この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

廃校を企業研修施設にできるのか?

宿泊併設の可否と用途変更

廃校の企業研修施設への転用は、宿泊を入れるかどうかで難易度が変わります。

日帰りの研修だけなら、教室をそのまま研修室として使えます。机と椅子があり、黒板があり、プロジェクターを置けば成立します。工事は最小限で済みます。

ところが宿泊を入れると、旅館業法の許可、建築基準法上の用途、消防法上の特定防火対象物という3つの論点が同時に立ち上がります。工事費の桁が変わります。

そして企業研修という需要は、立地と交通の条件に左右されます。

この記事では、①日帰りと宿泊の違い、②旅館業法、③用途変更と消防法、④宿泊室の計画、⑤需要と運営、の5点を整理します。

この記事の要点

  • 旅館業は宿泊料を受けて人を宿泊させる営業で、寝具と施設を使わせることが宿泊に当たる
  • 営業の種別は旅館・ホテル営業、簡易宿所営業、下宿営業の3つで、簡易宿所営業は宿泊する場所を多数人で共用する構造のもの
  • 許可は都道府県知事(保健所を設置する市等ではその長)が与え、政令の構造設備の基準と条例の衛生基準への適合が必要
  • 宿泊料を受けない形であれば旅館業法の対象外になる
  • 旅館、ホテル、宿泊所は消防法施行令別表第一の(5)項イで特定防火対象物に該当する

日帰りと宿泊はどう違うのか?

関わる法令の数が違います。

項目 日帰りの研修 宿泊を併設
旅館業法 対象外 宿泊料を受けるなら許可が必要
建築基準法 用途変更の検討 用途変更。ホテル・旅館または寄宿舎
消防法 学校は(7)項 (5)項イは特定防火対象物
工事 最小限 浴室、トイレ、客室の整備
単価 低い 高い
稼働 平日が中心 連泊で単価が上がる

日帰りの研修だけなら、教室の机と椅子をそのまま使えます。工事は空調、通信、トイレの改修に絞れます。

まず日帰りで始める選択

需要が読めない段階で宿泊設備を整えると、投資が回収できないことがあります。日帰りの研修と施設の貸出しから始め、需要が見えてから宿泊を足す判断があります。

部分活用の考え方は廃校を部分的に活用できるのか?で扱っています。

宿泊料を受けない形

旅館業法の対象となるのは、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業です。宿泊料を受けない形であれば、旅館業法の対象外になります。

ただし研修費に宿泊の対価が実質的に含まれている場合の扱いは、個別の判断になります。保健所に確認してください。

既存の施設を使う

近隣に宿泊施設があれば、宿泊はそこを使い、研修だけを廃校で行う形があります。地域の旅館や民宿に宿泊の需要が回り、地域全体での効果も出ます。

この形なら、廃校側は旅館業法の論点を抱えません。

旅館業法は何を求めるのか?

許可と、構造設備および衛生の基準です。

旅館業は、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業です。ここでいう宿泊は、寝具と施設を使わせることを指します。アパートや貸間のような住まわせる形は、賃貸住宅であって宿泊業には当たりません。

営業の種別 内容
旅館・ホテル営業 宿泊料を受けて人を宿泊させる営業で、他の2つを除くもの
簡易宿所営業 宿泊する場所を多数人で共用する構造および設備のもの(下宿営業を除く)
下宿営業 1か月以上の期間を単位とする宿泊料を受けて人を宿泊させる営業

許可は都道府県知事が与えます。保健所を設置する市または特別区では、その長が与えます。許可には政令で定める構造設備の基準への適合と、都道府県の条例で定める換気、採光、照明、防湿、清潔などの衛生の基準への適合が必要です。

相部屋なら簡易宿所営業

教室に複数の寝床を置いて相部屋にする形は、宿泊する場所を多数人で共用する構造に当たるため、簡易宿所営業になります。

研修施設では相部屋の形が取られることが多く、この種別での検討になります。

設計の前に保健所へ相談する

構造設備の基準は政令で定められ、衛生の基準は条例で定められています。運用にも幅があります。

図面を描き上げてから相談すると、やり直しになります。計画の初期に保健所へ相談してください。

宿泊者名簿の備付け

営業者には宿泊者名簿の備付けが求められます。また特定の感染症の患者、安全を害するおそれがある者、迷惑行為を行う者、満室の場合を除いて、宿泊を拒むことができないとされています。

運営の体制に、この事務を含めて考えてください。

用途変更と消防法はどうなるのか?

