この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

廃校をスポーツ施設にできるのか?

床・天井・空調と利用者安全

廃校活用で最も使われやすいのが体育館です。

もともと運動のための建物で、天井が高く、床が広い。地域のスポーツ団体がすでに使ってきた実績があります。閉校後もそのまま使いたいという要望が、最初に出てくる場所です。

ただし「そのまま使う」には確認が必要です。体育館は学校施設のなかで地震時の危険が指摘されてきた建物で、天井や照明器具、バスケットゴールなどの非構造部材の落下が問題になります。

そして床です。体育館の床は競技の種類によって必要な性能が違い、劣化した床は怪我につながります。

この記事では、①用途変更の扱い、②耐震と非構造部材、③床、④空調と環境、⑤運営と安全、の5点を整理します。

この記事の要点

  • 建築基準法施行令第137条の18第7号は体育館、ボーリング場、スケート場、水泳場、スキー場、ゴルフ練習場、バッティング練習場の区分
  • 学校はこの11区分のいずれにも含まれないため、校舎からの転用は類似の用途に当たらない
  • 体育館は非構造部材の落下が問題になる建物で、天井、照明器具、バスケットゴールの確認が必要
  • 床は競技の種類で必要な性能が違い、劣化した床は怪我につながる
  • 消防法上の用途区分は実際の使い方で判定されるため、消防本部への確認が必要

用途変更の扱いはどうなるのか?

体育館をどの用途として捉えるかで変わります。

建築基準法施行令第137条の18は、確認申請を要しない類似の用途の相互間の変更について第1号から第11号までの区分を定めており、第7号が体育館、ボーリング場、スケート場、水泳場、スキー場、ゴルフ練習場、バッティング練習場です。

計画 考え方
体育館を体育施設として使い続ける 用途が変わらないなら用途変更の論点にならない
体育館を別の運動施設に変える 第7号の区分の中の変更に当たるかを確認
校舎をスポーツ施設にする 学校は11区分に含まれないため類似の用途に当たらない
体育館を集会場やイベント会場にする 第7号の外に出るため類似の用途に当たらない

学校の体育館を、学校施設としての体育館と捉えるか、独立した体育館の用途と捉えるかは、所管行政庁の判断に関わります。計画の内容を示して確認してください。

校舎からの転用は確認申請の対象になる

校舎の教室をスポーツ施設にする計画では、学校が11区分のいずれにも含まれないため類似の用途に当たりません。用途を変更する部分の床面積が200平方メートルを超えれば、建築基準法第87条第1項により確認申請が必要になります。

既存不適格の扱いは廃校の既存不適格はどこまで遡るのか?で扱っています。

イベント会場にすると扱いが変わる

体育館をコンサートや展示会の会場として使う計画は、第7号の外に出ます。集会場や展示場として扱われる場合、消防法上は特定防火対象物になる可能性があります。

運動のために使うのか、集会のために使うのかで、要求される設備が変わります。

消防法上の区分は実際の使い方で判定される

消防法施行令別表第一のどの項に当たるかは、実際に行う活動の中身で判定されます。学校は(7)項ですが、転用後の扱いは計画の内容によります。

計画の初期に消防本部へ相談し、どの構成なら設備がどうなるかを確認してください。

耐震と非構造部材はどう確認するのか?

建物本体と、落ちるものの両方です。

確認項目 内容
建物本体の耐震性能 耐震診断の結果と補強の履歴
天井 吊り天井の落下対策
照明器具 落下防止の措置
バスケットゴール 取付け部の劣化と固定
窓ガラス 高所のガラスの飛散防止
設備機器 吊り下げられた機器
収納棚・器具庫 転倒防止

