この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

廃校を陸上養殖施設にできるのか?

給排水・床防水・重量設備の計画

廃校の陸上養殖は、近年提案が増えている用途です。

体育館や教室に水槽を並べ、閉鎖循環式で魚やエビを育てる。地域の新しい産業になり、雇用も生まれる。校舎と敷地がそのまま使えそうに見えます。

しかし水は重い。水槽を並べると、床にかかる荷重が校舎の設計時の想定を大きく超えます。そして水を扱う施設は、漏水と結露への対策が建物の全体に関わります。

さらに制度面では、令和5年4月1日から陸上養殖が届出制になりました。事業の開始前に手続きが必要です。

この記事では、①届出の制度、②水の重量と床、③防水と漏水、④給排水と水処理、⑤電力と撤退、の5点を整理します。

この記事の要点

  • 内水面漁業の振興に関する法律施行令の一部改正により、令和5年4月1日から陸上で営まれる養殖業は事業の開始にあたって届出が必要
  • 届出は養殖を開始する日の1か月前までに行う
  • 学校は建築基準法施行令第137条の18の11区分に含まれないため、用途変更は類似の用途に当たらない
  • 床の積載荷重は建築基準法施行令第85条が室の種類ごとに定めており、水槽の重量は確認が必要
  • 排水は水質汚濁防止法および下水道法の確認が必要で、放流先の条件が計画を左右する

届出の制度はどうなっているのか?

事業の開始前に届出が必要です。

内水面漁業の振興に関する法律施行令の一部改正により、令和5年4月1日から、陸上で営まれる養殖業については事業の開始にあたって届出が必要になりました。

項目 内容
施行日 令和5年4月1日
届出の期限 養殖を開始する日の1か月前まで
対象 食用水産物の陸上養殖
対象となる方法 海水または塩分を加えた淡水の使用、閉鎖循環式での養殖、餌や糞を取り除かずに排出するもの
届出の種類 開始、変更、廃止
実績の報告 毎年、前年度の養殖実績

届出の窓口は都道府県です。様式と運用は都道府県ごとに案内されているため、計画の段階で所管部署に確認してください。

開始の1か月前という期限

届出は養殖を開始する日の1か月前までです。工事の完了と事業の開始の間に、この期間を見込んでおく必要があります。

工事の工程を組むときに、この手続きを工程表に入れておいてください。

毎年の実績報告がある

届出をした事業者には、毎年前年度の養殖実績の報告が求められます。運営の体制に、この事務を含めて考える必要があります。

用途変更の扱い

学校は建築基準法施行令第137条の18の11区分のいずれにも含まれていません。したがって養殖施設への用途変更は類似の用途に当たらず、用途を変更する部分の床面積が200平方メートルを超えれば、建築基準法第87条第1項により確認申請が必要になります。

既存不適格の扱いは廃校の既存不適格はどこまで遡るのか?で扱っています。あわせて用途地域の制限と、市街化調整区域の場合の都市計画法の論点も確認してください。

水の重量は床にどう効くのか?

床の積載荷重の前提を超えます。

床の構造計算に用いる積載荷重は、建築基準法施行令第85条が室の種類ごとに定めています。校舎の教室は教室としての値で設計されており、水槽を並べる前提ではありません。

水は体積あたりの重量が大きく、しかも水槽は床の一部に集中して置かれます。等分布の荷重ではなく、集中した荷重として検討が必要です。

確認項目 内容
設計時の積載荷重 構造計算書で室種別の値を確認
水槽の寸法と水深 水の体積から重量を算出
水槽の配置 梁と柱の位置との関係
架台の形式 荷重を分散させるか、集中させるか
貯水槽・ろ過槽 1箇所に集中する重量
構造計算書の有無 ない場合は構造の調査が必要

