この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

働きやすい職員室はどう設計する?

授業準備・相談・収納・休憩を支える改修計画

職員室の机を新しくしても、書類を探す、印刷を待つ、打合せ場所を探すといった負担が残ることがあります。家具の更新だけで改善できる課題と、業務や収納のルールまで見直す課題を分ける必要があります。

職員室では、教材研究、成績処理、電話対応、児童生徒への対応、教職員間の相談が同時に行われます。会話しやすさだけを優先すると集中作業が難しくなり、静かさだけを優先すると連携しにくくなる可能性があります。

働きやすい職員室のデザインは、見た目の刷新ではなく、必要な業務を行える場所と環境を整える計画です。国の調査と施設整備指針を踏まえ、教育委員会や学校法人が設計・工事を発注する際の確認事項を整理します。

この記事の要点

職員室の改修は、業務の見直しと空間・設備の整備を組み合わせて進めます。

  • 令和4年度教員勤務実態調査の10・11月では、教諭の平日1日当たり在校等時間は小学校10時間45分、中学校11時間1分です。職員室内だけの滞在時間ではありません。
  • 同調査の平成28年度比の減少は、小学校教諭30分、中学校教諭31分です。内装改修の効果を示すデータではありません。
  • 学校施設整備指針は、執務に必要な家具・収納に加え、打合せや休憩、ICT利用を考慮した計画を示しています。
  • 集中作業、短い相談、機密性の高い面談、教材準備、休憩を、使い方に応じて配置します。
  • フリーアドレスは手段の一つです。利用人数、個人資料、連絡方法、支援スタッフの利用を確認して採否を決めます。

働きやすい職員室のデザインとは何か?

働きやすい職員室のデザインとは、教職員の業務と連携を支える空間、家具、設備、運用を一体で計画することです。

文部科学省「小学校施設整備指針」の管理関係室では、円滑な事務処理、ICTの日常的な活用、教材準備などを支える環境が示されています。職員室についても、机や椅子だけでなく、文書、教材、教具の保管を考慮しています。

この考え方を発注条件に置き換えると、「何席入るか」だけでは不十分です。どの業務をどこで行い、どの資料や設備へ移動するかを整理してから、机と収納を配置します。

また、教職員の構成は担任だけではありません。管理職、事務職員、養護教諭、非常勤職員、専門スタッフなどの利用を確認します。毎日使う席と、来校日に必要な執務場所も分けて整理する必要があります。

工事の対象と進め方は、学校施設の内装リフォームとは?対象・効果・進め方を専門会社が解説も参考に、家具更新、内装改修、電気・通信設備の変更に分けて計画できます。

教員勤務実態調査から何が分かる?

勤務実態調査からは長時間勤務の状況が分かりますが、特定のレイアウトの効果までは分かりません。

文部科学省「教員勤務実態調査(令和4年度)」の確定値概要では、10・11月の平日1日当たりの在校等時間を次のように示しています。対象の「教諭」には、主幹教諭・指導教諭を含みます。

学校種・職種平成28年度の平日1日当たり令和4年度の平日1日当たり増減
小学校・教諭11時間15分10時間45分30分減
中学校・教諭11時間32分11時間1分31分減
小学校・副校長・教頭12時間12分11時間45分27分減
中学校・副校長・教頭12時間6分11時間42分24分減

出典は、文部科学省が2024年4月に公表した確定値概要です。各年度の調査における10・11月の結果を比較したもので、夏季休業中を含む年間の平均ではありません。

在校等時間を、そのまま職員室での作業時間や時間外勤務時間と読み替えることもできません。調査値を用いて「机を変更すれば一定時間短縮できる」と計算する根拠はありません。

自校では負担が生じる場面を調べる

全国調査は課題の背景として使い、自校の設計条件は別に調べます。例えば、教材を広げる場所がない、相談のたびに作業を中断する、共有資料の保管場所が分からないなど、実際の場面を記録します。

設計に必要なのは、誰の働き方が良いか悪いかという評価ではありません。必要な設備や場所が不足しているのか、資料の管理方法に問題があるのかを分けるための情報です。

教員の意見だけでなく、電話や来客対応を担う職員、印刷物を扱う職員の動きも確認します。同じ空間でも担当業務によって支障が異なるため、複数の職種から意見を集めることが重要です。

働き方改革と職員室改修はどう結び付ける?

