目次
意思決定プロセスの設計図
校舎の改修が必要なのは分かっている。けれど、いつ、誰が、何を根拠に決めるのかがはっきりしない。その結果、議論が毎年繰り返され、工事は先送りになり、建物の劣化だけが進む。学校の施設整備でよく見られる状況です。
施設整備が進まない原因は、予算の不足だけではありません。決め方が決まっていないことが、判断を遅らせています。
この記事では、①施設整備の意思決定プロセスとは何か、②6つの段階、③私立学校の機関と役割、④公立学校の流れ、⑤決定を遅らせない工夫、の5点を整理します。
この記事の要点
- 意思決定プロセスは、施設整備の必要性の発意から実施後の振り返りまで、誰が何を根拠に決めるかをあらかじめ定めたもの
- 発意、現状把握、選択肢の作成、評価、決定、振り返りの6段階に分けると整理しやすい
- 改正私立学校法(令和7年4月施行)では、重要な資産の処分及び譲受け、多額の借財、予算・事業計画について評議員会の意見聴取が必要
- 公立学校では、個別施設計画、予算編成、議会の議決という流れの中で決まる
- 判断の基準と時期を先に決めておくことが、先送りを防ぐ最も有効な方法
施設整備の意思決定プロセスとは何か?
施設整備の意思決定プロセスとは、施設の改修、建替え、取得、処分などについて、誰が、どの段階で、何を根拠に判断するかをあらかじめ定めた手順です。
個々の案件をその都度議論するのではなく、決め方そのものを決めておくことで、判断の質と速さの両方を上げることができます。
ファシリティマネジメントの考え方では、日常の実務、業務管理、戦略・計画の3つのレベルがあり、施設整備の意思決定は主に業務管理と戦略・計画のレベルに当たります。全体像はファシリティマネジメントは学校経営に何をもたらすか?にまとめています。
どんな段階で進めるか?
6つの段階に分けます。
| 段階 | 内容 | 主な担い手 |
|---|---|---|
| 1. 発意 | 施設の課題を把握し、検討を始める | 施設担当、学校現場 |
| 2. 現状把握 | 劣化状況、費用、利用状況を調べる | 施設担当、外部の専門家 |
| 3. 選択肢の作成 | 改修、建替え、集約、現状維持などの案を作る | 施設担当、設計者 |
| 4. 評価 | 費用、効果、リスクを比べる | 施設担当、財務担当 |
| 5. 決定 | 機関で方針と予算を決める | 理事会・評議員会、首長・議会 |
| 6. 振り返り | 実施後の効果を確認し、次に活かす | 施設担当、監事 |
1. 発意
劣化の発見、事故、在籍者数の変化、教育課程の変更など、検討のきっかけはさまざまです。きっかけを待つのではなく、定期的な点検と年1回の全体の見直しで、課題を拾い上げる仕組みを作ります。教職員からの不具合の報告も、発意の重要な入口です。
2. 現状把握
建物ごとの劣化状況、費用、利用状況を調べます。建物カルテとして整理しておけば、案件のたびに一から調べる必要がなくなります。建物カルテとは何か?を参照してください。
3. 選択肢の作成
一つの案だけを示すと、賛成か反対かの議論になりがちです。改修、建替え、集約、現状維持など、少なくとも2〜3の選択肢を用意します。選択肢ごとに、実施する範囲、時期、概算の費用をそろえて示すと、比べやすくなります。
4. 評価
選択肢ごとに、長期の費用、教育上の効果、リスクを比べます。長期の費用の比べ方は施設投資のROIはどう考えるか?で扱っています。
5. 決定
機関で方針と予算を決めます。資料の作り方は理事会で施設投資を通すための資料はどう作るか?にまとめています。
6. 振り返り
工事の完了後、費用が計画どおりだったか、期待した効果が出たかを確認します。振り返りの結果は、次の案件の評価の精度を上げる材料になります。工事費が見込みを大きく上回った場合は、その原因を記録し、次の概算に反映させます。
私立学校ではどの機関が何を決めるか?
改正私立学校法が令和7年4月1日に施行され、機関の役割が明確になりました。
文部科学省の説明資料では、改正の基本理念を、執行と監視・監督の役割の明確化・分離としています。
| 機関 | 役割 | 施設整備との関係 |
|---|---|---|
| 理事会 | 学校法人の業務の決定、理事の職務の執行の監督 | 施設整備の方針、予算、契約を決定 |
| 評議員会 | 諮問機関として意見を述べ、チェック機能を担う | 重要な資産の処分・譲受け、多額の借財などについて意見 |
| 監事 | 業務と財産の監査 | 施設整備の手続きと執行を監査 |
| 会計監査人 | 計算書類の監査(大臣所轄学校法人等は設置義務) | 施設整備の会計処理を監査 |
評議員会の意見聴取が必要な事項
文部科学省の資料では、すべての学校法人で、次の事項について評議員会の意見を聴く必要があるとされています。
- 重要な資産の処分及び譲受け
- 多額の借財
- 予算及び事業計画の作成・変更
- 報酬基準の策定・変更
- 収益事業に関する重要事項
大規模な校舎の建設、校地の取得や売却、借入金による施設整備は、これらに当たることが多くあります。理事会で決定する前に評議員会の意見を聴く日程を、あらかじめ組み込んでおく必要があります。
中期的な計画
大臣所轄学校法人等には、事業に関する中期的な計画の策定が求められています。施設整備の計画を中期的な計画の中に位置づけておけば、個別の案件ごとに一から議論する必要が減ります。
会計との関係
施設整備の決定は、基本金の組入れや減価償却を通じて決算に影響します。会計の処理は学校法人会計で施設整備はどう処理するか?を参照してください。
公立学校ではどう決まるか?
