できます。ただし条件があります。
学校の改修は、児童生徒が通っている間に行われることが多くあります。これを居ながら工事と呼びます。全面的に使用を止めて工事をするには仮設校舎が必要で、その費用と用地が確保できないためです。
ただし居ながら工事には、設計の段階で押さえる項目があります。騒音、振動、粉じん、動線、アスベスト。この5点を押さえないまま始めると、授業が成立しなくなり工事が止まります。
そして確認を受けた工事では、完了検査の前に建物を使うための手続きが関わります。
この記事では、①居ながら工事の条件、②工区の分け方、③騒音と振動、④粉じんとアスベスト、⑤動線と手続き、の5点を整理します。
目次
この記事の要点
- 居ながら工事は可能だが、騒音、振動、粉じん、動線、アスベストの5点を設計で押さえる必要がある
- 工区を分け、工事する範囲と使用する範囲を物理的に区画する
- 騒音と振動を伴う作業は、授業のない時間帯や長期休業に寄せる工程を組む
- 石綿の事前調査結果の報告は、大気汚染防止法に基づき令和4年4月1日から義務づけられている
- 確認を受けた工事では、完了検査の前に建物を使う場合に仮使用の手続きが関わる
居ながら工事の条件は何か?
5つを押さえることです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 騒音 | 授業中に許容できる水準に収める |
| 振動 | 実験や精密な作業への影響 |
| 粉じん | 区画と養生で室内に入れない |
| 動線 | 工事車両と児童生徒の経路を分ける |
| アスベスト | 事前調査と適切な除去の方法 |
この5点のうち、設計で解決できるのは区画と動線です。騒音と振動は工程で調整し、アスベストは調査の結果で工法が決まります。
仮設校舎を使う選択もある
工事の範囲が広く、居ながらでは成立しない場合、仮設校舎を建てて移る選択があります。
| 比較 | 居ながら工事 | 仮設校舎 |
|---|---|---|
| 費用 | 仮設校舎の費用がかからない | 建設と撤去の費用がかかる |
| 用地 | 不要 | 校庭などを使う |
| 工期 | 工区を分けるため長くなる | 一度に工事できるため短い |
| 教育環境 | 工事の影響を受ける | 影響を受けない |
| 工事の品質 | 制約がある | 制約が少ない |
仮設校舎の費用と、工期が延びることによる費用を比べてください。工区を分けて3年かかる工事が、仮設校舎なら1年で終わることがあります。
全面的に使用を止める選択
夏休みなどの長期休業に工事を集中させ、その期間は全面的に使用を止める方法があります。
ただし長期休業の期間で終わる工事量には限りがあります。工期が足りるかは、工事の内容で決まります。
工事の進め方全般
学校の改修工事の進め方は学校の改修工事はどう進めるのか?で扱っています。居ながら工事はこの中でも制約の多い形です。
工区はどう分けるのか?
使う範囲と工事する範囲を物理的に区画します。
| 分け方 | 内容 |
|---|---|
| 階で分ける | 上階から下階へ、または逆 |
| 棟で分ける | 複数棟ある場合 |
| 平面で分ける | 1つの階を左右に分ける |
| 外部と内部で分ける | 外壁と屋上を先、内部を後 |
| 時期で分ける | 長期休業に内部、学期中に外部 |
区画は仮設の壁で行う
工事する範囲と使う範囲は、仮設の間仕切りで区画します。シートを下げるだけでは粉じんと音が通ります。
区画の位置は、避難経路を確保できる位置にしてください。工事で避難経路が塞がれると、使用できなくなります。
教室の移動が必要になる
工区に含まれる教室は、別の場所に移ります。空き教室、特別教室、多目的室を転用する形です。
移動先が足りない場合、工区を細かく分けることになり、工期が延びます。計画の段階で、移動先の確保を確認してください。
外壁と屋上は学期中に進められる
外壁と屋上の工事は、建物の外側で行います。騒音と振動の調整は必要ですが、室内の使用を止めずに進められる部分があります。
ただし足場が窓の前に立つため、採光と通風が落ちます。夏季に窓を開けられないと、空調のない教室では使えなくなります。
発注者側の調整が要になる
工区の分け方、教室の移動、時間帯の調整。これらは学校と工事側の間で決めることです。発注者側に調整を担う人員が必要になります。
体制の整え方は発注者側の体制はどう組むのか?で扱っています。
騒音と振動はどう扱うのか?
