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5,850億円の増額と価格転嫁分の創設
工事費が想定を超える。委託料の更新で見積が上がる。この2つは、いま学校施設を担当する部署に共通する悩みです。国の側も無策ではなく、令和8年度の地方財政対策では物価高への対応が明確な項目として立てられました。
この記事では、①令和8年度に措置された物価高対応の全体像、②学校施設に直接関係する費目、③新設された価格転嫁分という仕組み、④建設単価の上昇をどう見るか、⑤自治体側で取るべき対応、の5点で整理します。数値は総務省「令和8年度地方財政対策の概要」に拠ります。
この記事の要点
- 令和8年度地方財政対策で、物価高対応として5,850億円が増額計上された
- 内訳は施設管理等の委託料800億円、維持補修費750億円、投資的経費(単独)3,000億円ほか
- 学校給食などのサービス、教育施設等の施設管理の委託料について、普通交付税の単位費用措置を平均5%程度引上げ
- 普通交付税の算定費目に「価格転嫁分」(1,000億円程度)が新設された
- 算定指標には、最低制限価格制度の導入率やスライド条項等の導入率が案として示されている
価格転嫁分とは何か?
価格転嫁分とは、令和8年度に普通交付税の算定費目「地域の元気創造事業費」へ新設された枠です。規模は1,000億円程度で、官公需における適切な価格転嫁に取り組む地方団体の財政需要を、普通交付税の算定に反映する仕組みです。
算定指標の案として、最低制限価格制度の導入率、スライド条項等の導入率、民間委託契約額・指定管理料の増加率が示されています。コスト削減を評価する算定から、適正な価格転嫁を評価する算定への転換にあたります。
令和8年度の物価高対応はいくら措置されたか?
令和8年度地方財政対策では、物価高の中で、ごみ収集や学校給食などのサービス・施設管理の委託料、道路や河川等の維持補修費、改修等に係る投資的経費など、様々な分野における自治体のコスト増にきめ細かに対応するため、5,850億円が増額計上されました。
内訳は次のとおりです。
| 費目 | 金額 |
|---|---|
| ごみ収集、学校給食などのサービス、庁舎や教育施設等の施設管理の委託料 | 800億円 |
| 道路や河川等の点検・補修に係る維持補修費 | 750億円 |
| 道路や施設の改修等に係る投資的経費(単独) | 3,000億円 |
| 民間事業者への補助や消耗品費・備品等 | 800億円 |
| 公営企業における物価高への影響 | 500億円 |
このうち学校施設に直接関わるのは、委託料の800億円と、投資的経費(単独)の3,000億円です。
補助金ではなく地方財政計画の措置
ここで押さえておきたいのは、これらが「申請して受け取る補助金」ではないという点です。地方財政計画の歳出に計上され、普通交付税の算定を通じて配分される性格のものです。
したがって、担当課が申請書を出して獲得するというより、財政課が地方財政計画をどう読み、当初予算にどう反映させるかという話になります。施設担当としては、この措置があることを前提に、単価上昇分の予算要求を組み立てることになります。
施設管理の委託料はどう扱われるか?
学校施設で日常的に効いてくるのが委託料です。
令和8年度地方財政対策では、ごみ収集、学校給食などのサービス、庁舎や教育施設等の施設管理の委託料について800億円が計上され、普通交付税の単位費用措置を平均5%程度引上げるとされています。
対象になりうる委託は、学校で言えば次のようなものです。
- 清掃・警備・受付
- 設備の保守点検(電気、空調、給排水、消防設備、エレベーター等)
- 学校給食の調理・配送
- 植栽管理、除草
これらは複数年契約になっていることが多く、更新のタイミングで一気に金額が上がります。単位費用の引上げは、その原資を裏付けるものです。
契約更新時の考え方
契約更新で見積が上がったとき、予算がないから前年度並みで押し返すという対応が取られがちです。これは物価上昇局面では持続しません。受託者側が撤退すれば、そもそも入札が成立しなくなります。
近年、施設管理の委託で不調・不落が増えているのは、この構造によるところが大きい状況です。単位費用の引上げは、適正な価格転嫁を前提とした契約に移行するための措置と読むのが妥当です。
価格転嫁分は何を評価するのか?
