目次
床荷重・書架計画・用途変更の実務
廃校を図書館にする構想は、相性がよさそうに見えて、床の問題でつまずきます。
教室は書架を並べるのに向いた形です。採光があり、天井が高く、間仕切りが少ない。地域の中心にあり、駐車場も確保できる。
しかし書架を詰めて並べると、床にかかる荷重が教室の設計時の想定を超えることがあります。校舎の床は、児童生徒が机に向かって座る状態を前提に設計されています。書架は面積あたりの重量が大きく、しかも一度置いたら動かしません。
この確認を飛ばして計画を進めると、設計の終盤で書架の配置を変えることになります。
この記事では、①法令上の位置づけ、②用途変更の扱い、③床荷重の確認、④書架計画、⑤設備と環境、の5点を整理します。
この記事の要点
- 図書館は建築基準法施行令第137条の18第6号の区分(博物館、美術館、図書館)に含まれるが、学校はこの11区分のいずれにも含まれない
- したがって学校から図書館への用途変更は類似の用途に当たらず、200平方メートルを超えれば確認申請が必要
- 図書館は消防法施行令別表第一の(8)項で、特定防火対象物には該当しない
- 床の積載荷重は建築基準法施行令第85条が室の種類ごとに定めており、書架を置く範囲は確認が必要
- 書架の配置は構造の条件で決まるため、梁の位置を先に把握する
法令上はどう位置づけるのか?
公立図書館とするか、それ以外の読書施設とするかで扱いが変わります。
図書館は図書館法に基づく施設です。公立図書館として設置するなら、同法に基づく位置づけと、館長や司書の配置を含めた体制が必要になります。
| 位置づけ | 特徴 |
|---|---|
| 公立図書館 | 図書館法に基づく。体制の要件がある |
| 図書館の分館・分室 | 本館の一部として運営 |
| 公民館図書室 | 社会教育法に基づく公民館の事業として |
| 地域文庫・読書スペース | 地域団体が運営 |
| 複合文化施設の一部 | 他用途と併設 |
廃校を使う場合、本館を置くより分館や読書スペースとする例が多くなります。立地が市街地から離れていることが多く、来館者数の見込みが立てにくいためです。
蔵書の規模で判断が変わる
数千冊なら教室1室で収まり、床荷重の問題も小さくなります。数万冊になると、床の補強か配置の制約が出ます。
計画の最初に、何冊を置くのかを決めてください。これが決まらないと、床の検討も書架の検討も始まりません。
文化施設として複合させる例
図書だけでなく、郷土資料の展示、学習スペース、ギャラリー、ホールを合わせた複合施設にする例があります。この場合、用途が混ざるため消防法の扱いに注意が必要です。
用途変更の扱いはどうなるのか?
学校から図書館への変更は、類似の用途に当たりません。
建築基準法施行令第137条の18は、確認申請を要しない類似の用途の相互間の変更について第1号から第11号までの区分を定めています。第6号に博物館、美術館、図書館があります。
ただし学校は、この11区分のいずれにも含まれていません。したがって学校から図書館への変更は類似の用途に当たらず、用途を変更する部分の床面積が200平方メートルを超えれば、建築基準法第87条第1項により確認申請が必要になります。
| 計画 | 確認申請 |
|---|---|
| 校舎の複数階を図書館にする | 必要 |
| 200平方メートルを超える部分を図書館にする | 必要 |
| 200平方メートル以下に収める | 不要(実体規定は守る) |
| 図書館を美術館に変える(転用後) | 第6号の相互間なので不要 |
転用後に図書館から美術館へ変える場合は、第6号の区分の中での変更になるため扱いが変わります。将来の変更まで見込むなら、最初に第6号の用途に入れておく意味があります。
確認申請の面積の考え方は用途変更の確認申請は200㎡からなのか?で扱っています。
消防法では非特定のまま
学校は消防法施行令別表第一の(7)項、図書館は(8)項です。どちらも特定防火対象物には該当しません。
このため、消防用設備等の遡及適用の負担は、集会場や物販店舗への転用より小さく収まる可能性があります。ただし消火器、避難器具、誘導灯などは用途を問わず現行基準が適用されます。
複合させると扱いが変わる
カフェや物販、集会のスペースを併設すると、複合用途防火対象物として(16)項イに該当し、特定防火対象物になる可能性があります。
図書館単独なら非特定で収まるところが、併設で変わります。収益を得るための併設と、消防設備の費用増を比べてください。
床荷重はどう確認するのか?
