目次
資産組替えの考え方と手続き
キャンパスを集約して、使わなくなった旧校地を売る。郊外の広い校地を売り、駅に近い土地に移る。学校の不動産の売却は、施設の負担を減らすだけでなく、新しい施設投資の原資をつくる手段にもなります。
ただし、学校の不動産の売却には、一般の不動産の売却にはない論点があります。学校法人なら基本金と税の扱い、所轄庁の手続き。公立学校なら議会の議決と国庫補助の財産処分。どれも、売却の方針を決める前に確認しておく必要があります。
この記事では、①資産組替えとは何か、②学校法人が売却するときの論点、③資産組替えの進め方、④公立学校の売却、⑤売却前の準備、の5点を整理します。
この記事の要点
- 資産組替えは、保有する不動産を売却し、その資金で教育により適した資産を取得する取組
- 学校法人が相当期間(おおむね10年以上)保有した不動産の売却益は、法人税の課税対象外とされている
- 売却で除却した資産は、同種の資産を取得しなければ基本金の取崩しの対象になり得る
- 公立学校の施設の売却には、条例で定める規模以上なら議会の議決が必要で、国庫補助を受けた施設は財産処分の手続きも必要
- 売却の前に、評価、境界の確定、補助金の返還額、在籍者と地域への説明を準備する
資産組替えとは何か?
資産組替えとは、学校法人や地方公共団体が保有する不動産のうち、教育に使われていない、または教育に適さなくなったものを売却し、その資金でより教育に適した資産を取得したり、既存の施設の改修に充てたりすることです。
典型的な形は次のとおりです。
| 形 | 内容 |
|---|---|
| 集約型 | 複数のキャンパスを一つにまとめ、空いたキャンパスを売却する |
| 移転型 | 現在の校地を売却し、別の場所に新しい校地を取得して移る |
| 部分売却型 | 校地の一部(使っていない土地や職員宿舎など)を売却し、残りの施設の改修に充てる |
売却だけで終わらせず、何に組み替えるかまでを一つの計画として考えるのがポイントです。売却代金の使い道が決まっていれば、在籍者や地域への説明もしやすくなります。
学校法人が売却するときの論点は何か?
税、基本金、手続きの3つです。
法人税
文部科学省の監事研修資料では、相当期間(おおむね10年以上)保有していた土地・建物等の不動産の売却益は、法人税の課税対象外とされています。
学校法人は、収益事業から生じた所得にだけ法人税が課されます。長く教育に使ってきた校地や校舎を売却しても、その売却益は通常、課税されません。ただし、収益事業に使っていた不動産や、保有期間が短い不動産については、扱いが変わる可能性があるため税理士に確認します。
一方、売却した不動産を貸していた期間がある場合や、売却前に分譲のための造成を行う場合などは、不動産販売業などとの関係が論点になることがあります。
基本金
売却によって建物や土地を手放した場合、その資産に対応する基本金の扱いを決める必要があります。
同種の資産を新たに取得しない場合は、除却した資産に対応する基本金を取り崩すことができます。学校法人会計の問答集では、経営の合理化や将来計画の見直しを行った場合にも取り崩すことができるとされています。
売却の資金で新しい校地や校舎を取得する場合は、取替更新として扱われる部分があり、新たな組入れは差額が中心になります。基本金の仕組みは学校法人会計で施設整備はどう処理するか?で扱っています。
法人内と所轄庁の手続き
校地や校舎の売却は、重要な資産の処分に当たるのが通常です。私立学校法と寄附行為の定めに従い、理事会の決議や評議員会の手続きを経ます。基本財産に当たる場合や、校地の変更を伴う場合は、所轄庁への届出や認可が必要になることがあります。
売却後の校地の面積が設置基準を満たすかどうかも、事前に確認します。
資産組替えはどう進めるか?
売却と取得の時期を合わせることが最大の課題です。
1. 組替えの方針を決める
どの資産を手放し、何に組み替えるかを決めます。複数キャンパスの場合の考え方は複数キャンパスの施設戦略はどう最適化するか?にまとめています。
2. 売却資産を評価する
売却候補の価値を見積もります。学校の不動産は同じ用途での取引が少なく、建物は解体前提で評価されやすいなど、評価に特有の難しさがあります。学校の不動産はどう評価し、何を調べるか?を参照してください。
3. 資金の流れを組む
売却代金が入る時期と、新しい校地の取得や工事の支払いの時期は、通常一致しません。
| 順番 | 利点 | 課題 |
|---|---|---|
| 売却が先 | 資金の見通しが立つ | 移転までの仮校舎や賃借が必要になる場合がある |
| 取得が先 | 教育を止めずに移れる | つなぎの資金が必要になる |
取得が先になる場合は、借入金でつなぐか、売却先と引き渡し時期を調整します。新しい校地の取得の進め方は学校法人が校地を取得・拡張するにはどう進めるか?を参照してください。
4. 買い手を選ぶ
一般競争入札、公募による提案方式、特定の相手との交渉があります。価格だけでなく、跡地の用途が地域や学校の評判に与える影響も考慮します。公募で用途の条件を付ける方法もあります。特に、移転後も近くで学校を続ける場合は、跡地の用途が在籍者や保護者の目に触れることを意識しておきます。
公立学校の施設を売却するときは?
