この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

廃校を観光交流施設にできるのか?

用途変更と収益化の設計

廃校を観光交流施設にする計画は、提案書の段階では魅力的に見えます。

教室で地域の体験プログラムを行い、体育館でイベントを開き、家庭科室で地場の食材を調理する。校庭にキャンプサイトを置き、ショップで特産品を売る。グラウンドの広さと校舎の部屋数が、そのまま構想の広さになります。

問題は、どの機能を入れるかで法令上の扱いが変わり、工事費が段階的に跳ね上がる点です。飲食を入れれば特定防火対象物になり、物販を入れれば別の項が加わり、宿泊を入れればさらに別の法律が関わります。

そして収益の見込みは、来訪者数という最も外れやすい数字に依存します。

この記事では、①機能の組み合わせと法令、②用途変更の扱い、③消防法の扱い、④飲食を入れる場合、⑤収益の設計、の5点を整理します。

この記事の要点

  • 学校は建築基準法施行令第137条の18の11区分に含まれないため、観光交流施設への用途変更は類似の用途に当たらない
  • 飲食店は消防法施行令別表第一の(3)項ロ、物品販売は(4)項で、いずれも特定防火対象物に該当する
  • 用途が混ざると(16)項イの複合用途防火対象物として特定防火対象物になる
  • 食品を扱うには食品衛生法に基づく営業許可が必要で、令和3年6月1日から原則すべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理が義務づけられている
  • 機能を足すほど工事費が上がるため、収益に直結する機能から絞る

機能の組み合わせで何が変わるのか?

入れる機能ごとに、関わる法令が増えます。

機能 主に関わる法令
体験・研修(講義形式) 建築基準法
展示・ギャラリー 建築基準法
物販・直売 建築基準法、消防法
飲食の提供 食品衛生法、消防法
調理体験 食品衛生法
宿泊 旅館業法、建築基準法、消防法
屋外のキャンプ・BBQ 消防法、条例
入浴施設 公衆浴場法

構想の段階では「全部やる」という計画が出てきます。しかし機能を足すほど、必要な手続きと設備が増えます。

収益に直結する機能から並べる

まず収益の柱を1つ決め、そこから必要な機能を足す順序にしてください。体験プログラムが柱なら、飲食は弁当の持込みで足りることもあります。物販が柱なら、調理は外部に委託する形もあります。

全機能を自前で持つと、工事費と人員の両方が重くなります。

段階的に広げる前提で設計する

初年度は体験と物販だけ、2年目に飲食、3年目に宿泊という段階を置く計画があります。この場合、将来の機能に必要な配管や電源の経路を最初に仕込んでおくと、後の工事費が下がります。

ただし使わない設備を先に入れると、無駄になります。経路だけ確保し、機器は後にするのが基本です。

用途変更の扱いはどうなるのか?

学校からの変更は、すべて類似の用途に当たりません。

建築基準法施行令第137条の18は、確認申請を要しない類似の用途の相互間の変更について第1号から第11号までの区分を定めています。学校はこの11区分のいずれにも含まれていません。

したがって用途を変更する部分の床面積が200平方メートルを超えれば、建築基準法第87条第1項により確認申請が必要になります。

計画 確認申請
校舎を物販店舗にする 必要
校舎を飲食店にする 必要
200平方メートル以下に収める 不要(実体規定は守る)
体育館を体育施設として使い続ける 用途は変わらない

既存不適格の扱いは廃校の既存不適格はどこまで遡るのか?で扱っています。確認申請を出せば、建築基準法第87条第3項により防火、避難、内装制限の規定が準用されます。

用途地域と区域の確認が先に来る

転用後の用途が、その立地で成立するかを先に確認してください。郊外の小規模校は市街化調整区域に立地していることがあり、この場合は都市計画法の開発許可が論点になります。

用途地域の制限で物販や飲食が建てられない地域もあります。建築基準法の検討より前の確認です。

校庭の扱いを決める

グラウンドを駐車場にするのか、キャンプサイトにするのか、そのまま広場にするのか。屋外部分の計画は、観光交流施設では収益にも安全にも関わります。

舗装、照明、トイレ、排水。屋外の整備費は見落とされやすい項目です。

消防法ではどう扱われるのか?

