この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

公立高校は改修か建替えか?

判断基準・費用比較・長寿命化の考え方

公立高等学校の施設整備は、小中学校とは財源の仕組みが違います。ここを押さえないまま小中学校と同じ感覚で計画すると、財源の見通しが立ちません。

加えて、高等学校は都道府県が設置し、再編整備計画の中で統廃合や学科の改編が進みます。個別の校舎をどうするかは、県全体の計画と切り離せません。

この記事では、①財源の違い、②再編整備計画との関係、③判断の材料、④費用の比べ方、⑤進め方、の5点を整理します。

この記事の要点

  • 学校施設環境改善交付金は義務教育諸学校等が中心で、公立高等学校の通常の校舎整備は対象外
  • 交付金の対象となるのは、高等学校では産業教育のための実験実習施設など限られた区分
  • 屋外防災施設の整備、産業教育用の太陽光発電等も対象の区分に挙げられている
  • 通常の校舎整備は、都道府県の予算と地方債が中心になる
  • 再編整備計画の中で、その学校を何年使うのかが前提になる

財源はどう違うのか?

通常の校舎整備は、国庫補助の対象外です。

学校施設環境改善交付金交付要綱は、義務教育諸学校等の施設費の国庫負担等に関する法律に基づく制度です。対象となるのは、小学校、中学校、義務教育学校、中等教育学校の前期課程、特別支援学校、幼稚園が中心です。

高等学校が対象となるのは、限られた区分です。

区分高等学校の扱い
産業教育施設の整備高等学校および中等教育学校の後期課程の産業教育のための実験実習施設が対象
防災機能の強化屋外防災施設整備のみ対象
太陽光発電等の整備産業教育のための実験実習施設のみ対象
通常の校舎の改築・長寿命化改良対象外

つまり、普通教室棟の改築や長寿命化改修には、小中学校のような国庫補助がありません。都道府県の予算と地方債で賄うことになります。この違いが、事業の進め方を大きく変えます。

制度の全体像は公立学校施設整備費(国庫補助)の基礎知識にまとめています。

地方債と交付税措置を確認する

国庫補助がない分、地方債の活用が中心になります。どの起債メニューを使えるか、交付税措置がどの程度あるか。財政部局と早い段階で確認します。

小中学校と違い、国の補助の採択を待つ必要がありません。その分、県の予算編成のサイクルに直接載せることになります。

産業教育施設は別に検討する

工業高校の実習棟、商業高校の情報処理室、農業高校の実習施設。これらは交付金の対象になる区分があります。

普通教室棟と実習棟を、同じ事業として一体で進めるか、分けて発注するか。財源の違いが、事業の組み立て方に影響します。対象経費の切り分けは、設計の段階で整理しておきます。

再編整備計画とどう関わるのか?

学校の存続が前提条件になります。

都道府県は、中学校卒業者数の推移を踏まえて高等学校の再編整備計画を策定します。統合、学科の改編、募集停止。個別の校舎の判断は、この計画の中に位置づけられます。

何年使うのかが最初の問い

その学校が10年後も存続するのか、統合の対象なのか。これが決まらなければ、改築か長寿命化改修かは判断できません。

計画上、存続が決まっている学校であれば、長期の投資が成り立ちます。統合の対象であれば、安全に関わる工事に絞ることになります。募集停止までの年数から逆算します。

統合後の校舎をどちらにするか

2校を統合する場合、どちらの校舎を使うかの判断があります。建物の状態、敷地の広さ、交通の便、実習設備の有無。

残す側の校舎には改修が必要になり、残さない側は跡地の活用を検討することになります。公共施設全体の再編の中での位置づけは公共施設の再編と学校で扱っています。

判断の材料は何か?

