目次
費目の分け方と比べ方
学校施設に毎年いくらかかっているか。この問いに、建物ごと、費目ごとに即答できる学校や自治体は多くありません。光熱水費は財務の担当、点検費は施設の担当、修繕費は各学校の予算、清掃費は委託契約。費用は複数の担当と予算に分かれて記録されています。
費用が見えなければ、どこに無駄があるのか、どの建物が負担になっているのか、改修で何が下がるのかを判断できません。見える化は、施設の改善の出発点です。
この記事では、①維持管理コストの見える化とは何か、②費目の分け方、③比べ方の指標、④集計の手順、⑤見える化から改善へのつなげ方、の5点を整理します。
この記事の要点
- 維持管理コストの見える化は、施設にかかる費用を建物ごと・費目ごとに集計し、比べられる形にすること
- 費目は、文部科学省の試算ソフトの区分(経常修繕費、維持管理費、光熱水費・委託費など)に合わせると比較しやすい
- 延床面積あたり、在籍者1人あたりの単価にすると、建物間・学校間で比べられる
- 文部科学省の資料では、予防的修繕は修繕の実績額の約1割にとどまっている
- 兵庫県明石市は158施設の包括管理委託で約4,800万円のコスト縮減効果を示している
維持管理コストの見える化とは何か?
維持管理コストの見える化とは、学校施設の維持・運営にかかる費用を、建物ごと・費目ごとに集計し、年度間や建物間で比べられる形に整理することです。
目的は、費用の総額を知ることだけではありません。どの建物の、どの費目が、なぜ高いのかを明らかにし、改修や運用の見直しにつなげることです。ファシリティマネジメントの中では、実務と業務管理をつなぐ役割を持ちます。全体像はファシリティマネジメントは学校経営に何をもたらすか?にまとめています。
費目はどう分けるか?
文部科学省の区分に合わせると、他と比べやすくなります。
文部科学省が公立学校向けに公表している長寿命化計画のコスト試算ソフトでは、施設関連の費用を次のように区分しています。
| 区分 | 内容 | 性格 |
|---|---|---|
| 改築 | 建物の建替え | 投資 |
| 長寿命化改修 | 構造躯体の補修と機能向上を伴う大規模改修 | 投資 |
| 予防改修 | 劣化が進む前の計画的な改修 | 投資 |
| 部位改修 | 屋上防水や外壁など部位単位の改修 | 投資 |
| その他施設整備費 | 上記以外の施設整備 | 投資 |
| 経常修繕費 | 日常的な小規模修繕 | 維持管理 |
| 維持管理費 | 点検、保守、清掃など | 維持管理 |
| 光熱水費・委託費 | 電気・ガス・水道、各種委託 | 運営 |
この記事で扱う維持管理コストは、主に下の3つ、経常修繕費、維持管理費、光熱水費・委託費です。毎年必ず発生し、建物の状態と使い方で大きく変わる費用です。
さらに細かく分ける
改善につなげるには、もう一段細かく分けます。
| 大区分 | 細区分の例 |
|---|---|
| 経常修繕費 | 建築(屋根・外壁・内装)、電気設備、機械設備、外構 |
| 維持管理費 | 法定点検、設備保守、清掃、警備、植栽管理 |
| 光熱水費 | 電気、ガス、上水道、下水道、燃料 |
何と比べればよいか?
単価にして比べます。
延床面積あたり
費用を延床面積で割り、1平方メートルあたりの単価にします。規模の違う建物同士でも比べられます。同じ規模・同じ築年数の建物で光熱水費が突出して高ければ、設備の効率が落ちているか、使い方に問題があるかのどちらかです。
在籍者1人あたり
費用を在籍者数で割ると、1人あたりの施設費が出ます。在籍者が減っている学校では、この数字が年々上がっていきます。面積を減らす検討の根拠になります。複数の学校を持つ自治体や学校法人では、学校間の差を見ることで、統合や集約の議論の材料にもなります。
年度の推移
同じ建物の費用を5〜10年分並べます。経常修繕費が年々増えている建物は、部位の劣化が進み、小さな修繕が頻発している可能性があります。計画的な改修に切り替える時期の目安になります。
予防と事後の比率
修繕費のうち、壊れる前に行った予防的な修繕と、壊れてから行った事後的な修繕の比率を見ます。発注の記録に、点検で見つけて直したものか、不具合の連絡を受けて直したものかを残しておくと、比率を出せるようになります。
文部科学省の資料では、公立学校施設の修繕の実績額のうち、予防的修繕の割合は約1割にとどまるとされています。事後的な修繕が大半を占める状態では、突発的な費用が発生しやすく、予算の見通しが立ちにくくなります。
集計はどう進めるか?
4つの手順で進めます。
1. 建物の一覧を作る
集計の単位となる建物を一覧にします。建築年、構造、延床面積をそろえておきます。建物ごとの情報の整理は建物カルテとは何か?を参照してください。
2. 費用のデータを集める
財務の支出記録、委託契約書、光熱水費の請求書、修繕の発注記録から、過去数年分の費用を集めます。複数の建物をまとめて契約している費用は、延床面積などで按分します。データが見つからない年度は無理に埋めず、空欄のまま進めて翌年度から正確に記録する方が、全体の作業は早く進みます。
3. 費目に振り分ける
集めた費用を、決めた費目に振り分けます。予防的な修繕か事後的な修繕かも、この段階で区別しておきます。
4. 単価と推移を出す
延床面積あたり、在籍者1人あたりの単価と、年度の推移を出します。表計算ソフトで十分です。グラフにして並べると、理事会や財政担当への説明にもそのまま使えます。
集計表のイメージ
集計した結果は、次のような表にまとめます。数字は説明のための仮定です。
| 建物 | 築年数 | 延床面積 | 経常修繕費 | 維持管理費 | 光熱水費 | 合計 | ㎡あたり |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| A棟 | 48年 | 4,000㎡ | 600万円 | 400万円 | 800万円 | 1,800万円 | 4,500円 |
| B棟 | 25年 | 3,000㎡ | 150万円 | 300万円 | 450万円 | 900万円 | 3,000円 |
| 体育館 | 40年 | 1,200㎡ | 250万円 | 100万円 | 150万円 | 500万円 | 約4,170円 |
この例では、A棟の㎡あたりの費用がB棟の1.5倍で、特に経常修繕費が大きいことが分かります。A棟は小さな修繕が頻発している可能性が高く、計画的な改修を検討する候補になります。
見える化から何を改善するか?
