この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

廃校のバリアフリー化はどこまで必要か?

用途別の義務と整備の順序

廃校を不特定多数が使う施設にするとき、エレベーターで止まることがあります。

学校には、もともとエレベーターがない建物が多くあります。文部科学省の調査では、校舎のエレベーター整備率は令和6年度時点で32.9パーセントです。7割近い学校にエレベーターがありません。

学校として使っている間は、それで運用してきました。しかし地域交流施設や福祉施設に変えるとなると、話が変わります。車椅子の利用者が2階に上がれない施設を、公共施設として開くことはできません。

エレベーターの新設は、建築的にも費用的にも小さな工事ではありません。設置場所、構造の補強、電気容量。転用の計画が成り立つかどうかを左右します。

この記事では、①法令上の位置づけ、②転用後の用途による違い、③学校のバリアフリー化の現状、④費用がかかる部分、⑤整備の順序、の5点を整理します。

この記事の要点

  • 令和3年4月1日施行の改正バリアフリー法で、公立の小中学校等が特別特定建築物に位置づけられた
  • 特別特定建築物は、一定規模以上の新築等を行う場合に建築物移動等円滑化基準への適合義務の対象となる
  • 文部科学省の令和6年度調査では、校舎のエレベーター整備率は32.9パーセント
  • 同調査で車椅子使用者用トイレ(校舎)は77.2パーセント、スロープによる段差解消(門から建物前まで、校舎)は85.6パーセント
  • 文部科学省は令和8年度から令和12年度までの整備目標を示している

バリアフリー法での学校の扱いはどうなっているのか?

公立の小中学校等は特別特定建築物です。

高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律では、不特定かつ多数の者が利用する建築物などを特別特定建築物として定め、一定規模以上の新築等を行う場合に建築物移動等円滑化基準への適合を義務づけています。

令和3年4月1日施行の改正により、公立の小中学校等がこの特別特定建築物に新たに位置づけられました。

区分扱い
特定建築物建築物移動等円滑化基準への適合は努力義務
特別特定建築物一定規模以上の新築等で適合義務

ここで押さえておきたいのは、適合義務がかかるのは一定規模以上の新築等を行う場合だという点です。既存の校舎をそのまま使い続けている間に、遡って適合を求められるわけではありません。

転用では何が効くのか

用途変更そのものに、バリアフリー法の適合義務が直ちにかかるわけではありません。規模要件と工事の内容によって扱いが変わります。

一方で、転用後の用途が福祉施設や集会場であれば、その用途としての基準が関わります。また条例で上乗せの規定を設けている自治体もあります。

適合義務の有無は、転用後の用途、床面積、工事の内容で決まります。計画の初期に所管行政庁へ確認してください。

学校のバリアフリー化の制度は学校のバリアフリー化はどう進めるか?で扱っています。

学校のバリアフリー化はどこまで進んでいるのか?

項目によって大きな差があります。

文部科学省が示す公立小中学校等施設のバリアフリー化に関する整備目標では、令和6年度調査時点の整備率として次の数値が挙げられています。

項目整備率(令和6年度調査)
車椅子使用者用トイレ(校舎)77.2パーセント
スロープ等による段差解消(門から建物前まで、校舎)85.6パーセント
エレベーター(校舎)32.9パーセント

トイレとスロープは8割前後まで整備されていますが、エレベーターは3分の1にとどまります。

なぜエレベーターだけ遅れているのか

工事の規模が違うためです。

トイレの改修は1室の工事で済みます。スロープは屋外の土工事です。これに対してエレベーターは、昇降路を新設し、ピットを掘り、機械室か巻上機の設置場所を確保し、構造の検討をして、電気容量も見直すことになります。

学校として使っている間は、対象となる児童生徒がいなければ後回しにされてきました。その結果が32.9パーセントという数字です。

今後の整備目標

文部科学省は令和8年度から令和12年度までの整備目標を示しており、令和12年度末までに、スロープ等による段差解消は全ての学校に、車椅子使用者用トイレは避難所に指定されている全ての学校に、エレベーターは要配慮児童生徒等が在籍する全ての学校に整備するとしています。

学校として存続する施設については、この目標に沿って整備が進みます。廃校になった施設はこの目標の対象外ですが、転用後の用途によって別の基準が関わります。

転用後の用途で何が変わるのか?

求められる水準が変わります。

転用後の用途バリアフリーの求められ方
福祉施設(介護・障害福祉・保育)事業ごとの設備基準でも求められる。水準は高い
地域交流施設・集会場不特定多数が使う。公共施設として高い水準が求められる
図書館・博物館同上
宿泊施設客室の基準を含めて求められる
事務所・工場・倉庫従業員が中心。水準は相対的に低い
倉庫(無人に近い運用)求められる範囲は限られる

福祉施設への転用は、バリアフリー法とは別に、事業の指定を受けるための設備基準があります。こちらのほうが具体的で厳しいことが多く、実務ではそちらが主役になります。

福祉施設の設備基準は、廊下の幅、出入口の有効幅、便所の構造まで具体的に定められています。バリアフリー法の基準を満たしていても、事業の基準を満たさないことがあります。

自治体が所有したまま貸す場合

公共施設としての性格が残ります。所有者が自治体である以上、バリアフリーへの配慮を欠いた施設を市民に開くことは説明がつきません。

法令上の義務の有無とは別に、政策的な判断としてどこまで整備するかを決めることになります。この判断を公募の前にしておかないと、事業者に過大な負担を求める結果になります。

どこに費用がかかるのか?

