学校の校舎は、断熱されていないものが多くあります。
昭和40年代から50年代に建てられた鉄筋コンクリート造の校舎は、壁に断熱材が入っていません。窓は単板ガラスのアルミサッシ、天井裏にも断熱材がない。冬は底冷えし、夏は最上階が高温になります。
学校として使っていた間は、それで何とか運用されていました。授業のある時間帯だけ暖房を入れ、夏休みは使わない。しかし転用して年間を通じて使う施設にすると、光熱費が想定を超えます。
一方で、全館を断熱改修すると工事費が膨らみます。どこまでやるかの線引きが必要です。
この記事では、①法令上の要求、②校舎が寒い理由、③優先順位、④ランニングコストの考え方、⑤範囲の決め方、の5点を整理します。
目次
この記事の要点
- 令和7年4月1日以降に工事に着手する増改築では、増改築を行った部分について省エネ基準への適合が求められる
- 省エネ適合性判定が必要になるのは、増改築部分の床面積が10平方メートル超で、建築基準法第6条第1項第1号または第2号に該当する規模の場合
- 改正前は建物全体の適合が求められていたが、改正後は既存部位を含めず増改築部分のみが対象
- 校舎で熱が最も出入りするのは開口部で、窓の対策が費用対効果で先に来る
- 使う範囲を絞れば、断熱改修の範囲も絞れる
法令上は何が求められるのか?
工事の内容と規模で決まります。
建築物省エネ法の改正により、令和7年4月1日以降に工事に着手するすべての建築物の新築および増改築で、省エネ基準への適合が義務づけられました。従来は大規模な建築物に限られていた義務が、対象を広げた形です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 適用の起点 | 令和7年4月1日以降に工事に着手するもの |
| 対象 | 住宅・非住宅のすべての建築物の新築・増改築 |
| 増改築での適合範囲 | 既存部位を含めず、増改築を行った部分のみ |
| 省エネ適判が必要な場合 | 増改築部分の床面積が10平方メートル超で、建築基準法第6条第1項第1号または第2号に該当する規模 |
重要なのは、増改築における適合範囲が変わった点です。改正前は建物全体の適合が求められていましたが、改正後は増改築を行った部分のみが対象になります。
増改築に当たらない改修
内装の変更や設備の更新だけであれば、増築や改築には当たりません。この場合、省エネ基準の適合義務は生じません。
ただし用途変更に伴う確認申請が必要になるケースはあります。手続きの判断は廃校を転用するとき確認申請は必要なのか?で扱っています。
工事着手の時期で判断される
適用は工事に着手した日で決まります。自治体によっては、杭打ち工事、地盤改良工事、山留め工事、根切り工事の開始を工事着手としています。
計画が令和7年4月をまたぐ場合、どの時点が着手になるかを特定行政庁に確認してください。
義務がなくても検討する理由
法令上の義務がない改修であっても、断熱を考える意味はあります。理由は光熱費と快適性です。
断熱していない校舎を通年で使えば、光熱費が事業の収支を圧迫します。義務の有無ではなく、収支で判断する項目です。
なぜ校舎は寒いのか?
開口部が大きいからです。
学校の教室は、採光のために窓が大きく取られています。南面は腰壁から天井近くまでが窓、北面は廊下側にも窓がある。この面積が、そのまま熱の出入り口になります。
| 部位 | 旧い校舎の状態 |
|---|---|
| 外壁 | 断熱材がない、またはごく薄い |
| 屋根・最上階天井 | 断熱材がない場合がある |
| 窓 | 単板ガラス、アルミサッシ |
| 玄関・昇降口 | 開放的で風が抜ける |
| 廊下 | 暖房されていない |
| 床(1階) | 断熱されていない |
断熱材が入っていないことに加えて、気密も取れていません。建具の隙間、配管の貫通部、換気口から空気が入ります。
最上階と1階が厳しい
最上階は屋根から熱が入り、冬は逃げます。屋上に断熱がない校舎では、夏の最上階が使いものにならないことがあります。
1階は床下からの冷えがあります。特に体育館や特別教室は天井が高く、暖房した空気が上に逃げます。
中間階の中央は条件がよい
逆に、中間階で両隣に部屋があり、外気に接する面が少ない教室は、条件がよくなります。上下左右が室内のため、熱の出入りが少ないわけです。
使う範囲を選べる場合、この条件を考慮する価値があります。部分的な活用の考え方は廃校を部分的に活用できるのか?で扱っています。
どこから手をつけるのか?