計画、予算、議会という流れの中で決まります。
個別施設計画
公立学校の施設は、地方公共団体の公共施設等総合管理計画と、学校施設の長寿命化計画(個別施設計画)に基づいて整備されます。どの学校をいつ改修するかの大枠は、この計画で定められます。計画の考え方は学校施設の長寿命化計画(個別施設計画)とは?を参照してください。
予算編成
教育委員会が事業を予算要求し、首長部局の財政担当との調整を経て、首長が予算案を作ります。国庫補助を使う場合は、補助の申請の時期と予算編成の時期を合わせる必要があります。
議会の議決
予算は議会の議決を経て成立します。一定額以上の工事の請負契約は、地方自治法に基づき、議会の議決が必要になります。
公共施設全体の再編の中での学校の位置づけは公共施設の再編と学校にまとめています。
決定を遅らせないためには?
4つの工夫があります。
判断の基準を先に決める
劣化の評価がどの水準になったら改修を検討するか、築何年で建替えと長寿命化を比較するかなど、判断の基準を先に決めておきます。基準に当てはまった案件は、自動的に検討の対象になります。誰かが声を上げるのを待つ必要がなくなります。
判断の時期を暦に組み込む
補助金の申請、予算編成、理事会・評議員会の開催の時期から逆算し、各段階の期限を年間の暦に組み込みます。
金額に応じて決定の場を分ける
小規模な修繕は担当部署、中規模の改修は理事長や教育長、大規模な整備は理事会や議会というように、金額に応じて決定の場を分けます。すべてを最上位の機関で議論すると、重要な案件の議論の時間が足りなくなります。
決めなかった場合の影響を示す
先送りした場合に、劣化がどう進み、費用がどう増えるかを示します。現状維持も一つの選択肢として、その費用とリスクを他の選択肢と並べて評価します。
年間の暦はどう組むか?
私立学校の例で、年間の流れを示します。実際の時期は、学校法人の会計年度、補助金の申請時期、機関の開催日程に合わせて調整します。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 春 | 前年度の工事の振り返り、建物カルテの更新 |
| 夏 | 劣化状況の点検、翌年度以降の案件の洗い出し |
| 秋 | 選択肢の作成と評価、概算の工事費の算出 |
| 冬 | 評議員会の意見聴取、理事会での予算・事業計画の決定 |
| 翌年度 | 設計、補助金の申請、工事の発注・実施 |
夏休みに工事を行う場合、その前年度のうちに予算と設計を固めておく必要があります。工事の時期から逆算すると、検討は1年以上前に始める必要があることが分かります。
決定の記録はどう残すか?
決定の内容だけでなく、決定に至った経緯を記録します。
| 記録の項目 | 内容 |
|---|---|
| 検討した選択肢 | どんな案を比べたか |
| 評価の結果 | 費用、効果、リスクの比較 |
| 決定の理由 | なぜその案を選んだか |
| 条件 | 補助金の採択、在籍者数の推移など、決定の前提となった条件 |
| 見直しの時期 | いつ、どの条件が変わったら見直すか |
前提の条件が変わったときに、どの決定を見直すべきかがすぐに分かります。監事の監査や、将来の担当者への引き継ぎにも役立ちます。
よくある質問
Q. 施設担当者が1人しかいない場合も、この手順は必要ですか。
A. 必要です。担当者が少ないほど、属人的な判断になりやすく、異動や退職で経緯が失われます。手順と記録の形式を決めておくことで、担当者が替わっても判断を引き継げます。
Q. 理事会で否決された案件はどうすればよいですか。
A. 否決の理由を記録し、現状把握や選択肢の作成の段階に戻って見直します。理由が費用であれば段階的な整備や補助金の活用、効果への疑問であれば根拠の補強を検討します。
Q. 外部の専門家はどの段階で関わるべきですか。
A. 現状把握と選択肢の作成の段階で関わってもらうと効果的です。劣化状況の調査、概算の工事費、長期の費用の試算は、専門家の知見が判断の質を大きく左右します。
Q. 評議員会の意見聴取は、理事会の決定の前後どちらですか。
A. 意見聴取が必要な事項は、理事会の決定の前に行うのが原則です。寄附行為の定めを確認し、余裕を持って日程を組んでください。
まとめ
施設整備の意思決定プロセスは、発意から振り返りまで、誰が何を根拠に判断するかをあらかじめ定めた手順です。発意、現状把握、選択肢の作成、評価、決定、振り返りの6段階に分けると整理しやすくなります。
私立学校では、令和7年4月施行の改正私立学校法により、重要な資産の処分及び譲受けや多額の借財について、評議員会の意見聴取が必要とされています。公立学校では、個別施設計画、予算編成、議会の議決という流れの中で決まります。
判断の基準と時期を先に決め、金額に応じて決定の場を分け、先送りした場合の影響を示す。決め方を決めておくことが、施設の劣化に判断が追いつく学校をつくる近道です。
参考・出典
- 文部科学省「私立学校法の改正について」(令和7年3月25日更新) https://www.mext.go.jp/content/20250325-mxt_sigakugy-000021776_1.pdf
- 文部科学省「私立学校法の改正について(令和5年改正)」 https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shiritsu/mext_00001.html
- 公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会「FMとはどのようなものか」 https://jfma.or.jp/whatsFM/
- 私立学校法、地方自治法
記載の制度は公表時点のものです。最新の内容は所管省庁の公表資料でご確認ください。
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