この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

公立小学校は改修か建替えか?

判断基準・費用比較・長寿命化の考え方

築45年の校舎に、そろそろ手を入れなければならない。この判断を迫られている自治体は多くあります。

長寿命化改修で80年使うのか、建て替えて新しくするのか。金額だけを比べれば改修が安く見えますが、次の更新がいつ来るかを含めると結論が変わることがあります。さらに、児童数の見通しと統合の計画が絡みます。

この記事では、①施設の現状、②判断の材料、③費用の比べ方、④補助制度の違い、⑤進め方、の5点を整理します。

この記事の要点

  • 公立小中学校施設は、令和6年5月1日現在で約6割が築40年以上
  • そのうち7割以上が改修を要するとされている
  • 文部科学省のコスト試算の枠組みでは、更新周期は改築50年・長寿命80年、長寿命化改修の周期は40年
  • 学校施設環境改善交付金では、改築は3分の1、複合化等の場合は2分の1
  • 長寿命化改良は3分の1、複合化・集約化の場合は2分の1

公立小学校の施設は今どうなっているのか?

築40年以上が約6割を占めます。

文部科学省は、公立学校施設の老朽化対策について、令和6年5月1日現在で公立小中学校施設の約6割が築40年以上を経過し、そのうち7割以上が改修を要するとしています。

昭和40年代から50年代にかけて、児童数の増加に合わせて校舎が集中的に建てられました。その世代が、いま一斉に更新の時期を迎えています。毎年少しずつ直すという平準化が効きにくい構造です。

耐震化は済んでいる

構造体の耐震化と、体育館の吊り天井の対策は、ほぼ完了しています。残っているのは、屋上防水、外壁、給排水、電気設備、内装といった、建物の使い勝手と寿命に関わる部分です。

つまり、安全のための工事から、使い続けるための工事へ、論点が移っています。改修の進め方は小学校の改修・リノベーション完全ガイドにまとめています。

判断の材料は何か?

5つあります。

材料見るもの
建物の状態躯体の劣化、鉄筋の腐食、コンクリートの中性化
児童数の見通し20年後、30年後に何学級必要か
統合・再編の計画学校を残すのか、統合するのか
敷地の条件建て替える場所があるか、仮設を置けるか
財政の見通し単年度の負担、地方債と交付税措置

躯体の状態が前提になる

長寿命化改修は、躯体が健全であることが前提です。コンクリートの中性化が進み、鉄筋が腐食している建物では、内装や設備を直しても長くは使えません。

まず劣化の状況を調べます。調査の結果によって、選択肢そのものが変わります。この順序を飛ばすと、改修の途中で建て替えに変更することになり、設計の費用も工期も無駄になります。

児童数の見通しが規模を決める

20年後に必要な教室の数を置きます。今の規模で建て替えると、将来は余る面積を抱えることになります。

逆に、児童数が増えている地域では、改修では対応できない場合があります。増築か建て替えかの判断になり、敷地に余裕があるかどうかが前提になります。

統合の計画と切り離せない

その学校を何年使うのかが決まらなければ、投資の判断はできません。10年後に統合する計画があるなら、大規模な改修は避けます。

判断の枠組みは学校は建替え・長寿命化改修・統合のどれを選ぶ?にまとめています。

費用はどう比べるのか?

年数で割って比べます。

工事費だけを並べると、長寿命化改修の方が安く見えます。しかし、次の更新がいつ来るかが違います。

文部科学省が示すコスト試算の枠組みでは、更新周期として改築50年、長寿命80年が設定されており、長寿命化改修の周期は40年、工事期間は2年とされています。これらは試算ツールの区分ごとの設定で、各自治体が実態に応じて数値を定める仕組みです。

項目改築長寿命化改修
試算上の更新周期50年80年
改修の周期ー40年
初期費用大きい改築より小さい
工事期間長い改築より短い
仮設校舎必要になることが多い使いながら施工できる場合がある

40年使うのか、80年使うのか

改築すれば、その後は長い期間使えます。長寿命化改修は、既存の躯体を活かして使用年数を延ばす方法です。比べるときは、同じ期間で並べます。

年あたりの費用で比べると、判断の材料になります。総額ではなく、1年あたり・1平方メートルあたりに直して並べます。維持管理費と光熱費も、同じ期間で足し合わせます。

見えない費用を含める

仮設校舎の建設と撤去、備品の移転、工事期間中の授業への影響。これらは工事費とは別に発生します。

長寿命化改修では、使いながら工事をする場合が多くなります。仮設の費用は抑えられますが、工期は延びます。どちらにも費用が発生する形です。

長寿命化改修の内容は学校施設の長寿命化改修とは?を参照してください。

補助制度はどう違うのか?

事業の区分で補助率が変わります。

文部科学省の案内によれば、学校施設環境改善交付金では次の補助率が示されています。

事業補助率
改築(危険建物、耐震不足等)3分の1
改築(施設複合化等の場合)2分の1
長寿命化改良3分の1
長寿命化改良(複合化・集約化の場合)2分の1
大規模改造(内装改修、空調、バリアフリー化等)3分の1
学校統合に伴う既存施設の改修2分の1

新築または増築の場合は、公立学校施設整備費負担金の対象となり、負担率は原則2分の1とされています。

複合化や集約化を伴う場合に補助率が上がる点が、判断に影響します。放課後児童クラブ、公民館、図書館の分室、子育て支援の施設などと一体で整備する計画であれば、財源の条件が変わります。

制度の全体像は公立学校施設整備費(国庫補助)の基礎知識にまとめています。

地方債と交付税措置も見る

国庫補助の裏負担には、地方債を充てることになります。事業の区分によって、地方債の充当率と交付税措置の率が異なります。

実質の負担額は、補助率だけでは分かりません。財政部局と一緒に試算します。

小学校ならではの論点は何か?