5つあります。

材料見るもの
建物の状態躯体の劣化、鉄筋の腐食、コンクリートの中性化
再編整備計画存続か、統合か、募集停止か
学科の構成普通科か、専門学科か。実習設備の更新が必要か
敷地の条件建て替える場所があるか、仮設を置けるか
財政の見通し地方債の充当と交付税措置、県全体の投資の枠

躯体の状態が選択肢を決める

長寿命化改修は、躯体が健全であることが前提です。コンクリートの中性化が進み、鉄筋が腐食している建物では成り立ちません。

まず劣化状況調査を行います。調査の結果で選択肢そのものが変わるため、方針を決める前に済ませます。

学科の改編を伴うか

学科を改編する計画があるなら、必要な実習室の種類と数が変わります。既存の配置のまま改修しても、使えない施設が残ります。

改築であれば、新しい学科の構成に合わせた計画ができます。学科の改編を伴う場合、改築の方が目的に合うことがあります。

費用はどう比べるのか?

年あたりに直します。

文部科学省が示すコスト試算の枠組みでは、更新周期として改築50年、長寿命80年が設定されており、長寿命化改修の周期は40年、工事期間は2年とされています。これらは試算ツールの区分ごとの設定で、各自治体が実態に応じて数値を定める仕組みです。

項目改築長寿命化改修
試算上の更新周期50年80年
改修の周期ー40年
仮設校舎必要になることが多い使いながら施工できる場合がある
国庫補助通常の校舎は対象外通常の校舎は対象外

国庫補助がない分、総額がそのまま県の負担になります。年あたりの費用に直し、維持管理費と光熱費を同じ期間で足し合わせて比べます。

長寿命化改修の内容は学校施設の長寿命化改修とは?を参照してください。判断の枠組みは学校は建替え・長寿命化改修・統合のどれを選ぶ?にまとめています。

高校ならではの論点は何か?

4つあります。

学区が広い

高等学校の通学範囲は広く、公共交通で通う生徒が多くなります。統合すると通学の負担が大きく変わる生徒が出ます。

駐輪場の規模、バス停からの動線、送迎の車の滞留。施設の計画に関わる部分です。

部活動の施設が大きい

グラウンド、体育館、武道場、プール、部室、トレーニング室。高等学校では部活動の施設の規模が大きく、更新の費用も相応にかかります。

全国大会を目指す部がある学校では、施設の水準が生徒の集まりにも影響します。

寄宿舎を持つ学校がある

遠方から通う生徒のための寄宿舎を持つ高等学校があります。通年で使われるため、工事の期間を確保しにくい施設です。

棟や階ごとに順に改修する計画が現実的です。工事中の生徒の居場所を、計画の初期に決めておきます。

避難所としての役割

高等学校も避難所に指定されていることがあります。小中学校より収容力が大きく、広域の拠点として位置づけられる場合もあります。

屋外防災施設の整備は交付金の対象の区分に挙げられています。防災の部局と連携し、使える財源を確認します。

高等学校の改修の全体像は公立高校の改修・リノベーションガイドにまとめています。

生徒から見て何が変わるのか?

進学先の選択に影響します。

公立高等学校は学区内に複数あり、生徒は選んで受験します。施設の状態が、志望先の判断に影響する場面があります。

  • 校舎の古さと清潔感
  • 冷暖房の有無と効き方
  • トイレの状態
  • 自習できる場所があるか
  • 部活動の施設の水準
  • 通信環境と端末を使える設備

私立高校の授業料支援が拡充されたことで、公立と私立を同じ土俵で比べる家庭が増えています。施設の差が、これまでより見えやすくなります。

見学で見られる範囲を押さえる

学校説明会、オープンスクール、部活動体験。来訪者が見る範囲は限られます。昇降口、廊下、教室、トイレ、体育館、部活動の場所。

全体を薄く直すより、この範囲を確実に整える方が効果が出ます。大規模な改築を待つ間も、できる範囲の改善は進められます。

在校生の声を聞く

使いにくい場所を一番よく知っているのは生徒です。改修の計画段階で意見を聞くと、図面では見えない課題が出てきます。すべては反映できませんが、聞いた経緯は残ります。

どう進めるのか?

