建築時期ではなく、耐震診断の結果で判断します。
昭和56年以前に建てられた建物は、現行の耐震基準より前の基準で設計されています。これを旧耐震と呼びます。ただし旧耐震であることが、そのまま危険であることを意味しません。
判断の基準はIs値です。文部科学省の学校施設耐震化推進指針では、Is値0.7以上を構造体の安全性が確保されているとしています。一方、Is値0.3未満またはq値0.5未満は緊急度ランク1とされ、改築が望ましいとされています。
したがって先に確認すべきは、建築年ではなく診断の結果です。
この記事では、①旧耐震とは何か、②Is値の見方、③緊急度ランク、④非構造部材、⑤使い続ける場合の判断、の5点を整理します。
目次
この記事の要点
- 旧耐震は昭和56年以前の基準で設計された建物を指すが、それだけで危険と判断されるわけではない
- 文部科学省の学校施設耐震化推進指針では、Is値0.7以上を構造体の安全性が確保されているとしている
- Is値0.3未満またはq値0.5未満は緊急度ランク1とされ、改築が望ましいとされている
- 構造体の性能が確保されていても、天井や照明器具などの非構造部材の落下対策は別に必要
- 診断の結果と補強の履歴が庁内にあるかを、まず確認する
旧耐震とは何か?
昭和56年以前の基準で設計された建物です。
建築基準法の耐震に関する規定は、昭和56年に大きく改められました。これより前の基準で設計された建物を旧耐震、これ以降を新耐震と呼ぶのが一般的です。
| 区分 | 設計の基準 |
|---|---|
| 旧耐震 | 昭和56年以前の基準 |
| 新耐震 | 昭和56年以降の基準 |
ただしこの区分は設計の時点の基準を指すもので、建物の実際の性能を示すものではありません。
建築年だけでは判断できない
同じ年に建った校舎でも、構造の形式、壁の量、平面の形、劣化の状況によって性能は違います。
また旧耐震の校舎でも、その後に耐震補強を行っていれば性能は上がっています。建築年だけを見て判断できません。
新耐震でも診断が必要な場合がある
新耐震の建物でも、劣化が進んでいれば設計時の性能を保っていないことがあります。コンクリートの中性化、鉄筋の腐食、ひび割れ。
建築年が新しいことを理由に診断を省くのではなく、劣化の状況から判断してください。
補強の履歴を確認する
公立学校の耐震化は長年進められてきました。旧耐震の校舎でも、補強が済んでいる建物が多くあります。
庁内に診断の結果と補強の履歴が残っているはずです。まずこれを確認してください。
Is値はどう見るのか?
0.7が目安です。
Is値は構造耐震指標で、建物の耐震性能を数値で示すものです。文部科学省の学校施設耐震化推進指針では、Is値0.7以上を構造体の安全性が確保されているとしています。
| 指標 | 意味 |
|---|---|
| Is値 | 構造耐震指標 |
| q値 | 保有水平耐力に係る指標 |
0.7以上なら安全性が確保されている
Is値0.7以上であれば、構造体の安全性が確保されているとされています。旧耐震の校舎であっても、診断の結果がこの水準にあれば、構造体については使い続ける判断が成り立ちます。
0.7未満は補強を検討する
Is値が0.7未満であれば、補強によって0.7以上にする検討が必要になります。補強の方法と費用は、不足の程度と建物の形状によって変わります。
耐震補強の進め方は学校の耐震補強はどう進めるのか?で扱っています。
方向と階ごとに値が出る
Is値は、建物の方向ごと、階ごとに算出されます。全体で1つの値になるわけではありません。
したがって「この校舎のIs値は0.5」という表現は、最も小さい値を指していることが多くなります。診断の報告書で、どの方向のどの階が不足しているかを確認してください。
Is値の算出方法
Is値の意味と算出の考え方は耐震診断のIs値とは何か?で扱っています。保有性能基本指標、形状指標、経年指標から求められます。
緊急度ランクとは何か?
