目次
外部利用・民間活用と税務の論点
学校の寮は、入寮者が減ると一気に重荷になります。空室が増えても、建物の維持費、管理人の人件費、設備の更新費は変わりません。築年数の古い寮では、改修するか閉じるかの判断を迫られます。
一方で、寮には宿泊できる施設という独自の価値があります。長期休暇中の合宿、留学生、他校の学生、研修の受け入れ。使い方次第で収入につながります。
ただし、在学生以外を泊めると、税務と法令の扱いが大きく変わります。この記事では、①寮・寄宿舎の収益化とは何か、②在学生専用の寮の扱い、③外部に泊める場合の論点、④民間活用の手法、⑤判断の進め方、の5点を整理します。
この記事の要点
- 学校法人が専ら在学生を宿泊させるための寄宿舎の経営は、収益事業に該当しないとされている
- 学校法人が寄宿舎の用に供する不動産は、不動産取得税と固定資産税が非課税
- 在学生以外を有料で泊めると、法人税法上の旅館業、旅館業法の許可、建築基準法の用途が問題になる
- 国立大学では、定期借地や負担付寄附の方式で、大学の経費負担なく寮を整備した事例がある
- 収益化の前に、空室の原因と寮の将来需要を見極めることが先決
寮・寄宿舎の収益化とは何か?
寮・寄宿舎の収益化とは、学校が保有する学生寮や寄宿舎について、空室や長期休暇中の空き期間を活用したり、運営を民間に委ねたりして、維持費を上回る収入を得る、あるいは負担を減らす取組です。
大きく3つの方向があります。
| 方向 | 内容 | 主な論点 |
|---|---|---|
| 入寮者を増やす | 他学年、留学生、系列校の学生の受け入れ | 寮費の設定、生活指導の体制 |
| 外部に泊める | 合宿、研修、短期滞在の受け入れ | 法人税、旅館業法、建築基準法 |
| 民間に委ねる | 運営委託、建物の賃貸、定期借地での建替え | 契約形態、税務、在学生の優先 |
在学生専用の寮はどう扱われるか?
税の面では優遇されています。
法人税
税務大学校の研究論文では、学校法人が専ら在学生を宿泊させるための寄宿舎の経営は、収益事業に該当しないものとして整理されています。
法人税基本通達でも、学生または生徒の就学を援助することを目的とする公益法人等の経営する学生寮で、地方税法施行令に定める要件のすべてに該当するものは、旅館業に該当しないとされています。
固定資産税・不動産取得税
学校法人がその設置する学校の寄宿舎の用に供する不動産は、不動産取得税と固定資産税が課されません。校舎と同じく、寮も教育を支える施設として非課税の範囲に入っています。
学校法人の税制優遇の全体像は学校法人の税制優遇はどこまで及ぶか?にまとめています。
外部の人を泊めるとどうなるか?
3つの論点が生じます。
法人税の旅館業
在学生以外の人を有料で継続して泊めると、法人税法上の収益事業である旅館業に当たる可能性があります。長期休暇中に合宿団体や研修の受け入れを定期的に行う場合は、その所得に法人税がかかることを想定しておきます。
収益事業の要件と税率は学校法人の収益事業にはどう法人税がかかるか?で扱っています。
旅館業法の許可
旅館業法では、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業を旅館業としており、営業には都道府県知事等の許可が必要です。在学生の寄宿舎は生活の本拠としての居住であるのに対し、外部の人を短期間有料で泊める場合は、旅館業の許可が必要になる可能性があります。
許可には、構造設備の基準を満たすことが求められます。事前に保健所に相談します。
建築基準法の用途
建築基準法上、寄宿舎とホテル・旅館は別の用途です。寮をホテル・旅館として使う場合は用途変更に当たり、変更する部分の床面積が200平方メートルを超えると確認申請が必要になります。避難や防火の基準も変わるため、改修が必要になることがあります。
| 使い方 | 法人税 | 旅館業法 | 建築基準法の用途 |
|---|---|---|---|
| 在学生の居住 | 収益事業に当たらないとされる | 対象外 | 寄宿舎 |
| 系列校の学生の居住 | 契約形態により確認 | 対象外が一般的 | 寄宿舎 |
| 合宿・研修の短期宿泊 | 旅館業に当たる可能性 | 許可が必要な可能性 | 用途変更の可能性 |
固定資産税への影響
外部の宿泊に使っている部分は、寄宿舎として教育の用に供しているとは言いにくくなり、固定資産税の非課税が外れる可能性があります。空き校舎を貸す場合と同じ考え方です。詳しくは空き校舎を貸すと税金はどうなる?を参照してください。
民間活用にはどんな手法があるか?
国立大学の事例が参考になります。文部科学省の資料では、多様な財源を活用した学生寮・宿舎の整備事例が紹介されています。
| 大学 | 方式 | 規模 | 大学の負担 |
|---|---|---|---|
| 長崎大学(留学生宿舎) | 建物譲渡特約付定期借地権(30年間) | 21ユニット・84人収容 | 経費負担なし |
| 横浜国立大学 | 負担付寄附方式(35年間) | 学生用252戸、研究者・職員用59戸 | 自己資金不要 |
| 香川大学 | 負担付寄附方式 | 70室 | 拠出金不要 |
| 東京工業大学 | 民間建物の賃借(20年) | 32ユニット・128室 | 建設資金不要 |
定期借地方式
大学の土地に定期借地権を設定し、民間事業者が寮を建設・運営します。長崎大学の事例では、建物譲渡特約付きの定期借地権で30年間とし、期間終了後に建物を大学に譲渡する仕組みです。
学校法人がこの方式を取る場合、土地の貸付は不動産貸付業として収益事業に当たるかどうか、土地の固定資産税の非課税が維持されるかどうかを確認する必要があります。
負担付寄附方式
民間事業者が寮を建設して大学に寄附し、その代わりに一定期間の運営権を得る方式です。大学は建設資金を用意せずに寮を持つことができます。
民間建物の賃借
民間事業者が建てた寮を、大学が借り上げて学生に提供します。建設資金が不要で、入居率が一定以上であれば運用経費もかからない契約とした例があります。
運営を委託するときは何に注意するか?
