目次
判断基準・費用比較・長寿命化の考え方
私立高等学校の施設投資の条件が、令和8年度から変わりました。就学支援金の所得要件が撤廃され、私立の全日制では年額457,200円が支給上限になりました。
授業料の実質的な負担差が縮まると、家庭が学校を選ぶ基準は教育の中身と施設に寄ります。校舎の古さが、そのまま選ばれない理由になりやすくなります。
この記事では、①制度の変化、②施設の現状、③判断の材料、④費用の比べ方、⑤財源と進め方、の5点を整理します。
この記事の要点
- 令和8年度から高等学校等就学支援金の所得要件が撤廃された
- 私立の全日制の支給上限は年額457,200円、通信制は337,200円、国公立は118,800円
- 私立高等学校の耐震化率は94.3パーセント(令和7年4月1日現在)
- 旧耐震基準の建物は5,029棟で全体の33.6パーセント、耐震診断の実施率は89.8パーセント
- 非構造部材の耐震点検実施率は80.4パーセント、耐震対策実施率は39.8パーセント
制度の変化は判断にどう影響するのか?
施設で比べられるようになります。
文部科学省の資料「三党合意に基づく令和8年度以降の高校教育等の振興方策について」(令和8年1月26日)によれば、令和8年度から所得要件が撤廃されます。
| 区分 | 支給上限額(年額) |
|---|---|
| 国立 | 118,800円 |
| 公立 | 118,800円 |
| 私立(全日制) | 457,200円 |
| 私立(通信制) | 337,200円 |
私立全日制の457,200円は、全国授業料平均相当額として設定された水準とされています。
投資の効果が見えやすくなる
授業料の差が選択の理由から外れると、施設の差が相対的に大きく見えます。これは投資の効果が出やすくなるということでもあり、逆に何もしないことの不利が大きくなるということでもあります。
一方、公立高等学校も整備が進んでいます。普通教室の空調やトイレのような部分では、差がつきにくくなっています。学校の特色を支える施設に投資を絞る方が効きます。
改修の進め方は私立高校の校舎改修は何に投資すべきか?にまとめています。
施設の現状はどうなっているのか?
構造体の耐震化はほぼ進み、非構造部材が残っています。
文部科学省の「私立学校施設の耐震改修状況等調査結果の概要(幼稚園〜高等学校)」(令和7年4月1日現在)によれば、対象は14,977棟で、全体の耐震化率は94.3パーセントです。
| 学校種 | 耐震化率 |
|---|---|
| 小学校 | 94.6パーセント |
| 中学校 | 92.9パーセント |
| 高等学校 | 94.3パーセント |
| 小学校〜特別支援学校の小計 | 95.2パーセント |
旧耐震基準で建築された建物は5,029棟、全体の33.6パーセントです。耐震診断の実施率は89.8パーセント、非構造部材は耐震点検80.4パーセントに対して耐震対策39.8パーセントとなっています。
判断の材料は何か?
6つあります。
| 材料 | 見るもの |
|---|---|
| 建物の状態 | 躯体の劣化、耐震性能、非構造部材の対策状況 |
| 在籍者数の見通し | 20年後に何学級必要か。コースごとの充足状況 |
| 学科・コースの計画 | 改編するのか、維持するのか |
| 部活動の方針 | 強化する部があるか。施設の水準が必要か |
| 法人の資金力 | 自己資金、借入の返済能力、寄附の見込み |
| 敷地の条件 | 建て替える場所があるか、仮設を置けるか |
学科・コースの改編があるなら改築が向く
普通科、特進コース、国際コース、専門学科。学科やコースを改編する計画があるなら、必要な教室の種類と数が変わります。
長寿命化改修では、既存の配置と配管の位置に制約されます。少人数教室を増やす、実習室を新設する、自習室をまとまった面積で取る。こうした変更を伴う場合、改築の方が目的に合うことがあります。
実習設備は別に積む
商業科の情報処理室、工業科の実習機械、看護科の実習室、農業科の温室と作業場。学科ごとに設備の更新周期が異なります。
建物の判断とは別に、学科ごとの設備の設置年を台帳にまとめ、更新の順序を決めておきます。設備費が工事費を上回る学科もあります。
寄宿舎がある場合
遠方から生徒を受け入れる学校では、寮の状態が入学の判断に直結します。水回り、居室、食堂、自習の場所。
寮は通年で使われるため、工事の期間を確保しにくい施設です。棟や階ごとに順に改修する計画になります。校舎とは別の判断軸で見ます。工事中の生徒の居場所を、計画の初期に決めておきます。
判断の枠組みは学校は建替え・長寿命化改修・統合のどれを選ぶ?にまとめています。
費用はどう比べるのか?
