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転用で求められる防火・避難の基準
廃校を転用する計画で、工事費が想定の2倍になることがあります。原因はほとんどが同じです。建築基準法の遡及適用です。
昭和50年代に建てられた校舎は、当時の法令に適合して建てられています。しかしその後、法令は何度も改正されました。今の基準に照らすと合わない部分が残っています。学校として使い続けている間は、それでも違法ではありません。
変わるのは用途を変えるときです。用途変更に際しては、現行の規定のうち一定のものが準用されます。排煙設備、非常用の照明装置、内装制限、防火区画。これらの工事が後から積み上がります。
そして学校には固有の事情があります。建築基準法施行令が定める「類似の用途」のどの区分にも、学校は入っていません。つまり、どの用途に変えても類似の用途への変更にはなりません。
この記事では、①既存不適格とは何か、②確認申請が必要になる条件、③準用される規定、④準用されない規定、⑤進め方、の5点を整理します。
この記事の要点
- 既存不適格は建築基準法第3条第2項により、現行規定の適用を受けない状態
- 法第87条第1項により、用途を変更して200平方メートルを超える特殊建築物とする場合は確認申請が必要
- 建築基準法施行令第137条の18が定める類似の用途は第1号から第11号まであり、学校はいずれにも含まれない
- 法第87条第3項により、防火・避難・内装制限に関する規定が準用される
- 構造耐力に関する規定は準用の対象に含まれていない
既存不適格とは何か?
建築時には適法だったが、その後の法改正で現行規定に合わなくなった状態です。
建築基準法第3条第2項は、法の施行または改正の際に現に存する建築物について、適合しない規定を適用しないと定めています。違法建築ではありません。法が後から変わったため、そのままでよいと認められている状態です。
昭和56年の新耐震基準、平成に入ってからの排煙や内装制限の強化。校舎はこうした改正をまたいで建っています。
この適用除外は建物ごとに判定されます。同じ敷地に複数の棟がある校舎では、建築年の違いによって棟ごとに不適合の内容が変わります。
いつ現行基準が求められるのか
適用除外が続くのは、建物に手を加えないうちです。増築、大規模の修繕、大規模の模様替え、そして用途変更。これらを行うときに、規定の一部が現行のものに引き戻されます。
廃校活用では用途変更が必ず絡みます。学校以外に使うのですから、用途は変わります。
確認申請はどんなときに必要なのか?
用途を変更して200平方メートルを超える特殊建築物とする場合です。
建築基準法第87条第1項は、建築物の用途を変更して法第6条第1項第1号の特殊建築物とする場合について、確認申請の規定を準用すると定めています。法第6条第1項第1号の特殊建築物は、別表第一(い)欄の用途で床面積の合計が200平方メートルを超えるものです。
| 条件 | 確認申請 |
|---|---|
| 200平方メートルを超える特殊建築物にする | 必要 |
| 200平方メートル以下 | 不要 |
| 類似の用途相互間の変更 | 不要 |
ここで重要なのは、確認申請が不要であっても実体規定は守る義務があるという点です。申請の手続きが省けるだけで、防火や避難の基準が免除されるわけではありません。
面積の数え方は行政庁で運用が異なります。用途変更の確認申請は200㎡からなのか?で扱っています。
200平方メートルの数え方
棟全体ではなく、用途を変更する部分の床面積で判断するのが基本です。ただし同一の用途に供する部分の合計で見る運用もあります。
校舎は1棟で数千平方メートルあります。1教室だけを転用する場合に200平方メートル以下となるかは、所管行政庁の運用に左右されます。計画の初期に確認してください。
類似の用途とはどういうものか?
