目次
契約の組み立て方と税務の注意点
体育館やホール、講義室に企業名を冠した愛称をつけ、その対価を受け取る。スポーツ施設や公共ホールで広がったネーミングライツが、学校施設にも広がっています。
特に大学では、講義室や会議室、交流スペースを対象にした契約が相次いでいます。建物を手放さず、使い方も変えずに収入を得られる点が魅力です。
一方で、学校には教育機関としての中立性が求められます。どの企業と組むか、どんな名前をつけるか。収入以外の観点での判断が欠かせません。
この記事では、①ネーミングライツとは何か、②学校での導入事例、③契約の組み立て方、④税務の扱い、⑤公立学校での論点、の5点を整理します。
この記事の要点
- ネーミングライツは、施設に愛称をつける権利を企業などに与え、対価を受け取る仕組み
- 大学では講義室単位の契約が広がっており、九州大学は2025年に6室で6社と契約した
- 大阪大学のガイドラインでは、協定期間は原則3年以上、看板設置費用はパートナー負担とされている
- 学校法人が建物の屋上・壁面等を広告のために使わせる行為は、不動産貸付業に含まれるとされている
- 政治団体・宗教団体や、学校のイメージを損なう業種は、パートナーから除外するのが一般的
ネーミングライツとは何か?
ネーミングライツとは、施設の所有者が、施設に愛称をつける権利を企業などに与え、その対価として使用料を受け取る仕組みです。命名権とも呼ばれます。
企業側は、施設名を通じて社名やブランドの露出を得られます。施設側は、施設の正式名称は変えずに、新たな財源を確保できます。
大学の例では、ネーミングライツの目的として、施設等の知名度の向上、地域の活性化、民間事業者との連携機会の拡大、新たな財源の確保による財政基盤の確立が挙げられています。
学校ではどんな施設が対象になるのか?
大学では講義室単位、公共施設では体育館や競技場単位の導入が多く見られます。
大学の事例
九州大学大学院システム情報科学研究院では、西講義棟・総合学習プラザの6室の講義室について、6社とネーミングライツの契約を結び、2025年4月から企業名を冠した愛称の使用を始めています。契約期間は1社が6年間、5社が3年間です。
広島大学は、東広島キャンパスの会議室と交流展示ロビーを対象施設として、パートナーを募集しています。
大学の講義室は、学生が毎日目にする場所です。採用活動で学生に社名を知ってもらいたい企業にとって、露出の価値があります。
公共のスポーツ施設の年額
学校施設ではありませんが、自治体の体育館や競技場の契約金額は目安になります。さいたま市の公表では、記念総合体育館が年額440万円、野球場が年額500万〜700万円、サッカー場が年額1,400万円となっています。
学校の体育館や講義室は、一般の利用者数や報道での露出が公共のスポーツ施設より限られるため、金額は小さくなるのが通常です。
対象になりやすい施設
| 施設 | 露出の対象 | 向いている企業 |
|---|---|---|
| 講義室・教室 | 在学生 | 採用活動をする企業 |
| 体育館・アリーナ | 在学生、大会の来場者 | 地元企業、スポーツ関連企業 |
| ホール・講堂 | 在学生、保護者、地域住民 | 地元企業 |
| 図書館・ラーニングコモンズ | 在学生、教職員 | IT・教育関連企業 |
| グラウンド・スタジアム | 在学生、大会の来場者、報道 | 地元企業 |
契約はどう組み立てるか?
大阪大学が公表しているネーミングライツ導入ガイドラインを例に、主な項目を整理します。
契約期間
大阪大学のガイドラインでは、協定期間は原則3年以上とされています。愛称が定着するまでには時間がかかるため、短すぎる契約は双方にとって効果が薄くなります。
金額の決め方
大阪大学のガイドラインでは最低価格を設定せず、応募者が提示した金額を、類似する他の施設等の事例、特性、広さ、年間利用者数等を総合的に勘案して判断するとしています。審査では、金額が高いほど高く評価するとされています。
自治体では、施設側が希望価格を示して募集する「施設提示型」と、企業から対象施設と金額を提案してもらう「提案型」の両方が使われています。
パートナーの要件
大阪大学のガイドラインでは、次のような法人は応募できないとされています。
- 風俗営業に関連する事業者
- 行政指導を受けている法人
- 暴力団に関係する法人
- 貸金業者、ギャンブルに関連する事業者
- 政治団体、宗教団体
- 税を滞納している法人
学校は教育機関としての信用が重要です。パートナーの業種と経営状況は、応募の段階で確認します。
愛称の条件
愛称は、学校の理念や施設にふさわしいものであることを条件にします。法令や公序良俗に反するもの、政治活動・宗教活動に関連するものは認めないのが一般的です。
費用の負担
大阪大学のガイドラインでは、看板設置の費用はパートナーの負担、広報への掲載費用は大学の負担とされています。契約終了時の看板の撤去費用の負担も、あらかじめ決めておきます。
契約の解除
パートナーが資格要件を欠いた場合や、社会的信用を損なう行動によって学校のイメージが損なわれるおそれがある場合に、契約を解除できる条項を入れておきます。
税金はどう扱われるか?
