目次
養成施設の基準と、校内レストランにかかる食品衛生法
調理の学科を作る。製菓の学科を増やす。いずれの場合も、実習室の計画が全体の工事費を決めます。
火を使い、水を大量に使い、排気量が大きい。専門学校の中で、調理と製菓の実習室は最も建築側の負荷が高い室です。既存のビルに入れる場合、設備容量が足りるかどうかで計画が成立するかが決まります。
さらに、調理師と製菓衛生師では養成施設の基準の書きぶりが違います。製菓衛生師には生徒1人当たりの面積の数値がありますが、調理師にはありません。同じ「調理系」とまとめて計画すると、根拠の異なるものを同じ基準で扱うことになります。
この記事では、それぞれの基準が何を求めているかを整理し、校内レストランを開く場合に加わる食品衛生法の扱いと、建築側で押さえるべき条件をまとめます。
この記事の要点
東京都製菓衛生師養成施設遵守要項では、普通教室および製菓実習室は生徒1人当たり1.65平方メートル以上とされています。
一方、東京都調理師養成施設遵守要項では、普通教室・調理実習室・総合調理実習室の広さは「同時に授業を行う生徒の数と教育内容に応じた適当な広さ」とされ、平方メートル数の基準はありません。
調理師養成施設では、普通教室と調理実習室を同時に授業を行う学級数を下回らない数だけ専用で備えることとされ、加えて総合調理実習室、調理実習準備室、更衣室、図書室、教員室、事務室、医務室が必要です。
医務室には2床以上のベッドと掛け布団・枕、更衣室には生徒1人1個のロッカーを整備することとされています。
校内レストランなどで一般の客に飲食物を提供する場合は食品衛生法の営業にあたり、共通基準に適合したうえで営業ごとの基準にも適合する必要があります。令和3年6月1日から手洗設備の再汚染防止構造が義務づけられています。
調理・製菓の実習室とは何か?
調理師または製菓衛生師の養成課程で、実技の授業を行うために基準に適合させた室のことです。
調理師は調理師法、製菓衛生師は製菓衛生師法にもとづく資格で、それぞれ養成施設の指定を受けた学校の卒業生が受験資格を得ます。指定の条件には施設と設備の基準が含まれます。
学校給食の厨房とは別物です。学校給食室の改修|区域区分とドライシステムが設計を決めるで扱っている給食室は、学校給食衛生管理基準にもとづく区域区分が設計を決めます。教育のための実習室とは、求められるものが違います。
製菓衛生師養成施設は何を求めているか?
室の面積に数値があり、備えるべき器具が品目と数量で指定されています。
東京都製菓衛生師養成施設遵守要項では、必要な室として教員室、事務室、普通教室、製菓実習室を挙げています。普通教室は同時に授業を行う学級数以上の数が必要です。
面積は、普通教室および製菓実習室のいずれも生徒1人当たり1.65平方メートル以上とされています。40人の学級なら66平方メートル以上です。
別表では、学習用の器具・備品を次のように定めています。
| 品目 | 数量 |
|---|---|
| ちゅう房レンジ | 1組 |
| オーブン | 実習室につき1台 |
| ケーキミキサー | 1組 |
| 蒸し物用ボイラー | 1組 |
| 一文字火床 | 1組 |
| 作業台 | 5台 |
| 大理石板 | 1台 |
| 電気冷蔵庫 | 1台 |
| 計量器 | 2台 |
| 温度計 | 1台 |
| 糖度計 | 1台 |
| 生徒用椅子および机 | 定員と同数 |
| 更衣用ロッカー | 定員と同数 |
設計で効くのは大理石板と一文字火床です。大理石板はチョコレートやあめ細工の作業に使うもので重量があり、床の仕様と設置場所を先に決めておく必要があります。一文字火床は直火を使う設備で、排気と内装の計画に影響します。
更衣用ロッカーが定員と同数という条件は、更衣室の面積を直接決めます。40人なら40個です。
調理師養成施設は何を求めているか?
