目次
障害福祉サービスの基準と改修
廃校を就労支援の事業所にする計画は、実績のある転用です。
教室は作業室として使える広さがあり、複数の室があるため作業の種類を分けられます。グラウンドは農作業に使え、調理室は食品の加工に転用できる余地があります。送迎の車を寄せる場所も確保できます。
ただし障害福祉サービスの事業所になると、指定の基準を満たす必要があります。人員と設備の両方に基準があり、建物については使う室の構成が決まってきます。
そして消防法です。福祉施設は特定防火対象物に該当するため、消防用設備等が現行基準に引き戻されます。ここが工事費の柱になります。
この記事では、①サービスの種類、②指定の基準、③用途変更と消防法、④室の計画、⑤運営の前提、の5点を整理します。
この記事の要点
- 障害者総合支援法に基づく事業を行うには、人員と設備の基準を満たして指定を受ける必要がある
- 福祉施設は消防法施行令別表第一の(6)項で、特定防火対象物に該当する
- 消防法第17条の2の5により、特定防火対象物では消防用設備等が現行基準に適用される
- 学校は建築基準法施行令第137条の18の11区分に含まれないため、用途変更は類似の用途に当たらない
- 利用者の安全を考えると1階への集約が基本で、2階以上を使うなら避難の計画が前提になる
どのサービスを行うのか?
種類によって基準が変わります。
障害者総合支援法に基づくサービスには複数の種類があり、それぞれ人員と設備の基準が定められています。
| サービス | 内容 |
|---|---|
| 就労継続支援A型 | 雇用契約を結んで就労の機会を提供 |
| 就労継続支援B型 | 雇用契約によらない就労の機会を提供 |
| 就労移行支援 | 一般就労に向けた訓練 |
| 生活介護 | 日常生活の支援と創作・生産活動 |
| 自立訓練 | 生活能力の維持向上のための訓練 |
| 放課後等デイサービス | 学校通学中の障害児への支援 |
廃校の転用で検討されることが多いのは、就労継続支援B型と生活介護です。作業のスペースが必要で、教室の広さが生きます。
作業の内容を先に決める
農作業、食品の加工、軽作業、清掃の受託、製品の製造。作業の内容によって必要な設備が変わります。
食品を扱うなら食品衛生法に基づく営業許可が必要です。令和3年6月1日から、原則としてすべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理が義務づけられています。
指定の窓口を確認する
指定は都道府県が行いますが、サービスの種類によっては市町村が行うものもあります。
事前に窓口を確認し、計画の段階で相談してください。設備の基準の解釈に幅があるため、図面を描き上げてから相談すると手戻りになります。
複数のサービスを組み合わせる
1つの建物で複数のサービスを行う場合、室の共用が認められる範囲と、専用としなければならない室があります。
この判断は指定の所管部署によります。計画の構成を示して確認してください。
指定の基準は何を求めるのか?
人員と設備です。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 人員 | 管理者、サービス提供責任者、職業指導員、生活支援員など |
| 設備(訓練・作業室) | 訓練または作業に支障がない広さ |
| 設備(相談室) | 相談の内容が漏れないよう配慮 |
| 設備(洗面所・便所) | 利用者の特性に応じたもの |
| 設備(多目的室等) | 必要な設備を備える |
| 衛生管理 | 感染症の予防等 |
| 運営規程 | 事業の目的、職員の職種と員数など |
設備の基準は省令で定められています。訓練または作業に支障がない広さ、相談の内容が漏れないような配慮、利用者の特性に応じた洗面所と便所。具体的な解釈は所管部署に確認してください。
相談室の遮音
相談室は、相談の内容が漏れないよう配慮することが求められます。教室の間仕切りは天井までで止まり、天井裏でつながっていることが多いため、この状態では配慮が足りません。
間仕切りを天井裏まで立ち上げ、建具の遮音を確保する工事が必要になります。
洗面所と便所
学校のトイレは和式が残っていることがあり、手洗いも廊下の流しという構成です。利用者の特性に応じた設備への改修が必要になります。
車椅子に対応したトイレ、手すり、呼出しのボタン。バリアフリー改修の考え方は廃校のバリアフリー改修はどこまでやるのか?で扱っています。
面積の確認
訓練・作業室の広さは、利用者の定員に対して必要な面積が関わります。教室の面積から、設定できる定員が逆算できます。
定員を決めてから室を選ぶのではなく、使える室の面積から定員を設定する順序が現実的です。
用途変更と消防法はどうなるのか?