3つあります。

通学距離

統合すれば、通学距離が伸びます。小学生にとって、この影響は中学生より大きくなります。スクールバスの導入が必要になる場合、その費用と運行の体制も判断の材料に入ります。運行費は毎年発生するため、施設の費用と並べて見ます。

放課後の居場所

放課後児童クラブを学校内に置く自治体が増えています。改築や長寿命化改修の機会に、専用の場所を確保できるかを検討します。余裕教室の転用で対応する場合も、専用区画と動線の整理が必要です。

複合化の区分で補助率が上がる可能性もあるため、早い段階で福祉部局と協議します。

避難所としての機能

小学校は、地域の避難所に指定されていることがほとんどです。体育館の空調、トイレ、マンホールトイレ、備蓄倉庫、非常用電源。

防災の部局が所管する予算を使える場合もあります。学校施設の整備と防災機能の強化を、別々の事業として進めるより、一体で計画する方が効率的です。足場や仮設の費用も重複しません。

住民への説明では何が問われるのか?

金額よりも、子どもの環境と地域の将来です。

改築か長寿命化改修かは、技術と財政の判断です。しかし住民説明会で出るのは、別の質問になります。

  • 工事の間、子どもはどこで授業を受けるのか
  • 通学路は安全か。騒音や振動はどうか
  • 統合するのか、この学校は残るのか
  • 避難所として使えなくなる期間はあるか
  • なぜ建て替えではなく改修なのか(またはその逆)

比較した経緯を示す

結論だけを示すと、なぜそうなったのかが伝わりません。改築と長寿命化改修の両方を検討し、何を根拠に選んだのかを並べて示します。

劣化状況調査の結果、児童数の推計、年あたりの費用。数字があると、議論が感情論になりにくくなります。

工事中の姿を見せる

図面だけでは、工事中に学校がどうなるかは伝わりません。使う教室、通れる通路、仮設の位置、工事車両の経路。図に落として示すと、漠然とした不安が具体的な質問に変わります。

どう進めるのか?

調査から始めます。

段階内容
1. 劣化状況調査躯体、屋上、外壁、設備の状態を調べる
2. 児童数の推計20年、30年後の学級数を置く
3. 方針の決定改築・長寿命化改修・統合のいずれかを選ぶ
4. 財源の検討補助の区分、地方債、単年度の負担の平準化
5. 設計・工事設計、確認申請、工事、検査

1と2を飛ばして方針を決めると、後から前提が崩れます。調査の費用は工事費に比べて小さく、判断の精度を上げる効果が大きい部分です。前年度のうちに調査だけ済ませておく方法もあります。

個別施設計画との関係

長寿命化計画(個別施設計画)を策定している自治体が大半です。その計画の中で、どの学校をいつ、どう扱うかが位置づけられているはずです。

計画と現場の判断がずれている場合は、計画の見直しが必要になります。計画の数字が古いまま残っていると、財政部局との議論がかみ合いません。児童数の推計は、数年で前提が変わります。

よくある質問

Q. 公立小中学校の校舎はどれくらい古いですか。

A. 文部科学省によれば、令和6年5月1日現在で約6割が築40年以上を経過し、そのうち7割以上が改修を要するとされています。

Q. 長寿命化改修は何年使う前提ですか。

A. 文部科学省のコスト試算の枠組みでは、長寿命の区分で更新周期80年が設定されています。数値は各自治体が実態に応じて定めます。

Q. 改築と長寿命化改良で補助率は違いますか。

A. どちらも3分の1です。複合化・集約化等の場合は2分の1になる区分があります。

Q. 建物の状態はどう調べますか。

A. 劣化状況調査を行います。躯体、屋上、外壁、設備の状態を確認し、長寿命化改修が可能かを判断します。

Q. 統合の予定がある場合はどうしますか。

A. その学校を何年使うのかを先に決めます。年数が決まらないうちは、安全に関わる工事に絞ります。

Q. 複合化すると何が変わりますか。

A. 補助率が上がる区分があります。あわせて、他の部局の予算や、施設全体の面積の削減にもつながります。

Q. 工事中の授業はどうしますか。

A. 改築では仮設校舎を建てることが多く、長寿命化改修では使いながら施工する例が多くなります。

Q. 避難所の機能は工事中どうなりますか。

A. 体育館が使えない期間が生じます。代替の避難所を防災部局と決めておきます。

Q. 実質の負担額はどう計算しますか。

A. 国庫補助のほか、地方債の充当率と交付税措置を含めて試算します。財政部局と一緒に計算します。

まとめ

公立小中学校施設は、令和6年5月1日現在で約6割が築40年以上を経過し、そのうち7割以上が改修を要するとされています。耐震化はほぼ完了し、論点は安全確保から、使い続けるための更新へ移りました。

改修か建替えかの判断は、躯体の状態、児童数の見通し、統合の計画、敷地の条件、財政の見通しの5点で決まります。このうち最初に必要なのは劣化状況調査です。躯体が健全でなければ、長寿命化改修という選択肢は成り立ちません。

費用は、総額ではなく年あたりに直して比べます。文部科学省の試算の枠組みでは、更新周期は改築50年・長寿命80年、長寿命化改修の周期は40年とされています。

補助率は、改築も長寿命化改良も3分の1ですが、複合化・集約化を伴う場合は2分の1になります。放課後児童クラブや地域施設との一体整備は、財源の条件を変える材料になります。調査、推計、方針、財源の順に進めることが、後から覆らない判断につながります。

参考・出典

記載の制度・数値は公表時点のものです。補助の対象と補助率は年度により変わるため、最新の内容は所管省庁および都道府県の公表資料でご確認ください。

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