令和8年度でもっとも新しい動きが、これです。
物価上昇を上回る賃上げの実現のため、地方団体の官公需における適切な価格転嫁の取組の推進が求められていることを踏まえ、普通交付税の算定費目「地域の元気創造事業費」において新たに「価格転嫁分」(1,000億円程度)が創設されました。価格転嫁に積極的に取り組む地方団体の財政需要を、普通交付税の算定に反映する仕組みです。
算定に用いる指標の案として、次のものが示されています。
- 低入札価格調査制度および最低制限価格制度の導入率
- スライド条項等の導入率
- 民間委託契約額・指定管理料の増加率
何を意味するか
これは、価格転嫁に取り組む自治体を財政面で優遇するという方向づけです。逆に言えば、低い価格で契約を続けている自治体は、算定上不利になりうるということでもあります。
学校施設の担当部署にとって関係が深いのは、スライド条項です。工事請負契約における単品スライド条項、インフレスライド条項、全体スライド条項を制度として導入し、実際に運用しているかが問われることになります。
なお、この算定費目の創設にあわせて、「地域の元気創造事業費」の「行革努力分」のうち、ラスパイレス指数および経常的経費削減率を用いた算定は廃止されるとされています。コスト削減を評価する算定から、適正な価格転嫁を評価する算定へと、軸が動いていることになります。
建設単価の上昇は制度に反映されているか?
工事費側の状況も見ておきます。
令和8年度地方財政対策では、公立病院について、資材価格の高騰等による建設事業費の上昇や入札不調等が多く生じていること等を踏まえ、地方交付税措置の対象となる建築単価の上限が引き上げられました。令和7年度の59万円/平方メートルから、令和8年度は85万円/平方メートルへの引上げです。
これは病院の数値であり、学校にそのまま当てはまるものではありません。ただし、国の側が建設単価の上昇を制度的に認めた例として参考になります。約1.4倍の引上げ幅は、近年の建設市場の実感に近い水準です。
交付金の配分単価との関係
学校施設環境改善交付金の交付額は、配分面積に配分単価を乗じた配分基礎額に算定割合を乗じた額と、実際の経費に算定割合を乗じた額とを比較して、少ないほうの額を基礎に算定されます。
つまり、実工事費が配分単価を上回るほど、実質的な国費率は下がります。単価上昇局面では、この乖離が構造的に広がります。
交付金の算定の仕組みは公立学校施設整備費(国庫補助)の基礎知識にまとめています。段階ごとの積算精度の考え方は学校の数量調査と概算工事費を参照してください。
自治体側で取れる手は何か?
以上を踏まえると、施設担当として取れる手は次のようになります。
予算要求段階
- 前年度実績ではなく、直近の実勢単価で積算する
- 交付金の配分単価と実勢単価の乖離額を明示し、一般財源の必要額として財政部局に示す
- 委託料は複数年契約の更新時期を洗い出し、上昇見込みを先に共有する
契約段階
- スライド条項を契約書に明記し、実際に運用する
- 最低制限価格制度・低入札価格調査制度の運用状況を確認する
- 不調・不落が続く案件は、積算の見直しか工期の再設定を検討する
計画段階
- 複数年度事業では、後年度の単価上昇を織り込んだ試算を持つ
- 単年度で完結できる規模に分割するのか、まとめて発注するのかを、単価とスケール双方から検討する
複数年度事業での単価変動の扱いは複数年度にまたがる施設整備の補助金活用で扱っています。
事業費が増えた分の財源はどうするか?
物価高対応の措置があっても、実際に事業費が増えれば、その分の財源が要ります。地方債側では令和8年度に期間延長された制度がいくつかあります。
- 緊急防災・減災事業債:充当率100%、交付税措置率70%、令和12年度まで
- 脱炭素化推進事業債:充当率90%、令和12年度まで
- 高等学校教育改革等推進事業債:充当率90%、令和13年度まで
充当率と交付税措置率の関係、地方債の選び方は補助金と起債(学校債・地方債)の関係にまとめています。
入札不調・不落にはどう向き合うか?
