この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

学校施設の中長期修繕計画の作り方|平準化でコストを抑える

中長期修繕計画は、いつ・どこを・いくらで修繕するかを、数十年のスパンで見通す計画です。突発的な出費や場当たり対応を防ぎ、予算を平準化するために欠かせません。

ただし、実際に作ろうとすると壁にぶつかります。「劣化している」をどう数値にするのか。どの単価で積算するのか。優先順位をどう決めるのか。

この記事では、文部科学省が公表している解説書に基づき、建物の状態を数値化してコストに変換する具体的な手順を整理します。

計画づくりは5つのステップ

文科省の解説書は、計画策定のための建物情報の整理を次の5ステップで示しています。

ステップやること
1. 全体把握学校施設台帳を基に対象建物の基本情報を整理。固定資産台帳と突合
2. 老朽化状況の把握構造躯体の健全性(耐震診断データを活用)と躯体以外の劣化状況(A〜D評価)、整備レベル、改修履歴を調査
3. 維持・更新コストの把握更新周期と単価を設定し、40年間のコストを試算
4. 直近の整備計画の策定財政制約ラインを踏まえ、優先順位をつけて直近5〜10年の計画に落とす
5. 複合化・共用化の検討学校以外の公共施設の情報も登録し、複合化の可能性を検討

対象とするのは、校舎・園舎(渡り廊下・昇降口等の機能上不可分な小規模建物を含む)、体育館(武道場を含む)、給食室、寄宿舎。倉庫・部室・便所などおおむね200㎡以下の小規模な建物は対象外としてもかまいません。プール、グラウンド、共用設備(受変電・自家発・受水・排水)は別途計上します。

【核心】劣化を数値にする──A〜Dの4段階評価

計画の精度は、ここで決まります。建物を部位に分け、A・B・C・Dの4段階で評価します。

評価基準

  • A:概ね良好
  • B:部分的に劣化(安全上、機能上、問題なし)
  • C:広範囲に劣化(安全上、機能上、不具合発生の兆し)
  • D:早急に対応する必要がある(安全上・機能上、問題あり/躯体の耐久性に影響/設備が故障し施設運営に支障)

評価の方法は部位によって違います。ここが実務上の要点です。

部位評価方法
屋根・屋上/外壁目視で判断(写真事例に照らして評価)
内部仕上/電気設備/機械設備経過年数で判断:20年未満=A/20〜40年=B/40年以上=C
(経過年数に関わらず著しい劣化事象があればD)

設備を経過年数で評価する際の基準も明確です。該当建物の概ね半分以上の部屋(床面積)にわたって行った改修工事の実施年度を基準とします。特定の教室のみの改修や、照明器具交換などの部位単独の工事は対象外です。

具体例として、「給水配管は更新済みだが排水配管は40年以上経過」ならC評価、「給排水配管を一度も更新せず40年以上経過」ならD評価とされています。

目視評価で見落としやすい点

解説書には現場で効く注意が並んでいます。

  • 屋上は歩行して確認する。目視だけでなく、浮きや水ぶくれがないか足で確かめる
  • ルーフドレン(屋上排水口)の詰まりは劣化を加速させる。土砂が溜まると水溜りができ、漏水につながる
  • 1箇所の劣化事象だけで判断しない。放置すれば他の場所でも同様に劣化が進行する場合は、評価を1段階引き下げる
  • 屋上防水は改修済でも天井ボードは既存のままという学校が多い。雨漏り痕で判断する場合は見極めが必要
  • 鉄筋の露出は概ね5箇所以上でD評価、雨漏り痕で判断する場合は概ね10箇所以上でD評価

健全度──100点満点で優先順位をつける

A〜Dの評価を、建物ごとの1つの数値にまとめたものが健全度です。

計算方法は2段階です。まず評価を点数に置き換えます。

A=100点/B=75点/C=40点/D=10点

次に、部位ごとのコスト配分で重み付けします。この配分は、文科省の長寿命化改良事業の校舎の改修比率算定表を参考に設定されたものです。

部位コスト配分
屋根・屋上4.2
外壁14.9
内部仕上げ21.3
電気設備9.0
機械設備16.6
計66

健全度 = Σ(部位の評価点 × コスト配分) ÷ 66

解説書の計算例では、屋根C・外壁D・内部仕上B・電気設備A・機械設備Cの建物で、健全度は53点になります。

この配分表から読み取れることがあります。屋根・屋上の配分はわずか4.2。一方で内部仕上げが21.3、機械設備が16.6。目に見えて劣化が分かる屋上より、天井裏や壁の中にある設備と内装のほうが、コストのウェイトははるかに大きい。「雨漏りしてから動く」という発想では、費用の大半を占める部分が計画から抜け落ちます。