対応の優先度を示す区分です。
学校施設耐震化推進指針では、Is値0.3未満またはq値0.5未満を緊急度ランク1とし、改築が望ましいとしています。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 緊急度ランク1 | Is値0.3未満またはq値0.5未満。改築が望ましい |
| Is値0.7以上 | 構造体の安全性が確保されている |
ランク1は補強より改築
Is値0.3未満は、必要な性能に対する不足が大きい状態です。補強で0.7以上に持ち上げるには大規模な工事が必要になり、費用が改築に近づきます。
このため指針では改築が望ましいとされています。補強と建替えの比較は改築か改修か統合か、どう判断するのか?で扱っています。
ランクで予算の順序を決める
複数の校舎を抱える自治体では、どの建物から手をつけるかの判断が必要です。緊急度ランクは、この順序を決める材料になります。
診断の結果を一覧にして、不足の程度で並べてください。あわせて、その建物を今後何年使う想定かを並べると、補強と改築の判断がしやすくなります。残す年数が短い建物に大きな補強費をかける判断は、説明がつきません。
診断がない建物を放置しない
診断を行っていない建物は、ランクが付きません。結果として優先度の判断から漏れ、何年も放置されることがあります。
診断の実施自体を、計画に位置づけてください。
補強の方法と使い勝手
耐震補強は、建物の使い勝手に影響します。鉄骨のブレースを入れれば、その位置の窓が塞がれ、採光が落ちます。壁を増やせば、教室の間取りが変わります。
| 工法 | 影響 |
|---|---|
| 鉄骨ブレース | 開口部が塞がれる場合がある |
| 耐震壁の増設 | 間取りと動線が変わる |
| 柱の補強(巻き立て) | 室内の有効寸法が小さくなる |
| 外付けフレーム | 室内への影響は小さいが外観が変わる |
| 制震・免震 | 費用が大きい |
性能だけで工法を決めると、補強後に使いにくい校舎になります。教室の採光、廊下の幅、避難の経路への影響を、設計の段階で確認してください。
非構造部材はどうなるのか?
構造体とは別に対策が必要です。
Is値が0.7以上で構造体の安全性が確保されていても、それは柱や梁、壁といった構造体についての評価です。天井や照明器具、窓ガラスなどの非構造部材は別の問題です。
| 部材 | 確認すること |
|---|---|
| 吊り天井 | 落下対策が済んでいるか |
| 照明器具 | 落下防止の措置 |
| 窓ガラス | 飛散防止 |
| 外壁の仕上げ材 | 剥落のおそれ |
| バスケットゴール | 取付け部の劣化と固定 |
| 設備機器 | 吊り下げられた機器 |
| 書棚・ロッカー | 転倒防止 |
体育館は非構造部材が中心課題
体育館は天井が高く面積が広いため、天井材や照明器具の落下が利用者に直接の危険を及ぼします。避難所として指定されている建物では、災害時の機能にも関わります。
構造体の補強が済んでいる体育館でも、非構造部材の対策が別に必要です。
対策の有無は記録で確認する
対策が済んでいるかは、改修の記録で分かります。庁内に施設の改修履歴が残っているはずです。
記録がない場合、現地での確認が必要になります。
窓ガラスと外壁
高所の窓ガラスは、破損すると下に落ちます。外壁のタイルやモルタルも、剥落すれば通行者に危険が及びます。
外壁の改修は耐震とは別の工事になりますが、安全という観点では同じ課題です。
使い続ける場合の判断はどうするのか?