宿泊を入れると特定防火対象物になります。

学校は建築基準法施行令第137条の18の11区分のいずれにも含まれていません。したがって研修施設への用途変更も、宿泊施設への用途変更も類似の用途に当たらず、用途を変更する部分の床面積が200平方メートルを超えれば、建築基準法第87条第1項により確認申請が必要になります。

用途 消防法施行令別表第一 特定防火対象物
学校 (7)項 該当しない
旅館、ホテル、宿泊所 (5)項イ 該当する
寄宿舎、下宿、共同住宅 (5)項ロ 該当しない
複合用途(特定用途を含む) (16)項イ 該当する

(5)項イに該当すると、消防法第17条の2の5により消防用設備等が現行基準に適用されます。自動火災報知設備やスプリンクラー設備が必要になれば、金額が大きく動きます。

消防設備の要件は廃校の転用で消防設備はどこまで必要か?で扱っています。

建築基準法上の用途の判断

建築基準法上は、ホテル・旅館として扱うか、寄宿舎として扱うかで準用される規定が変わります。研修施設の宿泊部分がどちらに当たるかは、使い方で判断されます。

寄宿舎として扱う場合、建築基準法施行令第114条の界壁の規定が関わります。計画の内容を特定行政庁に示して確認してください。

既存不適格の遡及

確認申請を出すと、建築基準法第87条第3項により防火、避難、内装制限の規定が準用されます。既存不適格の扱いは廃校の既存不適格はどこまで遡るのか?で扱っています。

用途地域と区域の確認

ホテル・旅館は、用途地域によって建築できない地域があります。市街化調整区域の場合は都市計画法の開発許可が論点になります。

建築基準法の検討より前の確認です。

宿泊室はどう計画するのか?

水まわりが費用の柱になります。

項目 内容
客室 教室を分割するか、そのまま使うか
浴室 新設になる。給湯の熱源と排水
トイレ 既存を改修するか、客室に設けるか
洗面 客室内か、共用か
寝具の保管 収納場所と搬出入
空調 客室ごとの制御
遮音 隣室と廊下の音

学校には浴室がありません。宿泊を入れるなら新設になります。給湯の熱源、給水の容量、排水の経路。この整備が工事費の柱です。

教室1室をそのまま客室にする

教室は広く、相部屋として使えば分割の工事が不要になります。簡易宿所営業で相部屋とする計画は、工事費を抑えられます。

一方、個室を求める需要には応えられません。研修の性質によって選択が変わります。

浴室は共用で1か所に集約する

客室ごとに浴室を設けると配管が増え、工事費が膨らみます。共用の浴室を1か所に集約する構成が現実的です。

既存の給排水の経路を活かせる位置に置くと、工事費が下がります。給湯の熱源は使用量の波が大きく、朝と夜に集中するため、貯湯の容量も含めて検討してください。

排水の増加を確認する

浴室と洗面の新設で、排水の量が増えます。浄化槽の校舎では、人槽の能力を超えることがあります。

浄化槽の人槽は在校していた児童生徒数で決まっており、宿泊の排水を前提にしていません。

遮音を確認する

教室の間仕切りが天井までで止まっており、天井裏でつながっている校舎があります。客室として使うなら、間仕切りを天井裏まで立ち上げる必要があります。

需要と運営はどう考えるのか?

