この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

廃校の耐震性能で活用の可否はどう決まるのか?

Is値と補強の判断

廃校活用の相談で最初に聞かれるのは、だいたいこれです。この校舎は使えるのか。

答えは耐震診断の結果で変わります。そして診断結果があっても、使えるかどうかは一つの数値で決まりません。転用後に誰が何人使うのか、その用途にどこまでの性能を求めるのか。この判断が先にあります。

やってはいけないのは、耐震性能を後回しにして用途を決めることです。公募をかけて事業者が決まった後に、補強に数億円かかると分かる。この順番で止まった案件があります。

一方で、旧耐震だから即座に使えないという判断も乱暴です。診断の結果が良好な棟もあります。棟ごとに分けて判断する必要があります。

この記事では、①耐震性能の指標、②学校に求められる水準、③用途変更と法律上の扱い、④判断の分かれ目、⑤進め方、の5点を整理します。

この記事の要点

  • 文部科学省の資料では、構造耐震指標Is値0.7以上を安全と判定する条件として示している
  • 同資料では、Is値0.3未満またはq値0.5未満を緊急度ランク1とし、改築が望ましいとしている
  • 建築基準法第87条第3項による用途変更の準用規定に、構造耐力に関する規定は含まれていない
  • 法律上求められなくても、不特定多数が利用する施設への転用では性能の確認が実務の前提になる
  • 建築物の耐震改修の促進に関する法律により、一定規模以上で多数が利用する建築物には診断と報告の義務がある
  • 文部科学省の調査(令和6年5月1日現在)では、活用されていない廃校施設1,951校のうち、校舎で活用用途が決まっていない理由として建物の老朽化が最も多く挙げられている

耐震性能はどう測るのか?

構造耐震指標Is値で測ります。

Is値は建物の保有する耐震性能を表す指標です。建物の強度と靭性、形状や経年の影響を組み合わせて算出します。各階、各方向について計算するため、1棟で複数の値が出ます。

建築基準法が想定する耐震性能の水準として0.6が用いられてきました。この値を下回ると、大規模な地震で倒壊または崩壊する危険性があるとされます。

Is値の考え方は学校の耐震診断とIs値はどう見るのか?で詳しく扱っています。

棟ごと、階ごとに違う

1つの学校に校舎が3棟、体育館が1棟というのは普通の構成です。建築年が違えば性能も違います。

同じ棟でも階によって値が異なります。1階が0.4で3階が0.8ということが起こります。最も低い値がその棟の判断材料になります。

診断書を読むときは、棟別・階別・方向別の一覧を確認してください。代表値だけを見ると判断を誤ります。

学校にはどの水準が求められるのか?

文部科学省はIs値0.7以上を目標として示しています。

建築基準法の水準である0.6より高い値です。理由は学校施設が災害時に避難所として使われることにあります。地震で建物が使えなくなると、避難所としての機能も失われます。

Is値文部科学省の資料での位置づけ
0.7以上安全であると判定する条件
0.3未満、またはq値0.5未満緊急度ランク1。改築が望ましい

建築基準法が想定する耐震性能の水準としては0.6が用いられてきました。この値を下回ると、大規模な地震で倒壊または崩壊する危険性があるとされています。

0.7という水準は、学校として使い、避難所としての機能も期待する前提で示されたものです。廃校を別の用途にする場合、どの水準を目標にするかは改めて判断することになります。

緊急度ランク1は補強の対象にならない

Is値0.3未満またはq値0.5未満の棟は、補強ではなく改築が望ましいとされています。補強で0.6や0.7まで引き上げるには工事量が大きくなりすぎるためです。

廃校活用でこの水準の棟が出た場合、活用の候補から外して解体に回す判断が現実的です。診断書で緊急度ランクが付いていれば、それが最初の振り分けになります。

転用後の用途で考える

避難所として位置づけるなら、0.7以上を目標にする合理性があります。防災拠点にするなら、さらに高い水準を求める考え方もあります。

一方、倉庫や工場として少人数で使うなら、0.6を満たせば法的な水準としては足ります。使い方で求める性能が変わるという整理です。

転用後の性格目標とする考え方
避難所・防災拠点0.7以上を目標にする
不特定多数が集まる施設0.6以上を確保したうえで用途に応じて判断
少人数が使う倉庫・作業場0.6を基準に判断
解体を前提とした暫定利用利用形態を限定して管理する

耐震補強の工法と進め方は学校の耐震補強工事はどう進めるのか?にまとめています。

用途変更で耐震改修は義務なのか?