確認申請を要しない用途変更の組み合わせです。
建築基準法施行令第137条の18が、11の区分を定めています。同じ区分の中で用途を変えるなら、確認申請が不要になります。
| 号 | 用途の区分 |
|---|---|
| 第1号 | 劇場、映画館、演芸場 |
| 第2号 | 公会堂、集会場 |
| 第3号 | 診療所(患者の収容施設があるもの)、児童福祉施設等 |
| 第4号 | ホテル、旅館 |
| 第5号 | 下宿、寄宿舎 |
| 第6号 | 博物館、美術館、図書館 |
| 第7号 | 体育館、ボーリング場、スケート場、水泳場、スキー場、ゴルフ練習場、バッティング練習場 |
| 第8号 | 百貨店、マーケット、物品販売業を営む店舗 |
| 第9号 | キャバレー、カフェー、ナイトクラブ、バー |
| 第10号 | 待合、料理店 |
| 第11号 | 映画スタジオ、テレビスタジオ |
学校はこの11区分のどこにもありません。
学校からの転用はすべて確認申請の対象になる
これが廃校活用の出発点です。廃校を図書館にしても、体育館を体育施設として使い続ける以外の形に変えても、学校から他の用途への変更である以上、類似の用途には当たりません。
200平方メートルを超えるなら確認申請が必要です。そして確認申請を出せば、準用される規定への適合が審査されます。
なお同条にはただし書きがあり、第一種低層住居専用地域などの用途地域による制限が設けられています。立地によっては、類似の用途であっても扱いが変わります。
用途変更の制度全体は用途変更とは何か?にまとめています。
用途地域の制限はどう効くのか?
転用後の用途が、その地域で建てられるかどうかが先に問われます。
学校は多くの用途地域で建築できます。一方、転用後に想定する用途は制限を受ける場合があります。第一種低層住居専用地域に建つ校舎を物品販売の店舗や工場にする計画は、用途地域の段階で成立しません。
| 確認する項目 | 内容 |
|---|---|
| 用途地域 | 転用後の用途がその地域で建築可能か |
| 地区計画・文教地区 | 上乗せの制限がないか |
| 特別用途地区 | 条例による用途の制限 |
| 建ぺい率・容積率 | 増築を伴う場合の余地 |
郊外の小規模校は市街化調整区域に立地していることがあります。この場合、転用の可否は都市計画法の開発許可の論点になります。建築基準法の話より前に、この確認が必要です。
どの規定が準用されるのか?
防火、避難、内装制限が中心です。
建築基準法第87条第3項により、用途変更に際して準用される規定が定められています。実務で工事費に跳ね返るのは次のあたりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 耐火性能 | 用途と階数・面積に応じた耐火建築物・準耐火建築物の要件 |
| 防火区画 | 面積区画、竪穴区画、異種用途区画 |
| 内装制限 | 居室および避難経路の壁・天井の仕上げ |
| 排煙設備 | 居室および避難経路の排煙 |
| 非常用の照明装置 | 居室および避難経路 |
| 避難施設 | 直通階段までの歩行距離、廊下の幅、避難階段 |
古い校舎で費用がかさむのは、竪穴区画と排煙です。階段室が吹き抜けのまま廊下とつながっている校舎は多く、区画のための扉や壁を新設することになります。
竪穴区画が一番効く
学校の階段は開放的に作られています。これを区画するには防火設備を入れ、壁を立てる必要があります。意匠にも動線にも影響します。
防火区画の論点は学校の防火区画はどこでつまずくのか?で扱っています。
内装制限は用途で変わる
学校の内装制限は、他の用途と比べて緩やかに扱われてきました。転用後の用途が物品販売業を営む店舗や飲食店になると、制限が厳しくなります。
木質の仕上げを活かしたい計画では、ここで設計が止まることがあります。
準用されない規定は何か?
構造耐力に関する規定です。
法第87条第3項の準用の対象に、構造耐力の規定は含まれていません。用途変更だけであれば、現行の耐震基準への適合は求められないという整理です。
ただしこれは法律上の話です。実務では別の問題が残ります。
| 論点 | 扱い |
|---|---|
| 建築基準法上の耐震基準への適合 | 用途変更では準用されない |
| 利用者の安全確保 | 事業者・所有者の責任として残る |
| 不特定多数が使う施設への転用 | 耐震性能を確認してから判断するのが実務 |
| 増築や大規模の修繕を伴う場合 | 別の規定により現行基準が関わる |
旧耐震の校舎を多数の人が集まる施設にする場合、法律が求めていないからといって耐震性能を無視する判断は取れません。活用の可否判断として先に確認します。
転用に伴う改修の進め方は廃校リノベーションの改修工事はどう進めるのか?にまとめています。
どう進めるのか?