診断、補強、計画の3点です。
| 手順 | 内容 |
|---|---|
| 1 | 耐震診断の結果を確認する(なければ実施する) |
| 2 | Is値と緊急度ランクを整理する |
| 3 | 補強の履歴を確認する |
| 4 | 非構造部材の対策状況を確認する |
| 5 | 劣化の状況を調査する |
| 6 | 個別施設計画に位置づける |
| 7 | 年度ごとの事業を割り振る |
構造体と劣化は別に見る
Is値0.7以上であっても、劣化が進んでいれば雨漏りや設備の不具合が出ます。構造体の安全性と、建物の使いやすさや維持費は別の問題です。
長寿命化の考え方は学校の長寿命化改修とは何か?で扱っています。
補強と改修をまとめる
耐震補強を行う機会に、外壁や屋上防水、設備の更新をまとめて行う方法があります。足場を1回で済ませられ、授業への影響も1回に収まります。
ただし事業の区分が変わると補助の扱いも変わります。計画の段階で所管部署に確認してください。
説明できる形にする
保護者や地域から「この校舎は大丈夫なのか」と問われることがあります。診断の結果と対策の状況を、説明できる形で整理しておいてください。
Is値という数値を示すだけでは伝わりません。何が確認済みで、何が今後の課題かを言葉で整理することです。
診断の結果は公表されている場合がある
公立学校の耐震診断の結果は、自治体が公表している場合があります。すでに公表されている情報であれば、それを前提に説明を組めます。
よくある質問
Q. 補強で使い勝手は変わりますか。
A. 変わります。鉄骨ブレースは開口部を塞ぐ場合があり、耐震壁の増設は間取りと動線を変えます。性能だけで工法を決めず、採光と避難経路への影響を確認してください。
Q. 旧耐震の校舎は使えないのですか。
A. 建築時期だけでは判断できません。耐震診断の結果で判断します。旧耐震でも補強が済んでいれば性能は上がっています。
Q. Is値はいくらあれば安全ですか。
A. 文部科学省の学校施設耐震化推進指針では、Is値0.7以上を構造体の安全性が確保されているとしています。
Q. Is値が0.3未満の場合はどうしますか。
A. 同指針では、Is値0.3未満またはq値0.5未満を緊急度ランク1とし、改築が望ましいとしています。補強で0.7以上に持ち上げる費用が改築に近づくためです。
Q. Is値は建物に1つの値ですか。
A. 違います。方向ごと、階ごとに算出されます。診断の報告書で、どの方向のどの階が不足しているかを確認してください。
Q. 構造体の安全性が確保されていれば問題ありませんか。
A. 構造体についての評価です。天井、照明器具、窓ガラス、バスケットゴールなどの非構造部材の落下対策は別に必要です。
Q. まず何から確認しますか。
A. 庁内にある耐震診断の結果と補強の履歴です。診断を行っていない建物があれば、診断の実施を計画に位置づけてください。
まとめ
旧耐震の校舎を使い続けてよいかは、建築時期ではなく耐震診断の結果で判断します。
文部科学省の学校施設耐震化推進指針では、Is値0.7以上を構造体の安全性が確保されているとしています。旧耐震の校舎でも、診断の結果がこの水準にあれば、構造体については使い続ける判断が成り立ちます。
一方、Is値0.3未満またはq値0.5未満は緊急度ランク1とされ、改築が望ましいとされています。補強で0.7以上に持ち上げるには大規模な工事が必要で、費用が改築に近づくためです。
Is値は建物に1つの値ではなく、方向ごと、階ごとに算出されます。報告書で、どの方向のどの階が不足しているかを確認してください。
構造体の安全性が確保されていても、それだけでは足りません。吊り天井、照明器具、窓ガラス、外壁の仕上げ材、バスケットゴール。非構造部材の落下対策は別に必要で、特に体育館では中心的な課題になります。
進め方は、診断の結果の確認から始まります。庁内にある結果と補強の履歴を整理し、非構造部材の対策状況と劣化の状況を確認する。そして個別施設計画に位置づけ、年度ごとの事業を割り振ってください。そのうえで、何が確認済みで何が今後の課題かを、保護者や地域に説明できる形に整理しておくことです。
参考・出典
- 文部科学省「学校施設耐震化推進指針」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/shuppan/04121502.htm
- 文部科学省「学校施設の非構造部材の耐震化ガイドブック」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/shuppan/1289465.htm
- 文部科学省「公立学校施設の耐震改修状況調査」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/seibi/1289148.htm
- e-Gov法令検索「建築物の耐震改修の促進に関する法律」 https://laws.e-gov.go.jp/law/407AC0000000123
- e-Gov法令検索「建築基準法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201
記載の指針および制度は公表時点のものです。耐震性能の判断、補強の必要性および優先度の設定は建物の状況と診断の結果により異なります。個別の判断は耐震診断を実施した建築士、所管部署および特定行政庁にご確認ください。
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