福祉施設は特定防火対象物です。
学校は建築基準法施行令第137条の18の11区分のいずれにも含まれていません。同条第3号は診療所(患者の収容施設があるもの)と児童福祉施設等ですが、学校はここに入りません。
したがって用途を変更する部分の床面積が200平方メートルを超えれば、建築基準法第87条第1項により確認申請が必要になります。
| 用途 | 消防法施行令別表第一 | 特定防火対象物 |
|---|---|---|
| 学校 | (7)項 | 該当しない |
| 病院、診療所、福祉施設、幼稚園、特別支援学校 | (6)項 | 該当する |
| 複合用途(特定用途を含む) | (16)項イ | 該当する |
(6)項に該当すると、消防法第17条の2の5により消防用設備等が現行基準に適用されます。自動火災報知設備やスプリンクラー設備が必要になる場合、工事費が大きく動きます。
消防設備の要件は廃校の転用で消防設備はどこまで必要か?で扱っています。
設備の要件は規模と区分で変わる
必要な消防用設備等は、(6)項のどの区分に当たるか、延べ面積、階数によって変わります。全館を使う計画と、1階の一部だけを使う計画では要件が違います。
計画の初期に消防本部へ相談し、構成ごとの差を確認してください。この差が、使う範囲を決める判断材料になります。
既存不適格の遡及
確認申請を出すと、建築基準法第87条第3項により防火、避難、内装制限の規定が準用されます。既存不適格の扱いは廃校の既存不適格はどこまで遡るのか?で扱っています。
福祉施設全般の要点
福祉施設への転用の要点は廃校を福祉施設に転用する要点は?にまとめています。(6)項の区分の中での組合せになるため、設備の要件は近くなります。
室はどう計画するのか?
1階に集約します。
| 室 | 内容 |
|---|---|
| 訓練・作業室 | 作業の内容に応じた広さと設備 |
| 相談室 | 個室。遮音に配慮 |
| 静養室 | 体調を崩した利用者が休む場所 |
| 洗面所・便所 | 利用者の特性に応じたもの |
| 事務室 | 記録の保管、施錠 |
| 休憩・食事の場所 | 昼食をとる場所 |
| 送迎車の寄付け | 玄関前に屋根があるか |
利用者の安全と避難を考えると、1階への集約が基本です。2階以上を使う計画では、避難の経路と介助の体制を具体的に示す必要があります。
避難の計画が要になる
介助が必要な利用者がいる施設では、避難に時間がかかります。階段の昇降が難しい利用者がいれば、2階以上の使用は現実的ではありません。
1階に作業室、相談室、トイレ、静養室を収める構成を優先してください。
作業の内容で設備が変わる
農作業なら屋外の動線と手洗い、食品の加工なら厨房と排水、軽作業なら作業台と収納、製造なら電源と換気。
作業の内容を決めてから室を選んでください。使える室の条件から作業の内容を決める逆の順序もあります。
送迎の動線
送迎車が玄関前に寄り付けるか、雨天時に濡れずに乗降できるかが、日常の使い勝手を決めます。
学校の昇降口は段差があり、屋根がないことがあります。車寄せの整備を計画に含めてください。
空調と断熱
利用者が1日を過ごす室では、室温の管理が安全に関わります。壁に断熱材のない校舎では、夏季の最上階と冬季の1階が厳しくなります。
断熱の考え方は使う範囲を区画して、その外周で考える順序になります。
運営の前提は何か?
