、傘立て、入退室の記録の機器の位置
受付対応する人数分の幅、書類と教材を置ける奥行き
待合座って待てる席の数、荷物の置き場
通路入る人と出る人がすれ違える幅
トイレ休憩時間に集中する。個数と位置

入退室の記録と動線

入退室を記録する仕組みを導入している塾が多くあります。機器の位置が入口の真正面だと、そこで列ができて滞留します。

入ってから数歩進んだ位置に置くと、扉の前で止まらずに流れます。小さな配置の違いですが、混雑の解消に効きます。

保護者の待機

送迎で待つ保護者のための場所があるかどうかも、選ばれる条件のひとつです。車での送迎が多い地域では、停車の場所と近隣への影響も確認します。

投資はどう判断するのか?

回収できる期間から考えます。

学習塾や予備校の施設投資は、賃貸物件への内装投資が中心です。契約の期間内に回収できるかが判断の基準になります。

18歳人口の減少により、市場の条件は厳しくなっています。生徒数の見通しを置いたうえで、投資できる額を決めます。移転や統合の可能性があるなら、造作を減らして家具で対応する方法もあります。

見た目に効く範囲を絞る

保護者と生徒が見るのは、入口、受付、面談の部屋、教室、自習室です。この範囲に投資を集中させる方が、全体を薄く直すより効果が出ます。講師の控室や倉庫は、機能を満たせば十分です。

面談の部屋は、保護者と話す場所です。他の声が聞こえない、落ち着いて座れる。ここの印象が入塾の判断に影響します。成績や進路の話をする場所なので、内容が外に漏れないことも条件になります。

よくある質問

Q. 学習塾は消防法でどう扱われますか。

A. 川崎市の取扱いでは(7)項に例示されています。児童数等が20人以下の小規模学習塾は(15)項として取り扱うとされています。

Q. 用途変更の確認申請は必要ですか。

A. 用途と面積によります。200平方メートルを超える特殊建築物とする場合は必要です。所管行政庁に確認してください。

Q. 3階以上の階に教室を置けますか。

A. 避難に関する要件が厳しくなります。物件を選ぶ段階で、使う階を条件に含めておきます。

Q. 個別ブースの音はどう対策しますか。

A. 天井まで届かない間仕切りでは上部から音が回り込みます。吸音と遮音のどちらが必要かを見極めてから工法を選びます。

Q. 自習室で最初に直すべきところは。

A. 遮音、空調、電源の3点です。特に扉と廊下側の壁は、費用の割に効果が出ます。

Q. 物件を決める前に何を確認しますか。

A. 用途地域、階数、検査済証の有無、避難階段、既存の消防用設備等です。契約の前に設計者に見てもらいます。

Q. 教室を小さく分けると何が必要になりますか。

A. 空調と照明の系統を分ける工事が伴います。窓のない部屋になる場合は機械換気の計画も必要です。

Q. 防火管理者の選任は必要ですか。

A. 用途の区分と収容人員によります。所管の消防署に確認してください。

Q. 原状回復はどこまで求められますか。

A. 契約の条件によります。躯体に手を入れる工事ほど、戻す費用も大きくなります。

まとめ

学習塾や予備校は学校教育法上の学校ではありませんが、消防法では学校に近い扱いを受ける場合があります。川崎市の取扱いでは、予備校や学習塾は(7)項に例示され、児童数等が20人以下の小規模学習塾は(15)項として取り扱うとされています。取扱いは消防本部ごとに異なるため、所管への確認が前提です。

建築基準法では、用途を変更して200平方メートルを超える特殊建築物とする場合に確認申請が必要になります。古いビルを転用する場合、防火と避難に関する規定が遡及して適用され、その工事が費用の中心になります。

物件を契約する前に、法規を確認すること。これが最も重要です。候補の段階で設計者に資料を見てもらえば、後から動けなくなる事態を防げます。

教室と自習室は、遮音、空調、電源で使い勝手が決まります。投資は、入口、受付、面談の部屋、教室、自習室という、保護者と生徒が実際に見る範囲に絞る方が効果が出ます。

参考・出典

記載の制度・取扱いは公表時点のものです。消防法上の用途の判定は消防本部によって異なります。個別の適用は所管の消防署および行政庁にご確認ください。

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