この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

少子化を前提にした校舎のダウンサイジングはどう進めるか?

減らす面積の決め方と財源

在籍者が半分になっても、校舎の面積は変わりません。使わない教室の清掃、点検、光熱水費、そして将来の改修費。面積に比例する費用は、在籍者数と関係なく発生し続けます。

統廃合は大きな決断ですが、その手前にも選択肢があります。学校は残したまま、持つ面積を減らす。これが校舎のダウンサイジングです。

この記事では、①ダウンサイジングとは何か、②どこを減らすか、③付帯施設の集約事例、④財源の扱い、⑤進めるときの注意点、の5点を整理します。

この記事の要点

  • ダウンサイジングは、学校を存続させたまま保有面積を減らす取組
  • 手法は「使わない棟の閉鎖」「除却」「他用途への転用」「付帯施設の集約」の4つ
  • プールの集約では、茨城県下妻市が11校から5校に集約し、30年間で約4.56億円の削減を見込んでいる
  • 国庫補助の長寿命化改良事業では、面積増減は原則として補助対象外
  • 除却費用は、公共施設等適正管理推進事業債の除却事業では交付税措置がない

校舎のダウンサイジングとは何か?

校舎のダウンサイジングとは、学校を存続させたまま、在籍者数の減少に合わせて保有する建物の面積を減らす取組です。

統廃合との違いは、学校そのものは残る点です。統廃合が学校の数を減らすのに対し、ダウンサイジングは1校あたりの面積を減らします。

在籍者数が減っても統合の対象にならない学校、あるいは地域の事情で統合できない学校で、施設の負担を下げる方法になります。統合しない選択肢については小規模校を存置する充実策とは?も参照してください。

なぜ面積を減らす必要があるのか?

施設にかかる費用の多くが、在籍者数ではなく面積に比例するためです。

費用在籍者数との関係
清掃・点検・保守面積に比例。在籍者が減っても下がらない
光熱水費使わない教室を閉めれば一部下がる
屋上防水・外壁改修建物の面積に比例。使っていない棟も劣化する
長寿命化改修・改築延床面積に単価を掛けて算出される

文部科学省の試算ソフトでは、改築の単価例として40万円/平方メートル、長寿命化改修の単価例として24万円/平方メートルが示されています。使っていない1,000平方メートルの棟を持ち続ければ、将来それだけで2億4,000万〜4億円の更新費を抱えることになります。

長期の費用の比較方法は施設投資のROIはどう考えるか?にまとめています。

どこを減らすのか?

4つの手法があります。

使わない棟を閉鎖する

建物を残したまま使用を停止し、最低限の維持管理に切り替えます。光熱水費と清掃費は下がりますが、外壁や屋根の劣化は進みます。一時的な措置として有効ですが、長期間放置すると安全上の問題が生じます。

除却する

使わない棟を解体します。将来の改修・更新費用がなくなる、最も確実な方法です。ただし解体費用が一度に発生し、アスベストの有無によっては費用が大きく変わります。

解体前の調査は学校の解体前調査の項目と届出一覧で扱っています。

他用途に転用する

空いた教室や棟を、放課後児童クラブ、地域の集会所、他の公共施設として使います。面積は減りませんが、学校の負担から外すことができます。

転用には用途変更の手続きが必要になる場合があります。詳しくは学校の改修で関わる建築基準法の基礎を参照してください。

付帯施設を集約する

プール、体育館、給食施設など、各校が単独で持っている付帯施設を、複数校で共同利用したり、公共施設や民間施設で代替したりします。

付帯施設の集約はどこまで効くのか?

プールの集約事例が文部科学省の事例集に掲載されています。

自治体内容効果
茨城県下妻市プールを11校から5校に集約(6校廃止)30年間で約4.56億円の削減(約11.66億円から約7.1億円)
愛知県常滑市小学校9校のプールを廃止、中学校4校は改修して維持40年間で約10億円の削減(全校更新約27億円から約17億円)
石川県志賀町小学校1校のプールを廃止し民営施設を利用年間運営費がおよそ半分(約328千円から約185千円)

プールは使用期間が夏季に限られる一方、水槽やろ過設備の更新に大きな費用がかかります。集約の効果が数字で出やすい施設です。

移動手段が課題になる

集約すると、授業のための移動が発生します。下妻市の事例では、中学校の一部がバス2台で約15分の移動、教員1名が添乗する形で運用しています。常滑市の事例では、バス移動のスケジュール調整が課題として挙げられています。

移動時間は授業時数に影響するため、教育課程との調整が欠かせません。

財源はどう扱われるか?