構造計算書がない校舎では、まず既存図面と現地の調査が必要です。竣工図、構造図、構造計算書のうち何が残っているかを、庁内で先に確認してください。

1階または土間に置く

水槽は1階に置くのが基本です。地面に近い位置であれば、床スラブを介さず地盤に荷重を伝える構成が取れます。

体育館の床は1階レベルにありますが、木製の床組の下に空間があることが多く、そのままでは重量物を置けません。床を撤去して土間を打つ工事が必要になることがあります。

2階以上は原則として避ける

2階以上に水槽を置く計画は、床の補強が前提になります。梁の増設、床スラブの増厚。工事費が大きくなり、漏水時の階下への影響も残ります。

事業者から2階を使う計画が出た場合、構造の検討結果を確認してください。

水深を下げる選択

同じ水量でも、浅く広く取れば面積あたりの荷重は下がります。ただし必要な面積が増え、使う部屋が増えます。

床の条件から水槽の仕様を決める順序になります。

防水と漏水はどう考えるのか?

水を使う前提の建物にします。

項目 内容
床の防水 水槽を置く範囲と通路
排水溝と排水口 床に勾配をつけて導く
壁の立上り 床から一定の高さまで防水
貫通部の処理 配管が床や壁を貫く部分
漏水時の経路 どこへ流れるかを決めておく
階下への影響 2階以上に置く場合

学校の床は、水をこぼす前提の防水になっていません。教室の床は平らで、排水口もありません。

このため、水槽を置く範囲の床を全面やり直すことになります。これが工事費の柱の1つになります。

結露の対策

水を扱う室は湿度が高くなります。断熱していない校舎では、外壁と窓の室内側で結露します。結露は内装の劣化、カビ、金属部の腐食を招きます。

養殖施設では、断熱と換気の両方が必要になります。断熱していない校舎で湿度の高い室をつくると、結露が止まりません。

換気の計画

湿気を排出する換気が必要です。ただし冬季に外気を大量に入れると、水温の維持に必要な熱量が増えます。

換気量と熱の収支を合わせて検討する項目です。

塩分を含む水の扱い

海水または塩分を加えた淡水を使う場合、塩分が設備と建物を傷めます。金属部の腐食、コンクリートへの影響。材料の選定で対応が必要です。

既存の鉄部や設備が近くにある場合、その劣化も見込んでください。

給排水と水処理はどうするのか?

放流先の条件が計画を左右します。

確認項目 内容
給水の容量 初期の注水と日常の補給
水温の調整 加温または冷却の熱源
ろ過と循環 閉鎖循環式の設備
排水の量 日常の換水、清掃時の排水
排水の負荷 餌の残りと糞に由来する有機物
放流先 公共下水道か、河川等か
浄化槽の場合 人槽と能力の確認

排水については、水質汚濁防止法および下水道法の確認が必要です。公共下水道に放流する場合は下水道法に基づく水質の基準があり、基準を超える排水を出す場合は除害施設を設けて処理します。

河川等に放流する場合は、水質汚濁防止法の排水基準が関わります。1日当たりの平均的な排出水の量が50立方メートル以上である工場または事業場に適用される項目があります。

浄化槽の校舎は能力を確認する

郊外の学校は公共下水道に接続しておらず、浄化槽で処理していることがあります。浄化槽の人槽は在校していた児童生徒数で決まっており、養殖の排水を前提にしていません。

能力を超える場合、浄化槽の更新または排水の前処理が必要です。これは金額の大きい項目です。

給水の容量と水源

初期の注水は一度に大量の水が必要になります。日常の補給量と合わせて、給水の容量を確認してください。

井戸水を使う計画では、水量と水質の調査が必要になります。

水温の維持に熱が必要

魚種によって適した水温があり、年間を通じて維持する必要があります。加温または冷却の熱源と、その運転費が運営費に効きます。

設備の考え方は廃校の設備更新はどこから手をつけるのか?で扱っています。

電力と撤退はどう備えるのか?

