私立学校の経営改善で施設はどう位置づけるか?

定員割れ7割時代の施設戦略

私立学校の経営改善というと、まず人件費や募集広報の話になります。施設は「お金がかかる側」に分類され、後回しにされがちです。

しかし施設は、支出であると同時に、募集力と将来の支出を左右する資産です。どの建物に投資し、どの建物を手放すか。この判断を先送りすると、老朽化した校舎の維持費が経営を圧迫し続けます。

この記事では、①私立学校の経営環境を数字で確認し、②経営判断指標と施設の関係、③施設戦略の4つの選択肢、④募集に効く投資の見極め方、⑤計画の立て方、の順に整理します。

この記事の要点

  • 令和7年度、私立高校は集計1,289校のうち918校(71.2%)が入学定員充足率100%未満
  • 私立大学は集計594校のうち316校(53.2%)が定員割れ。規模が小さいほど充足率が低い
  • 私学事業団の経営判断指標では、2023年度決算で大学・短大法人の26.3%がイエローゾーン
  • 施設戦略の選択肢は「投資」「維持」「縮小・集約」「転用・処分」の4つ
  • 施設の更新原資は、減価償却に見合う資金を積み立てられているかで決まる

私立学校の施設戦略とは何か?

私立学校の施設戦略とは、保有する校地・校舎を経営目標に照らしてどう使い、どこに投資し、何を手放すかを決める中長期の方針です。

個別の改修計画とは違います。改修計画は「どの建物をいつ直すか」を決めますが、施設戦略は「その建物をそもそも持ち続けるか」から考えます。

公立学校では個別施設計画として制度化されていますが、私立学校には同じ義務がありません。そのぶん、経営判断として自ら立てる必要があります。

私立学校の経営環境はどうなっているか?

定員割れが多数派になっています。日本私立学校振興・共済事業団の令和7年度の入学志願動向から確認します。

私立高校

項目令和7年度前年度
集計学校数1,289校1,293校
入学定員充足率84.07%83.27%
充足率100%未満の学校918校(71.2%)925校(71.5%)

私立高校の7割が定員を満たしていません。充足率は前年度からわずかに改善しましたが、構造は変わっていません。

私立大学

項目令和7年度
集計学校数594校
入学定員充足率101.61%
充足率100%未満の学校316校(53.2%)

全体の充足率は100%を超えていますが、これは大規模校が引き上げているためです。規模別に見ると差がはっきりします。

入学定員の規模入学定員充足率
100人未満79.74%
100〜200人未満86.90%
300〜400人未満91.01%
600〜800人未満99.92%
1,000〜1,500人未満104.09%
3,000人以上105.85%

入学定員1,000人以上の区分では充足率が100%を超え、それ未満の区分では下回っています。小規模校ほど厳しい状況です。

何が起きているか

学生・生徒数が減ると、授業料収入が減ります。一方、校舎の維持費は面積に比例するため、在籍者が減っても下がりません。1人あたりの施設コストが上がり続ける構造です。

この構造を変えられるのは、施設の側を動かす判断だけです。

経営判断指標と施設はどう関係するか?

日本私立学校振興・共済事業団は、学校法人の経営状態を定量的な指標で区分しています。

区分状態
正常状態(A1〜A3)教育活動資金収支差額が黒字
イエローゾーンの予備的段階(B0)経営に注視を要する
イエローゾーン(B1〜C3)教育活動資金収支差額が3か年のうち2か年以上赤字など
レッドゾーン(D1〜D3)自力再生が極めて困難

2023年度決算ベースでは、大学法人と短大・高専法人を合わせて、正常状態が468法人(70.8%)、イエローゾーンが174法人(26.3%)、レッドゾーンが19法人(2.9%)でした。短大・高専法人に限るとイエローゾーンは42.2%にのぼります。

積立率に施設が入っている

この指標で施設と直結するのが積立率です。

積立率 = 運用資産 ÷ 要積立額(減価償却累計額+退職給与引当金+2号基本金+3号基本金)

減価償却累計額が分母に入っています。つまり「建物が使った分に見合う資金を、将来の更新に向けて持っているか」が問われる構造です。

積立率が低い法人は、校舎が更新時期を迎えたときに自己資金で対応できません。借入か、補助金か、あるいは更新そのものを諦めるかの判断を迫られます。

なお、私学事業団の資料では、この指標には修繕費や今後の施設整備計画などの個別事情が十分に反映されない可能性があると留意されています。指標は出発点であり、施設の実態は別に把握する必要があります。

施設戦略にはどんな選択肢があるか?

4つです。建物ごとに、どれに当てはまるかを決めていきます。

投資する

募集力に直結する建物、または長期に使い続ける建物です。改修や建替えで機能と魅力を上げます。

投資対象は絞ります。すべての建物に均等に手を入れると、どれも中途半端になります。

維持する

当面は使い続けるが、大きな投資はしない建物です。安全と法令適合に必要な範囲で修繕します。

縮小・集約する

在籍者数に対して面積が過大な場合、使用する建物を減らします。空いた建物の維持費がなくなるだけで、年間の支出は確実に下がります。

複数キャンパスを持つ法人では、キャンパスの統合も選択肢になります。私立学校の統廃合・再編の進め方は私立学校の統廃合・再編を進める手順で扱っています。

転用・処分する

使わなくなった校地・校舎を、別用途に転用するか、賃貸・売却します。維持費の削減に加え、収入や一時的な資金を生む可能性があります。

ただし学校法人の基本財産の処分には手続きがあり、所轄庁との調整が必要です。また補助金を受けて整備した施設は、処分に制限がかかる場合があります。

募集に効く投資はどう見極めるか?

