この記事は、学校施設の設計・施工を行う株式会社光建舎が作成しています。設計(ウイングスペース一級建築士事務所)から施工まで一社で対応し、専門学校・高校・自治体の学校施設を手がけています。

廃校を創業支援施設にできるのか?

区画・共用部・賃料の設計

廃校をシェアオフィスや創業支援の施設にする構想は、工事費が比較的小さく収まる方向です。

教室はそのまま一区画として使える広さがあり、机と椅子を置けば仕事ができます。廊下が共用の動線になり、特別教室や体育館を会議や試作の場として使えます。消防法上も事務所は特定防火対象物に含まれないため、設備の負担が宿泊施設や福祉施設より小さくなります。

問題は入居者が集まるかどうかです。郊外の廃校に、賃料を払って入居する事業者がどれだけいるか。満室を前提にした計画が、空室のまま維持費だけがかかる状態になっている例があります。

この記事では、①用途変更と消防法、②区画の設計、③共用部と設備、④賃料と契約、⑤需要と運営、の5点を整理します。

この記事の要点

  • 学校は建築基準法施行令第137条の18の11区分に含まれないため、事務所への用途変更は類似の用途に当たらない
  • 特定防火対象物は消防法施行令別表第一の(1)項から(4)項まで、(5)項イ、(6)項、(9)項イ、(16)項イで、事務所は含まれない
  • 教室1室を1区画とすれば、間仕切りの工事を抑えられる
  • 共用の会議室、通信、複合機、受付をどこまで用意するかで運営費が変わる
  • 満室を前提にした収支では空室期間の資金が持たないため、半分の稼働で計算する

用途変更と消防法はどうなるのか?

確認申請は必要だが、消防の負担は小さい方向です。

学校は建築基準法施行令第137条の18の11区分のいずれにも含まれていません。したがって事務所への用途変更は類似の用途に当たらず、用途を変更する部分の床面積が200平方メートルを超えれば、建築基準法第87条第1項により確認申請が必要になります。

用途 消防法施行令別表第一 特定防火対象物
学校 (7)項 該当しない
事務所等(前各項に該当しない事業場) (15)項 該当しない
工場、作業場 (12)項 該当しない
料理店、飲食店 (3)項ロ 該当する
複合用途(特定用途を含む) (16)項イ 該当する

特定防火対象物に該当するのは、別表第一の(1)項から(4)項まで、(5)項イ、(6)項、(9)項イ、および(16)項イです。事務所はここに含まれません。

このため消防用設備等の遡及適用の負担は、宿泊施設や福祉施設への転用より小さく収まる可能性があります。ただし消火器、避難器具、誘導灯などは用途を問わず現行基準が適用されます。

カフェや物販を併設すると変わる

交流の場としてカフェを置く構想は自然ですが、飲食店は(3)項ロで特定防火対象物に該当します。複合用途防火対象物として(16)項イに該当すると、建物全体の扱いが変わる可能性があります。

小さなカフェを1つ置くかどうかで設備の要件が変わることがあるため、計画の段階で消防本部に相談してください。

既存不適格の遡及

確認申請を出すと、建築基準法第87条第3項により防火、避難、内装制限の規定が準用されます。既存不適格の扱いは廃校の既存不適格はどこまで遡るのか?で扱っています。

用途地域の確認

事務所は多くの用途地域で建築できますが、市街化調整区域の場合は都市計画法の開発許可が論点になります。

工房や試作を入れる場合

試作や軽作業を伴う入居者を想定するなら、工場や作業場としての扱いになる場合があります。(12)項も特定防火対象物には該当しませんが、取り扱う材料や機器によって危険物の規制が関わることがあります。

区画はどう設計するのか?