窓です。
熱の出入りが最も大きいのは開口部です。面積が大きく、ガラスとアルミサッシは熱を通しやすい。ここを対策すると、体感が変わります。
| 優先 | 対策 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 内窓の設置 | 既存サッシの内側に新しいサッシを追加 |
| 2 | 最上階の天井・屋根断熱 | 天井裏に断熱材を敷き込む、または屋上側で対応 |
| 3 | 開口部の縮小 | 使わない窓を壁にする |
| 4 | 外壁の内断熱 | 室内側に断熱材と下地を立てる |
| 5 | 玄関・風除室 | 出入口に風除室を設ける |
| 6 | 1階床 | 床下側または床上側で断熱 |
内窓が先に来る理由は、工事が室内で済み、既存の外壁や防水に手を入れないためです。足場が不要で、工期も短くなります。
内窓の利点
既存のサッシを残したまま、室内側にもう1つサッシを設けます。間の空気層が断熱層になり、気密も改善します。
学校の窓は規格が揃っていることが多く、同じ寸法の内窓を数十箇所まとめて発注できます。1箇所ずつ違う寸法の住宅より、単価が下がりやすい条件です。
外壁の外断熱は費用が大きい
外壁の外側に断熱材を張る工法は性能が出ますが、足場、既存外壁の下地調査、仕上げの全面やり直しが伴います。外壁の改修をもともと予定している場合は合わせて検討する価値がありますが、断熱だけを目的に行う判断にはなりにくい工事です。
設備の更新と合わせる
断熱を改善すると、必要な空調の能力が下がります。先に空調を入れてから断熱すると、過大な設備になります。
逆に断熱をせずに空調だけ入れると、能力が足りずに効かない、または電気代が高くなります。設備の考え方は廃校の設備更新はどこから手をつけるのか?で扱っています。
ランニングコストはどう考えるのか?
年間の光熱費で比べます。
断熱改修の判断は、工事費と、それによって減る光熱費の比較です。ただし廃校活用では、この計算が単純になりません。
| 要素 | 考え方 |
|---|---|
| 使う面積 | 全館か一部か |
| 使う時間 | 平日の日中か、通年24時間か |
| 使う季節 | 夏冬を通して使うか |
| 求める室温 | 作業場か、居室か、宿泊か |
| エネルギーの種類 | 電気、ガス、灯油 |
| 地域区分 | 省エネ基準の地域区分で要求が変わる |
同じ校舎でも、倉庫として使うなら断熱はほとんど不要で、宿泊施設として使うなら必須になります。用途が決まる前に断熱改修の仕様を決めることはできません。
用途が決まってから仕様を決める
先に断熱改修をしておけば使いやすくなる、という考え方は一見合理的に見えます。しかし用途が決まらないまま仕様を決めると、過剰か不足のどちらかになります。
宿泊を想定して高い水準で改修したが、実際には日中だけ使う施設になった。逆に最低限で済ませたが、通年の居室として使うことになった。どちらも無駄が出ます。
収支の立て方は廃校活用の収支計画はどう立てるのか?で扱っています。光熱費は、この収支に毎年のってくる固定費です。
地域区分で要求が変わる
省エネ基準には地域区分があり、同じ仕様でも地域によって評価が変わります。寒冷地では断熱の要求が高く、温暖地では日射の遮蔽が効きます。
北海道と九州で同じ答えにはなりません。地域区分を確認してから検討してください。
範囲はどう決めるのか?