30年、40年の総額で並べます。
| 項目 | 改築 | 長寿命化改修 |
|---|---|---|
| 初期費用 | 大きい | 改築より小さい |
| 工事期間 | 長い | 改築より短い |
| 仮設校舎 | 必要になることが多い | 使いながら施工できる場合がある |
| 学科改編への対応 | 自由に計画できる | 既存の配置に制約される |
| 募集への効果 | 大きい | 範囲を絞れば出せる |
工事費、修繕費、光熱費を同じ期間で足し合わせます。光熱費は在籍者数が減っても大きくは減らないため、長期では断熱と設備の性能差が効いてきます。
長寿命化改修の内容は学校施設の長寿命化改修とは?を参照してください。
見えない費用
仮設校舎の建設と撤去、実習設備の移設と据付、工事期間中の部活動の場所、入試と説明会への影響。これらは見積書に載りません。
実習機械の移設は、据付と調整に時間がかかります。動かせない設備がある場合、その部屋を工事の範囲から外す判断も必要です。
財源はどう組むのか?
4つの組み合わせです。
| 財源 | 特徴 |
|---|---|
| 自己資金 | 使途の自由度は高いが、規模に限りがある |
| 借入 | 返済の原資として、将来の在籍者数の見通しが必要 |
| 寄附 | 同窓会、保護者、企業。使途を指定される場合がある |
| 補助金 | 国と都道府県。事業の区分ごとに対象と補助率が定められる |
就学支援金は授業料に充てられる制度で、施設整備の財源ではありません。私立学校施設整備費補助金の詳細は私立学校施設整備費補助金の全体像にまとめています。
借入は改善を前提にしない
施設に投資すれば募集が改善する、という前提で返済計画を立てるのは危険です。改善しなかった場合でも返済が回る計画にしておきます。
今後20年の在籍者数の見通しを置いたうえで、返済可能な範囲を決めます。金融機関への説明でも、その前提が問われます。
都道府県の制度を確認する
都道府県は、私立学校向けに耐震診断、耐震補強、非構造部材の対策、アスベスト対策などの補助制度を持っています。内容は自治体によって異なるため、私学担当課に確認します。
工事はどう進めるのか?
年間の予定を先に固めます。
高等学校では、長期休業中も補習、部活動、大会、説明会が行われます。完全に空く期間はほとんどありません。
- 入学者選抜の日程。推薦と一般で複数回ある
- 学校説明会とオープンスクール
- 部活動の大会と合宿
- 補習と講習の期間
- 卒業式と入学式
これらを重ねたうえで、工事のできる期間を確定します。工程を先に組んでから調整すると、何度も組み直すことになります。年度によって日程が動く行事もあるため、毎年の確認が必要です。
段階的に進める
棟ごと、部位ごとに分けて複数年度で進める方法が現実的です。ただし、分けるほど仮設と足場の費用が重複します。まとめる範囲と区切る位置を、設計者と相談して決めます。
理事会には比較を示す
改築と長寿命化改修の両方を検討し、何を根拠に選んだのかを並べます。あわせて、何もしなかった場合に10年後どうなるかも示します。この部分がないと、議論が金額の大小だけになります。
公立との比較で何が問われるのか?