人員の確保と工賃です。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 人員の確保 | 基準を満たす職種と員数 |
| 利用者の見込み | 地域の対象者数と通所の範囲 |
| 送迎の範囲 | 車両と運転者の確保 |
| 作業の受注先 | 作業の量が安定して確保できるか |
| 工賃 | 利用者に支払う額 |
| 運営の主体 | 社会福祉法人、NPO法人、株式会社など |
建物を整えても、人員が確保できなければ指定を受けられません。地域で福祉の人材が足りない状況では、ここが制約になります。
作業の受注先を先に確保する
作業の量が確保できないと、利用者に作業がなく、工賃も払えません。受注先の目処を、建物の整備より先に立ててください。
農作業や自主製品の販売であれば、販路の確保が同じ論点になります。
利用者の通所の範囲
郊外の廃校では、通所できる範囲の対象者が限られます。送迎の範囲を広げれば車両と運転者の負担が増えます。
地域の対象者数から定員を見込み、送迎の体制と合わせて計画してください。
固定資産税の扱い
社会福祉法人が社会福祉事業の用に供する固定資産は、地方税法第348条第2項の該当する号により非課税となる余地があります。
所有の形態と運営の主体によって変わるため、資産税の所管部署に確認してください。
段階的に始める
1階の数室から始め、利用者と作業が増えてから範囲を広げる形が現実的です。全館を一度に整備すると、使わない範囲の維持費がかかります。
よくある質問
Q. 指定を受けるには何が必要ですか。
A. 障害者総合支援法に基づく人員と設備の基準を満たすことです。設備については訓練・作業室、相談室、洗面所、便所などが省令で定められています。
Q. 消防設備の負担は大きくなりますか。
A. 福祉施設は消防法施行令別表第一の(6)項で特定防火対象物に該当します。消防用設備等が現行基準に適用されるため、学校のままより要件が厳しくなります。
Q. 2階以上を使えますか。
A. 介助が必要な利用者がいる施設では避難に時間がかかります。1階に作業室、相談室、トイレ、静養室を収める構成を優先してください。
Q. 相談室はどう整えますか。
A. 相談の内容が漏れないよう配慮することが求められます。教室の間仕切りは天井裏でつながっていることが多いため、天井裏まで立ち上げる工事が必要になります。
Q. 定員はどう決めますか。
A. 訓練・作業室の広さが関わります。使える室の面積から定員を設定する順序が現実的です。
Q. 建物より先に決めることは何ですか。
A. 人員の確保と作業の受注先です。人員が確保できなければ指定を受けられず、作業がなければ工賃を払えません。
まとめ
廃校を就労支援の事業所にする転用は実績があり、教室の広さと複数の室という構成が生きます。ただし障害福祉サービスの事業所になると、人員と設備の基準を満たして指定を受ける必要があります。
設備の基準は省令で定められています。訓練または作業に支障がない広さ、相談の内容が漏れないような配慮、利用者の特性に応じた洗面所と便所。教室の間仕切りは天井裏でつながっていることが多く、相談室として使うなら天井裏まで立ち上げる工事が必要です。
消防法では、福祉施設が別表第一の(6)項で特定防火対象物に該当します。学校の(7)項から変わるため、消防用設備等が現行基準に適用されます。必要な設備は区分、延べ面積、階数で変わるため、全館を使う場合と1階の一部だけを使う場合の差を消防本部に確認してください。この差が使う範囲を決める判断材料になります。
設計では1階への集約が基本です。介助が必要な利用者がいる施設では避難に時間がかかるため、作業室、相談室、トイレ、静養室を1階に収める。送迎車が玄関前に寄り付けるか、雨天時に濡れずに乗降できるかも使い勝手を決めます。
そして運営の前提です。人員が確保できなければ指定を受けられず、作業の受注先がなければ工賃を払えません。建物の整備より先に、この2つの目処を立ててください。1階の数室から始め、利用者と作業が増えてから広げる順序であれば、使わない範囲の維持費を抑えられます。
参考・出典
- e-Gov法令検索「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」 https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000123
- 厚生労働省「障害者の就労支援について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/service/shurou.html
- e-Gov法令検索「建築基準法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201
- e-Gov法令検索「建築基準法施行令」 https://laws.e-gov.go.jp/law/325CO0000000338
- e-Gov法令検索「消防法施行令」 https://laws.e-gov.go.jp/law/336CO0000000037
- e-Gov法令検索「地方税法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000226
記載の法令および制度は公表時点のものです。指定の基準の解釈、消防用設備等の要件および非課税の適用は所管部署、消防本部および個別の事実関係により異なります。個別の適用は指定の所管部署、消防本部、所管行政庁および設計者にご確認ください。
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