3つの方向があります。
光熱水費の削減
単価が高い建物から、照明のLED化、空調の更新、断熱の改善を検討します。設備の更新は初期費用がかかるため、削減額と比べて回収できるかを試算します。照明のLED化は学校施設の照明のLED化とは?を参照してください。
委託の見直し
点検、保守、清掃などを建物ごと・業務ごとに個別に契約していると、事務の手間と費用がかさみます。
文部科学省の資料では、兵庫県明石市が平成30年度に158施設を対象とした包括管理委託を実施し、約4,800万円のコスト縮減効果があったと紹介されています。複数の施設・業務をまとめて委託することで、事務の負担と費用の両方を下げる方法です。
予防保全への切り替え
事後的な修繕の比率が高い建物は、計画的な改修に切り替えます。改修の時期と費用を長期の計画に落とし込み、突発的な費用を減らします。長期の費用の比べ方は施設投資のROIはどう考えるか?で扱っています。
担当者が少ない場合はどうするか?
多くの自治体や学校法人で、施設の担当者は限られています。
文部科学省の資料では、令和元年度の調査で市区町村の4分の3程度が技術職員の不足を感じており、平成30年10月時点で営繕担当の職員が5名未満の市区町村が7割とされています。
担当者が少ない中で見える化を進めるには、次のような工夫が考えられます。
- 最初は光熱水費だけなど、範囲を絞って始める
- 集計の形式を固定し、毎年同じ手順で更新できるようにする
- 包括管理委託の中に、費用データの集計と報告を含める
- 劣化状況の調査や集計を、外部の専門家に委託する
公立と私立で違いはあるか?
集計の考え方は同じですが、データの所在が違います。
公立学校では、光熱水費や委託費が教育委員会や首長部局の複数の予算に分かれていることが多く、集計には部局をまたいだ協力が必要です。文部科学省の資料でも、首長部局との連携が維持管理の体制づくりの課題として挙げられています。
私立学校では、学校法人会計の中で費用が集計されていますが、建物ごとに分かれていないことが多くあります。固定資産台帳と費用の記録を建物単位で結びつける作業が必要です。減価償却との関係は校舎の減価償却は更新時期の目安になるか?を参照してください。
よくある質問
Q. 見える化にどれくらいの手間がかかりますか。
A. 最初の集計には手間がかかりますが、費目と集計の形を決めてしまえば、翌年度以降は更新するだけです。最初は光熱水費だけ、修繕費だけといった形で、範囲を絞って始める方法もあります。
Q. 建物ごとに電気のメーターが分かれていません。
A. 延床面積や使用時間で按分するのが現実的です。夜間や休日に地域開放している施設は、開放時間分を別に見積もると実態に近づきます。改修の機会にメーターを分けると、より正確に把握できます。
Q. 他の学校や自治体と比べる方法はありますか。
A. 文部科学省の試算ソフトと同じ費目区分を使えば、公表されている他の自治体の計画と比べやすくなります。
Q. 見える化で費用が下がった例はありますか。
A. 委託の見直しでは、明石市の包括管理委託の例があります。光熱水費は、単価の高い建物を特定して設備を更新することで下げられる可能性があります。まず現状を数字で把握しなければ、どこから手をつけるべきかが決まりません。
Q. 見える化の結果は誰に報告すべきですか。
A. 予算を決める立場の人です。公立学校では首長部局の財政担当、私立学校では理事会です。報告の頻度と形式を先に決めておきます。
まとめ
学校施設の維持管理コストの見える化は、費用を建物ごと・費目ごとに集計し、比べられる形に整理することです。費目は文部科学省の試算ソフトの区分に合わせ、経常修繕費、維持管理費、光熱水費・委託費をさらに細かく分けます。
延床面積あたり、在籍者1人あたりの単価、年度の推移、予防と事後の修繕の比率で比べると、どの建物のどの費目に課題があるかが見えてきます。文部科学省の資料では予防的修繕は修繕実績額の約1割にとどまり、明石市は包括管理委託で約4,800万円の縮減効果を示しています。
見える化の結果を、光熱水費の削減、委託の見直し、予防保全への切り替えにつなげ、予算を決める場に届けることで、施設の維持管理は「かかるもの」から「管理できるもの」に変わります。
参考・出典
- 文部科学省「学校施設の維持管理について」(2021文教施設セミナー 行政説明) https://www.mext.go.jp/content/20220207-mxt_sisetuki-000019346_2.pdf
- 文部科学省「学校施設の長寿命化計画の見直しに向けたコスト試算等に係る解説書」(令和5年3月) https://www.mext.go.jp/content/20230901-mxt_sisetujo-100003127_2.pdf
- 文部科学省「公立学校施設の老朽化対策の推進」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/1334433.htm
記載のデータ・事例は公表時点のものです。最新の内容は各機関の公表資料でご確認ください。
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