目次
鑑定評価の基礎とデューデリジェンスの項目
キャンパスを集約して旧校地を売る。隣接地を買い増す。空いた校舎を貸す。学校の不動産を動かす場面では、必ず「いくらが妥当か」「どんなリスクがあるか」が問われます。
ところが学校の不動産は、一般の住宅やオフィスと違い、同じ用途での取引がほとんどありません。広い敷地、特殊な建物、教育用の法令上の制約。評価が難しく、見落としがあると売却後や取得後に思わぬ負担が生じます。
この記事では、①学校不動産の評価とデューデリジェンスとは何か、②鑑定評価の3つの方式、③学校不動産が評価しにくい理由、④調べるべき項目、⑤評価を依頼するときの進め方、の5点を整理します。
この記事の要点
- 不動産の価格は、原価法・取引事例比較法・収益還元法の3つの方式で求める
- 隣接地を併合するための売買では、正常価格とは異なる限定価格が問題になる
- 学校の建物は同じ用途での取引が少なく、売却時は土地の価格から解体費を差し引いて評価されることが多い
- デューデリジェンスでは、物理的・法的・経済的な側面を調べる
- 補助金を受けて整備した建物の売却は、財産処分の手続きと補助金の返還が必要になる場合がある
学校不動産の評価とデューデリジェンスとは何か?
学校不動産の評価とは、学校の校地や校舎について、売却・取得・賃貸などの目的に応じた経済的な価値を求めることです。デューデリジェンスとは、その取引の前に、対象の不動産が持つ物理的・法的・経済的なリスクを詳しく調べることです。
評価が「いくらか」を示すのに対し、デューデリジェンスは「何が問題になり得るか」を明らかにします。両方がそろって、取引の判断ができます。
| 項目 | 評価 | デューデリジェンス |
|---|---|---|
| 目的 | 経済的な価値を求める | リスクを洗い出す |
| 主な担い手 | 不動産鑑定士 | 建築士、弁護士、土壌調査会社など |
| 成果物 | 鑑定評価書、価格調査報告書 | 建物状況調査報告書、法務調査報告書など |
不動産の価格はどう求めるのか?
国土交通省の不動産鑑定評価基準では、3つの方式が示されています。
| 方式 | 考え方 |
|---|---|
| 原価法 | 価格時点で同じものを造り直す費用(再調達原価)を求め、経年などによる減価を差し引く |
| 取引事例比較法 | 多数の取引事例を集め、事情や時点、地域と個別の要因を比べて補正する |
| 収益還元法 | 将来生み出すと期待される純収益の現在価値の総和を求める |
鑑定評価では、対象の不動産の性格に応じて、複数の方式を併用するのが基本です。
価格の種類
不動産鑑定評価基準では、求める価格の種類も定められています。学校の取引で関係しやすいのは次の3つです。
| 価格の種類 | 内容 | 学校での例 |
|---|---|---|
| 正常価格 | 市場性を有する不動産の、合理的な市場で形成されるであろう市場価値 | 旧校地を一般に売却する |
| 限定価格 | 市場が相対的に限定される場合の価格 | 隣接地を買い増して校地と併合する |
| 特殊価格 | 文化財等の一般的に市場性を有しない不動産の、利用現況を前提とした価格 | 歴史的な校舎を保存したまま評価する |
隣接地の取得では、併合によって校地全体の価値が上がるため、売主側から見た正常価格より高い価格でも合理的となる場合があります。これが限定価格の考え方です。校地の取得の進め方は学校法人が校地を取得・拡張するにはどう進めるか?にまとめています。
学校の不動産はなぜ評価しにくいのか?