調査と計画の照合から始めます。

段階内容
1. 劣化状況調査躯体、屋上、外壁、設備の状態を調べる
2. 再編整備計画との照合存続の見込み、統合の時期、学科の改編
3. 方針の決定改築・長寿命化改修・統合のいずれかを選ぶ
4. 財源の検討地方債、交付税措置、産業教育施設の補助の可否
5. 設計・工事設計、確認申請、工事、検査

県全体の投資の枠で考える

一校だけを見て判断すると、県全体の予算の中で順番が回ってきません。県内の高等学校の施設をまとめて評価し、優先順位を付けたうえで年度に割り付けます。

劣化の状況、再編の計画、生徒数の見通し。この3つを一覧にすると、議論の土台ができます。客観的な指標で並べておくと、地域からの要望にも説明しやすくなります。

段階的に進める

国庫補助がない分、単年度の負担を平準化する必要があります。棟ごと、部位ごとに分けて複数年度で進める方法が現実的です。

ただし、分けるほど仮設と足場の費用が重複します。まとめる範囲と区切る位置を、設計者と相談して決めます。

よくある質問

Q. 公立高校の校舎整備に国庫補助はありますか。

A. 学校施設環境改善交付金は義務教育諸学校等が中心で、通常の校舎整備は対象外です。産業教育のための実験実習施設などは対象の区分があります。

Q. 財源は何が中心になりますか。

A. 都道府県の予算と地方債です。起債のメニューと交付税措置を財政部局に確認します。

Q. 実習棟は補助を受けられますか。

A. 高等学校および中等教育学校の後期課程の産業教育のための実験実習施設は、交付金の対象の区分に挙げられています。

Q. 再編整備計画とどう関係しますか。

A. その学校が何年存続するかが前提になります。統合の対象であれば、安全に関わる工事に絞ることになります。

Q. 建物の状態はどう調べますか。

A. 劣化状況調査を行います。躯体、屋上、外壁、設備の状態を確認し、長寿命化改修が可能かを判断します。

Q. 寄宿舎の改修はいつ行いますか。

A. 通年で使われるため、棟や階ごとに順に進める計画が現実的です。

Q. 単年度の負担が大きすぎる場合はどうしますか。

A. 棟ごと、部位ごとに分けて複数年度で進めます。ただし仮設と足場の費用が重複する点に注意します。

Q. 統合する場合、どちらの校舎を残しますか。

A. 建物の状態、敷地の広さ、交通の便、実習設備の有無で判断します。残す側には改修が必要になります。

Q. 学科を改編する場合は改築の方がよいですか。

A. 必要な実習室の種類と数が変わるため、改築の方が目的に合うことがあります。既存の配置で対応できるかを確認します。

まとめ

公立高等学校の施設整備は、小中学校と財源の仕組みが違います。学校施設環境改善交付金は義務教育諸学校等が中心で、公立高等学校の通常の校舎整備は対象外です。対象となるのは、産業教育のための実験実習施設、屋外防災施設整備、産業教育のための太陽光発電等といった限られた区分です。

したがって、通常の校舎の改築も長寿命化改修も、都道府県の予算と地方債で賄うことになります。総額がそのまま県の負担になるため、年あたりの費用に直して比べることがより重要になります。

判断の前提になるのは、再編整備計画です。その学校が何年存続するのかが決まらなければ、投資の判断はできません。存続が決まっていれば長期の投資が成り立ち、統合の対象であれば安全に関わる工事に絞ります。

劣化状況調査、再編整備計画との照合、学科の構成の確認。この3つを済ませてから方針を決め、県全体の優先順位の中に位置づけることが、実現する計画につながります。

参考・出典

記載の制度・数値は公表時点のものです。補助の対象と補助率は年度により変わるため、最新の内容は所管省庁および都道府県の公表資料でご確認ください。

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