解説書は、健全度40点未満なら長寿命化改修等の対策を優先的に講じることが望ましいとしています。ただし健全度の点数に関わらず、C・D評価の部位は修繕・改修が必要です。

12条点検と一体で実施する

劣化状況調査を単独で発注する必要はありません。

建築基準法第12条に基づく定期の報告・検査(12条点検)と、劣化状況調査は、専門家による現地での点検箇所の多くが重複しています。解説書は、12条点検の業務委託に含めて、建物ごとの「劣化状況調査票」の作成を委託することが考えられるとしています。

なお12条点検の実施義務は、特定行政庁が学校を点検対象に指定しているかどうかで変わります。ただし建築基準法第8条第1項に「建築物の所有者、管理者又は占有者は、その建築物の敷地、構造及び建築設備を常時適法な状態に維持するように努めなければならない」とあることから、文科省は12条点検の実施義務がない地方公共団体に対しても、定期的な点検の実施を要請しています。

耐震診断データも再利用できる

構造躯体の健全性についても、既存データが使えます。旧耐震基準の学校施設の多くは耐震診断を実施しており、その際にコンクリート圧縮強度等の材料試験を行っているため、これらの既存データを用いて長寿命化に適する建物かを簡易に選別できます。

判定の目安も示されています。旧耐震基準のRC造・SRC造で、コンクリート圧縮強度が13.5N/mm²以下のもの、および圧縮強度が不明のものは「要調査」建物とし、試算上は「改築」として扱う。

また1971年(昭和46年)以前のRC造は、柱の帯筋間隔が広い等、旧耐震基準の中でもさらに古い基準であることを考慮して判断する、という注意もあります。

単価を決める──コストへの変換

劣化状況が数値化できたら、コストに変換します。解説書の付属ソフトには、初期設定として次の単価が入っています(各教育委員会で変更可能)。

工事種別単価(円/㎡)
改築400,000
長寿命化改修240,000(改築の6割)
予防改修100,000
部位改修:屋根・屋上15,000
部位改修:外壁25,000
部位改修:内部仕上40,000
部位改修:電気設備20,000
部位改修:機械設備18,000
部位改修 総額118,000

⚠️ これはあくまで初期設定値です。解説書自身が「単価は、過去の工事内容とコストを整理し、部位別のコスト配分を分析することで、設定根拠を明らかにしておくことが望ましい」としています。

そして近年、実施した工事のコスト分析に基づく計画の時点更新では、コストが1.5〜2.0倍に急騰している事例が報告されています。初期設定のまま試算した計画は、その時点で実行不可能です。

周期の設定

付属ソフトの初期設定では、次のように周期が組まれています。

  • 長寿命化型:築40年に長寿命化改修 → 20年周期で予防改修 → 築80年で改築
    (または築45年に長寿命化改修 → 15年周期で予防改修 → 築90年で改築)
  • 改築型:長寿命化改修を実施せず、20年または15年周期で予防改修を実施しつつ築60年で改築
  • 工事期間:改築は3年、長寿命化改修は2年に工事費を均等配分、予防改修は単年度
  • 部位改修:D評価は今後3年以内、C評価は今後5年以内に修繕を実施(ただし改築・長寿命化改修・予防改修を今後10年以内に実施する場合を除く)

長寿命化改修の考え方は学校施設の長寿命化改修(K002)、補助要件は長寿命化改良事業(補助)の対象と進め方(K169)をご覧ください。

平準化の実務──優先順位のつけ方

試算すると、多くの自治体で総額が財政制約ラインを大きく超えます。そこからが計画づくりの本番です。

解説書が示す検討手順は次のとおりです。

  1. 直近で対応が必要な施設・部位を抽出し、最大・最小のコストを算定する(改築中心の案と修繕中心の案を比較)
  2. 財政制約ラインを設定し、工事の配分方針を立てる(例:当面は予防改修・部位改修でコストを抑えながら機能回復を図り、合意形成に時間がかかる改築や長寿命化改修はその後に計画する)
  3. 優先順位を付ける(劣化状況・整備レベルに加え、適正規模・適正配置や複合化の方針も踏まえる)
  4. 計画案を作成する
  5. 合意形成を図り、計画を策定する