3つの理由があります。
同じ用途での取引が少ない
学校の校舎が学校として売買される例は多くありません。取引事例比較法で使える事例が乏しく、周辺の住宅地や商業地の取引から推定することになります。
建物の価値が残りにくい
学校の校舎は、教室が並ぶ構造、広い廊下、体育館など、他の用途に転用しにくい造りです。買い手が学校以外の用途を想定する場合、建物は解体する前提で評価され、土地の価格から解体費を差し引いた額が目安になることが少なくありません。
特に古い校舎では、アスベストの除去費用が解体費を大きく押し上げることがあります。
土地が広く、用途の制約がある
学校の敷地は、周辺の一般的な取引の単位よりはるかに広いのが普通です。広い土地は、道路や公園を設けて分割しないと住宅用地として使えず、そのための費用と期間を見込んで評価されます。
また、市街化調整区域にある校地や、用途地域が限られる校地は、買い手が使える用途が限られ、価格に影響します。
デューデリジェンスでは何を調べるか?
3つの側面に分けて整理します。
物理的な調査
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 建物の劣化 | 構造躯体、外壁、屋上防水、設備の状態 |
| 耐震性能 | 新耐震基準か、耐震診断・補強の実施状況 |
| 有害物質 | アスベスト、PCBを含む機器の有無 |
| 土壌 | 地歴、土壌汚染の可能性、地下埋設物 |
| 修繕・更新費 | 今後10〜20年に必要な修繕・更新の費用 |
建物の情報が建物カルテとして整理されていれば、調査の手間と費用を大きく減らせます。建物カルテとは何か?を参照してください。
法的な調査
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 権利関係 | 所有権、抵当権、借地権、地役権の有無 |
| 境界 | 隣地との境界が確定しているか |
| 建築法規 | 確認済証・検査済証の有無、増築部分の適法性 |
| 用途の制限 | 用途地域、市街化区域か調整区域か |
| 補助金 | 補助金を受けて整備した建物か、財産処分の制限があるか |
古い学校では、検査済証が見当たらない、増築部分の確認申請が不明、といった状態が珍しくありません。用途変更や売却の際に問題になるため、早い段階で確認します。
経済的な調査
周辺の人口動態、地価の推移、同じ地域での土地の需要、想定される買い手や借り手を調べます。賃貸を検討する場合は、周辺の賃料の相場と需要も調べます。
地価の推移は、国土交通省の地価公示や都道府県地価調査で確認できます。対象地の近くの標準地・基準地の価格を数年分並べると、地域の傾向がつかめます。
補助金を受けた建物はどう扱うか?
国や地方公共団体の補助金を受けて整備した建物を売却・賃貸する場合は、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律に基づく財産処分の制限がかかります。所管省庁の承認を受ける必要があり、経過年数や処分の内容によっては補助金の返還が求められます。
評価額から、返還が必要な補助金の額を差し引いて、実際の手取りを計算します。
学校法人が空き校舎を貸す場合の税金の扱いは空き校舎を貸すと税金はどうなる?にまとめています。
評価はどう依頼するか?
目的に応じて、依頼する範囲を決めます。
鑑定評価と価格調査
不動産鑑定士に依頼する方法には、不動産鑑定評価基準にすべて則った鑑定評価と、基準の一部を満たさない簡易な価格調査があります。売買の相手方や理事会への説明に使う場合は、鑑定評価を取るのが確実です。検討の初期段階で目安を知りたい場合は、価格調査で足りることもあります。
帳簿価額との違い
学校法人の貸借対照表に載っている土地・建物の額は、取得時の価額から減価償却を差し引いた帳簿上の額です。市場で売れる価格とは一致しません。土地は取得時から大きく値上がりしている場合もあれば、値下がりしている場合もあります。減価償却と実際の建物の状態との関係は校舎の減価償却は更新時期の目安になるか?で扱っています。
複数キャンパスの比較
キャンパスの集約を検討している場合は、手放す候補のすべてのキャンパスについて、同じ条件で評価を取ると比較しやすくなります。複数キャンパスの施設戦略はどう最適化するか?を参照してください。
売却する側は何を準備しておくべきか?
