目次
寄宿舎の扱いと水まわり
移住者向けの住宅として廃校を使う構想は、各地で検討されています。
教室はひと部屋として十分な広さがあり、廊下が共用の動線になる。体育館や調理室を共用部として使えば、交流の場になります。空き家より状態がよく、断熱以外の性能も住宅より高いことがあります。
ただし人が住む建物にすると、法令上の扱いが変わります。各室に台所と浴室を設けて独立させるのか、共用にしてシェアハウスとするのか。この違いで、建築基準法上の用途が分かれます。
そして水まわりです。校舎には浴室がなく、台所は調理室に1か所だけ。ここを整備するのが工事費の柱になります。
この記事では、①寄宿舎としての扱い、②間仕切壁の規定、③用途変更と消防法、④水まわり、⑤断熱と運営、の5点を整理します。
この記事の要点
- 国土交通省は平成25年9月の通知等により、いわゆるシェアハウスなどを法令上寄宿舎として取り扱うことを明確にした
- 寄宿舎等は、防火上主要な間仕切壁を準耐火構造とすることなどが建築基準法施行令第114条第2項で求められる
- 建築基準法施行令第137条の18第5号は下宿、寄宿舎だが、学校は11区分のいずれにも含まれない
- 寄宿舎、下宿、共同住宅は消防法施行令別表第一の(5)項ロで、特定防火対象物には該当しない
- 校舎には浴室がなく台所も1か所のため、水まわりの整備が工事費の柱になる
寄宿舎としてどう扱われるのか?
共用部を持つ住まいは寄宿舎です。
国土交通省は、平成25年9月の通知等により、いわゆるシェアハウスなどについて法令上寄宿舎として取り扱うことを明確にしました。
| 形 | 建築基準法上の扱い |
|---|---|
| 各室に台所・浴室・便所を設け独立 | 共同住宅 |
| 台所・浴室を共用 | 寄宿舎 |
| 1か月以上の宿泊料を受ける | 下宿(旅館業法の下宿営業) |
| 宿泊料を受けて短期で泊める | 旅館業法の対象 |
教室を個室にして、浴室と台所を共用する形は寄宿舎になります。廃校の転用で検討される形の多くがここに当たります。
共同住宅とするなら各室に水まわりが必要
各室を独立した住戸にするなら、台所、浴室、便所を室ごとに設けます。配管が大幅に増え、工事費が膨らみます。
校舎の構造では、各室への給排水の立ち上げが難しいことがあります。コンクリートの床と壁に配管の経路を取る必要があり、構造に関わる場合があります。
寄宿舎のほうが工事は収まる
浴室と台所を共用にすれば、配管を集約できます。既存の調理室やトイレの位置を活かせば、工事の範囲が狭くなります。
ただし共用部の管理が必要になります。清掃、備品、ルールの運用。入居者だけに任せると続かないことがあります。
宿泊料の形で扱いが変わる
1か月以上の期間を単位とする宿泊料を受けて人を宿泊させる営業は、旅館業法の下宿営業に当たります。賃貸借として貸すのか、宿泊料を受けるのかで、関わる法令が変わります。
形を決める段階で、保健所と所管行政庁の両方に確認してください。
間仕切壁の規定はどう効くのか?
準耐火構造が求められます。
建築基準法施行令第114条第2項により、寄宿舎等は防火上主要な間仕切壁を準耐火構造とすることなどが求められています。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 間仕切壁の構造 | 準耐火構造とする |
| 小屋裏・天井裏への達し方 | 規定に従った処理 |
| 既存の間仕切り | 教室の間仕切りが該当するか |
| 新設する間仕切り | 仕様を満たす構成にする |
| 貫通部の処理 | 配管や配線が貫く部分 |
学校の教室の間仕切壁は、天井までで止まっており、天井裏でつながっていることが多くあります。この状態では規定を満たしません。
天井裏まで立ち上げる工事
間仕切壁を小屋裏または天井裏に達するまで立ち上げる工事が必要になります。既存の天井を開けて作業するため、天井の張り替えを伴います。
工事の単価は高くありませんが、室数が多ければ合計の金額は大きくなります。
配管の貫通部
給排水の配管が間仕切壁を貫通する部分は、所定の処理が必要です。水まわりを共用にして配管を集約すれば、貫通部も減ります。
新設の間仕切りは仕様を満たす構成に
教室を分割して個室を増やす場合、新設する間仕切りも規定を満たす仕様にします。設計の段階で仕様を確定してください。
既存不適格の扱い
確認申請を出すと、建築基準法第87条第3項により防火、避難、内装制限の規定が準用されます。既存不適格の扱いは廃校の既存不適格はどこまで遡るのか?で扱っています。
用途変更と消防法はどうなるのか?