業務量や役割分担の見直しを先に整理し、その運用を支える空間として改修を位置付けます。

中央教育審議会の2024年8月答申は、学校における働き方改革、指導・運営体制の充実、教師の処遇改善などを総合的に扱っています。職員室を改修すれば長時間勤務が解消するという内容ではありません。

発注者は、空間で対応できる課題と組織で対応する課題を分けます。書類を取り出しにくい問題には収納の改善が関係しますが、同じ内容を複数の書式へ入力する問題は、手順や情報システムの見直しも必要です。

また、支援スタッフを配置する場合は、席だけを用意して終えないことが重要です。誰と連携し、どの資料にアクセスし、どこで作業するかを決め、その条件を空間と設備へ反映します。

改修の目的を確認できる言葉にする

「交流を増やす」「働きやすくする」だけでは完成後に評価しにくくなります。「短い相談をする場所が確保できる」「教材を広げた作業ができる」「来客が執務資料の前を通らない」など、確認できる状態で目的を記載します。

勤務時間の変化も確認する場合は、同時に行った人員配置や業務見直しを記録します。改善があっても、その全てを内装工事の効果として報告しないことが必要です。

職員室のゾーニングはどう決める?

同時に行うと支障が出る業務を把握し、近づける機能と分ける機能を決めます。

次の表は、設計打合せで使う機能整理の例です。全ての機能に専用室を設ける基準ではありません。既存の会議室や準備室も含めて、利用できる場所を検討します。

機能想定する活動配置で確認すること
個人の執務授業準備、成績処理、資料作成作業面、電源、照明、通行との関係
短時間の相談学年・教科間の連絡、申し送り集まりやすさ、周囲への声の影響
機密性の高い対応保護者面談、個別の相談視線、会話、来訪者の経路
教材・印刷作業配布物の準備、仕分け、製本作業台、機器、保管場所の関係
収納個人資料、共有教材、備品分類、出し入れ、管理責任
休憩食事、気分転換、短い休息執務との区切り、清掃、利用方法

文部科学省の施設整備指針は、職員室内の打合せ・休憩コーナーや、職員用の休憩室も扱っています。休憩機能を余った場所へ押し込まず、利用の目的を決めて計画に含めます。

相談のしやすさと集中を両立させる

机の間で全ての打合せを行うと、近くで作業する人への影響が出る場合があります。短い相談用の場所を設ける案では、席からの距離、声の届き方、使える時間帯を確認します。

逆に、相談場所を遠くへ離すと、連絡のための移動が増える可能性があります。図面上の区分だけで決めず、日常の相談内容と移動を踏まえて配置を調整します。

来訪者対応は、児童生徒の安全管理と情報管理も含めて検討します。面談室への案内のために執務席の間を通る計画なら、別の経路や受付位置を検討する余地があります。

フリーアドレスは導入すべきか?

フリーアドレスは、業務と資料管理の条件が合う場合に検討する選択肢です。

席を固定しないことで得たい効果を、先に明確にします。学年や教科を越えた連携を求めるのか、非常勤職員の利用に対応するのかによって、必要な席や収納が異なります。

座席方式検討に向く条件導入前の確認事項
固定席個人資料や継続作業が多い書類の増加、席間の移動、共有機能
グループ内での席の共用学年・教科単位の連携を保ちたいグループ人数、収納、連絡方法
広い範囲で席を共用業務に応じた場所選択を重視する在席把握、機器、個人資料、席不足
固定席と共用席の併用職種や利用頻度の違いが大きい席の区分、利用ルール、変更方法

共用席にする場合は、資料を片付ける場所と、機密書類を保管する場所を先に確保します。座席を減らすことを先に決め、収納を後から追加する進め方では、動線が狭くなる可能性があります。

試行する場合は、年度替わりや繁忙期も想定します。通常日の利用人数だけでなく、会議前後など人が集まる場面を確認します。特定の働き方を一律に求めず、職種や身体状況に応じた調整も検討します。

収納とICTはどう整える?

資料の管理方法を整理し、収納・作業台・電源・通信を業務の流れに合わせて配置します。

収納は、個人の作業中資料、共有教材、保管が必要な記録、備品を分けて考えます。保存期間や廃棄の判断は学校の規程等に基づき、改修の都合だけで文書を処分しないことが必要です。

棚を増設する前に、現在の保管量と利用頻度を確認します。頻繁に使う物と長期保管する物を同じ場所に詰め込むのではなく、取り出す頻度に応じて配置を検討します。

個人情報を含む資料については、施錠だけでなく閲覧できる人と場所を整理します。印刷物の一時置き場や、画面が来訪者から見える位置も確認対象です。具体的な管理方法は、設置者の情報セキュリティ方針と整合させます。

家具配置と配線を同時に決める

机を移動してから電源を考えると、延長配線が通路を横断するなどの問題が生じる場合があります。端末、複合機、会議用機器の利用場所を図面へ落とし、必要な電源と通信経路を設計者へ確認します。

オンライン会議を行う場合は、接続環境に加えて、会話が周囲へ与える影響と画面の背景も検討します。共用端末を使う場合は、ログイン、充電、返却、保管までの手順を決めます。

基盤整備の検討は、学校施設のICT環境整備とは?一人一台時代を支えるインフラ工事と進め方を専門会社が解説も参照し、家具と機器の更新時期を調整します。

内装や休憩スペースは何を重視する?

