この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

複数キャンパスの施設戦略はどう最適化するか?

集約・機能分担・維持の判断軸

郊外に広いキャンパス、都心に小さなキャンパス。高校と中学が別の敷地、大学と短大が離れた場所。複数のキャンパスを持つ学校法人は少なくありません。

キャンパスが複数あると、同じ機能の施設がそれぞれに必要になります。図書館、体育館、食堂、事務室、そして設備の更新費。在籍者が減っても、キャンパスの数が減らなければ施設の負担は下がりません。

この記事では、①複数キャンパスの施設戦略とは何か、②現状の把握の仕方、③集約・機能分担・維持の選択肢、④判断の軸、⑤立地をめぐる制度の動き、の5点を整理します。

この記事の要点

  • 複数キャンパスの施設戦略は、キャンパス全体を一つの資産群として配置・規模・機能を最適化する取組
  • まずキャンパスごとに、面積・築年数・劣化状況・費用・利用状況を同じ形式で並べる
  • 選択肢は「集約」「機能分担」「維持」の3つで、学部・学科の配置と一体で考える
  • 判断の軸は、教育上の効果、費用、学生募集への影響、移動の負担、不動産としての価値
  • 東京23区の大学の定員増の抑制は2028年3月末が期限で、継続の是非が議論されている

複数キャンパスの施設戦略とは何か?

複数キャンパスの施設戦略とは、学校法人が保有する複数のキャンパスを、個別に管理するのではなく一つの資産群として捉え、どこに何を置き、どれだけの規模で持つかを、教育と経営の両面から最適化する取組です。

ファシリティマネジメントの考え方でいえば、戦略・計画のレベルの仕事に当たります。個々の建物の修繕計画ではなく、キャンパスの配置そのものを扱います。FMの全体像はファシリティマネジメントは学校経営に何をもたらすか?にまとめています。

現状はどう把握するか?

キャンパスごとに、同じ形式でデータを並べます。

項目内容
規模校地面積、延床面積、棟数
建物の状態築年数、構造、劣化状況、耐震性能
費用年間の維持管理費、光熱水費、修繕費、今後30〜40年の更新費の見込み
利用在籍者数、教室の稼働率、学部・学科の配置
立地最寄り駅からの距離、周辺の人口動態、用途地域

建物ごとの情報の整理は建物カルテとは何か?を参照してください。

学生1人あたりで比べる

キャンパスごとの費用を在籍者数で割ると、1人あたりの施設費が出ます。延床面積を在籍者数で割れば、1人あたりの面積が出ます。キャンパス間で大きな差があれば、どこかに余剰面積がある可能性があります。

重複している施設を洗い出す

図書館、体育館、食堂、保健室、事務室、講堂など、キャンパスごとに持っている施設を一覧にします。利用者数が少ない施設、同じ機能が近い距離に重複している施設が、見直しの候補になります。

どんな選択肢があるか?

3つの方向があります。

選択肢内容向いている状況
集約キャンパスを統合し、一方を手放す在籍者が大きく減った、一方の建物が一斉に更新時期
機能分担学年・学部・機能ごとに役割を分ける両キャンパスとも一定の規模を維持できる
維持現状の配置を続けつつ、重複施設を減らす立地の強みが両方にある、集約の費用が大きい

集約

複数のキャンパスを一つにまとめます。施設の重複がなくなり、維持管理費と将来の更新費を大きく下げられます。手放すキャンパスは、売却や賃貸で資金化できる可能性があります。

一方で、受け入れる側のキャンパスに増築や改修が必要になることが多く、一時的に大きな投資が発生します。私立学校の統廃合・再編の手順は私立学校の統廃合・再編を進める手順で扱っています。

機能分担

1・2年次は郊外、3・4年次は都心、あるいは文系は都心、理系は郊外というように、キャンパスごとに役割を分けます。施設の重複は残りますが、それぞれのキャンパスの特性を活かせます。

学年で分ける場合、学生が途中でキャンパスを移ることになります。サークル活動や学生生活の継続性への配慮が必要です。

維持と重複施設の削減

キャンパスの配置は変えず、使われていない棟の閉鎖や除却、付帯施設の共同利用で面積を減らします。考え方は少子化を前提にした校舎のダウンサイジングはどう進めるか?にまとめています。

何を軸に判断するか?

5つの軸で比べます。

教育上の効果

学部間の連携、教員の研究環境、学生同士の交流は、キャンパスが一つの方が生まれやすくなります。一方、実習や研究に広い敷地や特殊な施設が必要な分野は、郊外のキャンパスの方が適していることがあります。

費用

集約・機能分担・維持のそれぞれについて、今後30〜40年の施設費の合計を比べます。集約の初期投資と、手放すキャンパスの売却収入も含めます。比較の方法は施設投資のROIはどう考えるか?で扱っています。

学生募集への影響

立地は受験生の志望に影響します。通学の利便性が高いキャンパスに集約すれば志願者が増える可能性がある一方、地域に根ざしたキャンパスを閉じると、その地域からの志願者を失う可能性があります。

移動の負担

キャンパスを残す場合、教職員の移動、学生の移動、事務の二重化の負担が続きます。移動時間は授業の時間割にも影響します。シャトルバスを運行している場合は、その運行費も施設費と合わせて比べます。

不動産としての価値

手放す候補のキャンパスが、売却や賃貸でどれだけの価値を持つかを見積もります。用途地域や接道、土壌の状況、周辺の需要によって、価値は大きく変わります。

検討はどんな手順で進めるか?

