この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

廃校をeスポーツ施設にできるのか?

通信・電源・用途区分

eスポーツの施設を廃校に置く構想は、若い世代を呼ぶ取組みとして提案されます。

教室はひと部屋に数十席を並べられる広さがあり、体育館は大会の会場として使えます。地域の子どもの居場所にもなり、合宿の受入れという形も考えられます。

ただし施設としての要求は、見た目ほど軽くありません。多数の端末を同時に動かす電源、遅延の少ない通信回線、発熱を処理する空調。そして郊外の廃校で最も確保が難しいのが回線です。

さらに法令上の扱いです。何を置いて何をする施設かによって、消防法上の区分が変わり、場合によっては営業の規制が関わります。

この記事では、①用途区分と法令、②通信回線、③電源と空調、④室の計画、⑤運営と需要、の5点を整理します。

この記事の要点

  • 学校は建築基準法施行令第137条の18の11区分に含まれないため、用途変更は類似の用途に当たらない
  • 遊技場は消防法施行令別表第一の(2)項で、特定防火対象物に該当する
  • 用途は名称ではなく実際に行う活動の中身で判定されるため、消防本部への確認が必要
  • 郊外の廃校では通信回線の確保が最大の制約になる
  • 多数の端末を同時に動かす電源容量と、その発熱を処理する空調が必要になる

用途区分と法令はどうなるのか?

何を置いて何をするかで決まります。

学校は建築基準法施行令第137条の18の11区分のいずれにも含まれていません。したがって用途を変更する部分の床面積が200平方メートルを超えれば、建築基準法第87条第1項により確認申請が必要になります。

用途 消防法施行令別表第一 特定防火対象物
学校 (7)項 該当しない
遊技場、カラオケボックス等 (2)項 該当する
料理店、飲食店 (3)項ロ 該当する
店舗、展示場 (4)項 該当する
複合用途(特定用途を含む) (16)項イ 該当する

遊技場に当たる場合、特定防火対象物として消防法第17条の2の5により消防用設備等が現行基準に適用されます。消防設備の要件は廃校の転用で消防設備はどこまで必要か?で扱っています。

名称ではなく中身で判定される

「eスポーツ施設」という名称では、法令上の用途は決まりません。実際に行う活動の中身で判定されます。

端末を置いて時間単位で貸すのか、大会や練習の場として団体に貸すのか、学校教育や職業訓練の一環として使うのか。この違いが判定に効きます。

計画の初期に消防本部へ相談し、どの構成ならどの項に当たるかを確認してください。後から設備を追加するより、設計の段階で織り込むほうが安く済みます。

営業の形によっては規制が関わる

遊技に対して賞品や金銭を提供する形、深夜に営業する形、飲食を伴う形では、風俗営業等の規制に関する法律や各都道府県の条例が関わる場合があります。

青少年の深夜の立入りに関する条例の規定もあります。運営の形を決める段階で、警察署と都道府県の所管部署に確認してください。

既存不適格の遡及

確認申請を出すと、建築基準法第87条第3項により防火、避難、内装制限の規定が準用されます。既存不適格の扱いは廃校の既存不適格はどこまで遡るのか?で扱っています。

飲食を併設する場合

飲食を提供するなら食品衛生法に基づく営業許可が必要です。令和3年6月1日から、原則としてすべての食品等事業者にHACCPに沿った衛生管理が義務づけられています。

自動販売機と持込みで対応すれば、この論点を避けられます。

通信回線はどう確保するのか?

郊外では最大の制約になります。

確認項目 内容
回線の種類 事業者と提供されているサービス
帯域 同時接続する端末数に対して足りるか
遅延 対戦の品質に直結する
冗長性 1系統のみか、2系統引けるか
引込みの経路 電柱か、地中か
引込みの費用 距離に比例する
構内の配線 教室までの経路

郊外の学校に、必要な帯域と遅延の条件を満たす回線が引けるかは立地で決まります。これが満たせなければ、他の検討をしても意味がありません。

遅延は距離で決まる部分がある

対戦の品質は帯域だけでなく遅延にも左右されます。都市部のサーバーから遠い立地では、遅延が大きくなります。

この点は建物の整備では解決できません。大会や合宿のような用途なら許容される場合もありますが、日常の利用を前提にするなら立地の制約として受け止める必要があります。

構内の配線を計画に入れる

学校の情報配線は、教室ごとの端末数を前提にしています。1室に数十台を置く計画では、構内の配線の引き直しが必要になります。

床や天井に配線の経路を確保する構成を、設計の段階で決めてください。

無線だけでは足りない

同時に多数の端末が通信する環境では、無線だけでは安定しません。有線の配線を各席まで引く構成が基本になります。

これが床の計画に関わります。配線を床に這わせると、つまずきの原因になります。

電源と空調はどうするのか?

端末の台数で決まります。

項目 内容
受電容量 端末、モニター、空調、照明
分電盤と回路 1室に多数の回路が必要
コンセントの位置 各席に必要
空調 端末と人の発熱を処理する
停電対策 大会中の停電への備え
既存の受電容量 不足すれば更新が必要

教室のコンセント回路は、数台の機器を前提にしています。1室に数十台の端末とモニターを置くと、回路の容量が足りません。

設備の考え方は廃校の設備更新はどこから手をつけるのか?で扱っています。受電容量と分電盤の確認が先に来ます。

発熱の処理

端末とモニターは熱を出します。そこに人が集まれば、室温が上がります。学校の空調は授業時間帯に室温を下げる前提で、連続して高負荷で動かす想定ではありません。

空調の能力と、気流の計画が必要になります。

窓の扱い

モニターへの映り込みを避けるため、窓を遮光する構成になります。遮光すれば日射の影響も減り、空調の負荷が下がります。

ただし窓を塞ぐ場合は、自然換気ができなくなり、避難上有効な開口部の算定にも関わります。

配線の収め方

各席への電源と通信の配線を、床に這わせない構成が必要です。配線ダクト、二重床、天井からの配線。どの方法を取るかで工事費が変わります。

教室の階高では二重床の余裕が取れないことがあるため、現地で寸法を確認してください。

室はどう計画するのか?

