目次
改修と廃止の判断
学校のプールは、施設の中でも判断が難しい部分です。使うのは年に1か月から2か月程度。それでも、維持管理は通年で発生し、安全に関する基準は厳しく定められています。
老朽化して改修の時期が来たとき、直すか、やめるか。この判断をするには、まず何が求められている施設なのかを押さえる必要があります。
この記事では、①安全基準の内容、②水質の基準、③点検の義務、④改修の内容と費用、⑤廃止・外部委託という選択肢、の5点を整理します。
この記事の要点
- 排水口等は、蓋のネジ・ボルト固定と吸込防止金具の設置による二重構造が必要
- 点検の記録は3年以上保管する
- 使用期間前に1回、水を抜いた状態での点検が必要
- 遊離残留塩素は0.4ミリグラム毎リットル以上、1.0ミリグラム毎リットル以下が望ましい
- 改修費が大きいため、廃止や外部委託との比較が実務上の論点になる
プールの安全標準指針とは何か?
プールの安全を確保するために、文部科学省と国土交通省が定めた指針です。
平成19年3月に策定されました。施設の基準、維持管理、人的な体制の3つの面から、プールの管理者が取るべき対応を示しています。学校のプールも対象です。
この指針が作られた背景には、排水口への吸い込みによる重大な事故があります。指針の中で、排水口の構造に関する記述が具体的に定められているのはそのためです。構造の話にとどまらず、点検の頻度、記録の保管、監視の体制まで一体で書かれている点が特徴です。
排水口には何が求められるのか?
二重の安全対策が求められます。
指針では、排水口および循環水の取入口について、次の対応を示しています。
| 対策 | 内容 |
|---|---|
| 蓋の固定 | ネジ、ボルト等で固定する |
| 配管の取り付け口 | 吸い込み防止金具等を設置する |
| 考え方 | 上記の両方による二重構造の安全対策 |
重要なのは、蓋を固定する方法です。針金や蓋自体の重さだけで押さえる方法は認められません。ネジやボルト等による堅固な固定が求められます。
そして、蓋が外れた場合でも吸い込みが起きないよう、配管側に吸い込み防止金具等を設置します。片方だけでは足りない、という考え方です。
目視だけでは判断できない
蓋が付いているように見えても、内部で固定が緩んでいることがあります。プールの水を張った状態では確認できません。だからこそ、水を抜いた状態での点検が必要になります。
点検はいつ、どう行うのか?
使用期間の前と、使用期間中の両方です。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 使用期間前 | 1回。水を抜いた状態で実施する |
| 使用期間中 | 毎日のプール利用の前後、および利用中の定時ごと |
| 通年使用の施設 | 1年に1回以上の全換水を行い、水を抜いた状態で点検 |
使用期間中の点検は、目視、触診、打診によって行うこととされています。
点検の記録は、3年以上保管することとされています。事故が起きた場合、点検が適切に行われていたかが問われます。記録がなければ、行っていたことを示せません。
学校では、水泳の授業が始まる前に清掃と点検を行うのが通例です。このとき、清掃と安全点検を分けて考える必要があります。清掃は職員や児童生徒が行う場合がありますが、排水口の固定状態の確認は、専門的な知識を持つ者が行うべき内容です。
水質の基準はどうなっているか?
学校環境衛生基準で定められています。
| 検査項目 | 基準 |
|---|---|
| 遊離残留塩素 | 0.4ミリグラム毎リットル以上。1.0ミリグラム毎リットル以下が望ましい |
| pH値 | 5.8以上8.6以下 |
| 大腸菌 | 検出されないこと |
| 一般細菌 | 1ミリリットル中200コロニー以下 |
| 有機物等(過マンガン酸カリウム消費量) | 12ミリグラム毎リットル以下 |
| 濁度 | 2度以下 |
| 総トリハロメタン | 0.2ミリグラム毎リットル以下が望ましい |
| 循環ろ過装置の処理水 | 出口における濁度0.5度以下。0.1度以下が望ましい |
遊離残留塩素から濁度までは、使用日の30日以内ごとに1回検査します。総トリハロメタンは、使用期間中の適切な時期に1回以上です。循環ろ過装置の処理水の濁度などは、毎学年1回の定期検査となります。
水質が安定しないプールは、ろ過装置の能力が落ちている可能性があります。塩素の投入量を増やして対応していると、薬品費が増え、設備の腐食も進みます。水質の記録は、設備の状態を示す資料でもあります。改修の要否を検討するとき、過去数年分の検査結果を並べると、いつから基準を外しやすくなったかが見えてきます。
監視の体制はどう考えるか?