教室1室を1区画にします。

方式 内容
教室1室を1区画 間仕切りの工事が不要
教室を2分割 小さい区画をつくる。間仕切りを新設
教室内をブースで分ける 工事ではなく家具で区切る
オープンな共用席 机を並べて時間貸し
2教室を連結 広い区画が必要な入居者向け

工事費を抑えるなら、教室1室をそのまま1区画にする形が有利です。既存の建具と壁を使い、鍵だけを交換すれば成立します。

分割すると工事が増える

小さい区画を求める入居者に合わせて教室を分割すると、間仕切り、建具、照明、空調、分電盤の回路がそれぞれ増えます。

需要が見えない段階では分割せず、1室単位で貸し出して、必要になってから分割する順序が無駄が少なくなります。

家具で区切る方法

工事を伴わず、パーティションや書棚で区切る方法があります。遮音は取れませんが、原状回復が容易で、入居者の増減に合わせて変えられます。

鍵の管理方式を決める

区画ごとに鍵を渡すのか、電子錠にするのか、建物の出入口だけを管理するのか。入居者の数が増えると、鍵の管理が運営の手間になります。

1階から埋める

上階は階段の移動が負担になり、来客のある事業者には不利です。1階から順に埋める前提で、上階は当面閉じる計画が現実的です。

部分活用の考え方は廃校を部分的に活用できるのか?で扱っています。

共用部と設備はどうするのか?

どこまで用意するかで運営費が変わります。

項目 内容
共用の会議室 予約制。特別教室を活用
通信 回線と構内の配線
複合機 購入かリース、課金の方法
受付 常駐か、無人か
トイレ 洋式化、清掃の体制
給湯・休憩 調理室や家庭科室を活用
郵便の受取り 法人登記に関わる
駐車場 グラウンドを活用

共用部を充実させると入居者には魅力ですが、運営費が上がります。何をどこまで用意するかを、賃料の水準と合わせて決めてください。

通信は入居の条件になる

事務所として使う施設では、通信回線が入居の前提になります。郊外の廃校では回線の種類と帯域を確認してください。

学校の情報配線は教室ごとの端末数を前提にしており、各区画への引込みは引き直しが必要になることがあります。

法人登記と郵便

入居者が法人登記をする場合、住所の表示と郵便の受取りの方法を決める必要があります。

郵便受けの設置、宅配の受取り、不在時の扱い。無人運営にするなら、ここを先に設計してください。

空調は区画ごとに

空調を区画ごとに制御できる構成にしないと、使っていない区画も冷暖房することになります。

学校の空調は教室単位で入っていることが多く、この点は有利です。ただし運転時間が長くなるため、断熱の水準が光熱費に効きます。

トイレの改修

学校のトイレは和式が残っていることがあります。事務所として使う施設では、洋式化が実質的に必要になります。

個数が多い分、全部を洋式化すると金額が大きくなります。使う階に絞って改修し、残りは閉じる判断が現実的です。

賃料と契約はどう決めるのか?

近隣の相場と、維持費の両方から決めます。

決めること 内容
賃料の水準 面積単価か、1区画あたりか
共益費 光熱費と共用部の管理費
契約期間 短期か、長期か
更新と退出 通知の期間
原状回復 どこまで戻すか
創業支援の減免 期間を限って賃料を下げる形
入居の審査 事業内容と反社会的勢力の確認

郊外の廃校では、賃料を相場どおりに取るのが難しくなります。一方、賃料を下げすぎると維持費を賄えません。

収支の立て方は廃校活用の収支計画はどう立てるのか?で扱っています。

創業支援としての減免

創業から一定期間は賃料を下げ、その後は通常の水準にする形があります。支援の趣旨に合い、入居も促せます。

ただし減免の期間が終わると退出されることがあります。減免後も残る理由を、立地や共用部の価値でつくる必要があります。

原状回復の範囲を決める

入居者が内装を変える場合、どこまで戻すかを契約に書いてください。後から揉める項目です。

原状回復を求めないかわりに、次の入居者が使える状態にしてもらう形もあります。

公の施設としての位置づけ

自治体が所有を続けて貸す場合、地方自治法に基づく公の施設として条例で設置する形と、行政財産の貸付けとして契約で貸す形があります。

どちらを取るかで、料金の決め方と手続きが変わります。庁内の財産管理の所管部署に確認してください。

固定資産税の扱い

自治体が所有を続けて貸す場合、固定資産税の扱いは売却した場合と異なります。地方税法第348条第1項により、市町村は市町村等に対して固定資産税を課することができません。

需要と運営はどう考えるのか?

