目次
法令上の扱いと設備要件
無医地区の学校が閉校したとき、校舎を診療所にする構想が出ます。
地域に建物があり、駐車場が取れ、住民が集まりやすい位置にある。診療所に加えてリハビリや健診の機能を置けば、地域の医療の拠点になる。自治体としては取り組みたい方向です。
ただし医療の施設は、法令上の扱いが入院の有無で分かれます。病床を持つかどうかで、医療法上の区分、建築基準法上の用途、消防法上の設備要件のすべてが変わります。
そして最大の制約は建物ではなく、医師の確保です。
この記事では、①医療法上の区分、②用途変更と消防法、③診察室と動線、④リハビリと機能訓練、⑤運営の前提、の5点を整理します。
この記事の要点
- 医療法第1条の5により、病院は患者20人以上の入院施設を有するもの、診療所は入院施設を有しないか患者19人以下の入院施設を有するもの
- 入院施設を持つかどうかで、建築基準法上の用途と消防法上の設備要件が変わる
- 病院、診療所は消防法施行令別表第一の(6)項イで、特定防火対象物に該当する
- 建築基準法施行令第137条の18第3号は診療所(患者の収容施設があるもの)と児童福祉施設等だが、学校は11区分のいずれにも含まれない
- 建物より医師の確保が制約になるため、運営の体制を先に固める
医療法上はどう区分されるのか?
入院施設の有無と病床数です。
医療法第1条の5は、病院を、医師または歯科医師が医業または歯科医業を行う場所であって患者20人以上の入院施設を有するものと定めています。診療所は、患者の入院施設を有しないもの、または患者19人以下の入院施設を有するものです。
| 区分 | 入院施設 |
|---|---|
| 病院 | 患者20人以上 |
| 有床診療所 | 患者19人以下 |
| 無床診療所 | 入院施設を有しない |
廃校の転用で現実的なのは、無床診療所です。入院施設を設けると、看護の体制、夜間の対応、給食、消防設備のすべてが必要になり、小規模な地域では成立しません。
無床診療所なら要求が下がる
入院を伴わなければ、夜間の体制と給食が不要になります。診察室、処置室、待合、受付、トイレ。これらを整えれば機能します。
リハビリや健診を併設する場合は、それぞれに必要な室と機器が加わります。
開設には手続きが必要
診療所の開設には医療法に基づく手続きが必要です。開設者が医師か医師以外かで手続きが変わります。
自治体が設置して医師に運営を委ねる形、医療法人が開設する形、指定管理とする形。どの形を取るかで手続きの流れが変わるため、都道府県の医療所管部署に確認してください。
併設できる機能
| 機能 | 備考 |
|---|---|
| 診療所 | 医療法に基づく |
| 訪問看護ステーション | 指定の基準がある |
| 通所リハビリテーション | 介護保険の指定が必要 |
| 健診・検診 | 機器と室が必要 |
| 歯科診療所 | 給排水と機器 |
| 薬局 | 医薬品医療機器等法の許可 |
複数の機能を併設すると、それぞれに指定や許可の手続きが関わります。段階的に広げる前提で、将来の機能の配管と電源の経路を確保しておく方法があります。
用途変更と消防法はどうなるのか?
診療所は特定防火対象物です。
学校は建築基準法施行令第137条の18の11区分のいずれにも含まれていません。同条第3号は診療所(患者の収容施設があるもの)と児童福祉施設等ですが、学校はここに入りません。
したがって用途を変更する部分の床面積が200平方メートルを超えれば、建築基準法第87条第1項により確認申請が必要になります。
| 用途 | 消防法施行令別表第一 | 特定防火対象物 |
|---|---|---|
| 学校 | (7)項 | 該当しない |
| 病院、診療所 | (6)項イ | 該当する |
| 福祉施設 | (6)項 | 該当する |
| 複合用途(特定用途を含む) | (16)項イ | 該当する |
(6)項イに該当すると、消防法第17条の2の5により消防用設備等が現行基準に適用されます。自動火災報知設備やスプリンクラー設備が必要になる場合、金額が大きく動きます。
消防設備の要件は廃校の転用で消防設備はどこまで必要か?で扱っています。
入院施設の有無で要件が変わる
消防用設備等の要件は、入院施設の有無や規模によって変わります。無床診療所であれば、有床の場合より要件が緩くなることがあります。
計画の初期に消防本部へ相談し、入院を設ける場合と設けない場合の差を確認してください。この差が、入院を設けるかどうかの判断材料になります。
既存不適格の遡及
確認申請を出すと、建築基準法第87条第3項により防火、避難、内装制限の規定が準用されます。既存不適格の扱いは廃校の既存不適格はどこまで遡るのか?で扱っています。
福祉施設との併設
福祉施設を併設する場合の要点は廃校を福祉施設に転用する要点は?にまとめています。(6)項の区分の中での組合せになるため、設備の要件は近くなります。
診察室と動線はどう計画するのか?
