目次
判断基準・費用比較の考え方
学習塾や予備校では、建て替えるという選択肢がほとんど成立しません。駅前のテナントビルに入居している校舎が大半だからです。
判断は、契約を続けるのか、内装を更新するのか、移転するのか、縮小するのか。この4つから選ぶ形になります。そして、投資できる範囲は契約の期間が決めます。
この記事では、①判断の枠組み、②法令上の扱い、③投資の上限、④費用の比べ方、⑤進め方、の5点を整理します。
この記事の要点
- テナント入居では、建替えではなく契約の継続・内装更新・移転・縮小の判断になる
- 投資できる範囲は、契約の期間内に回収できるかで決まる
- 川崎市の取扱いでは、予備校・学習塾は消防法施行令別表第一の(7)項に例示されている
- 同市の取扱いでは、児童数等が20人以下の小規模学習塾は(15)項として扱う
- 用途変更の確認申請が必要になる場合があり、防火と避難の規定が遡及して適用される
判断の枠組みはどうなるのか?
4つから選びます。
| 選択肢 | 成り立つ条件 |
|---|---|
| 契約を継続し、内装と設備を更新する | 生徒数が安定し、契約の期間内に回収できる |
| 契約を継続し、最小限の維持にとどめる | 数年以内に方針が変わる可能性がある |
| 移転する | 条件の良い物件があり、通学への影響が小さい |
| 縮小する | 生徒数が減っている。借りる階数を減らせる |
自社で建物を所有している場合は、他の施設と同じ判断になります。ただし、学習塾や予備校でこの形は多くありません。校舎を自社で建てると、生徒数の変動に対して身動きが取りにくくなるためです。
施設の要点は学習塾・予備校の内装工事で何を確認すべきか?にまとめています。
建替えが成り立たない理由
建て替えるには土地と建物を所有している必要があります。加えて、工事期間中の代替の校舎が要ります。
学習塾は立地が価値の大部分を占めます。駅からの距離が変われば、生徒の通いやすさが変わります。仮の校舎を離れた場所に置くことは、実質的に難しくなります。
法令上の扱いはどうなっているのか?
消防法の用途区分が実務に効きます。
川崎市が公表する「消防法施行令別表第1の取扱い」では、(7)項の各種学校の例示として、予備校等、学習塾などが挙げられています。そのうえで、学習塾のうち児童数等が20人以下の小規模学習塾については、(15)項として取り扱うとしています。
| 区分 | 該当する用途 |
|---|---|
| (7)項 | 予備校、学習塾(小規模を除く)、外国語学校、職業訓練所など |
| (15)項 | 児童数等が20人以下の小規模学習塾 |
この区分によって、必要な消防用設備等や防火管理の義務が変わります。取扱いは消防本部ごとに定められているため、所管の消防署に確認してください。
用途変更の確認申請
建築基準法第87条第1項により、用途を変更して200平方メートルを超える法第6条第1項第1号の特殊建築物とする場合は、確認申請が必要です。
用途変更に当たる場合、防火と避難に関する規定が遡及して適用されます。避難階段、排煙設備、非常用の照明装置、内装制限。古いビルでは、この部分の工事が費用の中心になります。
用途変更の制度は学校施設の用途変更とは何か?にまとめています。
階数の制限
3階以上の階に教室を設ける場合、避難に関する要件が厳しくなります。物件を選ぶ段階で、使う階は重要な条件になります。
賃料が安いという理由だけで上階を選ぶと、工事費で逆転することがあります。内装の制限や排煙の条件も、階によって変わります。
既存の図面を確認する
古いビルでは、確認申請時の図面と現況が一致していないことがあります。過去のテナントが入れた間仕切りや開口が、届け出なしで残っている場合です。
用途変更の確認申請を出す段階で、この不一致が問題になります。物件を決める前に、検査済証の有無と図面の整合を確認します。
投資の上限はどう決まるのか?
契約の期間です。
内装と設備に投資しても、契約が満了すれば原状回復が必要になります。投資額を契約の残存期間で割って、年あたりの負担を出します。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 契約の期間 | 残り何年か。更新の条件はどうか |
| 原状回復の範囲 | 退去時にどこまで戻すのか |
| 躯体への工事 | 開口の新設、床の貫通が可能か |
| 設備の容量 | 電気、給排水、空調を増設できるか |
| 共用部の扱い | 廊下、階段、エレベーターの使用条件 |
造作を減らす方法もある
移転や統合の可能性があるなら、造作を減らして家具で対応する方法があります。可動の間仕切り、置き型の収納、据え置きの機器。
退去時の原状回復の費用も小さくなります。柔軟性を優先する判断です。
判断の枠組みは学校は建替え・長寿命化改修・統合のどれを選ぶ?にまとめています。
費用はどう比べるのか?