エレベーターが中心です。

項目費用がかさむ要因
エレベーター昇降路の新設、ピットの掘削、構造の補強、電気容量の増設
多目的トイレ給排水の経路、面積の確保、既存トイレの改修を伴う
玄関の段差既存の高低差、スロープの勾配を取るための距離
廊下・出入口の幅既存の壁位置の変更を伴う場合
駐車場車椅子使用者用の区画と、建物までの経路

エレベーターは設置場所の確保が最初の壁です。校舎の廊下は片廊下型が多く、昇降路を置ける場所が限られます。外部に増築する形にすれば内部の間取りは守れますが、建蔽率や接道の条件が関わります。

エレベーターの設置については学校施設のエレベーターの設置はどう進めるか?にまとめています。

増築扱いになる場合

外部にエレベーターを増築すると、増築として建築確認が必要になる場合があります。その場合、既存部分についても一定の規定が関わります。

既存不適格と遡及の論点は廃校の既存不適格と遡及適用とは?で扱っています。

学校に多い段差はどこか?

意外な場所で止まります。

場所段差が生まれる理由
昇降口上足と下足を分けるため、床のレベルが変わる
渡り廊下の接続部棟ごとに床のレベルが違う
体育館の床競技用の床組で、校舎より高いことが多い
屋外から建物へ雨仕舞いのため、玄関前で立ち上がる
和式トイレの床給排水の勾配のため、床を上げている

昇降口の段差は、学校固有の事情から生まれています。靴を履き替える文化がある限り、床のレベルは変わります。転用後は履き替えをやめることが多いので、その段差をどう処理するかが設計の論点になります。

渡り廊下の接続部も厄介です。棟ごとに基礎の高さが違うため、わずかな段差やスロープが入っています。車椅子で通るには勾配が急すぎることがあります。

体育館は別棟として考える

体育館は床のレベルが校舎と違い、トイレも別系統であることが多い建物です。スポーツ施設や多目的ホールとして単独で使うなら、校舎とは別にバリアフリーの計画を立てたほうが整理できます。

どういう順序で整備するのか?

利用者の動線に沿って考えます。

順序内容
1. 敷地内の経路駐車場から建物の出入口まで。段差と勾配
2. 主要な出入口段差の解消、扉の形式と幅
3. 1階の主要諸室とトイレまず1階で用が足りる状態をつくる
4. 上下階の移動エレベーターまたは段差解消機
5. 上階の諸室上階を使う計画の場合

予算が限られる場合、3までを優先して1階完結型の運用にする方法があります。主要な機能を1階に集め、上階は事務や倉庫に使う。この割り切りで、エレベーターの新設を見送ることができます。

1階完結型という選択

転用後の用途によっては、この方法で十分成立します。地域交流施設で、集会室と多目的トイレと事務室が1階にあれば、2階に上がる必要のない利用者がほとんどです。

ただし上階に人を呼ぶ計画なら、この方法は取れません。計画の初期に、どの機能をどの階に置くかを決めてください。部分活用の考え方は廃校の部分活用と減築はどう判断するのか?で扱っています。

よくある質問

Q. 学校はバリアフリー法でどう扱われますか。

A. 令和3年4月1日施行の改正により、公立の小中学校等が特別特定建築物に位置づけられました。一定規模以上の新築等を行う場合に適合義務の対象となります。

Q. 用途変更だけでバリアフリーの適合義務がかかりますか。

A. 規模要件と工事の内容によります。条例で上乗せがある自治体もあるため、所管行政庁に確認してください。

Q. 学校にエレベーターはどれくらい整備されていますか。

A. 文部科学省の令和6年度調査では、校舎で32.9パーセントです。7割近くに設置されていません。

Q. エレベーターを付けずに転用できますか。

A. 主要な機能を1階に集める1階完結型であれば成立する場合があります。上階に利用者を呼ぶ計画では取れません。

Q. 一番費用がかかるのはどこですか。

A. エレベーターです。昇降路の新設、構造の補強、電気容量の増設が伴います。

Q. 自治体が所有したまま貸す場合はどうなりますか。

A. 法令上の義務とは別に、公共施設としてどこまで整備するかを政策的に判断することになります。公募の前に決めてください。

まとめ

廃校を不特定多数が使う施設に転用するとき、バリアフリーが計画の成否を左右します。令和3年4月1日施行の改正バリアフリー法で公立の小中学校等が特別特定建築物に位置づけられ、一定規模以上の新築等を行う場合は建築物移動等円滑化基準への適合義務の対象になります。

学校のバリアフリー化は項目によって進み方が違います。文部科学省の令和6年度調査では、車椅子使用者用トイレ(校舎)が77.2パーセント、スロープ等による段差解消が85.6パーセントであるのに対し、エレベーター(校舎)は32.9パーセントにとどまります。

費用の中心はエレベーターです。昇降路の新設、ピットの掘削、構造の補強、電気容量の増設が伴います。設置場所の確保も片廊下型の校舎では容易ではありません。

予算が限られる場合、主要な機能を1階に集める1階完結型の運用で、エレベーターの新設を見送る方法があります。ただし上階に利用者を呼ぶ計画では取れません。どの機能をどの階に置くかを、計画の初期に決めてください。

自治体が所有したまま民間に貸す方式では、法令上の義務とは別に、公共施設としてどこまで整備するかの判断が必要です。これを公募の前に決めておかないと、事業者に過大な負担を求めることになります。

参考・出典

記載の制度・基準は公表時点のものです。適合義務の対象となる規模、条例による上乗せの規定および転用後の用途ごとの基準は所管行政庁により異なります。個別の適用は所管行政庁および事業の所管部署にご確認ください。

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