建築基準法施行令第85条が室の種類ごとに積載荷重を定めています。
床の構造計算に用いる積載荷重は、室の種類によって異なります。校舎の教室は教室としての値で設計されており、書庫や倉庫として設計された床とは前提が違います。
| 確認すること | 内容 |
|---|---|
| 設計時の積載荷重 | 構造計算書で室種別の値を確認 |
| 書架の重量 | 段数、奥行、通路幅から面積あたりの重量を算出 |
| 梁と柱の位置 | 荷重を集められる位置を把握 |
| 床スラブの厚さと配筋 | 既存図と現地で確認 |
| 構造計算書の有無 | ない場合は構造の調査が必要 |
構造計算書がない校舎では、まず既存の図面と現地の調査が必要です。竣工図、構造図、構造計算書のうち何が残っているかを、先に庁内で確認してください。
書架は面積あたりの重量が大きい
書架は高さがあり、段ごとに本が詰まります。通路を狭くして収納効率を上げると、面積あたりの重量はさらに増えます。
同じ蔵書数でも、書架を低くして広く配置するか、高くして詰めるかで床への影響が変わります。構造の条件から書架の仕様を決める順序になります。
補強より配置の工夫が先
床を補強する工事は、梁の増設や床スラブの増厚を伴い、金額が大きくなります。
その前に、書架を梁の近くに寄せる、重い資料を1階に置く、開架の冊数を抑えて閉架を別室にするなど、配置で解く方法を検討してください。
1階と地階が有利
床の荷重を考えると、1階は地面に近く条件がよくなります。重量のある閉架書庫や郷土資料の保管は、1階に置くのが基本です。
耐震性能の確認も必要です。判断の考え方は廃校の耐震性能はどう判断するのか?で扱っています。
書架計画はどう立てるのか?
構造と動線の両方で決まります。
| 検討項目 | 内容 |
|---|---|
| 開架と閉架の分け方 | 来館者が手に取る範囲を絞る |
| 書架の高さ | 手が届く高さ、転倒防止 |
| 通路幅 | 車椅子の通行、すれ違い |
| カウンターの位置 | 入口から見える位置 |
| 閲覧席 | 窓際に配置すると落ち着く |
| 持出しの管理 | 出入口を1つに絞る |
教室の形は、書架を壁沿いに並べて中央に閲覧席を置く配置に向いています。間仕切りを抜いて2教室をつなげれば、まとまった面積が取れます。
転倒防止は必須
書架の転倒は、地震時の危険とともに避難経路を塞ぐ要因になります。床または壁への固定を前提に計画してください。
天井から吊る方法は、既存の天井の構造によって成立しないことがあります。
車椅子の動線を確保する
通路幅を書架の収納効率だけで決めると、車椅子が通れません。バリアフリーの考え方は廃校のバリアフリー改修はどこまでやるのか?で扱っています。
来館者数を見込む
利用が少なければ、司書や受付の人件費が負担になります。地域の人口と交通の条件から、来館者数を控えめに見込んでください。
設備と環境はどうするのか?