5つの段階で進めます。

1. データを揃える

キャンパスごと、建物ごとの情報を同じ形式で整理します。この段階で情報が揃わないキャンパスがあれば、劣化状況の調査などで補います。

2. 将来の在籍者数を見込む

学部・学科ごと、キャンパスごとに、10〜20年後の在籍者数を複数のシナリオで見込みます。志願者の動向、定員充足率の推移、競合校の動きを踏まえます。

3. 選択肢ごとの配置案を作る

集約、機能分担、維持のそれぞれについて、どの学部・学年をどのキャンパスに置くかの配置案を作ります。必要な面積、増築・改修の範囲、手放す建物を具体的に書き出します。

4. 長期の費用と効果を比べる

配置案ごとに、今後30〜40年の施設費、売却収入、移動の負担、学生募集への影響を並べます。数字で比べられるものと、定性的に評価するものを分けて整理します。

5. 法人内で合意し、工程を組む

理事会と評議員会に選択肢と比較結果を示し、方針を決めます。所轄庁との調整、工事の工程、在籍者への説明の時期を組み込んだ計画に落とし込みます。意思決定の場に出す資料は理事会で施設投資を通すための資料はどう作るか?を参照してください。

手放すキャンパスはどう扱うか?

売却、賃貸、除却のいずれかです。

将来また使う可能性がある場合は、期間の満了で確実に戻る定期借家や定期借地の契約で貸す方法があります。詳しくは定期借家・定期借地・リースバックで校舎をどう活用するか?を参照してください。

売却や賃貸の税の扱いは、学校法人の場合、収益事業の判定や固定資産税の非課税との関係で注意が必要です。空き校舎を貸すと税金はどうなる?にまとめています。

立地をめぐる制度の動きは?

大学の場合、キャンパスの立地に関わる制度があります。

東京23区の定員増の抑制

地域における大学の振興及び若者の雇用機会の創出による若者の就学及び就業の促進に関する法律により、東京23区内の大学の学部の収容定員の増加は、原則として抑制されています。この措置は2028年3月末が期限です。

報道によれば、政府は2026年6月に有識者会議で継続の是非の協議を始め、秋ごろに結論を出すとしています。全国の学部生のうち東京23区の大学に在籍する学生の割合は19.1%とされています。

郊外から23区内へのキャンパス移転や、23区内のキャンパスの定員の扱いを検討している学校法人は、この議論の行方を確認しておく必要があります。

設置基準と届出

キャンパスの移転や学部の配置換えは、学則の変更や所轄庁への届出・認可の対象になることがあります。校地と校舎の面積が設置基準を満たすかどうかも、集約後の配置で確認します。

よくある質問

Q. キャンパスを集約すると、在籍者数は減りますか。

A. 立地によります。通学の利便性が上がれば志願者が増える可能性がある一方、手放すキャンパスの周辺からの志願者は減る可能性があります。志願者の居住地のデータから影響を見込みます。

Q. 高校と中学が別の敷地にある場合も同じ考え方ですか。

A. 同じです。中高一貫校で敷地が分かれている場合、一方に集約すれば施設の重複を減らせます。設置基準の面積と、運動場の位置の要件を確認します。

Q. 集約の判断にはどれくらいの期間がかかりますか。

A. 現状の把握から、選択肢の比較、法人内の合意、所轄庁との調整まで、数年単位の検討になるのが一般的です。建物の更新時期が迫る前に検討を始めることが重要です。

Q. 集約せずに、遠隔授業で複数キャンパスをつなぐ方法はありますか。

A. 一部の授業を遠隔で行えば、教員の移動の負担は減らせます。ただし施設の重複は残るため、施設費の削減効果は限られます。集約や機能分担と組み合わせて考えるのが現実的です。

Q. 集約の初期投資をどう賄えばよいですか。

A. 手放すキャンパスの売却収入、減価償却の積立、借入金、寄附金を組み合わせるのが一般的です。売却の時期と工事の時期のずれを、つなぎの資金でどう埋めるかも検討します。

まとめ

複数キャンパスの施設戦略は、キャンパス全体を一つの資産群として捉え、配置・規模・機能を最適化する取組です。出発点は、キャンパスごとに規模、建物の状態、費用、利用、立地を同じ形式で並べ、学生1人あたりの費用と面積、重複施設を洗い出すことです。

選択肢は集約、機能分担、維持の3つで、教育上の効果、費用、学生募集への影響、移動の負担、不動産としての価値の5つの軸で比べます。

大学では、東京23区の定員増の抑制の継続が議論されており、立地の判断に関わります。建物の更新時期が一斉に来る前に、キャンパス全体の方針を決めておくことが、将来の選択肢を広く保つことにつながります。

参考・出典

記載の制度・動向は公表時点のものです。最新の内容は各機関の公表資料でご確認ください。

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