3つの案を並べます。
| 項目 | 残留して更新 | 残留して最小限 | 移転 |
|---|---|---|---|
| 工事費 | 内装と設備の更新 | 補修のみ | 新物件の内装と設備 |
| 退去の費用 | 発生しない | 発生しない | 現物件の原状回復費 |
| 毎年の費用 | 現在の賃料 | 現在の賃料 | 新物件の賃料 |
| 生徒への影響 | 環境が良くなる | 変わらない | 通学条件が変わる |
| 柔軟性 | 契約期間に縛られる | 高い | 契約の条件による |
移転では、新しい物件の工事と現在の物件の原状回復が重なる期間が生じます。二重に賃料を払う期間も、費用に含めます。
長寿命化改修の考え方は学校施設の長寿命化改修とは?も参考になります。
生徒数の見通しを置く
18歳人口の減少により、市場の条件は厳しくなっています。今後5年、10年の生徒数の見通しを置いたうえで、投資できる額を決めます。
見通しが読みにくいほど、固定的な投資は慎重になります。柔軟に戻せる形を選ぶ判断もあります。
移転の検討で見落としやすい点
移転では、賃料の差だけを見て判断しがちです。実際には、引越しの費用、什器の入替え、看板やサインの作り直し、案内の周知といった費用が加わります。
通学の条件も変わります。駅からの距離、バスの路線、夜間の人通り。保護者が気にする点は賃料表には現れません。候補の物件は、授業が終わる時間帯に一度歩いて確認します。
何に投資すると効くのか?
保護者と生徒が見る範囲です。
| 場所 | なぜ効くか |
|---|---|
| 入口・受付 | 第一印象。混雑の解消にも関わる |
| 面談の部屋 | 成績や進路の話をする。音が漏れないこと |
| 教室 | 板書の見え方、照度、空調 |
| 自習室 | 遮音、空調、電源の3点で使い勝手が決まる |
| トイレ | 清潔感が印象を左右する |
| 待合 | 送迎の保護者が待てる場所 |
講師の控室や倉庫は、機能を満たせば十分です。投資を分散させず、見られる範囲に集中させる方が効果が出ます。
面談の部屋は数が足りなくなりやすい場所です。保護者面談の時期は、同じ時間帯に複数の面談が重なります。可動の間仕切りで区切れる形にしておくと、繁忙期に対応できます。
自習室は3点で決まる
遮音、空調、電源。この3つで使い勝手が決まります。扉の戸当たり、廊下側の壁の性能、吹き出し口の位置、席ごとの電源。
工事の範囲は限られても、効果は出ます。まず何が気になっているのかを、利用者に聞いて絞り込みます。
縮小するときは何を考えるのか?
借りる面積を減らせるのが強みです。
生徒数が減った場合、テナント入居であれば借りる階数や区画を減らせます。自己所有の建物では、この対応が取れません。
| 検討項目 | 内容 |
|---|---|
| 契約の単位 | フロア単位か、区画単位か。部分解約は可能か |
| 残す機能 | 教室、自習室、面談室、受付のうち何を残すか |
| 原状回復 | 返す区画の原状回復の範囲と費用 |
| 設備の系統 | 空調、照明、通信を分離できるか |
| 動線 | 残る区画だけで受付から教室まで回るか |
分離できるかを先に確認する
複数のフロアを借りている場合、空調や通信の系統がフロアをまたいでいることがあります。分離の工事が必要になると、縮小の費用が膨らみます。
契約の段階でフロアごとに系統が分かれていれば、後の判断が楽になります。
統合という方法
近隣に複数の校舎を持つ場合、統合して1か所に寄せる方法があります。賃料と人件費の両方が下がります。
一方、通学範囲が変わる生徒が出ます。在籍者の居住地の分布を確認してから判断します。
どう進めるのか?