学校法人とは別の手続きがあります。
用途廃止と議会の議決
公立学校の施設は行政財産で、そのままでは売却できません。学校としての用途を廃止して普通財産にしたうえで売却します。
地方自治法では、条例で定める種類・金額の財産の取得や処分には、議会の議決が必要とされています。一定規模以上の校地の売却は、議会の議決の対象になるのが一般的です。
国庫補助の財産処分
国庫補助を受けて整備した施設を売却する場合は、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律に基づく財産処分の手続きが必要です。文部科学省の財産処分手続では、有償での譲渡は原則として国庫納付が必要とされていますが、国庫納付金相当額以上を基金に積み立てる場合や、地域再生計画の認定を受けた場合などは、国庫納付が不要とされています。
廃校施設の売却・貸付の進め方は、廃校施設の活用に関する記事でも扱っています。廃校の売却・貸付と公募の進め方を参照してください。
売却の時期はどう考えるか?
早すぎても遅すぎても不利になります。
持ち続ける費用
使わなくなった校地や校舎も、持ち続ければ維持管理費がかかります。学校法人の場合、教育に使わなくなった不動産は固定資産税の非課税が外れる可能性もあります。建物の劣化が進めば、解体費や安全対策の費用も増えます。売却を先送りするほど、この費用が積み上がります。
地価の動向
売却価格は地価の動向に左右されます。ただし、地価の上昇を待って保有を続けても、その間の維持費と劣化による価値の低下が上回ることがあります。国土交通省の地価公示などで地域の傾向を確認しつつ、持ち続ける費用と比べて判断します。
移転や集約の完了
在籍者の移転が終わる前に売却の手続きを進めすぎると、工事の遅れなどで移転が延びた場合に困ります。引き渡しの時期に余裕を持たせた契約にするか、移転の完了を見届けてから引き渡す形にします。
売却前に何を準備すべきか?
4つあります。
境界の確定
学校の敷地は広く、隣接地の所有者も多いため、境界の確定に時間がかかります。売却の方針が決まった段階で着手します。
建物の調査
アスベストの有無、土壌汚染の可能性、地下埋設物を調べます。解体して更地で引き渡すか、建物付きで引き渡すかで、価格と売主の負担が変わります。
補助金と税の確認
返還が必要な補助金の額、税の扱いを確認し、売却代金から差し引いた手取りを計算します。仲介手数料や測量費、解体費も差し引いて、組替え先の資金計画に使える金額を確定させます。
在籍者と地域への説明
売却の情報が先に広がると、在籍者や保護者、地域に不安を与えます。説明の時期と内容を、売却の工程と合わせて計画します。
よくある質問
Q. 売却せずに貸す方が有利な場合はありますか。
A. 将来また教育に使う可能性がある場合は、定期借家や定期借地で貸す方が選択肢を残せます。ただし、学校法人が貸す場合は収益事業の課税や固定資産税の非課税が外れる可能性があります。空き校舎を貸すと税金はどうなる?を参照してください。
Q. 売却代金は何に使えますか。
A. 学校法人の場合、新しい校地や校舎の取得、既存施設の改修、借入金の返済などに充てられます。将来の施設整備に備えて、第2号基本金の特定資産として積み立てる方法もあります。
Q. 校舎を残したまま、教育機関や福祉施設に売却できますか。
A. 校舎を活用できる買い手がいれば可能です。解体費がかからない分、売主の負担は軽くなります。ただし、耐震性能や劣化状況によっては買い手が見つかりにくいため、建物の状態を事前に調べておきます。
Q. 理事の関係する会社に売却してもよいですか。
A. 利益相反取引に当たるため、私立学校法に基づく理事会の承認が必要です。価格の妥当性を不動産鑑定士の評価で裏づけ、手続きを記録に残します。
Q. 売却までどれくらいの期間がかかりますか。
A. 方針の決定から、評価、境界の確定、法人内の手続き、買い手の選定、引き渡しまで、1年以上かかることも珍しくありません。移転や集約の計画から逆算して、早めに着手します。
まとめ
校地・校舎の売却は、施設の負担を減らすだけでなく、より教育に適した資産に組み替える手段です。集約型、移転型、部分売却型のどれでも、売却と取得を一つの計画として考えることが大切です。
学校法人の場合、おおむね10年以上保有した不動産の売却益は法人税の対象外とされていますが、基本金の取崩しや取替更新、理事会と所轄庁の手続きを確認する必要があります。公立学校の場合は、用途廃止、議会の議決、国庫補助の財産処分の手続きが必要です。
売却と取得の時期のずれをどう埋めるか、境界の確定や建物の調査をいつ始めるか、在籍者と地域にいつ説明するか。これらを売却の方針と同時に計画しておくことで、組替えを円滑に進められます。
参考・出典
- 文部科学省「監事が知っておきたい 学校法人の税務」(平成29年10月13日 監事研修会資料) https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/10/18/1397326_4.pdf
- 日本公認会計士協会「学校法人会計問答集(Q&A)第16号 基本金に係る実務上の取扱いについて」 https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shinkou/07021403/001/002/004.htm
- 文部科学省「公立学校施設整備費補助金等に係る財産処分手続の概要」(令和8年3月) https://www.mext.go.jp/content/20260331-mxt_sisetujo-100003148_03.pdf
- 地方自治法、私立学校法、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律
記載の制度は公表時点のものです。実際の手続きは、所轄庁・地方公共団体の担当部署・専門家にご確認ください。
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