面積の数値はなく、室の種類と専用性で定められています。
東京都調理師養成施設遵守要項では、備えるべき室を次のように定めています。
| 室 | 条件 |
|---|---|
| 普通教室 | 同時に授業を行う学級数を下回らない数を専用で |
| 調理実習室 | 同じく、同時に授業を行う学級数を下回らない数を専用で |
| 総合調理実習室 | 生徒数・教員数・教育課程に応じて教育上必要な数以上 |
| 調理実習準備室 | 同上 |
| 更衣室 | 同上 |
| 図書室 | 同上 |
| 教員室 | 同上 |
| 事務室 | 同上 |
| 医務室 | 同上 |
広さについては「同時に授業を行う生徒の数及び教育内容に応じた適当な広さ」とされ、平方メートル数は示されていません。
数値がないぶん、所管課との協議で決まる部分が大きくなります。同規模の既存校の実例を踏まえて計画し、早い段階で相談するのが実務的です。
室ごとの細目
更衣室は、生徒全員が更衣でき、1人1個のロッカーを整備することとされています。
医務室には2床以上のベッドと、掛け布団および枕を備えます。面積としては小さくても、必ず確保しなければならない室です。
教員室には、少なくとも専任教員数に相当する机と椅子を備えます。教員が増えれば面積も増えます。
図書室については、養成施設の教育内容に関する図書を備え、閲覧設備を設けるよう努めることとされています。
同時授業の生徒数
原則として40人以下です。講義中心で教育効果が十分に上がると認められる場合には例外があります。
設備は設立者の所有が原則
施設・設備は原則として設立者の所有物とすることとされています。テナントビルに入居する場合、この条件の扱いを所管課に確認してください。
機械や器具については、調理師法施行規則の別表第3に掲げるものを教育上必要な数以上備えることとされています。品目と数量は同規則で確認してください。
校内レストランを開く場合は何が加わるか?
食品衛生法の営業許可と、施設基準です。
実習で作ったものを一般の客に提供する校内レストランや校内販売は、食品衛生法上の営業にあたります。保健所の許可が必要で、施設基準に適合しなければなりません。
基準は二段構えです。すべての営業に共通する基準に適合したうえで、飲食店営業なら飲食店営業の基準にも適合する必要があります。
令和3年6月1日の施行で、手洗設備に再汚染防止構造が義務づけられました。蛇口を手で触らずに水を止められる構造を求めるもので、自動水栓やレバー式への変更が必要になる場合があります。
施行前に許可を取得した施設については、許可の有効期間が満了するまで旧基準で営業できる経過措置が置かれています。既存の校内レストランがある学校は、次の更新時期を確認しておいてください。
実習室と営業施設を分けるか兼ねるか
実習室をそのまま営業施設として使う計画は、よく検討してください。
実習室は教育のための室で、授業時間中は生徒が使います。営業として提供するなら、仕込みから提供までの動線と、営業時間中の管理体制が必要になります。衛生管理の責任の所在も変わります。
区画を分けるか、時間帯で分けるか、あるいは営業用の厨房を別に設けるか。いずれにしても面積が増えるため、設置基準の面積配分に跳ね返ります。
具体的な施設基準の数値は自治体の条例や規則で定められているため、計画の段階で所在地の保健所に確認してください。
建築側で押さえるべき条件は何か?
ガス、給排水、排気、床の防水、電気容量の5つです。
ガスと排気
調理実習室は、複数の生徒が同時に火を使います。ガスの容量と、排気フードの能力が設計の中心になります。
グリスフィルター付きの排気フードが必要で、排気ダクトの経路を確保しなければなりません。既存ビルの中層階に実習室を置く場合、排気を屋上まで立ち上げる経路があるかが成立条件になります。物件を決める前に確認すべき点です。
製菓実習室はオーブンとボイラーが熱源です。発熱量が大きく、空調の負荷が普通教室とは別の計算になります。
給排水
洗い場の数と、同時使用を前提にした給水量で決まります。排水には油脂が混ざるため、グリーストラップの設置と、その清掃動線が必要です。
既存配管の口径が足りない、あるいは老朽化していて更新が必要となれば、工事の規模が変わります。学校の給排水設備改修|受水槽・給水管・排水管の更新で扱っているとおり、竣工図と現況の調査を先に行ってください。
床の防水と排水勾配
水を流す室なので、床の防水と排水勾配は必須です。
ドライ運用を前提にするか、ウェット運用にするかで仕様が変わります。実習の内容と清掃の方法を決めてから、床の仕様を決めてください。
電気容量
ミキサー、冷蔵庫、オーブン、業務用の調理機器。いずれも消費電力が大きく、実習では同時に動きます。
既存の受電容量で足りなければ、学校施設の受変電・電気設備の更新とは?目的・工法・進め方で扱っているとおり、キュービクルの更新や幹線の引き直しが工事に含まれます。
換気と室内環境
学校環境衛生基準では、教室等の二酸化炭素の濃度は1,500ppm以下であることが望ましいとされ、温度は18度以上28度以下が望ましいとされています。
調理実習室は熱源と在室者の発熱で温度が上がりやすく、普通教室と同じ空調計画では満たせません。夏季の実習を想定した能力が必要です。
照度については、教室及びそれに準ずる場所の照度の下限値が300ルクス、教室及び黒板は500ルクス以上が望ましいとされています。手元作業が中心なので、全般照明に加えて作業面の照度を確保する計画になります。
既存の校舎を改修する場合の注意点は?