所管行政庁への事前相談が最初です。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 1. 図面と検査済証の確認 | 確認申請時の図面があるか。現況と一致しているか |
| 2. 転用後の用途の特定 | 別表第一のどの用途に当たるか |
| 3. 事前相談 | 確認申請の要否、面積の数え方、準用される規定の範囲 |
| 4. 不適合箇所の洗い出し | 区画、排煙、内装、避難経路 |
| 5. 概算と計画の調整 | 工事費が見合わなければ用途を見直す |
| 6. 確認申請 | 設計をまとめて申請 |
3の事前相談を飛ばして公募をかけると、応募者が条件を読み切れません。事業者に負担を丸投げすると提案の質が落ちます。
検査済証がない場合
古い校舎では検査済証が見つからないことがあります。その場合は法適合状況調査を経る必要があり、期間と費用が追加されます。計画の前に書類の有無を確認してください。
よくある質問
Q. 廃校を図書館にする場合、類似の用途として確認申請が省けますか。
A. 省けません。第6号は博物館・美術館・図書館の相互間の変更であり、学校からの変更は含まれません。
Q. 200平方メートル以下なら何もしなくてよいのですか。
A. 確認申請が不要になるだけです。防火や避難の実体規定を守る義務は残ります。
Q. 用途変更で耐震改修は必要ですか。
A. 構造耐力の規定は準用の対象に含まれていません。ただし利用者の安全確保の観点から、性能の確認は実務上欠かせません。
Q. 一番費用がかかるのはどこですか。
A. 竪穴区画と排煙設備です。開放的な階段室を持つ校舎では工事量が大きくなります。
Q. 体育館をスポーツ施設として使う場合も用途変更ですか。
A. 学校からの変更である以上、用途変更に当たります。第7号は体育館等の相互間の規定です。
Q. 事前相談には何を持っていけばよいですか。
A. 確認申請時の図面、検査済証、現況の平面図、転用後の用途と想定人数です。
Q. 市街化調整区域に建つ廃校は転用できますか。
A. 都市計画法の開発許可の論点になります。建築基準法の検討より前に都市計画担当に確認してください。
まとめ
廃校の転用でつまずく原因は、建築基準法の遡及適用です。既存不適格は法第3条第2項により現行規定の適用を受けない状態ですが、用途を変更する時点で一部の規定が引き戻されます。
法第87条第1項により、用途を変更して200平方メートルを超える特殊建築物とする場合は確認申請が必要です。確認申請が不要な場合でも、実体規定を守る義務は残ります。
建築基準法施行令第137条の18が定める類似の用途は第1号から第11号までありますが、学校はいずれの区分にも含まれていません。廃校から他の用途への変更は、すべて類似の用途に当たらない変更になります。
準用されるのは防火、避難、内装制限に関する規定です。実務で費用が膨らむのは竪穴区画と排煙設備で、開放的な階段室を持つ校舎ほど工事量が増えます。構造耐力の規定は準用の対象外ですが、不特定多数が使う施設にするなら耐震性能の確認は避けられません。
所管行政庁への事前相談を、公募や事業者選定より先に済ませてください。準用される規定の範囲と面積の数え方は行政庁の運用に左右されるため、ここを固めないと概算が立ちません。
参考・出典
- e-Gov法令検索「建築基準法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201
- e-Gov法令検索「建築基準法施行令」 https://laws.e-gov.go.jp/law/325CO0000000338
- 文部科学省「廃校施設活用状況実態調査」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/yoyuu_00002.htm
- 建築基準法第3条第2項、第87条、建築基準法施行令第137条の18
記載の制度・基準は公表時点のものです。準用される規定の範囲、面積の算定方法および類似の用途の判断は所管行政庁により運用が異なります。個別の適用は所管行政庁および指定確認検査機関にご確認ください。
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