減らす工事には、使える財源が限られます。

長寿命化改良事業では面積増減は原則対象外

文部科学省の長寿命化改良事業のQ&Aでは、面積増減は原則として国庫補助の対象外とされています。ただし、エレベーター設置や障害児対応のためのトイレの設置など、今後30年以上使用していくうえでやむを得ない場合の必要最小限の面積増減は、国庫補助の対象とされています。

つまり、長寿命化改修と同時に一部の棟を減築しても、減築部分は原則として補助が出ません。

複合化・集約化には手厚い措置がある

一方、学校以外の公共施設との複合化・集約化を行う場合、学校施設環境改善交付金の改築や長寿命化改良で算定割合が1/2に引き上げられます。空いた面積に公共施設を入れて複合化する形にすれば、財源面で有利になります。

複合化の考え方は学校施設の複合化とは?にまとめています。

除却は地方債の交付税措置がない

公共施設等適正管理推進事業債は充当率90%ですが、除却事業には交付税措置がありません。一方、集約化・複合化事業は交付税措置率50%です。

同じ解体でも、集約化・複合化の一環として位置づけられるかどうかで実質負担が変わります。統廃合に伴う除却の扱いは学校統廃合の財源と起債で詳しく扱っています。

進めるときの注意点は何か?

3つあります。

30年使用要件との整合

長寿命化改良事業では、今後30年以上使用する予定であることが要件です。文部科学省のQ&Aでは、30年以上使用するかどうかについて、既に存置や統廃合等が決まっている場合はその計画に応じて判断し、それ以外は計画・構想の熟度や方向性、可能性等を勘案して判断するとされています。

ダウンサイジングで残す棟と手放す棟を先に決めておけば、残す棟について30年使用の説明がしやすくなります。

将来の在籍者数を見誤らない

減らしすぎると、在籍者が想定より多かった場合に教室が足りなくなります。推計は複数のシナリオで行い、減らす面積に余裕を持たせます。推計の方法は学校の児童生徒数推計とは?を参照してください。

避難所機能を確認する

公立小中学校の多くは地域の避難所に指定されています。体育館を集約・除却する場合、避難所としての機能をどこが担うかを地域防災計画と照らし合わせて確認します。

ダウンサイジングの計画はどう立てるか?

4つの手順で進めます。

1. 建物ごとの使用率を把握する

棟ごと、教室ごとに、実際にどれだけ使われているかを把握します。建物カルテに使用状況の欄を加えると、判断材料が揃います。建物カルテとは何か?を参照してください。

2. 必要面積を算出する

将来の在籍者数から、必要な教室数と面積を算出します。現在の保有面積との差が、減らせる面積の上限になります。

3. 減らす棟を選ぶ

劣化が進んでいる棟、使用率が低い棟、他の棟から独立していて閉鎖しやすい棟を優先します。

4. 財源と工程を組む

除却、転用、閉鎖のどれにするかで財源が変わります。複合化の形が取れるかも検討します。

建替え・長寿命化・統合の判断との関係は学校は建替え・長寿命化改修・統合のどれを選ぶ?で扱っています。

よくある質問

Q. 使わない校舎を閉鎖するだけでも効果はありますか。

A. 光熱水費と清掃費は下がります。ただし外壁や屋根の劣化は進むため、長期間の閉鎖は安全上の問題が生じます。閉鎖は除却や転用までのつなぎと考えるのが現実的です。

Q. 減築工事に国の補助は出ますか。

A. 長寿命化改良事業では、面積増減は原則として補助対象外です。学校以外の公共施設との複合化・集約化として整理できれば、算定割合が引き上げられる制度があります。

Q. プールをなくすと水泳の授業はどうなりますか。

A. 他校のプール、公営プール、民間のスイミング施設を利用する形になります。移動手段と授業時数の調整が必要です。

Q. 私立学校でもダウンサイジングは有効ですか。

A. 有効です。私立では施設の維持費が法人の収支に直結するため、使わない面積の削減効果はより直接的に表れます。

Q. 一度減らした面積を戻すことはできますか。

A. 除却した場合は戻せません。在籍者数の見通しに不確実性がある場合は、まず閉鎖や転用で様子を見て、見通しが固まってから除却する段階的な進め方が安全です。

まとめ

校舎のダウンサイジングは、学校を存続させたまま保有面積を減らす取組です。施設の費用の多くは在籍者数ではなく面積に比例するため、使わない面積を持ち続けると、将来の更新費まで含めて負担が積み上がります。

手法は、閉鎖、除却、転用、付帯施設の集約の4つです。プールの集約では、下妻市が11校から5校に集約して30年間で約4.56億円、常滑市が40年間で約10億円の削減を見込んでいます。

財源面では、長寿命化改良事業で面積増減は原則補助対象外、除却事業は地方債の交付税措置がない一方、公共施設との複合化・集約化には手厚い措置があります。減らす面積に公共施設を組み合わせる形が取れるかどうかが、実質負担を左右します。

参考・出典

記載の制度は公表時点のものです。最新の要件・割合・期限は所管省庁の公表資料でご確認ください。

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