建物は学校が持ったまま、寮の運営だけを民間の寮運営会社に委託する方法もあります。管理人の確保、食事の提供、入退寮の手続きなどを任せられます。
委託と賃貸の違い
運営の委託であれば、寮は引き続き学校の寄宿舎であり、在学生の居住に使う限り税の扱いは変わりにくいと考えられます。一方、建物を運営会社に一括で貸し、運営会社が学生から寮費を受け取る形にすると、学校から見れば建物の賃貸になります。この場合は不動産貸付業としての課税や、固定資産税の非課税の扱いを確認する必要があります。
在学生の優先と生活指導
運営を任せても、在学生の入寮を優先すること、門限や生活指導のルールを学校の方針に沿って運用することを契約で定めておきます。空室を外部の学生や社会人に貸す運用を認めるかどうかも、事前に決めておきます。
改修で入寮者は戻るか?
空室の原因が設備の古さであれば、改修で入寮者が戻る可能性があります。
入寮を敬遠される理由として多いのは、相部屋、共同の浴室やトイレ、空調のない居室、通信環境の不足です。個室化、ユニットバスの設置、空調と無線LANの整備は、入寮者を増やす効果が見込めます。
ただし、個室化すると定員が減ります。改修費と、増える入寮者数、寮費の見直しを並べて、回収できるかを試算します。
収益化はどう判断するか?
4つの手順で進めます。
1. 空室の原因を確かめる
入寮者が減った理由が、在籍者数の減少なのか、寮の設備の古さなのか、寮費と周辺の賃貸住宅との差なのかで、取るべき手が変わります。設備が原因なら、改修で入寮者が戻る可能性があります。
2. 将来の需要を見込む
在籍者数の見通し、遠方からの入学者の割合、留学生の受け入れ方針から、寮の将来の需要を見込みます。需要が戻らないと判断すれば、外部利用や用途転換、除却を検討します。
3. 選択肢ごとに手取りを比べる
外部利用で得られる収入から、旅館業の許可取得や用途変更のための改修費、追加の人件費、税負担を差し引いた手取りを比べます。民間活用であれば、契約期間中の収入と、期間終了後の建物の扱いを比べます。
4. 在学生への影響を確認する
外部の人が寮に出入りすると、在学生の安全と生活環境に影響します。動線や時期を分ける、在学生の利用がない長期休暇中に限るなどの配慮が必要です。
私立学校の経営改善の中での施設の位置づけは私立学校の経営改善で施設はどう位置づけるか?にまとめています。
よくある質問
Q. 夏休みに部活動の合宿で他校の生徒を泊めるのは問題ありませんか。
A. 単発で実費程度であれば問題になりにくいと考えられますが、宿泊料を取って継続的に受け入れる場合は、旅館業法の許可や法人税の旅館業の論点が生じます。保健所と税理士に確認してください。
Q. 寮の食堂を外部に開放できますか。
A. 飲食店業として収益事業に当たる可能性があり、食品衛生法上の営業許可も必要になります。
Q. 古い寮を建て替える資金がありません。
A. 定期借地や負担付寄附の方式で、民間資金を使って建て替えた国立大学の事例があります。私立学校で取り入れる場合は、税務と私立学校法上の手続きを先に確認してください。
Q. 留学生を受け入れるために寮を使えますか。
A. 在学する留学生であれば、在学生の寄宿舎として扱えます。短期の交流プログラムで他校の留学生を受け入れる場合は、受け入れの形態によって扱いが変わるため、事前に確認してください。
Q. 寮を閉鎖した場合、建物はどうすればよいですか。
A. 閉鎖しただけでは維持費と劣化が続きます。他用途への転用、賃貸、売却、除却のいずれかを早めに決めます。
まとめ
学校法人が専ら在学生を宿泊させるための寄宿舎の経営は、収益事業に該当しないとされ、寄宿舎の用に供する不動産は固定資産税と不動産取得税も非課税です。在学生専用の寮は、税の面で手厚く扱われています。
一方、在学生以外を有料で泊めると、法人税法上の旅館業、旅館業法の許可、建築基準法の用途変更という3つの論点が生じ、固定資産税の非課税が外れる可能性もあります。
建替えや運営の負担が重い場合は、定期借地や負担付寄附など、国立大学で使われてきた民間活用の手法が選択肢になります。まず空室の原因と将来の需要を見極め、選択肢ごとの手取りを比べて判断することが大切です。
参考・出典
- 国税庁 税務大学校「公益法人等に対する法人課税の在り方について-学校法人に対する課税を中心に-」 https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/86/03/index.htm
- 文部科学省「監事が知っておきたい 学校法人の税務」(平成29年10月13日 監事研修会資料) https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/10/18/1397326_4.pdf
- 文部科学省「参考資料1 多様な財源を活用した施設整備の具体的事例」 https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2011/05/17/1304332_09.pdf
- 文部科学省「文教施設における多様なPPP/PFI事業等の事例集」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/ppp/1406650_00001.htm
- 法人税法施行令、法人税基本通達、地方税法、旅館業法、建築基準法
記載の制度・事例は公表時点のものです。最新の内容は各機関の公表資料でご確認ください。
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