建築基準法上は求められません。

建築基準法第87条第3項により用途変更に際して準用される規定には、構造耐力に関する規定が含まれていません。用途を変えるだけであれば、現行の耐震基準への適合は求められないという整理です。

ただしこれは建築基準法の話に限られます。別の制度と実務上の責任が残ります。

制度・論点扱い
建築基準法の用途変更構造耐力の規定は準用されない
建築物の耐震改修の促進に関する法律規模と用途により診断・報告の義務がある場合がある
増築や大規模の修繕を伴う場合別の規定により構造の検討が必要になる
利用者の安全確保所有者・管理者の責任として残る

耐震改修促進法の確認が必要

建築物の耐震改修の促進に関する法律は、多数の者が利用する一定規模以上の建築物について、耐震診断と結果の報告を義務づける仕組みを設けています。

転用後の用途と規模によっては、この義務の対象になる可能性があります。対象となる要件は用途ごとに階数と床面積で定められているため、計画の初期に所管行政庁へ確認してください。

法律が求めなくても判断は必要

旧耐震の校舎に不特定多数を集める計画で、耐震性能を確認せずに進める判断は取れません。事故が起きた場合の責任は所有者と管理者に及びます。

自治体が所有したまま民間に貸す方式では、この責任分担を契約で定めておく必要があります。

判断はどこで分かれるのか?

補強費用と、転用で得られる価値の比較です。

判断軸内容
診断結果棟ごとのIs値。どの棟が低いか
補強の工事量ブレース、耐震壁、外付けフレームのいずれか。意匠への影響
使用中の制約補強が内部に出ると、転用後の間取りが制限される
残存年数あと何年使う想定か。構造躯体の劣化状況
棟の選択全棟使うのか、性能の良い棟だけ使うのか

実務で多い結論は、棟を絞ることです。4棟あるうち診断結果の良い2棟を活用し、残りを解体する。これなら補強費用を抑えられます。

解体との組み合わせで考える

補強に費用がかかる棟は、解体して敷地として使うほうが合理的な場合があります。解体費用と補強費用を並べて比較してください。

部分的に解体する判断については、減築と区画分離の論点が関わります。

外付け補強という選択

内部に補強が出ると転用後の計画が制約されます。外付けフレームで補強すれば内部空間を自由に使えますが、外観が変わり、敷地に余裕が必要です。

転用後の使い方が決まっていれば、どちらが有利か判断できます。だからこそ用途と耐震の検討は並行して進めます。

避難所として残す判断はどうなるのか?

地域の避難所に指定されている廃校は、性能を落とせません。

学校は地域の避難所として位置づけられていることが多く、閉校しても指定が残る場合があります。この場合、転用後も避難所として機能させる前提で性能を考えることになります。

確認項目内容
避難所指定の有無閉校後も指定が残っているか。解除の予定があるか
対象とする棟体育館か校舎か。どの棟が避難所か
求める性能避難所として使うならIs値0.7以上を目標にする
防災機能電源、給水、トイレ、通信の確保
運営主体民間に貸す場合、災害時の開設と運営の取り決め

民間事業者に貸し付ける場合、災害時の扱いを契約で定めておく必要があります。平常時は事業者が使い、災害時は自治体が避難所として開設する。この切り替えを文書にしておかないと、実際の災害時に混乱します。

地域の施設全体での位置づけを整理したうえで判断してください。廃校活用の類型は廃校活用の事例と進め方は?にまとめています。

どう進めるのか?

