目次
見学動線で決める優先順位
限られた予算で、どの施設から手をつけるか。私立学校の施設担当者と経営者が毎年向き合う問いです。老朽化した設備の更新も必要ですが、在籍者が減る中では、入学者募集への効果も無視できません。
令和7年度、私立高校の71.2%が入学定員を満たしていません。令和8年度からは高等学校等就学支援金の所得制限が撤廃され、公立と私立を学費以外の要素で比べる家庭が増えると見込まれます。施設は、その比較の対象の一つです。
この記事では、①入学者募集と施設投資の関係、②受験生が施設をどう見ているか、③投資の優先順位の決め方、④投資額の考え方、⑤効果の測り方、の5点を整理します。
この記事の要点
- 私立高校の71.2%、私立大学の53.2%が定員割れで、施設は学校選びの比較要素の一つになっている
- 調査では、私立高校の現役生は親世代より「校舎がきれい」を16.5ポイント、「施設・設備が充実」を7.8ポイント高く重視している
- 優先順位は、学校見学の動線上にあり、毎日使い、不満が出やすい場所から決める
- 募集効果、緊急性、費用の3つの軸で投資候補を並べる
- 投資の効果は、見学者アンケートと出願数で測り、次の投資判断に使う
入学者募集と施設投資はどう関係するか?
入学者募集に効く施設投資とは、受験生と保護者が学校を選ぶ際に目にし、評価に影響する施設を優先して整備する投資です。
施設投資には、大きく2つの目的があります。
| 目的 | 例 | 判断の基準 |
|---|---|---|
| 機能の維持 | 屋上防水、外壁、受変電設備、給排水管の更新 | 劣化の度合い、法令、安全 |
| 魅力の向上 | トイレ、エントランス、教室の内装、学習スペース | 募集への効果、在校生の満足度 |
機能の維持は、放置すれば事故や休校につながるため、削ることはできません。一方、魅力の向上の投資は、どこから手をつけるかで効果が大きく変わります。この記事では、主に後者の優先順位を扱います。
受験生は施設をどう見ているか?
世代によって、施設への見方が変わっています。
ネオマーケティングが2024年に行った調査(15〜69歳の11,259人が対象)では、私立高校について、現役の高校生は親世代と比べて「校舎がきれい」を16.5ポイント、「施設・設備が充実」を7.8ポイント高く重視していると報じられています。
保護者が高校生だった頃より、今の受験生の方が施設を重視しているということです。学校選びの相談相手として親を挙げた割合は、私立高校の現役生で71.0%でした。受験生本人と保護者の両方の目で、施設が評価されています。
就学支援金の拡充
文部科学省によれば、令和8年度から高等学校等就学支援金の所得制限が撤廃され、より多くの生徒が授業料の支援を受けられるようになりました。私立高校の学費の負担感が下がれば、家庭は教育内容、進路実績、通学のしやすさ、そして施設で学校を比べることになります。
優先順位はどう決めるか?
学校見学の動線から考えると、決めやすくなります。
見学者が必ず通る場所
学校説明会や個別見学で、受験生と保護者が必ず通る場所があります。
| 場所 | 見られるポイント |
|---|---|
| エントランス・受付 | 第一印象、清潔感、明るさ |
| 廊下・階段 | 床や壁の傷み、照明 |
| トイレ | 洋式化、清潔感、臭い |
| 普通教室 | 空調、照明、ICT環境、机と椅子 |
| 特色のある施設 | 理科室、図書館、学習スペース、体育施設 |
このうち、トイレは見学者が実際に使う場所であり、在校生の不満も出やすい場所です。和式が残っている、暗い、臭いがこもるといった状態は、他の場所を整えても印象を下げてしまいます。多くの学校で、最初に取り組む候補になります。学校トイレの改修については学校トイレを快適にするデザインの勘所を参照してください。
内装全体の考え方は「選ばれる学校」をつくる内装デザインの基本にまとめています。
3つの軸で並べる
投資候補を、次の3つの軸で評価します。
| 軸 | 評価の視点 |
|---|---|
| 募集効果 | 見学動線上にあるか、受験生の関心が高いか、他校との差になるか |
| 緊急性 | 劣化や不具合があるか、在校生の不満が出ているか |
| 費用 | 工事費、工期、授業への影響 |
募集効果と緊急性が高く、費用が小さいものから着手します。募集効果は高いが費用が大きいものは、補助金の活用や段階的な整備を検討します。
学校の特色と結びつける
他校との差をつけるなら、学校の教育の特色と結びついた施設が効果的です。探究学習に力を入れるなら学習スペース、理数系に強みを持つなら実験室、スポーツに強みを持つなら体育施設です。ラーニングコモンズの考え方はラーニングコモンズの設計ポイントで扱っています。
遠方からの入学者を増やしたい学校では、寮の整備が募集の鍵になることもあります。学校の寮・寄宿舎はどう収益化するか?を参照してください。
投資額はどう考えるか?