室の用途や収容人数が変わると、指定の変更手続きが必要になることがあります。
専門学校の校舎改修|実習室整備と用途変更の進め方で扱っているとおり、建築基準法上の用途変更が必要になる場合もあります。学校は特殊建築物にあたるため、その用途に供する部分の床面積の合計が200平方メートルを超えるときは確認申請が必要です。
工事の時期については、設備工事の比重が大きいぶん工期が読みにくい点に注意してください。解体して初めて既存配管の状態が分かることがあり、更新が必要になれば工期が延びます。長期休暇に収める計画では余裕を見ておいてください。
よくある質問
Q. 調理実習室を講義にも使えますか。
A. 東京都調理師養成施設遵守要項では、普通教室と調理実習室をそれぞれ専用で備えることとされています。兼用は想定されていません。学級数が2なら調理実習室も2室が必要です。
Q. 製菓と調理の実習室を共用できますか。
A. それぞれの養成施設の指定基準を満たす必要があります。設備の構成が異なるため、共用する場合は両方の基準を同時に満たせるかを所管課に確認してください。
Q. 調理実習室の面積はどう決めればよいですか。
A. 調理師養成施設では平方メートル数の基準がなく、「適当な広さ」とされています。同時に授業を行う生徒数、作業台の台数、通路幅から積み上げて計画し、所管課と協議することになります。製菓衛生師養成施設は生徒1人当たり1.65平方メートル以上という数値があります。
Q. 校内で作ったものを販売するには何が必要ですか。
A. 食品衛生法上の営業にあたる場合、保健所の許可と施設基準への適合が必要です。共通基準と営業ごとの基準の両方に適合しなければなりません。販売の形態によって必要な許可が変わるため、計画の段階で保健所に確認してください。
Q. 既存のテナントビルに調理実習室を作れますか。
A. ガスの容量、排気ダクトの経路、給排水の口径、電気容量の4点が成立条件になります。特に排気を屋上まで立ち上げる経路が確保できるかが分かれ目です。物件を決める前に設備の調査を行ってください。
Q. 大理石板のような重い機器はどう扱えばよいですか。
A. 設置位置と床の仕様を設計の初期に決めてください。搬入経路の確認も必要です。エレベーターに乗らない場合、開口部からの搬入やクレーンの手配が工事費に加わります。
まとめ
調理と製菓では、養成施設の基準の書きぶりが違います。
製菓衛生師養成施設は、普通教室と製菓実習室のいずれも生徒1人当たり1.65平方メートル以上という数値があり、ちゅう房レンジ1組、オーブン実習室につき1台、作業台5台といった器具の数量も定められています。
調理師養成施設には面積の数値がなく、「適当な広さ」とされています。代わりに室の種類が細かく定められており、普通教室と調理実習室を学級数分だけ専用で確保したうえで、総合調理実習室、調理実習準備室、更衣室、図書室、教員室、事務室、医務室が必要です。医務室は2床以上のベッド、更衣室は生徒1人1個のロッカーという条件もあります。
校内レストランを開くなら、食品衛生法の営業許可が加わります。共通基準と営業ごとの基準の両方に適合する必要があり、令和3年6月から手洗設備の再汚染防止構造が義務です。
建築側ではガス、給排水、排気、床の防水、電気容量が決め手になります。特に排気ダクトの経路は、既存ビルを使う計画の成立条件です。物件を決める前に確認してください。
参考・出典
- 東京都「調理師養成施設遵守要項」(平成28年策定、令和5年改正) https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/chori-youkou
- 東京都「製菓衛生師養成施設遵守要項」 https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/seika-youkou
- 浜松市「営業施設基準について」(食品衛生法にもとづく共通基準・営業ごとの基準) https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/seiei/food/safy/shoku_eigyou/shisetsukijun.html
- 調理師法施行規則別表第3
- 学校環境衛生基準(文部科学省告示)
- 建築基準法第87条第1項(用途変更に対する準用)
本記事は公表時点の基準にもとづいて作成しています。養成施設の遵守要項は都道府県ごとに、食品衛生法の施設基準は自治体ごとに定められているため、実際の計画にあたっては所管の私学主管課および保健所にご確認ください。
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