消防法上は非特定のままです。
学校は建築基準法施行令第137条の18の11区分のいずれにも含まれていません。同条第5号は下宿、寄宿舎ですが、学校はここに入りません。
したがって用途を変更する部分の床面積が200平方メートルを超えれば、建築基準法第87条第1項により確認申請が必要になります。
| 用途 | 消防法施行令別表第一 | 特定防火対象物 |
|---|---|---|
| 学校 | (7)項 | 該当しない |
| 寄宿舎、下宿、共同住宅 | (5)項ロ | 該当しない |
| 旅館、ホテル、宿泊所 | (5)項イ | 該当する |
| 複合用途(特定用途を含む) | (16)項イ | 該当する |
(5)項ロは特定防火対象物に該当しません。このため消防用設備等の遡及適用の負担は、宿泊施設や福祉施設への転用より小さく収まる可能性があります。
ただし消火器、避難器具、誘導灯などは用途を問わず現行基準が適用されます。居室の数と階数によって自動火災報知設備の要否が変わるため、計画の構成を消防本部に示して確認してください。
宿泊料を受ける形にすると変わる
短期の宿泊料を受ける形にすると(5)項イとなり、特定防火対象物に該当します。設備の要件が変わるため、どの形で運営するかを先に決めてください。
用途地域の確認
寄宿舎は多くの用途地域で建築できますが、市街化調整区域の場合は都市計画法の開発許可が論点になります。
水まわりはどう整備するのか?
浴室の新設が柱です。
| 項目 | 学校の状態 | 必要な整備 |
|---|---|---|
| 浴室 | ない | 新設。給湯の熱源と排水 |
| 台所 | 調理室に1か所 | 共用の台所、または各室に設置 |
| 便所 | 各階に共用 | 改修。洋式化、個数の調整 |
| 洗面 | 廊下の手洗い | 共用の洗面所 |
| 洗濯 | ない | 洗濯機の置き場と給排水 |
| 給湯 | 限定的 | 熱源と配管 |
学校に浴室はありません。宿泊や居住を伴う転用では必ず新設になり、給湯の熱源、給水の容量、排水の経路の整備が工事費の柱になります。
設備の考え方は廃校の設備更新はどこから手をつけるのか?で扱っています。
既存の配管の位置を活かす
浴室や共用の台所を、既存のトイレや調理室の近くに置けば、配管の経路が短くなります。配管の経路は工事費に直結する項目です。
意匠や使い勝手だけで位置を決めず、既存の設備の位置から配置を考えてください。
排水の増加を確認する
浴室と洗濯の新設で、排水の量が増えます。郊外の校舎は浄化槽で処理していることがあり、人槽の能力を超えることがあります。
浄化槽の人槽は在校していた児童生徒数で決まっています。居住者の人数と使用の形態から、必要な能力を確認してください。
給湯の使用が集中する
入浴と洗濯は、朝と夜に集中します。給湯の瞬間的な使用量が大きくなるため、熱源の能力と貯湯の容量を合わせて検討してください。
トイレの個数と位置
学校のトイレは各階の端にあり、個数も多くあります。居住者の人数に対して過剰な場合、一部を閉じて使う範囲を絞れます。
ただし和式のままでは使いにくく、洋式化の改修が必要になります。
断熱と運営はどう考えるのか?