機能を足すと特定防火対象物になります。

学校は消防法施行令別表第一の(7)項で、特定防火対象物には含まれません。一方、飲食店は(3)項ロ、物品販売業を営む店舗は(4)項で、いずれも特定防火対象物に該当します。

用途 項 特定防火対象物
学校 (7)項 該当しない
料理店、飲食店 (3)項ロ 該当する
百貨店、マーケット、店舗、展示場 (4)項 該当する
旅館、ホテル、宿泊所 (5)項イ 該当する
公会堂、集会場 (1)項ロ 該当する
複合用途(特定用途を含む) (16)項イ 該当する

特定防火対象物に該当すると、消防法第17条の2の5により消防用設備等が現行基準に適用されます。自動火災報知設備やスプリンクラー設備が必要になれば、金額が大きく動きます。

消防設備の要件は廃校の転用で消防設備はどこまで必要か?で扱っています。

小さな売店で区分が変わる

物販のコーナーを置くかどうかで、複合用途防火対象物として(16)項イに該当するかが変わることがあります。売店の収益と設備の費用増を比べて判断してください。

計画の初期に消防本部と相談し、どの構成なら設備がどうなるかを確認するのが確実です。

屋外の火気使用

BBQ、炭火の調理、たき火を行う場合、火気の使用に関する条例の規定が関わります。市町村の火災予防条例で届出や制限が定められていることがあります。

屋外のプログラムは建築の手続きとは別の確認が必要です。

飲食を入れる場合は何が必要か?

食品衛生法に基づく営業許可と衛生管理です。

食品を調理して提供する場合、食品衛生法に基づく営業許可が必要です。許可の基準は施設の構造と設備に関するもので、都道府県等の条例で定められています。

確認項目 内容
営業許可の業種 飲食店営業、菓子製造業など
施設基準 洗浄設備、手洗い、区画、床と壁の仕上げ
給排水 給水の水質、排水の経路
従事者 食品衛生責任者の設置
衛生管理 HACCPに沿った衛生管理

令和3年6月1日から、原則としてすべての食品等事業者がHACCPに沿った衛生管理に取り組むことが義務づけられています。衛生管理計画を作成し、従業員に周知し、記録して保存し、定期的に検証する運用が必要です。

家庭科室はそのままでは使えない

家庭科室には調理台とシンクがあるため、そのまま使えると考えられがちです。しかし家庭科室は授業のための設備で、営業許可の施設基準を満たしていないことがほとんどです。

区画、手洗い設備、床と壁の仕上げ、排水のグリストラップ。これらを整えると、実質的に厨房を新設することになります。

給排水の確認が先に来る

学校の給排水は、給食室を除けば調理を前提にしていません。給水の容量、排水の経路と処理、グリストラップの設置場所を確認してください。

浄化槽の校舎では、排水の増加が浄化槽の能力を超えることがあります。浄化槽の人槽は在校していた児童生徒数で決まっており、飲食の排水を加えると前提が変わります。

給食室を活かせる場合もある

給食室が残っている校舎では、既存の厨房設備と排水設備を活かせる可能性があります。ただし設備の老朽化と、提供の形態が給食と異なる点を確認してください。

収益はどう設計するのか?