停電対策と原状回復です。

閉鎖循環式の養殖では、ポンプとブロワが常時運転します。停電すると酸素の供給と水の循環が止まり、短時間で魚が死にます。

項目 内容
受電容量 ポンプ、ブロワ、加温・冷却、照明
非常用電源 発電機または蓄電池
警報 停電、水位、水温、溶存酸素
監視 夜間と休日の体制
受電設備の更新 容量を超えれば必要

非常用電源は、養殖では事業の継続に直結する設備です。計画に含まれているかを確認してください。

撤退に備えて契約に書く

水槽、配管、ろ過設備、受電設備。これらを残して撤退されると、処分の費用が自治体の負担になります。

契約に書くこと 内容
原状回復の範囲 床の防水、配管、架台
設備の処分 誰が費用を負担するか
撤退時の通知期間 何か月前に通知するか
残置物の責任 置いて出た場合の処理
費用の担保 保証金、保険

失敗の型は廃校活用が失敗する原因は何か?で整理しています。出口を決めずに始めた案件が、撤退後に残置物を抱えています。

収支の前提を確認する

設備投資、電気代、熱源の費用、餌代、人件費。これに対して出荷の単価と量で回収できるかという問題です。

収支の立て方は廃校活用の収支計画はどう立てるのか?で扱っています。事業者の計画の前提を確認してください。

よくある質問

Q. 陸上養殖に届出は必要ですか。

A. 必要です。内水面漁業の振興に関する法律施行令の一部改正により、令和5年4月1日から事業の開始にあたって届出が必要になりました。

Q. 届出はいつまでに行いますか。

A. 養殖を開始する日の1か月前までです。工事の完了から事業開始までの工程に、この期間を見込んでください。

Q. 水槽は2階に置けますか。

A. 床の補強が前提になります。漏水時の階下への影響も残ります。1階または土間に置く構成が基本です。

Q. 体育館の床に水槽を置けますか。

A. 木製の床組の下に空間があることが多く、そのままでは置けません。床を撤去して土間を打つ工事が必要になることがあります。

Q. 排水はどこへ流しますか。

A. 放流先の条件で決まります。公共下水道なら下水道法の水質基準、河川等なら水質汚濁防止法の排水基準が関わります。浄化槽の校舎では能力の確認が必要です。

Q. 停電対策は必要ですか。

A. 必要です。ポンプとブロワが止まると短時間で魚が死にます。非常用電源と警報が計画に含まれているかを確認してください。

まとめ

廃校の陸上養殖は提案が増えている用途ですが、水の重量と漏水対策が建物の全体に関わります。

制度面では、内水面漁業の振興に関する法律施行令の一部改正により、令和5年4月1日から陸上で営まれる養殖業は事業の開始にあたって届出が必要です。届出は養殖を開始する日の1か月前までで、毎年の実績報告もあります。工程表に入れておく項目です。

床については、建築基準法施行令第85条の積載荷重を確認してください。水は体積あたりの重量が大きく、水槽は床の一部に集中して置かれます。1階または土間に置く構成が基本で、2階以上は補強が前提になります。体育館の床は木製の床組の下に空間があり、そのままでは置けません。

防水は水槽を置く範囲の床を全面やり直すことになります。学校の床は水をこぼす前提になっていません。あわせて結露の対策が必要で、断熱と換気の両方で考える項目です。塩分を含む水を使う場合は、材料の選定で腐食に備えます。

排水は放流先の条件が計画を左右します。公共下水道なら下水道法の水質基準、河川等なら水質汚濁防止法の排水基準。浄化槽の校舎では能力を超えることがあり、更新または前処理が必要です。

そして停電対策と撤退の備えです。ポンプとブロワが止まれば短時間で魚が死にます。非常用電源と警報は事業の継続に直結します。撤退時の原状回復と設備の処分は、契約に書いておかないと自治体の負担になります。

参考・出典

記載の法令および制度は公表時点のものです。届出の対象、様式および運用は都道府県により案内が異なり、排水の基準は放流先により異なります。個別の適用は都道府県の水産所管部署、所管行政庁、下水道管理者および設計者にご確認ください。

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