契約の確認が最初です。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 1. 契約の確認 | 期間、更新の条件、原状回復の範囲 |
| 2. 生徒数の推計 | 今後5年、10年の見通し |
| 3. 法規の確認 | 用途変更の要否、消防法上の区分、遡及する規定 |
| 4. 方針の決定 | 継続・更新・移転・縮小のいずれか |
| 5. 実施 | 設計、届出、工事 |
移転を検討する場合、候補の物件について3を先に済ませます。契約した後で対応できないと分かると、損失が大きくなります。
貸主との調整
テナント入居では、工事の前に貸主の承諾が必要です。躯体への工事、間仕切りの位置、設備の増設。承諾の範囲を書面で確認しておきます。
共用部の扱いも決めておきます。資材の搬入経路、作業の時間帯、エレベーターの使用。ビルの管理規則で制限がある場合、工程に影響します。
工事の時期
学習塾では、長期休業中に講習が入ります。授業のない期間はほとんどありません。
年間の講習の予定を確認し、工事のできる期間を確定してから工程を組みます。受験期は避けるのが基本です。
よくある質問
Q. 学習塾で建替えは選択肢になりますか。
A. 土地と建物を所有していなければ成り立ちません。ほとんどの場合、契約の継続、内装の更新、移転、縮小から選びます。
Q. 消防法ではどう扱われますか。
A. 川崎市の取扱いでは(7)項に例示されています。児童数等が20人以下の小規模学習塾は(15)項として取り扱うとされています。
Q. 内装にどこまで投資してよいですか。
A. 契約の期間内に回収できる範囲です。原状回復の費用も含めて計算します。
Q. 用途変更の確認申請は必要ですか。
A. 用途と面積によります。200平方メートルを超える特殊建築物とする場合は必要です。所管行政庁に確認します。
Q. 3階以上の階に教室を置けますか。
A. 避難に関する要件が厳しくなります。物件を選ぶ段階で、使う階を条件に含めます。
Q. 借りる面積を減らせますか。
A. 契約の単位によります。部分解約の可否と、空調や通信の系統を分離できるかを確認します。
Q. 複数の校舎を統合する方法はどうですか。
A. 賃料と人件費の両方が下がります。一方、通学範囲が変わる生徒が出るため、居住地の分布を確認します。
Q. 工事はいつ行いますか。
A. 長期休業中も講習があります。年間の予定を確認してから工程を組み、受験期は避けます。
Q. 投資はどこに集中させるべきですか。
A. 入口、受付、面談の部屋、教室、自習室です。講師の控室や倉庫は機能を満たせば十分です。
まとめ
学習塾や予備校では、建て替えるという選択肢がほとんど成立しません。テナントビルへの入居が大半で、立地が価値の大部分を占めるためです。判断は、契約の継続、内装の更新、移転、縮小の4つから選ぶ形になります。
投資できる範囲は、契約の期間が決めます。投資額を残存期間で割り、年あたりの負担を出します。原状回復の費用も含めて計算します。移転や統合の可能性があるなら、造作を減らして家具で対応する方法もあります。
法令では、消防法の用途区分が実務に効きます。川崎市の取扱いでは、予備校・学習塾は(7)項、児童数等が20人以下の小規模学習塾は(15)項とされています。取扱いは消防本部ごとに異なるため、所管への確認が前提です。
投資先は、保護者と生徒が実際に見る範囲に絞ります。入口、受付、面談の部屋、教室、自習室。自習室は遮音、空調、電源の3点で使い勝手が決まり、工事の範囲が限られても効果が出ます。
参考・出典
- 川崎市「消防法施行令別表第1の取扱い」 https://www.city.kawasaki.jp/840/cmsfiles/contents/0000019/19783/reibeppyou(29).pdf
- 消防庁「防火対象物の用途区分表(消防法施行令別表第一)」 https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/kento094_10_sanko03.pdf
- e-Gov法令検索「建築基準法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201
- 消防法、学校教育法
記載の制度・取扱いは公表時点のものです。消防法上の用途の判定は消防本部によって異なります。個別の適用は所管の消防署および行政庁にご確認ください。
学校施設のご相談
その工事、補助金が使えるか無料でチェックします
トイレ・空調・体育館・玄関・耐震など、検討中の工事に使える国や都道府県の補助制度を、公表資料をもとに確認して3営業日以内にご回答します。「補助金が使えないか調べるよう言われた」という段階のご相談で構いません。
補助金の無料チェックを依頼する株式会社光建舎は、設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応しています。図面や仕様が固まっていない計画段階からのご相談も承っています。概算だけ先に欲しい、という段階でも構いません。
受付時間 平日 9:00〜18:00