回収の見込みから逆算します。
入学者1人あたりの価値
入学者が1人増えれば、在学期間中の授業料や施設設備費などの納付金が入ります。高校であれば3年分です。施設投資によって毎年何人の入学者増が見込めるかを仮定し、投資額と比べます。
ただし、施設だけで入学者が増えるとは限りません。教育内容、進路実績、広報と組み合わせてはじめて効果が出ます。仮定は控えめに置き、複数のシナリオで試算します。長期の費用と効果の比べ方は施設投資のROIはどう考えるか?にまとめています。
補助金の活用
私立学校の施設整備には、国の私立学校施設整備費補助金などが使える場合があります。対象事業と補助率は私立学校施設整備費補助金の全体像を参照してください。
経営指標との関係
施設投資は、減価償却費の増加や借入金の返済を通じて、翌年度以降の収支に影響します。私学事業団の経営判断指標で、法人がどの位置にあるかを踏まえて投資の規模を決めます。私立学校の経営の中での施設の位置づけは私立学校の経営改善で施設はどう位置づけるか?にまとめています。
工事の時期はいつがよいか?
募集の暦から逆算します。
説明会の前に完成させる
高校の学校説明会や見学会は、夏から秋にかけて多く開かれます。夏休み中に工事を終えれば、秋の説明会で改修後の施設を見てもらえます。工事が説明会の時期にずれ込むと、仮囲いや養生が見学者の印象を下げることがあります。
大きな工事は分けて進める
校舎全体の改修のように工期が長い工事は、複数年に分けて進めます。見学動線上の場所を先に仕上げ、動線から外れた場所を後に回すと、募集への効果を早く出せます。
広報とどう連動させるか?
施設を整えても、受験生に伝わらなければ効果は出ません。
改修後の施設の写真や動画を、学校案内、ウェブサイト、説明会の資料に反映させます。改修前後の比較を見せると、学校が施設に投資していることが伝わります。
在校生が新しい施設を使っている様子を見せるのも効果的です。受験生は、自分がその学校で過ごす姿を想像しながら学校を選びます。
効果はどう測るか?
投資の前後で、同じ指標を比べます。
見学者アンケート
学校説明会や見学会のアンケートに、施設の印象を問う項目を入れておきます。改修前後で回答を比べると、効果が数字で分かります。
出願数と歩留まり
見学者数、出願数、入学手続き者数の推移を記録します。専願と併願を分けて記録すると、第一志望として選ばれているかどうかも分かります。施設の改修後に見学から出願への移行率が上がっていれば、効果があったと考えられます。
在校生の満足度
在校生のアンケートで、施設への満足度を毎年測ります。在校生の満足度は、口コミを通じて受験生の評価にもつながります。自由記述の回答から、次に改修すべき場所の手がかりも得られます。
これらの結果を理事会に報告すれば、次の投資判断の材料になります。効果がはっきりしなかった投資も記録に残し、次の優先順位づけに活かします。資料の作り方は理事会で施設投資を通すための資料はどう作るか?を参照してください。
よくある質問
Q. 予算が限られている場合、何から始めればよいですか。
A. 見学動線上のトイレとエントランスから始めるのが一般的です。見学者が必ず目にし、在校生の不満も出やすく、比較的小さな費用で印象を変えられます。
Q. 老朽化対策と募集対策のどちらを優先すべきですか。
A. 安全と法令に関わる老朽化対策が先です。そのうえで、屋上防水や外壁の工事と、内装や設備の改修の時期を合わせると、仮設や工期の重複を減らせます。
Q. 新校舎の建設は募集にどれくらい効果がありますか。
A. 一時的に志願者が増える例は見られますが、効果は教育内容や広報との組み合わせによります。建設費と維持費の負担が大きいため、改修で同じ効果が得られないかを先に検討します。
Q. 中学校や小学校の私立校でも同じ考え方ですか。
A. 基本は同じです。小中学校では保護者が学校選びの中心になることが多いため、安全性、衛生、空調など、保護者が気にする点を重点的に確認します。
Q. 大学でも同じ考え方ですか。
A. 基本は同じです。大学では、学生が長く過ごす学習スペース、食堂、図書館の評価が高くなる傾向があります。オープンキャンパスの動線から優先順位を考えます。
まとめ
入学者募集に効く施設投資は、受験生と保護者が学校を選ぶ際に目にする施設を優先して整備する投資です。私立高校の7割が定員割れで、令和8年度から就学支援金の所得制限が撤廃される中、施設は学校選びの比較要素として重みを増しています。調査では、私立高校の現役生は親世代より校舎のきれいさや施設の充実を重視しています。
優先順位は、学校見学の動線から考えます。エントランス、廊下、トイレ、普通教室、特色のある施設のうち、募集効果と緊急性が高く、費用が小さいものから着手します。投資の効果は、見学者アンケート、出願数、在校生の満足度で測り、次の判断に使います。
安全と法令に関わる老朽化対策を先に行い、そのうえで募集に効く投資を計画的に積み重ねていくことが、限られた予算で成果を出す進め方です。
参考・出典
- 日本私立学校振興・共済事業団「私学経営情報」(令和7年度 私立高等学校入学志願動向) https://www.shigaku.go.jp/files/geppou338.pdf
- 日本私立学校振興・共済事業団「令和7(2025)年度 私立大学・短期大学等 入学志願動向」 https://www.shigaku.go.jp/files/shigan_doukouR7.pdf
- 文部科学省「高校生等への修学支援」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/mushouka/index.htm
- リセマム「高校選び、公立は『進学実績・部活』私立は『校舎・設備』重視」(2024年5月24日) https://resemom.jp/article/2024/05/24/77293.html
記載の制度・データは公表時点のものです。最新の内容は各機関の公表資料でご確認ください。
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