施設の規模に応じた人数が必要です。
指針では、施設の規模に応じて十分な数の監視員を配置することが必要であるとしています。監視室または監視台から、プール全体を見渡せる配置とすることも示されています。
学校の水泳授業では、指導する教員と、監視に専念する者を分ける考え方が基本になります。指導をしながら全体を見るのは、実際には難しいためです。死角になる位置、水面の反射で見えにくくなる時間帯を、現地で確認しておきます。
水深については、利用者の体格に応じた目安として、立った状態で肩が水面から出ていることが示されています。小学校では学年によって体格の差が大きいため、可動床やプールフロアで調整している学校もあります。
施設の改修で監視しやすくなる
監視台の位置、日よけの有無、プールサイドの照り返し。これらは施設側の条件です。改修の機会に、監視のしやすさを設計の条件に入れておくと、運用の負担が下がります。
改修では何を直すのか?
大きく5つの部位に分かれます。
- プール槽の防水と塗装。ひび割れからの漏水は、水道料金として毎年の支出に表れます
- 排水口と吸込防止金具。指針に適合しない構造であれば、優先して対応します
- ろ過装置と循環ポンプ。機械の更新は費用が大きい部分です
- 配管。埋設部の劣化は発見が遅れ、漏水量が読めません
- 附属棟。更衣室、シャワー、便所、機械室の老朽化
漏水は、費用の面で分かりやすい指標になります。毎日の水位の低下を記録しておくと、改修の必要性を説明しやすくなります。蒸発による低下との区別がつきにくい場合は、使用していない時期の水位の変化を見ます。給排水設備の考え方は学校施設の給排水設備の更新とは?にまとめています。
改修全体の進め方は学校施設の長寿命化改修とは?を参照してください。
直すか、やめるかをどう判断するか?
4つの材料で比べます。
年間の維持費
水道料金、薬品費、電気代、水質検査費、点検費、機械の保守費。これらが毎年かかります。使用が1か月程度でも、通年で発生する費用があります。使用していない期間も、凍結の防止や機械の維持のために手がかかります。
これらは学校ごとの予算の中に埋もれていることが多く、合計するまで実態が見えません。まず、直近の数年分を集計するところから始めます。
改修の費用と周期
プール槽の防水、ろ過装置の更新、配管の更新。それぞれ更新の周期が異なります。今回の改修で終わりではなく、次に何がいつ来るかを含めて見ます。
防水をやり直しても、10年後にろ過装置の更新が来る、という並び方をします。単年度の工事費だけで判断すると、この先の支出が見えません。
授業の実施方法
近隣の学校のプールを使う、民間の施設に委託する、といった方法があります。移動の時間と費用、指導体制、天候による中止の扱いを含めて比較します。
学校統合や再編の予定
数年先に統合の計画があるなら、大規模な改修は避ける判断もあります。公共施設全体の再編の中での位置づけは公共施設の再編と学校で扱っています。
使用しない期間の管理はどうするか?
水を抜くか、張ったままにするかで扱いが変わります。
水を抜いた状態で放置すると、槽の乾燥と紫外線で防水層の劣化が進むことがあります。一方、水を張ったままにすると、水質の管理が必要になり、藻の発生やボウフラの問題が出ます。
どちらにしても、無人の期間に人が立ち入らないようにする措置が必要です。フェンスと施錠の状態、はしごの取り外し、注意表示。夏以外の期間こそ、管理が緩みやすい時期です。
学校のプールは、地域の目に入る場所にあります。水が濁ったまま放置されている状態は、施設全体の管理が行き届いていない印象につながります。
廃止する場合は何を考えるか?