来訪者数を外れる前提で組みます。

収入源 特徴
体験プログラム 単価は取れるが人員が必要
物販 在庫と仕入れの管理が要る
飲食 回転と原価の管理が要る
施設の貸出し 人員が少なく済む
イベント 波が大きい
指定管理料・委託料 安定するが制度に依存する

観光系の計画でいちばん外れるのは来訪者数です。構想段階の想定が、開業後に半分以下になる例があります。

収支の立て方は廃校活用の収支計画はどう立てるのか?で扱っています。来訪者数を半分にしても人件費と光熱費が出るかを確認してください。

固定費を下げる構成にする

来訪者数が読めない施設では、固定費を下げる構成が有効です。使う範囲を絞り、常駐の人員を減らし、繁忙期だけ人を増やす。

通年で全館を開ける前提にすると、閑散期の光熱費と人件費が重くのしかかります。

繁忙期と閑散期の差を見る

観光系の施設は季節と曜日の波が大きくなります。夏休みと連休に集中し、平日の冬場は人が来ません。

項目 確認すること
季節の波 最も少ない月の来訪者数
曜日の波 平日の来訪者数
天候の影響 屋外プログラムの中止率
近隣の集客施設 競合か、相乗りか
交通手段 自家用車か、公共交通か

計画は最も少ない月で成り立つかを見てください。年間の合計で黒字でも、閑散期の資金が回らなければ続きません。

事業者の意向を先に聞く

自治体が構想を固めてから公募すると、応募がないことがあります。どういう条件なら成立するかを、先に事業者に聞いてください。

サウンディングの進め方は廃校活用のサウンディング調査とは何か?で扱っています。

よくある質問

Q. 用途変更の確認申請は必要ですか。

A. 学校は建築基準法施行令第137条の18の11区分に含まれません。物販や飲食への変更は類似の用途に当たらず、200平方メートルを超えれば必要です。

Q. 飲食を入れると消防設備はどうなりますか。

A. 飲食店は消防法施行令別表第一の(3)項ロで特定防火対象物に該当します。消防用設備等が現行基準に適用されます。

Q. 家庭科室で飲食を提供できますか。

A. そのままでは難しいです。家庭科室は授業のための設備で、営業許可の施設基準を満たしていないことがほとんどです。実質的に厨房の新設になります。

Q. HACCPへの対応は必要ですか。

A. 令和3年6月1日から、原則としてすべての食品等事業者が対象です。衛生管理計画の作成、記録の保存、定期的な検証が求められます。

Q. 機能はどこまで入れるべきですか。

A. 収益の柱を1つ決め、そこから必要な機能を足してください。全機能を自前で持つと工事費と人員の両方が重くなります。

Q. 来訪者数はどう見込みますか。

A. 構想段階の想定が開業後に半分以下になる例があります。半分にしても人件費と光熱費が出るかで判断してください。

まとめ

廃校を観光交流施設にする構想は、校舎の部屋数とグラウンドの広さがそのまま構想の広さになりがちです。しかし入れる機能ごとに関わる法令が増え、工事費が段階的に上がります。

学校は建築基準法施行令第137条の18の11区分に含まれないため、物販でも飲食でも類似の用途に当たらず、200平方メートルを超えれば確認申請が必要です。用途地域と市街化調整区域の確認は、建築基準法の検討より前に来ます。

消防法では扱いが大きく変わります。学校は(7)項で特定防火対象物に含まれませんが、飲食店は(3)項ロ、物品販売は(4)項、宿泊は(5)項イで、いずれも該当します。小さな売店を置くかどうかで(16)項イの複合用途になり、設備の要件が変わることがあります。

飲食を入れるなら食品衛生法に基づく営業許可が必要です。家庭科室はそのままでは施設基準を満たさず、実質的な厨房の新設になります。令和3年6月1日からHACCPに沿った衛生管理が原則すべての食品等事業者に義務づけられており、計画の作成と記録の保存が求められます。

収益は、来訪者数が外れる前提で組んでください。構想段階の想定が開業後に半分以下になる例があります。使う範囲を絞り、常駐の人員を減らし、繁忙期だけ人を増やす。そして自治体が構想を固める前に、事業者の条件を聞くことです。

参考・出典

記載の法令および制度は公表時点のものです。営業許可の施設基準は都道府県等の条例により異なり、用途変更の判定および消防用設備等の要件は所管行政庁および消防本部の運用により異なります。個別の適用は所管行政庁、保健所、消防本部および設計者にご確認ください。

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