学校法人や地方公共団体が売却する側の場合、事前の準備で価格と交渉の進み方が変わります。
資料をそろえる
登記事項証明書、公図、測量図、竣工図、確認済証と検査済証、過去の改修の記録、点検の報告書、アスベストの調査結果をそろえます。資料がそろっていない物件は、買い手がリスクを高めに見積もり、価格が下がる原因になります。
境界を確定しておく
学校の敷地は広く、隣接地の所有者も多いため、境界の確定に時間がかかります。売却の方針が決まった段階で、測量と境界確認を始めておきます。
引き渡しの条件を決める
建物を残したまま引き渡すのか、解体して更地で引き渡すのかで、価格と売主の負担が変わります。解体費とアスベストの除去費を見積もり、どちらが有利かを比べます。
在籍者と地域への説明
売却の情報が先に広がると、在籍者や保護者、地域に不安を与えます。説明の時期と内容を、売却の工程と合わせて計画します。
よくある質問
Q. 固定資産税評価額や路線価を使って売却価格を決めてもよいですか。
A. 目安にはなりますが、実際の市場価格とは異なります。固定資産税評価額は公示価格の7割程度、相続税路線価は8割程度を目安に設定されているとされており、そのまま売却価格にすると低すぎる可能性があります。
Q. デューデリジェンスの費用は誰が負担しますか。
A. 一般的には、調査を必要とする側が負担します。売却側が事前に調査しておくと、買い手の不安が減り、交渉が進めやすくなります。
Q. 校舎をそのまま使いたい買い手がいれば、建物の価値は評価されますか。
A. 教育機関や福祉施設など、校舎を活用できる買い手がいれば、建物の価値が考慮される可能性があります。耐震性能と劣化状況が良好であることが前提です。
Q. 土地を取得する側でもデューデリジェンスは必要ですか。
A. 必要です。特に土壌汚染、地下埋設物、境界、用途地域と開発許可の見通しは、取得後に学校として使えるかどうかに直結します。売主の資料だけに頼らず、必要に応じて独自に調査します。
Q. 評価や調査にはどれくらいの期間がかかりますか。
A. 対象の規模と資料のそろい具合によります。境界の確定や土壌の調査には数か月かかることもあるため、売買や賃貸の時期から逆算して早めに着手します。
Q. 公立学校の廃校を売却する場合も同じですか。
A. 評価の考え方は同じです。地方公共団体の場合は、議会の議決や公募の手続きが加わります。
まとめ
学校の不動産の評価は、原価法・取引事例比較法・収益還元法の3つの方式で行い、取引の目的に応じて正常価格、限定価格などの価格の種類を使い分けます。隣接地の併合では限定価格が問題になります。
学校の不動産は、同じ用途での取引が少なく、建物は解体前提で評価されやすく、広い土地と用途の制約が価格に影響するため、評価が難しい資産です。デューデリジェンスでは、建物の劣化・耐震・有害物質・土壌といった物理的な側面、権利・境界・建築法規・補助金といった法的な側面、需要や相場といった経済的な側面を調べます。
帳簿価額と市場価格は一致しません。売却・取得・賃貸の判断の前に、目的に合った評価と調査を行い、補助金の返還も含めた実際の手取りで比べることが大切です。
参考・出典
- 国土交通省「不動産鑑定評価基準」 https://www.mlit.go.jp/common/001204083.pdf
- 国土交通省「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項」 https://www.mlit.go.jp/common/001204077.pdf
- 補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律、建築基準法、都市計画法
記載の制度は公表時点のものです。実際の評価・調査は、不動産鑑定士などの専門家にご確認ください。
学校施設のご相談
その工事、補助金が使えるか無料でチェックします
トイレ・空調・体育館・玄関・耐震など、検討中の工事に使える国や都道府県の補助制度を、公表資料をもとに確認して3営業日以内にご回答します。「補助金が使えないか調べるよう言われた」という段階のご相談で構いません。
補助金の無料チェックを依頼する株式会社光建舎は、設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応しています。図面や仕様が固まっていない計画段階からのご相談も承っています。概算だけ先に欲しい、という段階でも構いません。
受付時間 平日 9:00〜18:00