1階に集約します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 待合 | 玄関に近い位置。車椅子の待機場所 |
| 受付 | 待合から見える位置 |
| 診察室 | 待合から近く、プライバシーを確保 |
| 処置室 | 診察室に隣接 |
| トイレ | 車椅子対応。待合に近い位置 |
| 相談室 | 診断の説明に使う個室 |
| 医薬品の保管 | 施錠できる場所 |
| 車寄せ | 玄関前に車を着けられるか |
教室は広く、間仕切りを入れて診察室と処置室に分けられます。廊下を待合として使う構成も取れます。
1階に集約する
患者は高齢者が多く、階段の移動が負担になります。待合、受付、診察室、処置室、トイレを1階に集約する構成が基本です。
2階以上を使うならエレベーターが必要になります。校舎へのエレベーター設置は、構造と防火区画の検討を伴い、金額が大きくなります。
車寄せとバリアフリー
玄関前に車を着けられるか、段差なく入れるかが実際の使い勝手を決めます。学校の昇降口は履物を履き替える前提で、段差があることが普通です。
バリアフリー改修の考え方は廃校のバリアフリー改修はどこまでやるのか?で扱っています。
プライバシーの確保
教室の間仕切りは天井までで止まっていることが多く、天井裏でつながっています。診察室として使うなら、会話が隣室に漏れない処理が必要です。
間仕切りを天井裏まで立ち上げ、建具の遮音を確保する。医療の施設では外せない項目です。
感染症への対応
待合を分ける、動線を分ける、換気を確保する。感染症の患者と一般の患者を分ける構成が求められます。
教室が廊下沿いに並ぶ構成は、入口を2か所取れば動線を分けやすくなります。
リハビリと機能訓練はどうするのか?
床面積と床の仕様です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 訓練室の面積 | 指定の基準で必要な面積が決まる |
| 床の仕上げ | 歩行訓練に適した仕様 |
| 手すり | 壁の下地補強が必要 |
| 機器 | 平行棒、訓練台、物理療法の機器 |
| 電源 | 機器の電源容量 |
| 更衣と洗面 | 利用者用 |
| 送迎 | 車両の寄付けと待機場所 |
通所リハビリテーションや通所介護として行う場合、介護保険法に基づく指定が必要で、人員と設備の基準が定められています。必要な面積は基準で決まるため、使う室の広さを先に確認してください。
教室より体育館が向く場合
歩行訓練や集団での運動を行うなら、体育館のほうが面積を取れます。ただし空調がなく、断熱もされていないため、通年で使うには設備の整備が必要です。
高齢者が利用する室では、夏季と冬季の室温の管理が安全に関わります。体育館を使う場合は、使う範囲を区画してから空調を入れてください。
手すりの設置は下地から
壁に手すりを付けるには、下地の補強が必要です。学校の壁はコンクリートまたは乾式の間仕切りで、手すりの荷重を想定していない箇所があります。
設置位置を決めてから、下地の工事を計画してください。
送迎車両の動線
通所の施設では送迎車両が出入りします。グラウンドを使えば台数は確保できますが、玄関前での乗降と、雨天時の屋根の有無が使い勝手を決めます。
運営の前提は何か?