物価高の影響がもっとも目に見える形で現れるのが、入札の不調・不落です。予定価格が実勢と合わなければ、応札がないか、あっても予定価格を超えます。
なぜ起きるか
学校改修の入札で不調が続く場合、原因は概ね次のいずれかです。
- 積算時点と入札時点で単価が動いている(設計から発注まで期間が空いている)
- 在校中施工や夜間・休日作業の制約が、見積上のリスクとして積まれている
- 工期が短く、他現場との掛け持ちが難しい
- 同時期に近隣自治体の発注が集中している
このうち、単価の時点修正と工期設定は発注者側で調整できる部分です。
打てる手
積算の時点修正は最優先です。設計完了から発注までに数か月あく場合、その間の単価変動を反映しないまま予定価格を組めば、不調はほぼ避けられません。
工期については、夏休みに全工程を押し込む前提を見直す余地があります。長期休業に集中させる発注は、受注者側から見れば人員を一時期に集中させる必要があり、その分の割増が見積に乗ります。学期中に施工できる部分を切り出せれば、条件は緩みます。
在校中施工の進め方は学校改修の進め方ガイドにまとめています。
発注方式の見直し
規模の大きい案件では、発注方式そのものを検討する余地があります。設計と施工を分離する従来方式のほかに、設計施工一括発注やECI方式では、施工者の知見を早い段階で設計に反映でき、施工性の悪さに起因するコスト増を抑えられる場合があります。
方式ごとの違いと選び方は学校の設計施工一括発注(デザインビルド)とECI方式の違い・選び方で扱っています。
よくある質問
Q. 物価高騰対応の5,850億円は、申請すれば受け取れますか。
A. 申請して受け取る補助金ではありません。地方財政計画の歳出に計上され、普通交付税の算定を通じて配分される性格のものです。
Q. 価格転嫁分は、どの自治体でも同じ額が算定されますか。
A. 価格転嫁に積極的に取り組む地方団体の財政需要を反映する仕組みとされ、指標を用いた算定が想定されています。取組状況によって差が生じる設計です。
Q. スライド条項を導入していない場合、どうなりますか。
A. 算定指標の案にスライド条項等の導入率が挙げられています。導入していない場合、算定上不利になる可能性があります。
Q. 学校給食の委託料も対象ですか。
A. 学校給食などのサービスの委託料が、施設管理の委託料とあわせて800億円の対象として明記されています。
Q. 建築単価85万円/平方メートルは学校にも適用されますか。
A. これは公立病院の新設・建替に対する地方交付税措置の対象となる建築単価の上限です。学校の交付金の配分単価とは別のものです。
まとめ
令和8年度の地方財政対策では、物価高対応として5,850億円が増額計上され、学校給食や教育施設の管理委託料、単独の投資的経費が対象に含まれました。あわせて、価格転嫁に取り組む自治体を普通交付税の算定で評価する「価格転嫁分」が新設されています。
流れとしては、コスト削減を評価する仕組みから、適正な価格転嫁を評価する仕組みへの転換です。施設担当としては、実勢単価での積算とスライド条項の運用という2点を、制度が求める方向として押さえておくことになります。
ただし、これらは地方財政計画上の措置であり、個別の事業に紐づく補助金ではありません。実際に予算に反映されるかは、庁内でどう主張するかにかかっています。乖離額を数字で示せる資料を作れるかどうかが、実務上の分かれ目になります。
参考・出典
- 総務省「令和8年度地方財政対策の概要」(令和7年12月26日) https://www.soumu.go.jp/main_content/001048685.pdf
- 総務省「令和8年度地方財政対策のポイント及び概要」 https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01zaisei02_02000410.html
- 文部科学省「国庫補助事業について」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyosei/zitumu.htm
記載の制度は公表時点のものです。最新の要件・割合・期限は所管省庁の公表資料でご確認ください。
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