用途を分けます。

室 用途
プレイルーム 端末を並べる主な室
配信・実況のブース 大会の配信を行う場合
観客席 大会を見せる場合
待機・休憩 利用者の滞留場所
受付 入退場の管理
機器の保管 施錠できる場所
トイレ 使える位置と数

教室を並べて、プレイルームと休憩と受付を分ける構成が取れます。廊下を待機の場所として使えます。

体育館を大会会場にする

大会を開くなら、体育館の広さが使えます。ただし電源と通信の配線を仮設で引く必要があり、空調がなければ季節によって使えません。

常設のプレイルームを校舎に置き、大会のときだけ体育館を使う構成が現実的です。体育館に常設の配線を引くより、仮設で済ませたほうが費用は収まります。

青少年の利用への配慮

地域の子どもが集まる施設になる場合、利用の時間、保護者への連絡、見守りの体制が必要になります。

学校だった建物に子どもが集まることは、地域の理解を得やすい一方、管理の責任も伴います。運営のルールを文書にしてください。

機器の管理

端末とモニターは持ち出される対象になります。施錠できる保管場所と、入退場の管理が必要です。

運営と需要はどう考えるのか?

稼働率と機器の更新です。

確認項目 内容
利用者の見込み 地域の人口と年齢構成
利用の時間帯 放課後と休日に集中する
単価 時間単位の料金
機器の更新 数年で入れ替えが必要
人員 受付と見守り
通信の費用 毎月の固定費

機器は数年で更新が必要になります。この更新費用を収支に織り込んでおかないと、数年後に設備が古くなって利用が減ります。

収支の立て方は廃校活用の収支計画はどう立てるのか?で扱っています。初期投資だけでなく、更新の積立てを前提にしてください。

利用は放課後と休日に集中する

平日の日中は利用が少なくなります。この時間帯を、研修や高齢者向けの講座など別の用途で埋める構成が取れます。

ただし用途が混ざると、消防法上は複合用途防火対象物として扱われる可能性があります。

地域の人口を確認する

郊外の廃校周辺では、利用者の母数が小さくなります。地域の人口と年齢構成から、利用者数を控えめに見込んでください。

広域から人を呼ぶなら、交通の条件と駐車場が前提になります。

運営の担い手

機器の設定、ネットワークの管理、トラブルの対応。これらを行える人員が必要です。自治体の職員だけでは回りません。

運営を担える事業者や団体があるかを、計画の前に確認してください。

よくある質問

Q. 用途変更の確認申請は必要ですか。

A. 学校は建築基準法施行令第137条の18の11区分に含まれません。200平方メートルを超えれば必要です。

Q. 消防法上はどの区分になりますか。

A. 実際に行う活動の中身で判定されます。遊技場に当たる場合は別表第一の(2)項で特定防火対象物に該当します。消防本部に確認してください。

Q. 営業の規制は関わりますか。

A. 賞品や金銭の提供、深夜の営業、飲食を伴う形では、風俗営業等の規制に関する法律や都道府県の条例が関わる場合があります。警察署と所管部署に確認してください。

Q. 郊外でも成立しますか。

A. 通信回線が最大の制約です。必要な帯域と遅延の条件を満たす回線が引けるかを、最初に確認してください。遅延は建物の整備では解決できません。

Q. 電源は足りますか。

A. 教室のコンセント回路は数台の機器を前提にしています。1室に数十台を置くと足りません。受電容量と分電盤の確認が先に来ます。

Q. 収支で見落としやすい項目は何ですか。

A. 機器の更新費用です。数年で入れ替えが必要になります。初期投資だけでなく、更新の積立てを収支に織り込んでください。

まとめ

廃校のeスポーツ施設への転用は、教室の広さと体育館の大会会場という点で素地があります。ただし設備の要求は見た目より重く、郊外では通信回線が最大の制約になります。

法令上は、学校が建築基準法施行令第137条の18の11区分に含まれないため、200平方メートルを超えれば確認申請が必要です。消防法上の区分は名称ではなく実際に行う活動の中身で判定され、遊技場に当たる場合は(2)項で特定防火対象物になります。賞品の提供や深夜営業、飲食を伴う形では、別の法律と条例も関わります。

通信回線は、帯域と遅延と冗長性を確認してください。遅延は都市部のサーバーからの距離で決まる部分があり、建物の整備では解決できません。構内では、1室に数十台を置く前提で配線の引き直しが必要になります。無線だけでは安定しません。

電源は端末の台数で決まります。教室のコンセント回路では足りず、受電容量と分電盤の確認が先に来ます。端末と人の発熱を処理する空調も必要で、モニターへの映り込みを避けるために窓を遮光すれば、空調の負荷も下がります。

運営では機器の更新費用を忘れないでください。数年で入れ替えが必要になります。そして機器の設定とネットワークの管理を行える人員が必要で、自治体の職員だけでは回りません。運営を担える事業者や団体があるかを、計画の前に確認することです。

参考・出典

記載の法令および制度は公表時点のものです。用途の判定、営業に関する規制および消防用設備等の要件は所管行政庁、警察署、都道府県の条例および消防本部の運用により異なります。個別の適用はそれぞれの所管にご確認ください。

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