既存の診断結果を探すことから始めます。

段階内容
1. 既存資料の収集耐震診断書、補強工事の記録、確認申請図書、検査済証
2. 診断の有無の確認診断済みか。補強済みか。棟ごとに整理する
3. 現地調査構造躯体の劣化、ひび割れ、鉄筋の露出、不同沈下
4. 追加診断の判断診断がない棟、古い診断の棟について再診断の要否
5. 補強の概算工法ごとの工事量と費用の幅
6. 活用範囲の決定どの棟を使うか。どの棟を解体するか

1で診断書が見つかることは多いです。公立小中学校の耐震化は長年進められてきたため、診断と補強の記録が残っています。まずそれを探してください。

診断書が古い場合

補強済みの棟であれば、補強後のIs値が記録されています。この値が転用後の判断材料になります。

診断から年数が経っている場合、その間の劣化が反映されていません。コンクリートの中性化や鉄筋の腐食が進んでいれば、現況の性能は診断時より低い可能性があります。現地調査で状態を確認します。

転用に伴う改修全体の論点は廃校リノベーションの改修工事はどう進めるのか?にまとめています。

よくある質問

Q. Is値はいくつあれば転用できますか。

A. 用途によって判断が変わります。文部科学省の資料では0.7以上を安全と判定する条件としています。

Q. 旧耐震の校舎は活用できませんか。

A. 診断結果によります。旧耐震でも診断結果が良好な棟はあります。棟ごとに判断してください。

Q. 用途変更では耐震改修は不要と聞きました。

A. 建築基準法第87条第3項の準用規定に構造耐力は含まれません。ただし耐震改修促進法の対象になる場合があり、利用者の安全確保の責任も残ります。

Q. 耐震診断はいくらかかりますか。

A. 建物の規模と構造、図面の有無で変わります。図面が残っていない場合は現地での調査量が増えます。

Q. 補強が内部に出ると困ります。

A. 外付けフレームによる補強で内部空間を確保する方法があります。外観の変更と敷地の余裕が条件になります。

Q. 全棟を使う必要がありますか。

A. ありません。性能の良い棟に絞り、残りを解体する判断が実務では多く取られています。

Q. Is値が0.3を下回る棟はどうすればよいですか。

A. 文部科学省の資料では緊急度ランク1として改築が望ましいとされています。活用候補から外す判断が現実的です。

Q. 避難所の指定は閉校すると自動的に外れますか。

A. 外れない場合があります。防災担当部門に指定の状況と解除の予定を確認してください。

まとめ

廃校の活用可否は耐震診断の結果から判断します。構造耐震指標Is値が指標です。文部科学省の資料では0.7以上を安全と判定する条件とし、0.3未満またはq値0.5未満を緊急度ランク1として改築が望ましいとしています。

Is値は棟別、階別、方向別に算出されます。1つの学校でも棟ごとに性能が違うため、最も低い値を見て棟単位で判断します。代表値だけを見ると誤ります。

建築基準法第87条第3項による用途変更の準用規定に、構造耐力に関する規定は含まれていません。ただし建築物の耐震改修の促進に関する法律による診断・報告の義務が転用後の用途と規模によって生じる場合があり、利用者の安全確保の責任は所有者と管理者に残ります。

実務で取られる結論は、棟を絞ることです。診断結果の良い棟を活用し、補強費用が見合わない棟は解体する。補強費用と解体費用を並べて比較する作業が判断の中心になります。

まず既存の耐震診断書を探してください。公立小中学校では診断と補強の記録が残っていることが多く、それが活用検討の出発点になります。

参考・出典

記載の制度・基準は公表時点のものです。耐震診断および耐震改修の必要性の判断、耐震改修促進法の対象要件は建物の状況と所管行政庁の運用により異なります。個別の判断は構造設計者および所管行政庁にご確認ください。

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