断熱が住み心地を決めます。
校舎は壁に断熱材がなく、単板ガラスのアルミサッシです。学校として使っていた間は授業時間帯だけ暖房を入れていましたが、住まいとして使えば通年の光熱費が重くのしかかります。
| 対策 | 内容 |
|---|---|
| 内窓の設置 | 工事が室内で済み、足場が不要 |
| 最上階の天井断熱 | 夏の暑さと冬の寒さに効く |
| 1階の床断熱 | 床下からの冷え |
| 開口部の縮小 | 使わない窓を壁にする |
| 共用部は暖めない | 廊下を暖房の対象から外す |
断熱改修の考え方は廃校の断熱改修はどこまでやるのか?で扱っています。入居者が光熱費を負担する形であれば、断熱の水準が入居の継続に関わります。
廊下は暖めない前提にする
学校の廊下は長く、面積が大きくなります。ここを暖房の対象にすると負荷が増えます。
廊下は暖めず、各室の建具で区画する。この前提にすれば、断熱の対象は各室の外壁と窓に絞られます。
共用部の管理を決める
浴室、台所、洗濯、廊下、ごみ置き場。共用部の清掃と備品の補充を誰が行うかを決めてください。
入居者だけに任せると、数年で荒れます。管理者を置くか、管理費を徴収して委託するかの判断が必要です。
入居の見込みを控えめに置く
移住者向けの住宅は、入居が埋まるまでに時間がかかります。満室を前提にした収支では、立ち上がりで資金が足りなくなります。
収支の立て方は廃校活用の収支計画はどう立てるのか?で扱っています。半分の入居率で管理費と光熱費が出るかを確認してください。
よくある質問
Q. シェアハウスは法令上どう扱われますか。
A. 国土交通省は平成25年9月の通知等により、いわゆるシェアハウスなどを法令上寄宿舎として取り扱うことを明確にしました。
Q. 教室の間仕切りはそのまま使えますか。
A. 使えないことが多いです。寄宿舎等は防火上主要な間仕切壁を準耐火構造とすることが求められ、天井裏でつながっている構成では規定を満たしません。
Q. 消防設備の負担は大きくなりますか。
A. 寄宿舎、下宿、共同住宅は消防法施行令別表第一の(5)項ロで特定防火対象物には該当しません。ただし消火器や誘導灯などは用途を問わず現行基準が適用されます。
Q. 共同住宅と寄宿舎のどちらが現実的ですか。
A. 寄宿舎です。浴室と台所を共用にすれば配管を集約でき、工事費が収まります。共同住宅は各室に水まわりが必要で配管が大幅に増えます。
Q. 工事費の柱はどこですか。
A. 浴室の新設です。学校に浴室はなく、給湯の熱源、給水の容量、排水の経路の整備が必要になります。
Q. 断熱は必要ですか。
A. 住まいとして使うなら必要です。入居者が光熱費を負担する形では、断熱の水準が入居の継続に関わります。
まとめ
廃校を住まいにする構想では、各室を独立させるか共用にするかで法令上の扱いが分かれます。国土交通省は平成25年9月の通知等により、いわゆるシェアハウスなどを法令上寄宿舎として取り扱うことを明確にしました。
寄宿舎等は、建築基準法施行令第114条第2項により防火上主要な間仕切壁を準耐火構造とすることなどが求められます。学校の教室の間仕切壁は天井までで止まり、天井裏でつながっていることが多く、この状態では規定を満たしません。天井裏まで立ち上げる工事が必要になります。
消防法では、寄宿舎、下宿、共同住宅は(5)項ロで特定防火対象物に該当しません。福祉施設や宿泊施設への転用より負担は小さく収まる可能性があります。ただし短期の宿泊料を受ける形にすると(5)項イとなり、要件が変わります。
工事費の柱は浴室の新設です。学校に浴室はなく、台所も調理室に1か所だけ。浴室と共用の台所を既存のトイレや調理室の近くに置けば、配管の経路が短くなります。排水の増加で浄化槽の能力を超えることがあるため、人槽の確認も必要です。
そして断熱です。壁に断熱材のない校舎を住まいとして通年で使えば、光熱費が重くのしかかります。内窓の設置と最上階の天井断熱から始め、廊下は暖めない前提で各室を区画する。入居の見込みは控えめに置き、半分の入居率で管理費と光熱費が出るかを確認してください。
参考・出典
- e-Gov法令検索「建築基準法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201
- e-Gov法令検索「建築基準法施行令」 https://laws.e-gov.go.jp/law/325CO0000000338
- 東京都都市整備局「建築安全条例の見直しに関する資料」 https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/topics/h27/pdf/topi001/topi001_1.pdf
- e-Gov法令検索「消防法施行令」 https://laws.e-gov.go.jp/law/336CO0000000037
- e-Gov法令検索「旅館業法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000138
- 文部科学省「廃校施設活用状況実態調査」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/yoyuu_00002.htm
記載の法令および通知は公表時点のものです。用途の判定、間仕切壁の仕様および消防用設備等の要件は所管行政庁および消防本部の運用により異なります。個別の適用は所管行政庁、消防本部、保健所および設計者にご確認ください。
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