工程で調整します。
| 作業 | 影響 |
|---|---|
| はつり(コンクリートの削り) | 騒音と振動が大きい |
| 穿孔(アンカーの穴あけ) | 騒音が大きい |
| 解体 | 騒音と振動が大きい |
| 足場の組立て・解体 | 騒音が大きい |
| 塗装 | 臭気 |
| 内装の施工 | 比較的小さい |
| 設備の配管・配線 | 比較的小さい |
時間帯を決める
騒音と振動を伴う作業は、授業のない時間帯に寄せます。放課後、土日、長期休業。
ただし放課後は部活動があり、土日も使用されることがあります。学校の年間の予定と突き合わせて、作業できる時間帯を確定してください。
試験の時期を確認する
定期試験、入学試験、模擬試験。この期間は騒音を伴う作業を止める必要があります。
学校の年間行事予定を工程表に重ねてください。後から判明すると、工期が押します。
耐震補強は騒音が大きい
耐震補強は、既存の構造体に穴をあけ、鉄骨やコンクリートを取り付ける工事です。はつりと穿孔が多く、騒音と振動が大きくなります。
このため耐震補強は、長期休業に集中させる工程が組まれることが多くなります。
近隣への説明も必要
学校の工事は、近隣住民にも影響します。騒音、工事車両の通行、早朝の作業。
近隣への説明と、苦情の窓口を決めてください。学校に苦情が入ると、教職員の負担になります。
粉じんとアスベストはどうするのか?
調査が先に来ます。
石綿については、大気汚染防止法に基づき、令和4年4月1日から事前調査結果の報告が義務づけられています。報告の対象は、解体部分の床面積の合計が80平方メートル以上の解体工事と、請負代金の合計額が100万円以上(税込)の改修工事です。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 事前調査 | 石綿の有無を調査する |
| 報告 | 対象となる工事は報告が義務 |
| 除去の方法 | 石綿の種類と場所で工法が決まる |
| 作業の区画 | 負圧養生など |
| 作業の時期 | 使用中の建物では慎重な計画が必要 |
調査の結果が出ないと工事費が確定しない
石綿が見つかれば、除去の工法と費用が加わります。調査の結果が出る前の見積りは、確定した額ではありません。
調査の進め方は学校のアスベスト調査はどう進めるのか?で扱っています。
使用中の建物での除去
児童生徒が通っている建物で石綿の除去を行う場合、作業の区画と時期の計画が重要になります。
長期休業に寄せる、または仮設校舎に移って行う判断になることがあります。安全を優先してください。
石綿以外の粉じん
コンクリートのはつり、内装の解体、床材の撤去。これらも粉じんが出ます。
仮設の間仕切りで区画し、空気の流れを工事側から使用側へ向かわせない計画が必要です。
塗装の臭気
外壁や内装の塗装では臭気が出ます。使用中の教室に流れ込むと、授業が成立しません。
水性の材料を選ぶ、換気の計画を立てる、時間帯を調整する。いずれかの対応が必要です。
動線と手続きはどうするのか?