跡地の使い方と、水泳授業の代替です。
プールを廃止すると、まとまった面積が空きます。駐車場、体育の活動場所、防災倉庫など、使い道は学校の状況によります。解体には費用がかかるため、その財源も検討が必要です。槽は地中に埋まっているため、埋め戻すのか、撤去するのかで金額が変わります。
水泳授業をどう行うかは、教育課程に関わります。外部の施設を使う場合、移動の時間が授業時間に食い込みます。学年ごとの実施回数を見直す学校もあります。
改修や用途の変更で関わる法令の全体像は学校の改修で関わる建築基準法の基礎を参照してください。
公立と私立で違いはあるか?
判断の仕方が違います。
公立学校
近隣の学校との共同利用や、市民プールの活用という選択肢があります。学校単位ではなく、市町村全体のプールの配置として考えられる点が強みです。一方、廃止には地域の理解が必要になります。
私立学校
施設の特色が募集に影響します。水泳部がある学校では、廃止の判断は難しくなります。改修の費用を、施設の魅力として説明できるかどうかが論点になります。
よくある質問
Q. 排水口の蓋は針金で固定してはいけませんか。
A. 指針では、ネジ、ボルト等による固定を求めています。針金や蓋の重量のみによる固定は適当でないとされています。
Q. 点検の記録はどのくらい残しますか。
A. 3年以上の保管とされています。
Q. 使用期間前の点検は水を張ったままでもよいですか。
A. 水を抜いた状態で行うこととされています。水中では排水口の状態を確認できません。
Q. 水質検査はどのくらいの頻度ですか。
A. 遊離残留塩素から濁度までの項目は、使用日の30日以内ごとに1回です。
Q. プールの改修に補助金はありますか。
A. 公立学校施設整備費国庫負担金や学校施設環境改善交付金の対象となる場合があります。対象と要件は設置者の区分によって異なります。
Q. 屋根付きのプールにすれば授業の回数は増えますか。
A. 天候の影響は減りますが、建築物としての扱いになり、費用と維持管理の負担が変わります。建設と維持の両方で比較が必要です。
Q. 清掃を児童生徒が行っても問題ありませんか。
A. 清掃の作業と、排水口の固定状態の確認は別のものです。安全に関わる点検は、知識を持つ者が行う内容です。
Q. 民間施設への委託に切り替えると、プールはすぐ解体すべきですか。
A. 解体には費用がかかります。跡地の使い道と財源が決まるまで、使用を止めた状態で管理する例もあります。その間も立ち入りの防止は必要です。
まとめ
プールの安全標準指針では、排水口等について、蓋のネジ・ボルト等による固定と、配管の取り付け口への吸い込み防止金具等の設置という二重構造の安全対策を求めています。点検は使用期間前に水を抜いた状態で1回、使用期間中は毎日の利用前後と利用中の定時ごとに行い、記録は3年以上保管します。
水質は学校環境衛生基準で定められ、遊離残留塩素は0.4ミリグラム毎リットル以上、1.0ミリグラム毎リットル以下が望ましいとされています。
プールの改修は、槽、設備、配管、附属棟と対象が広く、費用が大きくなります。年間の維持費、改修の周期、授業の実施方法、統合の予定を並べて比較したうえで、直すか、やめるかを決める場面が増えています。安全基準を満たせないまま使い続ける選択肢だけは、取れません。
参考・出典
- 文部科学省・国土交通省「プールの安全標準指針」(平成19年3月) https://www.mext.go.jp/sports/content/1306538_01_1.pdf
- 文部科学省「学校環境衛生基準(令和8年2月27日文部科学省告示第35号による改正を反映)」 https://www.mext.go.jp/content/20260324-mxt_kenshoku-100000613_03.pdf
- 文部科学省「水泳等の事故防止について」 https://www.mext.go.jp/a_menu/sports/boushi/1306538.htm
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