「見学に来た生徒・保護者が、最初に見る場所」から考えます。

接点の順に並べる

学校見学やオープンキャンパスで、来訪者が通る順路は決まっています。エントランス、受付、廊下、教室、実習室、トイレ、食堂。この順路上の空間が、学校の印象を決めます。

逆に、来訪者が見ない場所への投資は、募集効果が薄くなります。安全や法令の観点で必要なら実施しますが、募集投資とは区別します。

空間と学校の印象の関係は学校のブランディングと施設デザインの関係、内装の考え方は「選ばれる学校」をつくる内装デザインの基本にまとめています。

トイレは優先度が高い

トイレは来訪者が必ず使い、古さが最も伝わりやすい場所です。改修費用に対して印象の改善幅が大きい項目です。詳しくは学校トイレを快適にするデザインの勘所を参照してください。

専門学校は実習環境

専門学校では、実習室の設備が学科の実力として見られます。業界の現場と同等の設備があるかどうかが、志望校選びの判断材料になります。

専修学校向けの補助制度では、教育装置について専門課程等で1/2以内の補助率が設定されています。ただし補助対象事業経費の下限額が専門課程等で2,000万円以上と高いため、学科単位で計画をまとめる必要があります。詳しくは専修学校の補助金は下限額でどう決まるか?を参照してください。

投資と募集の関係を数字で見る

施設投資の効果は、見学者数、出願数、入学手続率の推移で追います。投資前と投資後を比較できるよう、投資前の数字を記録しておくことが重要です。

施設投資と定員確保の考え方は定員割れ対策としての施設投資の考え方にまとめています。

施設戦略はどう立てるか?

5つの手順で進めます。

1. 全建物の現状を把握する

建物ごとに、建築年、面積、構造、劣化状況、年間の維持費、使用率を一覧にします。公立学校で使われる建物カルテの考え方がそのまま使えます。建物カルテとは何か?を参照してください。

2. 将来の在籍者数を見通す

10年後、20年後の在籍者数を推計します。学科や課程ごとに見ると、どの建物が過大になるかが見えてきます。

3. 建物ごとに4つの選択肢を当てはめる

投資、維持、縮小・集約、転用・処分のどれにするかを決めます。

4. 40年の費用を比較する

選択肢ごとに、工事費と維持管理費を合わせた長期の費用を試算します。考え方は施設投資のROIはどう考えるか?で扱っています。

5. 財源を組み立てる

自己資金、借入、補助金の組み合わせを決めます。私立学校向けの国庫補助は私立学校施設整備費補助金の全体像を参照してください。

理事会での意思決定には、選択肢を比較できる資料が必要です。資料の作り方は理事会で施設投資を通すための資料はどう作るか?にまとめています。

よくある質問

Q. 定員割れの学校が施設に投資しても回収できますか。

A. 投資の対象次第です。募集の接点となる空間に絞った投資は効果を追いやすく、見学者数や出願数で検証できます。全面改修を一度に行うより、効果の見える範囲から始めるほうが判断しやすくなります。

Q. 積立率が低い場合、施設投資は諦めるべきですか。

A. 諦める前に、縮小・集約で維持費を減らせないかを検討します。使わない建物の維持費がなくなれば、その分を投資や積立に回せます。

Q. 使っていない校舎を貸すことはできますか。

A. 可能な場合があります。ただし学校法人の収益事業として扱われると課税関係が生じますし、補助金で整備した施設は処分制限がかかる場合があります。所轄庁と税務の専門家に確認してください。

Q. 施設戦略は誰が作るべきですか。

A. 経営判断なので、理事会の責任で作ります。ただし建物の状態の把握や費用の試算には建築の専門知識が必要なため、外部の専門家と組んで原案を作るのが現実的です。

Q. 公立学校の個別施設計画のような様式はありますか。

A. 私立学校に法定の様式はありません。文部科学省が公立学校向けに公表している長寿命化計画の手引や試算ソフトは、私立学校でも参考にできます。

まとめ

令和7年度、私立高校の71.2%、私立大学の53.2%が定員割れです。在籍者が減っても校舎の維持費は下がらないため、1人あたりの施設コストは上がり続けます。

私学事業団の経営判断指標では、2023年度決算で大学・短大法人の26.3%がイエローゾーンでした。指標の一つである積立率は減価償却累計額を分母に含んでおり、施設の更新原資を持っているかが経営評価に直結しています。

施設戦略の選択肢は、投資、維持、縮小・集約、転用・処分の4つです。すべての建物に均等に手を入れるのではなく、募集の接点となる空間に投資を絞り、使わない建物は手放す。この判断を先送りしないことが、経営改善の施設側の打ち手になります。

参考・出典

  • 日本私立学校振興・共済事業団「令和7(2025)年度 私立大学・短期大学等 入学志願動向」 https://www.shigaku.go.jp/files/shigan_doukouR7.pdf
  • 日本私立学校振興・共済事業団「私学経営情報」(令和7年度 私立高等学校入学志願動向) https://www.shigaku.go.jp/files/geppou338.pdf
  • 文部科学省「学校法人の経営の現状と私学事業団による経営相談等」 https://www.mext.go.jp/content/20250424-mxt-sigakugy-000041754_01.pdf
  • 日本私立学校振興・共済事業団「令和8年度 私立大学等研究設備整備費等補助金及び私立学校施設整備費補助金 事務処理要領(専修学校関係)」 https://www.mext.go.jp/content/20260220-mxt_syogai01-000047578_2.pdf

記載の数値・制度は公表時点のものです。最新の状況は各機関の公表資料でご確認ください。