立地と交通です。

確認項目 内容
最寄り駅からの距離 送迎が必要か
高速道路のインターからの距離 バスでの移動
都市からの所要時間 日帰りが可能な範囲か
競合する施設 近隣の研修施設、宿泊施設
想定する顧客 企業の規模と研修の種類
繁閑の波 年度初めと期末に集中する

企業研修の需要は、年度初めの新人研修に集中します。閑散期の稼働をどう埋めるかが、収支の鍵になります。

用途を複合させる

研修だけでは年間の稼働が埋まりません。合宿、ワークショップ、企業の保養、地域のイベント、スポーツ合宿。複数の用途で埋める形になります。

ただし用途が混ざると、消防法上は(16)項イの複合用途防火対象物になる可能性があります。

食事の提供をどうするか

研修には食事が伴います。自前で提供するなら食品衛生法に基づく営業許可が必要で、厨房の整備が加わります。

令和3年6月1日から、原則としてすべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理が義務づけられています。外部からの配食で対応する形もあります。

収支は稼働率から逆算する

客室数と単価、年間の稼働日数から収入を算出し、人件費と光熱費で賄えるかを確認してください。

収支の立て方は廃校活用の収支計画はどう立てるのか?で扱っています。閑散期の資金が回るかが判断の分かれ目です。

よくある質問

Q. 宿泊を入れると何が必要になりますか。

A. 宿泊料を受けるなら旅館業法の許可が必要です。あわせて建築基準法上の用途変更と、消防法上の特定防火対象物としての設備が関わります。

Q. 相部屋ならどの営業種別になりますか。

A. 宿泊する場所を多数人で共用する構造および設備のものは簡易宿所営業です。研修施設では相部屋の形が多く、この種別での検討になります。

Q. 宿泊料を受けなければ許可は不要ですか。

A. 旅館業法の対象は宿泊料を受けて人を宿泊させる営業です。ただし研修費に実質的に含まれる場合の扱いは個別の判断になるため、保健所に確認してください。

Q. 工事費の柱はどこですか。

A. 水まわりです。学校には浴室がなく新設になります。給湯の熱源、給水の容量、排水の経路の整備が費用の柱です。

Q. 浴室は客室ごとに必要ですか。

A. 配管が増えて工事費が膨らみます。共用の浴室を1か所に集約し、既存の給排水の経路を活かせる位置に置く構成が現実的です。

Q. 閑散期はどうしますか。

A. 企業研修は年度初めに集中します。合宿、ワークショップ、保養、スポーツ合宿など複数の用途で埋める形になります。

まとめ

廃校の企業研修施設への転用は、宿泊を入れるかどうかで難易度が変わります。日帰りの研修だけなら教室をそのまま使えますが、宿泊を入れると旅館業法、建築基準法、消防法の3つが同時に立ち上がります。

旅館業は宿泊料を受けて人を宿泊させる営業で、寝具と施設を使わせることが宿泊に当たります。営業の種別は旅館・ホテル営業、簡易宿所営業、下宿営業の3つで、相部屋の形は簡易宿所営業になります。許可は都道府県知事または保健所を設置する市等の長が与え、政令の構造設備の基準と条例の衛生基準への適合が必要です。

消防法では、旅館、ホテル、宿泊所は(5)項イで特定防火対象物に該当します。学校の(7)項から変わるため、消防用設備等が現行基準に適用されます。

工事費の柱は水まわりです。学校には浴室がなく新設になります。共用の浴室を1か所に集約し、既存の給排水の経路を活かせる位置に置く構成が現実的です。排水の増加で浄化槽の能力を超えることがあるため、ここも確認してください。

需要は立地と交通に左右され、企業研修は年度初めに集中します。閑散期の稼働を合宿やイベントで埋める構成になりますが、用途が混ざると消防法上は(16)項イの複合用途になる可能性があります。需要が読めない段階では、日帰りの研修と施設の貸出しから始め、宿泊は後から足す判断が現実的です。

参考・出典

記載の法令および制度は公表時点のものです。旅館業の許可の基準は政令および都道府県の条例により定められ、用途変更の判定および消防用設備等の要件は所管行政庁および消防本部の運用により異なります。個別の適用は保健所、所管行政庁、消防本部および設計者にご確認ください。

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