使う部分に絞ります。
全館を断熱改修すると工事費が大きくなり、使わない部分にも費用がかかります。使う範囲を先に決めて、その範囲を区画してから断熱を考えるほうが、費用は収まります。
| 手順 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 用途と使う時間帯を決める |
| 2 | 使う範囲を決める |
| 3 | 使う範囲と使わない範囲を区画する |
| 4 | 区画の外周で断熱を考える |
| 5 | 設備の能力を決める |
ここで重要なのが3です。使う部分と使わない部分が連続していると、暖めた空気が使わない部分に流れます。建具を入れて区画すれば、断熱の対象となる面が小さくなります。
廊下は暖めない前提にする
学校の廊下は長く、面積が大きい。ここを暖房の対象にすると負荷が大きくなります。
廊下は暖めず、各室の建具で区画する。この前提にすれば、断熱の対象は各室の外壁と窓に絞られます。
文部科学省の資料を参照する
学校施設の省エネ・ZEB化については、文部科学省が「学校施設のZEB化の手引き」を令和6年3月に作成しています。設計段階の確認事項をまとめた「ZEBチェックポイント」も公表されています。
現役の学校施設を対象とした資料ですが、建物の構造と使い方が共通するため、廃校の転用でも考え方を参照できます。
よくある質問
Q. 廃校の改修に省エネ基準の適合義務はありますか。
A. 令和7年4月1日以降に工事に着手する増改築であれば、増改築を行った部分について適合が求められます。内装の変更や設備更新だけであれば増改築には当たりません。
Q. 建物全体を基準に適合させる必要がありますか。
A. 改正後は既存部位を含めず、増改築を行った部分のみが対象です。改正前は建物全体の適合が求められていました。
Q. どこから改修すると効果が大きいですか。
A. 窓です。学校の教室は開口部が大きく、単板ガラスのアルミサッシは熱を通します。内窓の設置は工事が室内で済み、足場も不要です。
Q. 全館を断熱する必要がありますか。
A. 使う範囲に絞るほうが費用は収まります。使う部分と使わない部分を建具で区画し、その外周で断熱を考えてください。
Q. 断熱と空調はどちらを先に決めますか。
A. 断熱です。断熱を改善すると必要な空調の能力が下がります。先に空調を決めると過大な設備になります。
Q. 用途が決まる前に断熱改修をしておくべきですか。
A. 用途によって必要な水準が大きく変わるため、決まってから仕様を定めるほうが無駄が出ません。
まとめ
昭和40年代から50年代の校舎は、壁に断熱材がなく、窓は単板ガラスのアルミサッシです。授業のある時間帯だけ使う前提では運用できていましたが、通年で使う施設に転用すると光熱費が想定を超えます。
法令上は、令和7年4月1日以降に工事に着手する増改築で省エネ基準への適合が求められます。ただし改正後は既存部位を含めず、増改築を行った部分のみが対象です。省エネ適合性判定が必要になるのは、増改築部分の床面積が10平方メートル超で、建築基準法第6条第1項第1号または第2号に該当する規模の場合です。
義務がない改修でも、断熱を考える理由は光熱費です。手をつける順序は窓が先に来ます。学校の教室は開口部が大きく、内窓の設置なら工事が室内で済み、足場も不要で、規格の揃った窓をまとめて発注できます。
ランニングコストの計算は、用途が決まらないと成り立ちません。倉庫なら断熱はほとんど不要で、宿泊施設なら必須になります。先に高い水準で改修して日中だけの施設になった、最低限で済ませて通年の居室になった。どちらも無駄が出ます。
範囲は使う部分に絞ってください。使う範囲を決め、建具で区画し、その外周で断熱を考える。廊下は暖めない前提にすれば、対象は各室の外壁と窓に収まります。そして断熱を決めてから空調の能力を決める。この順序を逆にすると、過大な設備になります。
参考・出典
- 国土交通省「建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律」関連情報 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/shoenehou.html
- e-Gov法令検索「建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律」 https://laws.e-gov.go.jp/law/427AC0000000053
- e-Gov法令検索「建築基準法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201
- 文部科学省「学校施設の脱炭素化・ZEB化に関する資料」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/shuppan/1401362_00001.htm
- 文部科学省「ZEBチェックポイント〜設計におけるZEB対応確認事項〜(令和6年4月)」 https://www.mext.go.jp/content/20240411-mxt_bousai-000035274_2.pdf
記載の法令および制度は公表時点のものです。省エネ基準の適用範囲、工事着手の判断および手続きは計画の内容と特定行政庁の運用により異なります。個別の適用は特定行政庁および設計者にご確認ください。
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