見た目に加え、光、音、清掃、操作性を実際の作業で確認します。

窓に向かって座る席や、画面へ照明が映り込む席では、同じ室内でも使い勝手が異なります。机の配置案は、照明、空調吹出口、ブラインド、収納の高さと併せて検討します。

会話の多い場所と静かな作業場所を分ける場合は、家具だけで十分か、内装や建具の変更が必要かを設計者に確認してもらいます。材料名だけで吸音・遮音の効果を決めつけず、解消したい問題を先に示します。

休憩場所は、椅子を置くだけで使われるとは限りません。電話対応や来訪者対応を誰が担うか、休憩中に呼ばれる頻度、飲食や清掃のルールを含めて検討します。空間と運用の両方がそろって初めて使える場所になります。

内装の統一感を検討する際は、「選ばれる学校」をつくる内装デザインの基本|3つの接点から考えるも参考にできます。ただし、写真に映える印象と、毎日働く人の使い勝手は分けて評価します。

改修の発注と効果確認はどう進める?

現況調査、試行、設計、施工、使用後の確認を段階的に進めます。

最初に、部屋の寸法、設備位置、利用人数、収納量、業務の流れを整理します。教職員の要望は「大きな机が欲しい」だけでなく、現在どの作業ができないのかまで聞き取ります。

家具の移動など戻せる範囲で配置を試し、工事が必要な事項を絞ります。試行中は、相談、印刷、収納、来客対応などで不都合が出ていないかを確認します。使う人が偏らないよう、異なる職種や勤務日の意見を集めます。

工事範囲と業務継続条件を明記する

見積りでは、家具、内装、電源、通信、機器移設、書類移動、廃棄処理を分けます。既存家具の再利用範囲も示し、異なる提案を同じ条件で比較します。

工事中も必要な電話対応、事務処理、情報保管について、仮の執務場所を決めます。機器の停止可能時間や、移設後の接続確認を工程へ含め、学校と施工者の担当範囲を明確にします。

完成時には、席数だけでなく、収納の開閉、家具配置後の通路、電源、機器の接続、来訪者からの視線を確認します。管理職だけでなく、日常的に作業する人も確認に参加します。

使用開始後は、改修前に設定した課題に沿って評価します。相談場所が使われているか、探し物が減ったか、機密性の高い対応が分けられたかを記録し、家具位置や運用を調整します。評価の時期と担当者を、引渡し前に決めておくことが適切です。

よくある質問

職員室の改修は、流行の方式より、自校の業務と管理体制を基準に判断します。

Q. フリーアドレスにすれば残業は減りますか?

A. 一律には判断できません。席の共用だけで業務量は変わらないため、資料管理や連絡方法、業務分担を併せて見直す必要があります。

Q. 教員勤務実態調査の時間は職員室での滞在時間ですか?

A. 違います。令和4年度調査の10・11月の値は1日当たりの在校等時間です。職員室だけの作業時間や時間外勤務時間とは区別します。

Q. 狭い職員室でも相談スペースを設けられますか?

A. 隣接室や共用場所を含めて検討します。収納量と利用頻度を整理し、執務席を圧迫しない配置や時間帯での使い分けを比較します。

Q. 休憩スペースは後回しにしてよいですか?

A. 執務と併せて必要性を検討します。利用できる時間や対応体制も含め、教職員が実際に休憩できる条件を整理します。

Q. 改修の効果は勤務時間だけで評価しますか?

A. 使い勝手や業務上の支障も確認します。勤務時間を比較する場合は、人員や業務内容の変化を記録し、工事による影響と混同しないことが必要です。

まとめ

働きやすい職員室は、執務、相談、教材準備、収納、休憩を、日常業務に合わせて計画することで整えます。

令和4年度教員勤務実態調査の10・11月では、教諭の平日1日当たり在校等時間は小学校10時間45分、中学校11時間1分でした。この数値を背景として捉え、改修による削減効果とは区別します。

発注者は、施設整備指針と働き方改革の考え方を踏まえ、自校の困りごとを確認できる設計条件へ置き換えます。家具、設備、資料管理、利用ルールを同時に整え、使用開始後も調整することが重要です。

参考・出典

記載の制度・指針及び調査結果は公表資料の確認時点のものです。最新の内容は所管省庁の公表資料でご確認ください。

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