半分の稼働で計算します。

確認項目 内容
想定する入居者 地元の事業者か、域外からか
最寄り駅・インターからの距離 通勤と来客の条件
近隣の競合 市街地のシェアオフィス
空室期間 立ち上がりに何か月かかるか
運営の担い手 自治体、指定管理、民間
入居者の交流 コーディネーターを置くか

満室を前提にした収支では、立ち上がりの空室期間で資金が足りなくなります。半分の稼働で管理費と光熱費が出るかを確認してください。

事前に入居の意向を聞く

建物を整備してから募集するのではなく、先に入居の意向を聞いてください。何区画の需要があるかが分かれば、整備の範囲を決められます。

サウンディングの進め方は廃校活用のサウンディング調査とは何か?で扱っています。

コーディネーターの効果と費用

入居者同士をつなぎ、相談に応じる人員を置くと、入居の継続と新規の入居が増えます。一方、人件費が固定費になります。

置くなら、その人件費を賃料と共益費で賄えるかを確認してください。

段階的に広げる

1階の数区画から始め、埋まってから次の階を開ける。この順序であれば、空室の維持費を抑えられます。

使わない範囲は閉じて、暫定管理の状態で維持します。暫定管理の考え方は使う範囲を絞る発想と同じです。

よくある質問

Q. 消防設備の負担は大きくなりますか。

A. 特定防火対象物は別表第一の(1)項から(4)項まで、(5)項イ、(6)項、(9)項イ、(16)項イで、事務所は含まれません。負担は比較的小さく収まる可能性があります。

Q. カフェを併設すると変わりますか。

A. 飲食店は(3)項ロで特定防火対象物に該当します。複合用途防火対象物として(16)項イに該当すると、建物全体の扱いが変わる可能性があります。

Q. 教室は分割すべきですか。

A. 需要が見えない段階では分割しないほうが無駄が少なくなります。1室単位で貸し、必要になってから分割する順序です。

Q. 工事費を抑える方法はありますか。

A. 教室1室をそのまま1区画にし、既存の建具と壁を使う形です。区切りが必要なら、工事ではなく家具で対応する方法もあります。

Q. 賃料はどう決めますか。

A. 近隣の相場と維持費の両方から決めます。創業から一定期間の減免を設ける形もありますが、減免後に残る理由をつくる必要があります。

Q. 収支はどう見ますか。

A. 半分の稼働で管理費と光熱費が出るかを確認してください。満室を前提にした収支では立ち上がりで資金が足りなくなります。

まとめ

廃校を創業支援やシェアオフィスの施設にする構想は、工事費が比較的小さく収まる方向です。教室1室をそのまま1区画として使えば、既存の建具と壁を使い、鍵の交換で成立します。

法令上は、学校が建築基準法施行令第137条の18の11区分に含まれないため、200平方メートルを超えれば確認申請が必要です。一方、消防法上の特定防火対象物は(1)項から(4)項まで、(5)項イ、(6)項、(9)項イ、(16)項イで、事務所は含まれません。設備の負担は宿泊施設や福祉施設への転用より小さく収まる可能性があります。

ただしカフェを併設すると飲食店が(3)項ロに該当し、複合用途防火対象物として建物全体の扱いが変わる可能性があります。小さな併設で要件が変わるため、計画の段階で消防本部に相談してください。

設備では通信回線が入居の前提になります。郊外では回線の種類と帯域を確認し、各区画への引込みも計画に入れてください。トイレの洋式化も実質的に必要になります。

最大の論点は入居者が集まるかどうかです。満室を前提にした収支では、立ち上がりの空室期間で資金が足りなくなります。半分の稼働で管理費と光熱費が出るかを確認し、建物を整備する前に入居の意向を聞いてください。1階の数区画から始め、埋まってから次の階を開ける順序であれば、空室の維持費を抑えられます。

参考・出典

記載の法令および制度は公表時点のものです。用途の判定、消防用設備等の要件および財産の貸付けに関する手続きは所管行政庁、消防本部および自治体の運用により異なります。個別の適用はそれぞれの所管部署および設計者にご確認ください。

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