計画案の作成で、解説書が挙げている留意点が実務的です。

  • コストだけでなく工事件数にも配慮する(実務処理の観点)
  • 工事着手までに予算要求・計画・設計の時間がかかることを考慮し、実行可能な計画とする
  • 地域の偏り(ある地域の学校ばかりが改修される)や、学校間の整備レベルの違いがないように配慮する

最後の点は、議会や保護者への説明で必ず問われるところです。技術的に正しい優先順位が、政治的に通るとは限らない。そのため計画には、なぜその順序なのかを示すデータが要ります。

実務の勘所

検討項目課題・発生するリスク解決の方向
初期設定の単価のまま試算改築40万円/㎡等の初期値で計画を作ったが、実勢は1.5〜2.0倍。着手できない年度が続き、計画が形骸化する自団体の直近の工事実績から部位別の単価を算出し、設定根拠を明示する。差異分析で上昇率を特定する
見える部分だけ直す屋上防水(配分4.2)や外壁を優先し、内部仕上(21.3)・機械設備(16.6)を後回しに。配管の寿命が先に来て内装をやり直すことになる部位別コスト配分に基づいて優先順位を検討する。設備は経過年数で評価できるため、目視できなくても判定は可能
調査を単独発注劣化状況調査を12条点検と別に発注し、同じ建物に二度足を運ぶ。調査費が二重にかかる12条点検の業務委託に劣化状況調査票の作成を含める。仕様書に明記する
耐震診断データの死蔵圧縮強度・中性化深さのデータが報告書の中に眠り、長寿命化の可否判定でゼロから再調査。時間と費用が余計にかかる耐震診断報告書から圧縮強度等を抽出し、建物情報一覧に転記する。様式を統一して一元管理する
棟の区分が実態と合わない学校施設台帳の棟番号のまま管理し、一体で工事すべき範囲と区分がずれる。工事範囲の設定でつまずく改築・改修で一体的に工事すべき「かたまり」を1つの棟として整理する。渡り廊下は親番号の棟に含める等ルールを決める
計画が更新されない策定後にデータが更新されず、劣化評価も単価も古いまま。効果検証もできず、次の見直しで一から作り直しになる12条点検に合わせて毎年度データを更新する仕組みにする。施設情報を一元化したデータベースを持つ

平準化とは「時期をずらす」ことではない

中長期修繕計画の目的は予算の平準化ですが、単に工事を後ろにずらせば平準化できるわけではありません。

解説書も釘を刺しています。財政等の制約に応じて優先順位の低い工事を翌年以降に先送りすることはできるが、長期に渡って工事を遅らせ続けることはできない。その際は予算規模の見直しなどの対応が必要となると。

本当の平準化は、工事の中身を組み替えることで起きます。

屋上防水(15,000円/㎡)、外壁(25,000円/㎡)、内部仕上(40,000円/㎡)、電気設備(20,000円/㎡)、機械設備(18,000円/㎡)——これらを別々の年度に発注すれば、合計118,000円/㎡に加えて、そのたびに足場を架け、仮設を組み、養生をする費用が上乗せされます。足場・仮設・養生は共通費であり、何の工事のために架けても金額はほとんど変わりません。

一方、長寿命化改修は240,000円/㎡。部位改修の合計118,000円/㎡と比べれば約2倍ですが、構造体の耐久性向上とライフライン更新まで含んで、その後30年以上使える状態になります。そして仮設は一度で済みます。

どちらが安いかは、単価表だけでは決まりません。建物の残り寿命、劣化の進行度、他の工事との重なり、補助メニューの算定割合——これらを組み合わせて初めて判断できます。交付金の算定は学校施設環境改善交付金の使い方(K168)で解説しています。

そして、この判断には建物を実際に調べたデータが要ります。健全度53点という数字は、屋上を歩き、外壁を目視し、配管の更新年を台帳で追って、初めて出てくる数字です。調査なしに作った計画は、平準化のグラフとしては綺麗でも、実際の工事にはつながりません。

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光建舎は教育施設の設計・改修を専門とし、劣化状況調査・健全度の評価から、実勢価格に基づく単価設定、工事範囲の設計、補助メニューを見据えた年度計画への落とし込みまで一貫して対応します。12条点検と合わせた調査のご相談も承ります。全国対応・現地調査とオンライン協議の併用で、計画づくりの段階からご相談いただけます。

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参考・出典

※記載の制度や法令は公表時点のものです。最新情報は各所管の公表資料をご確認ください。

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