学校法人の場合、契約の中身によって扱いが変わります。
広告のための屋上・壁面等の使用
国税庁の法人税基本通達では、広告等のために建物その他の建造物の屋上、壁面等を他の者に使用させる行為は、不動産貸付業に含まれるとされています。
ネーミングライツの契約で、施設の外壁や入口に企業名の看板を掲げる場合、この考え方との関係が論点になります。不動産貸付業は、法人税法上の収益事業の34業種の一つです。
愛称をつける権利そのもの
愛称をつける権利の付与が、34業種のどれに当たるかは、契約の内容によって判断が分かれます。看板の設置の有無、広告としての性格の強さ、対価の決め方などを整理したうえで、税理士に確認してください。
収益事業の要件と税率は学校法人の収益事業にはどう法人税がかかるか?にまとめています。
寄附との違い
施設に寄附者の名前を冠する「冠名」は、寄附に対する謝意として行われます。一方、ネーミングライツは、愛称の使用という対価のある契約です。
寄附金控除や損金算入などの寄附者向けの税制優遇は、対価のない寄附が前提です。命名が実質的な対価になっている場合は、寄附として扱われない可能性があります。寄附者向けの優遇措置は学校法人の税制優遇はどこまで及ぶか?で扱っています。
消費税
ネーミングライツの対価は、役務の提供の対価として消費税の課税取引になるのが一般的です。
公立学校では導入できるか?
制度上は可能ですが、慎重な判断が求められます。
自治体の枠組みで行う
公立学校の施設は、地方公共団体の行政財産です。多くの自治体は、公共施設全体を対象にしたネーミングライツの導入方針やガイドラインを定めています。学校施設で導入する場合も、その枠組みの中で行います。
教育の中立性
教育基本法では、学校は特定の政党を支持し、またはこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならないとされています。国及び地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならないとされています。
公立学校の施設に企業名をつける場合は、この中立性に加え、特定の企業の宣伝を子どもに向けて行うことの是非についても、保護者や地域の理解が必要になります。
学校開放施設から始める
公立学校で検討するなら、夜間・休日に地域に開放している体育館やグラウンドなど、一般の利用者が多い施設から始めるのが現実的です。学校施設の外部利用の考え方は学校の駐車場・グラウンドを貸すと税金はどうなるか?で扱っています。
導入前に確認すべきことは何か?
3つあります。
施設の状態
企業名を冠する以上、施設が古く傷んでいれば、企業側のイメージにも影響します。外壁、照明、トイレなど、利用者の目に触れる部分の状態を確認し、必要なら改修してから募集します。ネーミングライツの収入を、改修の財源の一部に充てる考え方もあります。
補助金を受けた施設の制限
国や地方公共団体の補助金を受けて整備した施設に看板を掲げる場合、補助の交付条件に抵触しないかを確認します。
学内の合意
教職員や学生、保護者の中には、学校に企業名が入ることに抵抗を感じる人もいます。目的と収入の使い道を説明し、合意を得てから進めます。私立学校の経営改善の中での位置づけは私立学校の経営改善で施設はどう位置づけるか?にまとめています。
よくある質問
Q. 小規模な学校でもネーミングライツは導入できますか。
A. 導入できます。露出の規模が小さい分、金額は小さくなりますが、地元企業との関係づくりとして活用する例もあります。
Q. 施設の正式名称は変わりますか。
A. 変わりません。ネーミングライツは愛称をつける権利であり、正式名称はそのまま残ります。
Q. 契約期間中にパートナーが不祥事を起こしたらどうなりますか。
A. 契約に解除条項を入れておけば、学校のイメージが損なわれるおそれがある場合に契約を解除できます。
Q. 看板の設置に建築確認は必要ですか。
A. 屋外広告物として、自治体の屋外広告物条例に基づく許可が必要になる場合があります。大きさや設置場所によっては、建築基準法の手続きが関係することもあります。
Q. ネーミングライツの収入は何に使えますか。
A. 使い道に制限はありませんが、対象施設の維持管理や改修に充てると、学内や地域への説明がしやすくなります。
まとめ
ネーミングライツは、施設に愛称をつける権利を企業に与え、対価を受け取る仕組みです。建物を手放さず、使い方も変えずに収入を得られます。大学では講義室単位の契約が広がっており、採用活動で学生に社名を知ってもらいたい企業とのマッチングが進んでいます。
契約では、期間を3年以上とし、パートナーの要件、愛称の条件、看板の費用負担、解除条項を定めておきます。学校法人の場合、広告のための屋上・壁面等の使用は不動産貸付業に含まれるとされており、収益事業としての課税関係を事前に整理する必要があります。
公立学校では、自治体の枠組みの中で、教育の中立性と保護者・地域の理解を前提に、学校開放施設などから慎重に検討するのが現実的です。
参考・出典
- 九州大学 大学院システム情報科学研究院「西講義棟・総合学習プラザに企業名を冠した愛称が誕生」 https://www.isee.kyushu-u.ac.jp/topics5251.html
- 大阪大学「ネーミングライツ導入ガイドライン」(2023年10月改正) https://www.osaka-u.ac.jp/ja/guide/publications/naming_rights/file/nr_guideline_20231005_set.pdf/@@download/file
- 広島大学「ネーミングライツに関する募集について」 https://www.hiroshima-u.ac.jp/about/contract/namingrights
- さいたま市「ネーミングライツの導入について」 https://www.city.saitama.lg.jp/006/007/014/019/011/p065581.html
- 国税庁「法人税基本通達 第6款 不動産貸付業」 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/15/15_01_06.htm
- 教育基本法
記載の事例・制度は公表時点のものです。最新の内容は各機関の公表資料でご確認ください。
学校施設のご相談
その工事、補助金が使えるか無料でチェックします
トイレ・空調・体育館・玄関・耐震など、検討中の工事に使える国や都道府県の補助制度を、公表資料をもとに確認して3営業日以内にご回答します。「補助金が使えないか調べるよう言われた」という段階のご相談で構いません。
補助金の無料チェックを依頼する株式会社光建舎は、設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応しています。図面や仕様が固まっていない計画段階からのご相談も承っています。概算だけ先に欲しい、という段階でも構いません。
受付時間 平日 9:00〜18:00