経路を分けます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 工事車両の経路 | 校門から工事範囲まで |
| 資材の搬入 | 時間帯と置き場所 |
| 作業員の出入り | 専用の出入口 |
| 児童生徒の動線 | 工事範囲を通らない経路 |
| 避難経路 | 工事中も確保する |
| 工事範囲の囲い | 立入りを防ぐ |
工事車両と児童生徒を交差させない
工事車両の通行時間と、登下校の時間を分けてください。校門が1つしかない学校では、時間帯での調整になります。
誘導員の配置が必要になる場合があります。
避難経路を確保する
工事で避難経路が塞がれると、その範囲は使用できません。工区の設定と同時に、避難経路を確認してください。
階段が1つしかない棟では、工事の範囲が制約されます。
作業員の立入りの管理
工事範囲以外に作業員が立ち入らないよう、囲いと表示を設けます。児童生徒がいる建物での工事では、この管理が必要です。
仮使用の手続き
確認を受けた工事では、完了検査を受ける前に建物を使う場合に、仮使用の手続きが関わります。
確認申請が必要になる工事の線引きは学校の改修に建築確認は必要なのか?で扱っています。工程を組む段階で、この手続きの期間を見込んでください。
プールと体育館は別に考える
プールの改修は夏季に使えなくなるため、水泳の授業の計画と調整が必要です。体育館の改修は体育の授業と部活動に影響します。
代替の場所があるか、授業の内容を変えられるかを、学校と調整してください。
保護者への説明
工事の期間、作業の時間帯、動線の変更、使えなくなる施設。これらを保護者に伝えてください。
| 伝えること | 内容 |
|---|---|
| 工事の期間 | 全体の工期と工区ごとの時期 |
| 作業の時間帯 | 騒音を伴う作業の時間 |
| 登下校の経路 | 変更がある場合 |
| 使えない施設 | プール、体育館、特別教室 |
| 安全の管理 | 囲い、誘導員の配置 |
| 連絡先 | 苦情と問い合わせの窓口 |
説明がないまま工事が始まると、学校に問い合わせが集中します。工事が始まる前に、学校を通じて文書で伝えてください。
よくある質問
Q. 保護者への説明は必要ですか。
A. 必要です。工事の期間、作業の時間帯、登下校の経路の変更、使えなくなる施設、連絡先を、工事が始まる前に学校を通じて文書で伝えてください。
Q. 改修中も授業はできますか。
A. できます。ただし騒音、振動、粉じん、動線、アスベストの5点を設計と工程で押さえる必要があります。
Q. 工区はどう分けますか。
A. 階、棟、平面、外部と内部、時期のいずれかで分けます。工事する範囲と使う範囲を仮設の間仕切りで区画し、避難経路を確保してください。
Q. 騒音の大きい作業はいつ行いますか。
A. 授業のない時間帯に寄せます。ただし放課後は部活動があり、土日も使用されることがあります。学校の年間予定と突き合わせてください。
Q. アスベストがある場合はどうしますか。
A. 事前調査の結果で工法が決まります。令和4年4月1日から、解体部分の床面積80平方メートル以上の解体工事と請負代金100万円以上の改修工事で、調査結果の報告が義務づけられています。
Q. 仮設校舎を建てるべきですか。
A. 工事の範囲と工期で判断します。工区を分けて3年かかる工事が、仮設校舎なら1年で終わることがあります。仮設校舎の費用と工期が延びる費用を比べてください。
Q. 完了検査の前に使えますか。
A. 確認を受けた工事では、仮使用の手続きが関わります。工程を組む段階で、この手続きの期間を見込んでください。
まとめ
学校の改修は、児童生徒が通っている間に行う居ながら工事が一般的です。仮設校舎には費用と用地が必要なためです。
ただし条件があります。騒音、振動、粉じん、動線、アスベストの5点を、設計と工程で押さえる必要があります。このうち設計で解決できるのは区画と動線で、騒音と振動は工程で調整し、アスベストは調査の結果で工法が決まります。
工区は階、棟、平面、外部と内部、時期のいずれかで分けます。工事する範囲と使う範囲を仮設の間仕切りで区画し、避難経路を確保してください。工区に含まれる教室の移動先が足りないと、工区を細かく分けることになり工期が延びます。
騒音の大きい作業は授業のない時間帯に寄せますが、放課後の部活動と土日の使用、定期試験と入学試験の時期を確認してください。耐震補強ははつりと穿孔が多く、長期休業に集中させる工程になることが多くあります。
石綿については、令和4年4月1日から事前調査結果の報告が義務づけられています。解体部分の床面積80平方メートル以上の解体工事と、請負代金100万円以上の改修工事が対象です。調査の結果が出る前の見積りは確定した額ではありません。
そして工区を分けて工期が延びる場合、仮設校舎と比べてください。3年かかる工事が1年で終わるなら、仮設校舎のほうが総額で有利になることがあります。
参考・出典
- e-Gov法令検索「建築基準法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201
- e-Gov法令検索「大気汚染防止法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/343AC0000000097
- 環境省「石綿飛散防止対策」 https://www.env.go.jp/air/asbestos/
- 文部科学省「学校施設の改修における騒音等への配慮」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/shuppan/index.htm
- 厚生労働省「石綿障害予防規則」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/sekimen/index.html
記載の法令および制度は公表時点のものです。仮使用の手続き、事前調査の報告の要否および工事の進め方は計画の内容と所管の運用により異なります。個別の適用は特定行政庁、労働基準監督署、所管の環境部署および設計者にご確認ください。
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