資料の保存と来館者の快適性の両方が関わります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 空調 | 通年の温湿度管理。資料の保存に影響する |
| 日射 | 直射日光は資料を傷める。遮蔽が必要 |
| 照明 | 書架の棚板で影ができる。配置を考える |
| 電源 | 閲覧席のコンセント、館内の端末 |
| 通信 | 蔵書管理システム、来館者用の回線 |
| 防湿 | 1階と地階は湿気に注意 |
学校の教室は南面に大きな窓があります。採光は利点ですが、資料にとっては直射日光が問題になります。遮蔽の計画が必要です。
空調の負荷が上がる
学校は授業のある時間帯だけ空調を入れる前提でした。図書館として通年で開館すれば、空調の稼働時間が大きく増えます。
断熱の考え方は廃校の断熱改修はどこまでやるのか?で扱っています。光熱費は毎年の固定費になります。
郷土資料は別扱いにする
閉校する学校には、地域の歴史資料や卒業生の記録が残っていることがあります。これらを図書館の郷土コーナーに引き継ぐ構想は自然ですが、扱いは一般の蔵書と違います。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 保管の条件 | 温湿度の管理が必要なものがある |
| 公開の範囲 | 個人情報を含む資料は非公開 |
| 目録の作成 | 何があるかを先に整理する |
| 閲覧の方法 | 開架に出さず、申請による閲覧とする |
目録がないまま段ボールで引き継ぐと、そのまま倉庫に積まれて終わります。閉校の前年度から整理を始めてください。
よくある質問
Q. 学校に残っている郷土資料はどう扱いますか。
A. 一般の蔵書とは分けてください。温湿度管理が必要なもの、個人情報を含むものがあります。目録を作らずに引き継ぐと倉庫に積まれて終わります。
Q. 用途変更の確認申請は必要ですか。
A. 学校は建築基準法施行令第137条の18の11区分に含まれないため、図書館への変更は類似の用途に当たりません。200平方メートルを超えれば必要です。
Q. 消防設備の負担は大きくなりますか。
A. 図書館は消防法施行令別表第一の(8)項で特定防火対象物には該当しません。ただし消火器、避難器具、誘導灯などは用途を問わず現行基準が適用されます。
Q. 床の補強は必ず必要ですか。
A. 蔵書数と配置によります。書架を梁の近くに寄せる、重い資料を1階に置く、閉架を分けるなど配置で解く方法を先に検討してください。
Q. 何から確認しますか。
A. 置く冊数です。これが決まらないと床の検討も書架の検討も始まりません。次に構造計算書と既存図面の有無を確認します。
Q. 教室の大きな窓は使えますか。
A. 採光には有利ですが、直射日光は資料を傷めます。遮蔽の計画が必要です。閲覧席を窓際に置く配置は相性がよくなります。
Q. 将来ギャラリーに変える可能性がある場合はどうしますか。
A. 博物館、美術館、図書館は施行令第137条の18第6号の同じ区分です。この区分の中での変更であれば扱いが変わります。
まとめ
廃校を図書館にする構想は、教室の形と立地の面では相性がよいものの、床荷重で制約を受けます。校舎の床は児童生徒が座る状態を前提に設計されており、書架を詰めて並べる前提ではありません。
法令上は、学校が建築基準法施行令第137条の18の11区分のいずれにも含まれないことが出発点です。第6号に博物館、美術館、図書館がありますが、学校はそこに入らないため、図書館への変更は類似の用途に当たりません。200平方メートルを超えれば確認申請が必要になります。
消防法では、学校の(7)項から図書館の(8)項への変更で、どちらも特定防火対象物には該当しません。ただしカフェや物販を併設すると(16)項イの複合用途になり、扱いが変わる可能性があります。
床については、建築基準法施行令第85条が室の種類ごとに積載荷重を定めています。構造計算書で設計時の値を確認し、書架の重量と配置を突き合わせてください。補強工事より、書架を梁の近くに寄せる、重い資料を1階に置く、閉架を分けるといった配置での対応が先に来ます。
計画の最初に決めるのは置く冊数です。そして書架の転倒防止、車椅子の通路幅、直射日光の遮蔽、通年開館による空調負荷。この5つを押さえれば、設計の終盤での手戻りは減ります。
参考・出典
- e-Gov法令検索「図書館法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000118
- e-Gov法令検索「建築基準法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201
- e-Gov法令検索「建築基準法施行令」 https://laws.e-gov.go.jp/law/325CO0000000338
- e-Gov法令検索「消防法施行令」 https://laws.e-gov.go.jp/law/336CO0000000037
- 文部科学省「廃校施設活用状況実態調査」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/yoyuu_00002.htm
記載の法令および制度は公表時点のものです。積載荷重の適用、用途変更の判定および消防用設備等の要件は建物の状況と所管行政庁の運用により異なります。個別の適用は所管行政庁、消防本部および構造設計者にご確認ください。
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