体育館は、天井が高く、面積が広く、吊り下げられたものが多い建物です。地震時に落下すると、下にいる利用者に直接の危険が及びます。

耐震性能の判断は廃校の耐震性能はどう判断するのか?で扱っています。まず耐震診断の結果と補強の履歴を確認してください。

天井と照明は書類で確認する

対策が済んでいるかは、改修の記録で確認できます。庁内に施設の改修履歴が残っているはずです。

記録がない場合、現地で目視したうえで、専門の調査が必要になります。

バスケットゴールの取付け部

バスケットゴールは、長年の使用で取付け部が劣化します。構造体への固定が緩んでいる、腐食している、溶接部に亀裂がある。

点検の記録を確認し、なければ点検してください。使用を再開する前に必ず確認する項目です。

器具庫の整理

体育館の器具庫には、マット、跳び箱、ネット、支柱が残っています。これらの転倒防止と、使わないものの処分が必要です。

使わない器具は早い段階で処分し、器具庫を空けてください。残置物は火災のリスクにもなります。

床はどうするのか?

競技の種類で必要な性能が違います。

確認項目 内容
床の仕様 木製の床組か、直張りか
劣化の状態 浮き、たわみ、割れ、ささくれ
床下の状態 束と大引の腐朽、湿気
ライン 競技のラインの引き直し
滑り 表面の仕上げの状態
想定する競技 バスケットボール、バドミントン、卓球、ダンスなど

体育館の床は、木製の床組を組んで仕上げた構成が多くあります。長年の使用で表面が摩耗し、床下の木部が湿気で傷んでいることがあります。

ささくれと浮きは怪我につながる

床板のささくれは、素足や薄い靴での使用で怪我の原因になります。浮きやたわみは転倒の原因です。

使用を再開する前に、全面を歩いて確認してください。部分的な補修で済むか、全面の張り替えが必要かが、ここで分かれます。

床下の湿気を確認する

閉校後に閉め切っていた体育館では、床下に湿気がこもっていることがあります。木部の腐朽が進んでいれば、表面だけの補修では持ちません。

床下の換気口が塞がっていないか、周囲の排水が機能しているかを確認してください。

競技で必要な性能が変わる

バスケットボールのようにボールの跳ね返りを使う競技、バドミントンのように滑りを嫌う競技、ダンスのように衝撃の吸収を求める用途。それぞれ床への要求が違います。

想定する競技を先に決めてから、床の仕様を決めてください。すべてに最適な床はありません。

多目的に使うなら保護マット

イベントや展示にも使う場合、床の保護が必要です。机や機材を直接置くと床が傷みます。

保護マットの購入と保管場所を、計画に含めてください。

空調と環境はどうするのか?

通年で使うなら整備が必要です。

項目 学校の状態
空調 ない場合が多い
断熱 壁と屋根に断熱材がないことがある
換気 自然換気。高窓の開閉
照明 水銀灯などの旧い器具が残ることがある
暗騒音 屋根が金属板なら雨音が大きい
日射 高窓からの直射

学校の体育館に空調がないことは珍しくありません。授業では我慢して使ってきましたが、一般の利用者に貸す施設では、夏季と冬季の室温が利用の継続を左右します。

体育館は容積が大きいため、断熱なしで空調を入れても効きません。屋根と外壁からの熱の出入りが大きく、暖めた空気も上に逃げます。

容積が大きいと空調が効かない

体育館は天井が高く、暖めた空気が上に逃げます。床面付近の温度を上げるには、送風の計画が必要になります。

空調を入れる前に、使う範囲を区画できないかを検討してください。部分活用の考え方は廃校を部分的に活用できるのか?で扱っています。

照明器具の更新

旧い照明器具は、消費電力が大きく、点灯までに時間がかかります。高所にあるため、交換の作業にも費用がかかります。

更新の機会に、落下防止の措置と合わせて行うのが効率的です。

熱中症への対応

空調のない体育館では、夏季の使用で熱中症の危険があります。温度と湿度の計測、使用の制限、給水の確保。運営のルールとして定めてください。

運営と安全はどう組むのか?