医師の確保です。
建物を整えても、医師がいなければ診療所は機能しません。無医地区に診療所を置く計画で、最大の制約はここです。
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 医師の確保 | 常勤か、非常勤か、巡回か |
| 看護職員 | 人数と勤務の体制 |
| 事務職員 | 受付、会計、保険請求 |
| 住居 | 医師と職員の住まい |
| 運営の主体 | 自治体、医療法人、指定管理 |
| 収支 | 診療報酬と患者数 |
医師の確保が見通せないまま建物を整備すると、使われない施設が残ります。計画の順序は、運営の体制を固めてから建物に入ることです。
住居の確保も計画に含める
郊外に赴任する医師には、住居が必要になります。校舎の一部を住居とする計画は、用途の扱いが複雑になります。
近隣の住宅を確保する、または教職員住宅を活用する形が現実的です。
患者数から収支を見る
地域の人口と年齢構成から、1日の患者数を見込みます。診療報酬は患者数に比例するため、ここが収支を決めます。
収支が成り立たない場合、自治体が運営費を負担する前提になります。この負担を何年続けるかを、議会に示せる形で整理してください。
段階的に始める選択
常勤の医師が確保できない場合、週に数日の巡回診療から始める形があります。建物の整備も最小限で済みます。
需要と体制が見えてから設備を足す。この順序であれば、過大な投資を避けられます。
よくある質問
Q. 病院と診療所の違いは何ですか。
A. 医療法第1条の5により、病院は患者20人以上の入院施設を有するもの、診療所は入院施設を有しないか患者19人以下の入院施設を有するものです。
Q. 廃校の転用では無床と有床のどちらが現実的ですか。
A. 無床診療所です。入院施設を設けると看護の体制、夜間の対応、給食、消防設備のすべてが必要になり、小規模な地域では成立しません。
Q. 消防設備の負担は大きくなりますか。
A. 病院、診療所は消防法施行令別表第一の(6)項イで特定防火対象物に該当します。入院施設の有無や規模で要件が変わるため、消防本部に確認してください。
Q. 2階を使えますか。
A. 患者は高齢者が多く、階段の移動が負担になります。1階に集約する構成が基本です。2階以上を使うならエレベーターが必要になります。
Q. 教室を診察室にできますか。
A. 間仕切りを入れれば使えます。ただし天井裏でつながっている校舎では会話が漏れるため、間仕切りを天井裏まで立ち上げる処理が必要です。
Q. 最大の制約は何ですか。
A. 医師の確保です。建物を整えても医師がいなければ機能しません。運営の体制を固めてから建物に入る順序にしてください。
まとめ
廃校を診療所やリハビリ施設にする構想では、入院施設を持つかどうかが分かれ目になります。医療法第1条の5により、病院は患者20人以上の入院施設を有するもの、診療所は入院施設を有しないか患者19人以下のものです。
廃校の転用で現実的なのは無床診療所です。入院を設けると看護の体制、夜間の対応、給食、消防設備のすべてが必要になり、小規模な地域では成立しません。
学校は建築基準法施行令第137条の18の11区分に含まれないため、200平方メートルを超えれば確認申請が必要です。消防法では病院、診療所が(6)項イで特定防火対象物に該当し、学校の(7)項から変わります。入院施設の有無で要件が変わるため、両方の場合の差を消防本部に確認してください。
設計では1階への集約が基本です。待合、受付、診察室、処置室、トイレを1階に収め、車寄せと段差の解消を行う。教室の間仕切りは天井裏でつながっていることが多く、診察室として使うなら会話が漏れない処理が必要です。感染症への対応として、入口を2か所取って動線を分ける構成も検討します。
リハビリを併設するなら、介護保険法に基づく指定の基準で必要な面積が決まります。体育館のほうが面積を取れますが、空調と断熱の整備が必要です。手すりの設置には壁の下地補強が伴います。
そして最大の制約は医師の確保です。建物を整えても医師がいなければ機能しません。常勤が確保できない場合、週に数日の巡回診療から始める選択もあります。運営の体制を固めてから建物に入る順序を守ってください。
参考・出典
- e-Gov法令検索「医療法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000205
- 厚生労働省「医療施設調査 用語の解説」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/06/yougo.html
- e-Gov法令検索「建築基準法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201
- e-Gov法令検索「建築基準法施行令」 https://laws.e-gov.go.jp/law/325CO0000000338
- e-Gov法令検索「消防法施行令」 https://laws.e-gov.go.jp/law/336CO0000000037
- e-Gov法令検索「介護保険法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/409AC0000000123
記載の法令および制度は公表時点のものです。開設の手続き、指定の基準および消防用設備等の要件は所管行政庁、都道府県の医療・介護所管部署および消防本部の運用により異なります。個別の適用はそれぞれの所管部署および設計者にご確認ください。
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