差がつく項目は限られています。
授業料の負担差が縮まると、家庭は私立と公立を同じ土俵で比べます。そのとき、施設で違いが出る部分は限られています。
| 項目 | 差がつきやすいか |
|---|---|
| 普通教室の広さ・設備 | 大きな差はつきにくい |
| 空調・トイレ・清潔感 | 公立も整備が進んでおり差は縮小 |
| 自習室・個別指導の場所 | 差がつきやすい |
| ICT環境と端末の扱い | 運用も含めて差が出る |
| 部活動の専用施設 | 差がつきやすい |
| 学科・コース固有の実習設備 | 学校の特色として最も差が出る |
投資を分散させると、どの項目でも差がつきません。学校が打ち出したい特色に沿って、投資先を絞る方が効きます。
何で選ばれたいかを先に決める
施設の改修は、学校の方針を形にする作業です。進学実績で選ばれたいのか、部活動なのか、専門性なのか。方針が決まっていれば、優先順位は自然に決まります。
方針が曖昧なまま進めると、要望の多い順に予算が配分され、結果として特色のない施設になります。理事会と教職員で、先に方針を共有しておきます。
何から着手するのか?
非構造部材からです。
対策の実施率が39.8パーセントということは、点検で分かっている危険の多くが未対策のまま残っているということです。天井の落下防止、照明器具の固定、窓ガラスの飛散防止、実験台と書棚の転倒防止。
構造体の補強に比べて費用が小さく、効果が明確です。建物の大きな方針が決まらない間も進められます。
そのうえで、見学の動線にある範囲を整えます。エントランス、受付、説明会場、トイレ、廊下。限られた費用でも印象は変わります。来訪者が実際に通る順に歩いて、気になる箇所を洗い出します。
よくある質問
Q. 令和8年度から何が変わりましたか。
A. 高等学校等就学支援金の所得要件が撤廃されました。私立全日制の支給上限は年額457,200円です。
Q. 私立高等学校の耐震化率はどれくらいですか。
A. 令和7年4月1日現在で94.3パーセントです。私立学校施設全体でも94.3パーセントとなっています。
Q. 就学支援金は施設整備に使えますか。
A. 授業料に充てられる制度です。施設整備の財源は、自己資金、借入、寄附、補助金になります。
Q. 学科を改編する場合はどちらが向きますか。
A. 必要な教室の種類と数が変わるため、改築の方が目的に合うことがあります。既存の配置で対応できるかを確認します。
Q. 実習機械は移設できますか。
A. 据付と調整に時間がかかります。動かせない設備がある場合、その部屋を工事の範囲から外す判断も必要です。
Q. 何から着手すべきですか。
A. 非構造部材の未対策箇所です。費用が小さく効果が明確で、大きな方針が決まらない間も進められます。
まとめ
令和8年度から高等学校等就学支援金の所得要件が撤廃され、私立の全日制では年額457,200円が支給上限になりました。授業料の負担差が縮まる中で、施設の状態は進学先の選択により直接効いてきます。
私立高等学校の耐震化率は94.3パーセント(令和7年4月1日現在)です。旧耐震基準の建物は5,029棟で全体の33.6パーセント、耐震診断の実施率は89.8パーセント。非構造部材は、点検の実施率80.4パーセントに対して対策の実施率が39.8パーセントにとどまっています。
判断の材料は、建物の状態、在籍者数の見通し、学科・コースの計画、部活動の方針、法人の資金力、敷地の条件です。学科の改編を伴う場合、既存の配置に制約される長寿命化改修では対応しきれないことがあります。
着手する順序は、非構造部材の未対策箇所、次に見学の動線にある範囲です。どちらも費用が小さく、建物の大きな方針が決まらない間も進められます。借入をする場合は、募集の改善を前提にしない返済計画にしておきます。
参考・出典
- 文部科学省「三党合意に基づく令和8年度以降の高校教育等の振興方策について」(令和8年1月26日 第153回初等中等教育分科会 資料1) https://www.mext.go.jp/content/20260126-mxt_syoto02-000046862_02.pdf
- 文部科学省「私立学校施設の耐震改修状況等調査結果の概要(幼稚園〜高等学校)」(令和7年4月1日現在) https://www.mext.go.jp/content/20260326-mxt_sigakujo-100001477_04.pdf
- 文部科学省「高校生等への修学支援」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/index.htm
- 私立学校法、私立学校振興助成法
記載の制度・数値は公表時点のものです。最新の内容は所管省庁および都道府県の公表資料でご確認ください。
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