利用者の安全と、鍵と費用の担い手です。

項目 決めること
利用の受付 窓口と予約の方法
鍵の管理 誰が開け閉めするか
光熱費 誰が払うか
保険 施設の賠償責任保険、利用者の傷害保険
事故時の対応 連絡先と手順
清掃 誰が行うか
用具の貸出し 範囲と管理

スポーツ施設では事故が起きます。転倒、衝突、熱中症。施設側の賠償責任保険と、利用者側の傷害保険の両方を確認してください。

利用規約を文書にする

使用できる競技、使用できない行為、靴の指定、飲食の可否、用具の持込み。これらを文書にしておかないと、運用で揉めます。

鍵と費用の担い手を決める

地域のスポーツ団体に管理を任せる場合、鍵、光熱費、清掃の担い手を文書で決めてください。

曖昧なままだと、光熱費の負担が重くて続かなくなります。収支の立て方は廃校活用の収支計画はどう立てるのか?で扱っています。

収入は小さいという前提で

地域のスポーツ団体に低額で貸す前提では、利用料収入は光熱費を賄えません。維持費の多くを自治体が負担する前提で計画を組むか、収益用途を併設するかの判断になります。

駐車場とトイレ

グラウンドを駐車場として使えるのは利点です。一方、トイレは校舎の中にあることが多く、体育館だけを使う場合に校舎を開けることになります。

体育館に近い位置にトイレがあるか、新設が必要かを確認してください。

よくある質問

Q. 体育館はそのまま使えますか。

A. 耐震性能と非構造部材の確認が必要です。天井、照明器具、バスケットゴールの落下対策が済んでいるかを、改修の記録で確認してください。

Q. 用途変更の確認申請は必要ですか。

A. 体育館を体育施設として使い続けるなら用途は変わりません。校舎をスポーツ施設にする場合は、学校が11区分に含まれないため200平方メートルを超えれば必要です。

Q. イベント会場として使えますか。

A. 集会場や展示場として扱われる場合、消防法上は特定防火対象物になる可能性があります。実際の使い方で判定されるため、消防本部に確認してください。

Q. 床は張り替えが必要ですか。

A. 劣化の状態によります。ささくれと浮きは怪我につながるため、使用を再開する前に全面を歩いて確認してください。床下の木部の腐朽があれば、表面だけの補修では持ちません。

Q. 空調は入れるべきですか。

A. 通年で一般に貸すなら必要です。ただし容積が大きいため、断熱なしで空調を入れても効きません。使う範囲を区画できないかを先に検討してください。

Q. 収入で維持費は賄えますか。

A. 地域の団体に低額で貸す前提では賄えません。自治体が維持費を負担する前提にするか、収益用途を併設するかの判断になります。

まとめ

体育館は廃校活用で最も使われやすい施設ですが、そのまま使うには確認が必要です。

まず耐震です。建物本体の耐震診断の結果と補強の履歴、そして非構造部材の落下対策を確認してください。天井、照明器具、バスケットゴール。体育館は吊り下げられたものが多く、地震時の落下が利用者に直接の危険を及ぼします。

床は競技の種類で必要な性能が違います。ささくれと浮きは怪我につながるため、使用を再開する前に全面を歩いて確認してください。床下の湿気で木部が腐朽していれば、表面だけの補修では持ちません。想定する競技を決めてから仕様を決めることです。

用途変更では、体育館を体育施設として使い続けるなら用途は変わりません。一方、校舎をスポーツ施設にする計画では、学校が建築基準法施行令第137条の18の11区分に含まれないため、200平方メートルを超えれば確認申請が必要です。集会やイベントの会場にする場合は、消防法上の扱いが変わる可能性があります。

空調は、通年で一般に貸すなら必要になります。ただし容積が大きいため断熱なしでは効きません。使う範囲を区画できないかを先に検討してください。

そして運営です。事故が起きる施設なので、施設側の賠償責任保険と利用者側の傷害保険の両方を確認し、利用規約を文書にする。鍵、光熱費、清掃の担い手を決める。地域の団体に低額で貸す前提では利用料収入が光熱費を賄えないことを、計画の前提にしてください。

参考・出典

記載の法令および制度は公表時点のものです。用途の判定、必要な点検および消防用設備等の要件は所管行政庁および消防本部の運用により異なります。個別の適用は所管行政庁、消防本部および設計者にご確認ください。

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